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最終発行日:
2014-03-12
発行部数:
133
総発行部数:
31932
創刊日:
2001-07-15
発行周期:
週刊
Score!:
-点

カジポン・タイムズNo.374〜シネマレビュー特集

発行日: 03/12

カジポン・タイムズNo.374〜シネマレビュー特集
 
皆さん、お久しぶりです!少しずつ暖かい日が増えてきましたね。
昨年度の映画レビューがまとまったので配信します。昨年も良作がいっぱい!
 
〔洋画編〕
 
●レ・ミゼラブル…いきなりの100点。甘い点数かも知れないけど、あれだけの熱量を見せつけられたら細かな短所は消し飛んだ。貧しさからパン1個を盗んで19年も刑務所に入れられた男が、良心の声に従って歩む波瀾万丈の人生。冒頭の嵐の船のド迫力に脳天がショートし、そこからラストの壮大なコーラスまで何度も滝泣。歌パートの撮影はアフレコではなく実際にその場で歌っており、ハンパない臨場感も納得。内外で舞台版を5回観て、ストーリーは全部分かっているのに、俳優たちのウルトラ名演と名曲に心を鷲掴みにされた。当初配役を聞いた時、ジャン・バルジャン役のヒュー・ジャックマンと、ジャベール警部役のラッセル・クロウは“逆じゃないの?”と首を傾げていたけど、フタを開けてみれば全く問題なし。ジャックマンは頬骨が浮かび上がるほど痩せていて、全く別人に見える(役者魂爆発)。老人になった主人公がアン・ハサウェイの幻覚を見る場面は、かすれた声が人生の悲喜をすべて表しているようで胸に染みた。映画オリジナルのシーンでインパクトがあったのは6月暴動の“後”のシーン。自由を求めて抵抗運動に身を投じた若い学生たちの亡骸が並ぶ光景は、なぜ彼らの理想主義を市民が育むことが出来なかったのかと涙腺決壊。サントラ、聴きまくってます。
 
●ミッドナイト・イン・パリ…83点。ウディ・アレン監督の素敵なタイムスリップ・コメディ。作家志望の米国の人気脚本家が婚約者とパリを訪れ、深夜の散歩中に1920年代にタイムスリップしてしまう。迷い込んだ先はジャン・コクトー主催のパーティ。スコット・フィッツジェラルド夫妻、作曲家のコール・ポーターと出会い、さらに若きヘミングウェイやピカソと交流を深めていく。ダリ、マン・レイ、ルイス・ブニュエルもいた。主人公にとってゴールデンエイジと思っていたその時代だが、主人公と心が通じ合った女性(ピカソの愛人)は、より古い19世紀末のベル・エポックの時代に憧れており、さらにタイムスリップしてしまう。目の前に現れたのはゴーギャン、ロートレック、ドガ!いつの時代の人々も、“古き良き時代”に憧れているのが面白い。文芸ファンにはたまらない、至福のファンタジー。
※現代の会話で保守共和党の支持団体“ティーパーティー”のことを、主人公が「隠れファシストのゾンビ」と吐き捨てたのに噴いた。さすがウディ・アレン、容赦なし。
 
●007スカイフォール…89点。007の50周年記念作!英国内では『アバター』を抜いて歴代興行収入第1位に輝き、全世界でも『ダークナイト ライジング』を抜いて第7位を叩き出した。“肉体の老いと戦うボンド”という光景は過去になく新鮮。英国諜報部MI6の本部が直接テロにあうのも衝撃的。バトルの舞台は、イスタンブール、上海、007の故郷である英国の荒野スカイフォールと、まったく雰囲気の異なるもので見応えがあり。特にスカイフォール編は英文学『嵐が丘』を彷彿させる荒涼感が素晴らしくノックアウト。ブチ切れた敵を演じたのは『ノー・カントリー』で観客を震え上がらせたハビエル・バルデム。彼でなければ説得力が不足していたかも。銃弾一発で“一緒に逝こう”という場面、ああいう拳銃の使い方は見た事がなくビビッたし、同時に物悲しさもあった。オタク系の新“Q”を演じたベン・ウィショーは、イケメン&細身の体で間違いなくブレイクしていくだろう。50周年を祝った過去の秘密兵器(名車アストンマーチン)の登場にニヤリ。エンドロールで軍艦島がロケ地になっていたことを知って驚いた。上海で悪党がモジリアニの絵画『扇子を持つ女』を取引する場面があったけど、あれは2010年に実際にパリで盗まれたもの。さっそく組み込む粋なシナリオに唸った。
※ちなみに全世界歴代興行収入ランキングのTOP6は『アバター』、『タイタニック』、『アベンジャーズ』、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』、『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』。
 
●アイアンマン3…85点。アイアンマンのスーツ着用シーンが超クール!遠くから手、足、胴など別々に飛んできて、カシィーン!カシィーン!とハマッていく様は、野郎ならエキサイト間違いなし!主人公トニー・スタークの自宅がヘリに猛爆されるシーンは凄い迫力。ドラマ部分では、“パニック障害を抱えた正義のヒーロー”という設定に驚いた。トニーは「ニューヨーク」という言葉で、動悸・息切れに陥り、重度の不眠症に苦しむ(“NY”は前作『アベンジャーズ』の激戦地)。トニーはいつもふざけているオチャラケ・キャラだけに、苦悩する姿に切実感が増した。映画の前半は、イスラム過激派の狂信的な指導者が出てきて無差別テロを煽りまくるため、“うわぁ…いまだにハリウッドはイスラム=テロリスト路線で憎しみを増幅するのか”と閉口していたら、後半になって“イスラム指導者に見えた男の正体は実は…!”という流れになり、アクションだけでなく政治劇としても皮肉が効いていた。ガンジー役でオスカーを受賞したベン・キングスレイが、テロ・グループのリーダーを怪演していたのは配役の妙。キャスティングがうまい。特製スーツを着ることなしに、本当の意味で“アイアンマン”に近づいていくトニー・スタークがカッコいい。
 
●ワールド・ウォーZ…75点。ゾンビが走る、走る!その速度はおそらくゾンビ史上最速。それが群衆となって向かってくる時の絶望感といったら。グロシーンを抑えたことでSFアクションとしても大ヒット(ブラピは主演作で最大の興行収入らしい)。ゾンビへの対抗手段が明かされたときに“その手があったか!”と小膝を打った。点数が上がりきらないのは、大きな見せ場(エルサレム編)が中盤にあり、後半にそれを上回る場面がなく失速感があったこと。あと、予告編でハイライトを全部見せていたのが最悪。どのスペクタクル・シーンも“これ予告編で観たわ”ってなって新鮮味ゼロ。そんな予告編を作っちゃあイカンぜよ!※ヒーローになると思ってた若い学者がスリップしてズドンのシーンは劇場にどよめきが。
 
●ゲーテの恋〜君に捧ぐ…84点。ゲーテの青春時代を描いた作品。恋愛小説の古典『若きウェルテルの悩み』誕生秘話。この映画を観ればゲーテの小説が読みたくなると思う!映画ファンには『アマデウス』をきっかけにクラシック音楽に興味を持った人、『炎の人ゴッホ』で絵画の魅力に目覚めた人、『ラウンド・ミッドナイト』でジャズに開眼した人が少なからずいるだろう。映画が人生の新たな門を開けてくれる。「芸術」「文学」という言葉を聞いただけで、“なんだか難しそう”と斜めに構えがちだけど、作り手の創作の過程(格闘)を知ることで、“これほど生みの苦しみを味わっていたのか”と作品に興味や親近感が湧き、“ちょっと触れてみようかな”ってモードになる。普通に生きていたら、娯楽の多い今の時代、なかなかゲーテ作品を手に取る機会はない。この映画は小説に好奇心を持たせる強力なきっかけになる。
 
●アルゴ…82点。映画の冒頭で、アメリカの援助を受けていたイランのパーレビ元国王が、いかに極悪非道な独裁者(親米腐敗王制)で国民を苦しめてきたかを説明したことで、「なぜイラン人がアメリカを嫌っているのか」を解説。実話ゆえ人質救出の結末はわかっているのに、クライマックスのピンチの嵐にドキハラしまくり。飛行機チケット手配のトラブル、ニセ映画の電話確認(アラン・アーキン最高)、シュレッダーの顔写真復元、心臓に悪いっす。ただ、従来のハリウッド映画よりアメリカ=正義という構図は減っているけど、それでもところどころでイラン人を無知で粗野な民族として描いており、そこはいただけない。あのアメリカ大使館人質事件において、「イラン人は人質52名を一人も殺さず1年半後に解放」したことをもっと強調して欲しい。とにもかくにも、ベン・アフレック、第一線復活おめでとう。
 
●パシフィック・リム…84点。劇場のスクリーンで観て大正解!搭乗型巨大ロボットVS怪獣の熱血バトル(ロケットパンチ!)をハリウッドが本気で作ればここまでド迫力の映画になるのか。美術的にも優れていてアジアの夜間ファイトはブレード・ランナーのような美しさがあった。怪獣が“MONSTER”ではなく「KAIJU」と呼ばれているのも、日本の特撮映画へのリスペクトを感じて嬉しい。ストーリーが単純でも満足。唯一残念なのは怪獣のデザイン。ハリウッド映画の怪獣は造形に個性がなさすぎ、KAIJUではなくMONSTERに見える。『スター・ウォーズEP6』でジャバ・ザ・ハットのアジトの地下にいた猛獣、『クローバーフィールド』『GODZILLA』『スーパー8』、全部ソックリ。※“スペシャルサンクス”に富野由悠季、永井豪の名前が!
 
●マン・オブ・スティール…83点。前半のドラマ部分が重めで好み。特殊能力は少年時代のクラークにとって呪縛であり、育ての親(ケビン・コスナー)の最期の姿は切なかった。クライマックスは思わず「ひょぇええええ」と声がもれたウルトラ・ハイスピードバトル!しかも長い!お腹がいっぱいなのに、さらにステーキを出された、そんな戦いが続く。マイナス点は製作にクリストファー・ノーランが名を連ねていながら、主人公の葛藤が想定内&後半で不足していたこと。あと、戦闘シーンで怒りに燃えたスーパーマンが、高層ビル倒壊の大喧嘩を都会のど真ん中でやっていること。“ここで戦えば市民が巻き添えになる”なんて発想は皆無。明らかに民衆が犠牲になっており、ガソリンスタンドの爆発シーンからラストまで、すっとそここが引っかかってモヤモヤ。次回はバットマンが登場するので超期待。
 
●ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日…84点。獰猛なトラと7カ月半も海を漂流するという一見荒唐無稽な話なのに、超リアルCGや現地ロケによって、同じ小舟に一緒に乗ってるかのような錯覚を覚えた。サバイバルの方法は勉強になるし、凪で鏡面になった海にオレンジ色の空が映り込むカットや、ラッセンの絵画のように幻想的な夜のクジラのシーンなど、次々と出てくる美麗映像に何度も身を乗り出した。自然描写だけでもチケット代の価値があった。3Dで観たので海底に沈んでいく船の沈没シーンに身が縮んだ。トビウオの大群にも「うおおおお!」。作品は最後の主人公の告白によって戦慄のドンデン返しに。そのまま素直に感動したかったので、個人的にはあの告白はない方が良かったな。アカデミー監督賞、作曲賞、撮影賞、視覚効果賞の最多4部門を受賞。
 
●オブリビオン…81点。夜空に浮かぶ半壊した月、海上の巨大建造物、スタイリッシュな飛行機、SFとしてのビジュアル・アートは良い。問題は幅の狭いストーリーとショボイ戦闘。主人公は人類移住後に地球に残された資源を監視している男。「エイリアンの侵略に人類が応戦し、核兵器も使ってなんとか勝利を収めたが、地球は居住不能になり人類は他の惑星へ移住。そして60年が流れた…」という前日談。それそれ、その前日談を映画化してよ!って思った。それでもクローン「52番」が登場するくだりは感動&落涙。一気に良い話になった。※「oblivion」の意味は「忘却」。
 
●ザ・マスター…85点。新興宗教の教団教祖トッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)と、暴力的で性欲全開の野獣のようなアル中男フレディ(ホアキン・フェニックス)の精神的主従関係を描く。ギラギラ目のフレディが、次第に精気が抜けて教祖と距離を置いていく過程をホアキンが熱演。仮に宗教が人間を自由にさせるものとすれば、本能のまま生きているフレディは元から自由な男ゆえ宗教は無用。だから教祖は「来世で出会ったなら、お前は私の最大の敵となるだろう」と言ったのだろう。登場人物の誰にも共感できない映画は滅多にないんだけど、本作はまさにそれ。2時間半の長丁場をずっと観られたのは、性格俳優として知られるホアキンは存在感がハンパなく、否が応でも画面を観てしまうから。良作だけど、楽しめないし、お薦めはしない。(2012)※先日のフィリップ・シーモア・ホフマンの訃報がショックすぎる。
 
●リンカーン…83点。ダニエル・デイ・ルイスの熱演によって本物のリンカーンがそこにいるようだった。決して悪い映画じゃない。むしろ名作に入る。だけど、期待していた内容と違いすぎた。てっきり、リンカーンの生涯を描き、スピルバーグが南北戦争を『プライベート・ライアン』ばりに巨大スケールで描写すると思ってたら、描かれたのは「最晩年の4カ月だけ」という…。全編が殆ど対話シーンで、戦闘シーンは冒頭の1分間だけ、「人民の人民による…」の有名な演説もなく(代わりに別人が言ってった)、最後は暗殺シーンすらなかった!映画的な見どころをことごとくカットし、エンターテインメント性を全力で排除。これはキツイ…。でも勉強にはなった。僕は北軍が南北戦争に勝ったから奴隷制度が消えたと思っていたけど、それだけじゃダメだったんだ。憲法が改正されなければ、奴隷制度の完全撤廃は実現しなかった。「奴隷解放宣言」は戦時&南部に限定されたものだから、リンカーンは改憲して「米国全土で」「恒久的に」奴隷制度の廃絶を定める必要があった。この映画は法律で奴隷制禁止を定めた修正第13条を下院で可決させるべく奮闘するリンカーンを描いているんだ。議会で3分の2の票を得るために、どれほどリンカーンが苦労したか。今、日本の一部政治家は“3分の2”と定めた憲法96条を「半数以上で可決」と安易に改憲できるシステムにしようとしている。本当に信念を持っていることなら、リンカーンのように反対派をとことん説得して3分の2の賛同を得る努力をしろ!って思う。全議員に本作を観て欲しい。
 
●最強のふたり…88点。「彼は私に同情していない。そこがいい。彼の素性や過去など、今の私にはどうでもいい事だ」。全身麻痺で車椅子生活を送る大富豪フィリップと、彼の介護をするスラム街出身で無職の黒人青年ドリスの、実話をベースにしたコミカルな友情物語。日本で公開されたフランス語映画の中で歴代1位のヒット作となった。ドリスは周囲が凍りつくようなデリカシーに欠けた発言をズケズケするけど、底抜けに陽気で根が優しく、気持ちに裏表がないため不快感はない。何度も爆笑した。普段はおちゃらけていても、やる時はやる。ドリスが誰かを怒る時は相手の親身になって怒る。すべて心からの言葉。最後の海辺のレストランでのフィリップの笑顔が心に染みた。パラグライダーのシーンは素晴らしい絶景ゆえ見ているだけで気持ち良かった!「芸術はこの世に生きたことを示せる足跡」というセリフが何気に印象的。東京国際映画祭の最高賞を受賞。フランス本国でも歴代観客動員数3位を記録。
 
●TIME/タイム…80点。監督、脚本は名作『ガタカ』のアンドリュー・ニコル!近未来、遺伝子操作によって人間は25歳から年を取らなくなり、人口過剰を防ぐため時間が通貨となって、時間を買えない貧乏人は20代後半で死ぬ。逆に大富豪は千年以上も時間の貯金を持っていた。主人公はあまりに不平等な社会に風穴を開けるべく、支配体制に戦いを挑む。“時は金なり”をリアルに描くという着想が面白い。リベラル属性の僕としては、支配階級へのレジスタンスは大好物。近未来の表現がチープとか、敵が行き当たりばったりとか批判もあるけど、ニコル監督の信者としては取るに足らない欠点。腕に組み込まれたタイムカウンターが、1秒ずつ減っていく光景は映像として目に残る。ヒロイン役のアマンダ・サイフリッドがフェロモン爆裂でクラクラするんだけど、『レ・ミゼラブル』で清楚なコゼットを演じていたことを知ってブッ飛んだ。女優とはこうもイメージが変わるものなのか(汗)。
 
●ホビット 思いがけない冒険…75点。『ロード・オブ・ザ・リング』の前日談(60年前)。あまりにもリング3部作がビッグ・スケールゆえ、本作品はどうしてもこじんまりとした感があるのは否めない。敵が前3部作は冥王サウロンであったのに対し、今回はドラゴン1匹(しかも寝てる)。また前3部作には複数のイケメン要員がいたけど、本作は髭モジャのオッサンばかりで華やかさのカケラも…。だけど、それらは長所でもある。前3部作は物語があまりに壮大で神話に近かったけど、今回は旅の仲間の一員として登場人物目線で2時間を過ごせた。弱虫だったビルボが勇気を発揮するクライマックスもGOOD。サービスでフロドが出てきたのも嬉しかった。続編も必ず観に行く。
 
●127時間…83点。ロック・クライミングの最中に転落して巨岩の割れ目に落ちてしまった主人公。付近一帯は無人の荒野。脱出しなければ“死”あるのみ。だが、右腕が岩に挟まれ動かない!映画のほとんどの時間が一人舞台なのに、1時間半ずっと観る者の心を捉えていたジェームズ・フランコの演技(観てるだけで喉が渇いた)、そしてダニー・ボイル監督の演出の手腕に唸った。実話というのにも驚かされる。“決断”シーンに絶句。(2010)
 
●スタートレック イントゥ・ダークネス…75点。楽しめたものの、前作のような高揚感がない。あまりに前作が良すぎたため、平均以上の出来映えでもイマイチに思えてしまう。旧作のオマージュがいっぱいなのは嬉しいけど。絶対に生き返ることが分かっている人物の死亡シーンはのめり込めず。社会派ドラマのようなスタトレを期待。
 
●ドラゴン・タトゥーの女…90点。見応えがあった。久しぶりに本格的なミステリーを観た印象。さすがデヴィッド・フィンチャー監督。天才ハッカー、戦うヒロインを演じたルーニー・マーラの演技はオスカーのノミネートも納得。原作のタイトルは“女を憎む男たち”。何かにつけ「女のくせに」と口走る差別主義の豚野郎たち(連続猟奇殺人犯とか変態後見人とがガチで鬼畜)が、コテンパンに成敗されていくのは男の僕が観ても実に痛快。ラブストーリーとしても切ないラストがGOOD。(2011)
 
●ハッシュパピー〜バスタブ島の少女…94点!主人公は多感な6歳の少女ハッシュパピー。粗野だが愛情豊かな父と2人で暮らしている。映画の冒頭で主人公が小鳥や動物たちの心臓の音を次々と聞き比べ、世界と自分の繋がりを実感する様子が描かれ、いきなり作品に引き込まれた。物語の舞台は温暖化で海面沈下が進むニューオリンズ近郊。父娘はメキシコ湾に面した“バスタブ島”に住んでいる。予告編にも出てくるから書くけど、死期を悟った父親が「どのパパも必ず死ぬんだ」と彼女を諭し、残された時間をすべて使って、「お前を死なせないのが俺の仕事だ」と漁の方法など生きる術を伝えていく場面が胸に来る。少女は様々な試練に直面しながらも、父が育んだタフな精神で大地に踏ん張る。自分がまさか6歳の女の子から生きるパワーをもらうとは思わなかった!劇場では左右の座席、前後の座席、みんな嗚咽し「号泣サラウンド」状態。サンダンス国際映画祭グランプリに輝き、カンヌ国際映画祭ではカメラドール(新人賞)を獲得、さらには小さな体で内面の強さと弱さを表現したクヮヴェンジャネ・ウォレス(4000人から主役に抜擢)は、9歳という史上最年少でアカデミー主演女優賞にノミネートされた。ザイトリン監督は、共同で脚本も書き、さらに劇中の素晴らしい楽曲を作曲している才人。監督兼作曲というのはチャップリンやイーストウッドを彷彿させる。バスタブ島の学校の先生が、子ども達に「人生で最も大切なことは、自分より弱い人の面倒をみること」と教えていたのが印象的だった。弱い人を“助ける”“見守る”とかじゃなく“面倒をみる”。そこには“他人の為に何かをしたら損”とか、そういう冷めた価値観はない。
※著名司会者のオプラ・ウィンフリーいわく「最初にこの映画のことを教えてくれたのはオバマ大統領。彼をインタビューした時、第一声が“この映画を見たかい?”だった。スクリーンに映し出されたマジカル・リアリズム。これこそ真の芸術よ」。
 
●クラウド アトラス…96点!こんな映画は観たことがない!19世紀から24世紀までの500年間を6つのエピソードに分け、同時進行で描くことだけでも驚くのに、同じ俳優が異なる国籍、人種、性別になって各時代に登場している。トム・ハンクス、ハル・ベリー、ヒュー・グラント、スーザン・サランドンなど有名俳優が出演し、エピソードごとに主役が脇役を演じ、脇役が主役を演じる革命的作品。各エピソードは、スリラー、コメディ、芸術論、SFアクション、社会派ドラマ、時代物などジャンルが異なるため、映画全体のジャンル分けが困難。しいて言うなら“SFヒューマニズム映画”か。
登場人物が何度も生まれ変わるうちに悪人から善人に変わっていく様(途中で悪人に戻ったりしながら)は胸熱。とはいえ、輪廻転生を描こうとしているのではなく、ある時代に生きた人間の想いが、別の時代の人間に受け継がれて成就したり、小さな行動が予測のつかない形で後世の人間に影響を及ぼす様から、人類全体をひとつの命として描いているように感じた。エピソードを時代順に紹介すると(1)1849年南太平洋編。奴隷売買がテーマ。船旅中の青年弁護士が、密航者の黒人奴隷の救出を試みる。生死を懸けてマストに帆を張る場面がドラマチック。(2)1936年スコットランド編。芸術家の苦悩。先の青年弁護士の航海日記を愛読する若手音楽家が、同性愛の偏見を受けながら、美しい「クラウド・アトラス六重奏」の作曲に挑む。音楽家を演じたベン・ウィショーが繊細な演技。良い役者!(3)1973年サンフランシスコ編。原発の恐るべき陰謀。石油の価格を吊り上げるために、わざと原発事故を起こそうとするトンデモ悪党が登場。原発の重要な欠陥を告発しようとする技術者やジャーナリストが、電力会社が雇った殺し屋に狙われる。東電の事故以降、原発会社が悪役になった初のケースか。(4)2012年ロンドン編。野獣派カルト作家や三流編集者の騒動がコメディ・タッチで描かれる。老人介護施設からの脱走はドキハラ。作家が「森林資源の無駄遣いで薄っぺらな結末」なんて罵倒されたらプッツンするのも分かる。言い方ってのがある。(5)2144年ソウル編。舞台は水没したソウルの後に作られた全体主義国家ネオ・ソウル。クローン少女ソンミ451が伝説の革命家となっていく。個人的にベストエピソード。『AKIRA』の如きサイバー都市の映像だけでも一見の価値あり。戦闘シーンも迫力満点。治安部隊の猛攻を受けながらの解放演説に泣けた。(6)2346年文明崩壊後編。ソンミ451は信仰の対象に。人類の文化は石器時代に戻り、凶悪な人食い種族まで出現。文明崩壊のきっかけは語られないが、放射能で被曝している描写がある。特定の俳優が常に善玉って訳じゃないのが、人間は時と場合でどっちにも転ぶことを描いていて良い。最も印象に残ったセリフは、19世紀の奴隷解放に関するやり取り。奴隷制をなくそうとする青年弁護士に、奴隷商人が「お前ひとりが何をやろうが“しずく”みたいなものだ」と嘲笑する。これに対して青年は「しずくはやがて大海になります」と答える。監督は鬼才トム・ティクヴァとウォシャウスキー姉弟(以前は兄弟だったけど性転換したので姉弟)。
※出演者ハル・ベリーの言葉が良い→「規模こそ大きいものの、これはインディーズ映画。誰も巨額なギャラなんてもらってない。革命的でユニークな作品に携わりたいという、愛と情熱があるから、みんな集まってきたのよ」「人と論議したくなる何かを創造するというのは、アーティストが社会に出来る大きな貢献よ」。
 
 
〔邦画編〕
 
●風立ちぬ…88点。宮崎監督いわく「自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである。夢は狂気をはらむ。その毒も隠してはならない。美しすぎるものへの憧れは、人生の罠でもある。美に傾く代償は少なくない」。戦争の時代に生きた技術者の悲嘆。二郎は飛行機設計士という夢を追い続けて実現したが、時代が悪く兵器でしか才能を活かせなかった。イタリアの航空屋カプローニに、二郎は“家族を乗せて好きなところに旅にいける美しい飛行機を作る”と約束したのに、飛行機設計の夢は実現したものの「僕が作ったあれは、一機も戻ってきませんでした」と言うしかない技術者の叫びが胸を締め付けた。本作品はラブストーリーとしても秀逸。特に感じ入ったのは次の2点。(1)菜穂子が一番美しい自分だけを見せて、去って行ったこと。本心はもっと側にいたかったのに。当時の結核は死病。これが永遠の別れになる。菜穂子の気持ちを思うとたまらない。(2)喫煙シーンの凄味。菜穂子が「(煙草を吸いに席を外そうとする二郎に)行かないで」(側で吸って)と言ったのは、二郎に“病気のことを考えず普通に接して欲しかった”から。普通の新婚夫婦のような時間を体験したかった。そして1秒でも長く側にいたかった。だから、あのシーンを僕は美しいものに感じた。療養所での養生を放棄して共に過ごす、2人の“覚悟”に泣けた。肺病の妻の横で煙草を吸うなんて現代の感覚では非常識だけど、大正や昭和初期の人間は“副流煙の方が有害物質を含む”なんて知らなかったし、僕の少年時代ですら、映画館やバスの中、っていうか病院の待合室でさえ大人はスパスパ吸っていた。映画のコピーは「生きねば」。悲しみを抱えたまま歩き続ける人間を正面から描いて巨匠は引退した。
※多くの日本人は宮崎監督が憲法9条死守の反戦リベラルと知っているけど、それを知らない外国人、特に日本から侵略を受けた国の人から零戦設計者を主人公にした点で、戦争美化と取られないか心配だった。懸念した通り、一部から宮崎監督を右派と批判する声があがったが、その誤解はあまり広がらなかったみたいで胸を撫で下ろした。
※富野由悠季監督「映画史上初めて、近代航空史を、そして技術者の苦悩を正面から描いた映画です。本来は僕にとって宮崎駿監督は倒すべきライバル。でも、今作はまったく逆で、映画のすべてがピターッと入ってきた」「(ラストで)“僕が作ったあれは、一機も戻ってきませんでした”と彼は声を振り絞るんです。その瞬間、頭上をバーっとゼロ戦の大群が飛んでいって終わる…。(感極まって)もう本当に僕は、この物語を話しているだけで駄目なんですよ。悲しくて」。
 
●桐島、部活やめるってよ…80点。日本アカデミー最優秀作品賞受賞作とあって期待値MAXで鑑賞。なるほど青春時代の繊細な心の動きを捉えた良い映画だった。同じ時間軸を複数の登場人物の視点で描いているのも面白い。映画の内容は高校のスーパースター、バレー部キャプテン桐島が突然部活を止めたことで、周囲の生徒に様々な変化が起きていくというもの。桐島と親しい連中は、“桐島と友達”“桐島の彼女”ということ自体がステータスで、桐島の不在に動揺しまくる。一方、いわゆる学校カーストの下層にいる生徒は、「ステータス」に関心がなく(っていうか必要としない)、元々桐島とは何の接点もないので、自主映画作りなど自分の好きなものに打ち込んでいる。上層の生徒は下層の生徒を見下してるけれど、桐島がいなくなったことで自分には何もないと気づく(「俺はいいんだよ。俺はいいって」が切ない)。ゾンビ映画を撮っている映画部の前田(神木隆之介)が、部員たちに「こいつら(リア充)全部くいころせ!ドキュメンタリータッチでいくんだよ!」と命じた時のカタルシスはハンパなかった。地道に努力している野球部の先輩、バレー部のリベロ君にエールを送りたい。吹奏楽部の部長は気持ちも分かるけど、映画部に場所を譲ろう。※橋本愛演じるバトミントン部の女子、映画ファンと思っていたのにまさか、よりによってアイツと…。主人公同様にショックを受けた。しかも、リアルでもそうだったとは…ダブルショック。じぇじぇじぇ!
 
●告白(2010)…84点。原作未読。爆笑コメディ『下妻物語』の中島哲也監督の作品ということだけ知っていた。まさか生徒に子どもを殺された中学教師の“死ぬよりも苦しい復讐”を描くという、こんなハードな物語だったとは。10代前半の子どもは、良く言えば無邪気、悪く言えば他人の心の痛みに気付かない残酷さを持っている。後者を描くことはパワーがいるのに、それをエンターテインメントに仕上げた監督の力量に感服。エンドロールを眺めながら“後味の悪い爽快感”を味わった。松たか子の「なーんてね」は邦画史に残る衝撃的な台詞かと!
 
●容疑者Xの献身(2008)…83点。原作未読。ガリレオ未見。ドラマを見ていなくても、この映画で描かれた“天才VS天才”の攻防は面白かった。生命を救ってくれた相手には、残りの全人生を捧げる価値がある。しかも、想いを寄せていた女性とあれば…。献身的な愛を見せていた石神(堤真一)が号泣するシーンがたまらなく切なく、声が耳に残る。良質ラブストーリーとしてもっと高得点でも良いんだけど、死体のトリックに無実のホームレスが巻き込まれており、それを考えると石神を全肯定する訳にはいかず…。湯川との心理戦は手に汗握ったし、松雪泰子の演技も素晴らしかった。
 
以上!2014年は現時点でぶっちぎりのトップが『ゼロ・グラビティ』です!未見の人は公開終了までに是非大スクリーンでご鑑賞を!
 
 
カジポン・マルコ・残月(ド根性文芸研究家)
HP http://kajipon.com
育児ブログ http://blog.livedoor.jp/fuu2009/ ※4歳になりました
 

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    小さな出版社、言水制作室です。今は他の出版社の本のレイアウトをしたりしています。日々のことを淡々とつづる日記的メルマガです。

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    最終発行日:
    2016/12/10
    読者数:
    23740人

     評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

  5. Cony's Eye

    最終発行日:
    2016/12/09
    読者数:
    276人

    1階はエスプレッソカフェと、個性的で遊び心があるデザイングッズのショップ、さらに誰でも参加できるボックスギャラリーがあります。2階の貸しギャラリーでは、幅広いジャンルの企画展を開催中!民芸・クラフト・ファッション・アートまで、生活用品の情報を配信します。

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