小説

猿まじの自作小説

僕が書いた自作小説を送りするメルマガです、ジャンルはファンタジー系から戦争系です。

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第329回配信!!

2008/05/28

1、sarumajiからの言葉
 2、今回の一言
 3、連載
      ◎『カルディア戦記』
   ◎『死神の仔』
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☆sarumajiからの言葉

暑くなってきましたねー。
そろそろ梅雨の季節、気が滅入る時期ですから元気出していきましょー!

☆今回の一言

鮭の大助(さけのおおすけ) 
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【分類】

 日本の伝説(Japanese legend,folklore)

【解説】

 巨大な鮭。毎年十月になると、鮭の大助は一族を引き連れて最上川を上る。その時、闇夜の中で粛々と「大助小助いまのぼる」と言う。この言葉を聞いた者は、早死にするとされる。
 マレビト、遠来の神の一種である。

 又、ある時、鷲にさらわれた男が鮭の大助の背中に乗って帰る事が出来たため、男とその子孫は鮭を食べなくなったのだという。 

☆連載

第三章 皇都アルディ・ムン
1 波紋
皇都アルディ・ムンに帰還したアルザス皇国将兵を迎えたのは歓声ではなく、重苦しい沈黙だった。
誰も声高に批難する者はいない。
誰もが口を噤み、視線を合わせようとしない。
そんな陰鬱な雰囲気に包まれた通りを進み、シベリウス=アルザス皇子とブライ=クロコディール卿の二人は報告のため宮城に入り、列柱廊を通って謁見の間に向かった。
「クロコディール卿」
それまで沈黙していたシベリウスが足を止め、振り返ったのは謁見の間へと続く観音開きの扉の前にまでやってきた時だった。
その顔に浮かぶ、不安げな表情に、クロコディールは内心舌打ちを漏らしたいのを懸命に堪えねばならなかった。
「は」
「大丈夫であろうか?」
「ご案じなさる必要はございません。責めはすべて私にありますゆえ」
「しかし………」
「殿下」
尚も言い募ろうとする皇子を押し留め、首を横に振る。
幾ら案じたところで、事態が変わるわけでもない。
シベリウスはごくりと唾を飲み込んでから、ゆっくりと頷いた。
それに頷きを返し、扉の脇を守る兵士に目配せする。
心得た兵士が扉をあけ、廷臣の、
「シベリウス=アルザス殿下、及び三皇将筆頭ブライ=クロコディール卿!」
二人の名を呼びあげる声を聞きつつ、謁見の間に足を踏み入れる。
正面、玉座にはこの国を統べる皇王その人が坐していた。
(さらに痩せられたか………)
一瞥して、クロコディールは胸中に一人呟いた。
皇王からは生気というものをまるで感じることができなかった。
枯れ果てた枝のような光沢も失せてしまった肌に纏う豪奢な衣裳がかえって痛々しい。
その姿を見ていると衣装に鏤められた金糸の重みすら苦痛なのではないかと案じてしまう。
近年にない苦境に立たされている今、頂点に在るべき者がこの有様であることに恐ろしさすら感じる。
そのような感情を表には出さず、二人は片膝をつき、頭を垂れた。
「この度は苦労であった」
掠れた細い声が玉座から発せられる。
「申し訳ありませんでした、父上!」
シベリウスが深々と頭を垂れ、声を震わせる。
「このような仕儀に至りましたこと、三皇将が一人として慙愧の念に堪えません」
クロコディールも殊勝に言う。
「アランフェスが生きていたか」
二人の言葉が聞こえているのかどうかさえ怪しい危うさで、皇王は視線を遠くへと向ける。
シベリウスの肩が僅かにぴくりと動いた。
父の言葉に、安堵が濃く滲みだしていたからだろう。
「アランフェスは、私に弓を引きました。父上にも。アルザス皇国にも」
「クロコディール卿」
「………はっ」
「今後、どうなる?」
無視されたシベリウスが愕然とする気配を感じつつも、クロコディールは頭をあげて、皇王その人を見返した。
「カルディア王国の力を借り、攻め込んでくるものと」
「皇都にもか」
「皇都にこそ、かと」
「勝てるか」
「時が必要です。体勢を立て直し、双子の女神都市同盟に救援を要請する必要があります。そのための時が」
「そうか………」
どこまで脳裏に思い描けているのか伺わせぬ口調で呟き、
「シベリウス」
漸く、息子に声をかけた。
「は、はい」
「アランフェスはなぜ、反旗を翻したと思う?」
予期せぬ問いだった。
いや、予期してしかるべきだったのに、まるで考えがそこに及んでいなかったのだ。
シベリウスは弟のことばかり気に掛ける父に対し、言い知れぬ感情が勃然として起こるのを感じ、わなないた。
ただでさえ白い肌が、青白く変わり、唇が渇く。
何度も舌で湿らせてから、ようやく、皇王の問いに答えなければならないということに気づいた。
「おそらくは………野心のためかと」
「野心か」
その瞬間、皇王はわずかに若返ったようだった。
それは口元に微笑を浮かべたからだろう。
まだ笑う余力が残されていたのかと、クロコディールは驚いたほどだった。
しかし、そんな皇王の反応に、シベリウスはぴくりと眉を震わせた。
「父上は………違うとお考えなのですか?」
「違う」
皇王の物言いは推測でも何でもなく、確かな断言だった。
「では、一体なんだとお考えなのですか?父や兄に、祖国に反旗を翻したその理由とは………」
「あやつは国に反旗を翻したのではない」
「………では、一体………」
「わしらを見限ったのじゃよ」
微笑が、ほろ苦いものへと変わる。
皇王の言葉に、シベリウスは愕然と目を瞠った。
咄嗟には言葉も出てこなかった。
「今、なんと………?」
「アランフェスは我々を見限ったと、そう言ったのじゃ。アルザス皇国にとって我らは害悪ではあっても必要なものではない、とな」
「馬鹿な………そのようなことが許されるのですか!?」
「力あるものが正義」
それは、皇王が若い頃より常に心に刻んできた信念だった。
だからこそ、ルフェニア王国やカルディア王国が、ウェルブルグ帝国や双子の女神都市同盟などと対等の立場に立とうと戦う事を選んだのに対し、アルザス皇国は双子の女神都市同盟に擦り寄り、その傘の下に留まることで安泰を得ようとしてきた。
だがそれは、双子の女神都市同盟を慕っていたからでも、信じていたからでもない。
双子の女神都市同盟には力があり、アルザス皇国にはなかったからだ。
弱小国の君主として、望む望まぬに限らず、求められる選択、その一つの答えに過ぎない。
死を間際にして、彼は知ることとなった。
新たな可能性が、芽を出しつつあることに。
未だ若々しすぎ、荒々しすぎ、可能性というよりも賭けに等しいものだったが。
勢いがあり、夢があり、希望があり、何より、情熱にあふれている。
すべて、老境の自分には、いや、若かりし頃の自分にすら欠けていたものだ。
目の前の、シベリウスやクロコディールにも。
ルフェニア王国のシルク=ルシフェニアン。
カルディア王国のレオナ=カルディアス。
クデナ王国のミリィ=クデナ。
若く、荒々しく、希望と情熱に溢れ、新たな流れ、勢いを齎すことのできる者達。
西部辺境連合。
新たな可能性。
西部辺境連合には、力が備わるのではないか。
しかし、その賭けに乗る時間はもはや彼には残されていなかった。
だが、アランフェスならば。
あの子なら、その可能性に乗って、大きく飛翔することができるのではないか。
そして、あの子は、自らその道を選択し、進みだしている。
父や兄を見限って。
「眩しいな」
「は?」
思わず、と言った様子で呟いた言葉に、クロコディールが反応する。
皇王はそんな男の、打ち砕かれそうな野心に、未だにしがみつく男の瞳に目線を据えた。
(だがな、アランフェス。新たな可能性を模索するには、多くの試練を乗り越えねばならぬ。葛藤もある。決断も要る。決断には犠牲も伴う)
「クロコディール卿」
「はっ」
(だからこそ、私は最後に、壁となろう。そなたが力強く前へと進めるように、礎となろう。この死にかけにはその程度のことしかできぬが………許してくれ)
息子の顔を脳裏に思い浮かべ、語りかけながら、皇王は意識して威厳のある声を出そうと努めた。
緩慢なる死に向かって歩みを進める己の体躯に抗うように息を吸い、吐き出すと共に声を絞る。
「卿に全権を委任する。逆徒を討て」
「は……ははっ!」
クロコディールが深々と頭を垂れる。
その瞳に一瞬浮かんだのは、野心の炎だった。
この男の美点は諦めぬことにあるのかもしれない。
その美点をもっと別の方面に向けることができれば、或いは違う立場で、違う風景を眺めることもできていたかもしれないのに。
「シベリウス」
「はい!」
「皇王としてそなたに、最後の命を伝える」
「は、はっ………」
怪訝さを浮かべたのも一瞬で、シベリウスは顔面を蒼白にした。
虚弱なのは体だけではない。
すべてが弱く、脆すぎる。
もとより皇王となるだけの資質を持って生まれることができなかった。
哀れだと思う。
皇家に生まれるのではなく、多少裕福なだけの家にでも生まれていればもっと幸福な日々を過ごすこともできただろうに。
(新たな世の、礎となるにすら、脆すぎる………)
「そなた、我が特使として双子の女神都市同盟に赴き、救援を要請せよ。然る後、我が呼び戻すまでフェレディンに留まれ」
「そんな、父上!?」
「勅命ぞ」
わずかに目つきを鋭くしての言葉に、シベリウスは息を呑んだ。
(おまえまで、死ぬ必要はない)
口にはできぬ想いを胸中で呟き、皇王は半面を掌で覆った。
「少々疲れた。休む故、下がってよい。クロコディール卿、あとはすべて卿に一任する」
「畏まりました。必ずや御期待に沿って御覧に入れます」
「期待している。役目を全うせよ」
立ち上がり、一礼したシベリウスとクロコディールが謁見の間から退室していく。
あと何度、このようにして彼らの背中を見送ることができるだろうか。
そんなことを思った途端、息苦しくなり、体を曲げるようにして咳をした。
口を覆った掌に、べっとりと赤黒い血が付着する。
細木も、折れようとしている。
慌てた廷臣たちが体を支え、医者を呼ぶ声を聞きながら、皇王の意識は急速に遠のいていった。
最後に、
「アランフェス………築け、力を………」
そう呟いて。

「フェレディンに向かう準備をする」
「そうなされませ」
シベリウスが僅かに意気消沈した様子で廊下を歩み去るのを、クロコディールは胸中に滾る炎を持て余し気味に見送った。
皇王はシベリウスをフェレディンに避難させるつもりだ。
ということは、彼は敗北を予想している。
己が死ぬことも。
だがそれは、クロコディールにとってはチャンスでもあった。
救国の英雄となり、自ら皇王の座に就くための。
第一皇子は国外に去り、第二皇子と三皇将次席ヴァイク=イシュトバーンが反旗を翻した今、皇王が亡くなれば皇位は空位となる。
しかし、この国家危急存亡の折、皇位を空位にしておくことなどできようはずもない。
すなわち、暫定的にせよ、誰かがその座に座らなければならない。
その資格者として、彼以上に相応しい人間などいるはずもない。
三皇将筆頭にして、救国の英雄ともなれば誰も異論を唱えることなどできない。
「聞きましたよ。大負けしたんですってね」
突如、背後からかけられた言葉に、クロコディールは冷や水を浴びせかけられた気分を味わった。
表情を消しつつ、背後を振り返る。
そこに、柱に背を預け、両手を組んで立っていた人物を見て、彼は舌打ちと共に思い直していた。
異論を唱えられる人間も、玉座に座す資格のある人間も、もう一人いるということに。
三皇将の三人目、ビアンカ=シュタインマイヤー。
栗色の髪。金縁のメガネ。細身の体を包むのは文官服だった。
武官というよりも図書館の司書といった佇まい。
事実、彼女は剣を握るよりも本を読んでいる方が好きだと公言し、訓練場に姿を現すよりも図書館で本のページを捲っている姿の方が遥かに多く目撃されている。
だが、それでも、三皇将の一人であることに変わりはなく、その剣術も凄腕だった。
「あら、御免なさい。傷口に塩を塗るようなことを言ってしまって」
眼鏡の奥の、紅梅色の瞳を怜悧に細め、口元に皮肉な笑みを浮かべる。
「まだ逆転できる」
渋面になり、その場から立ち去る足を踏み出しながら反論する。
「あら意外」
「何がだ?」
「もっと意気消沈しているかと思ったのに」
薄く笑んで、目を光らせる。
「それとも、何か良いことでもあったのかしら」
内心、ぎくりとしつつも、答えることなく、彼はその場から立ち去った。

次週、「2 ビアンカ=シュタインマイヤー」


『死神の仔』

4 忘れられた存在
遺跡の中から姿を現した化け物は陽光が眩しいのか、触手を蠢かせた。
その様は喜んでいるようにも、或いは戸惑っているようにも見える。
感情が、それどころか理性があるのかどうかさえ定かではない外見をしていたが。
「陽の光なんて浴びたことないんだろうな」
化け物の様子を見て、リュカが僅かに眉を顰める。
「ずっと地下に閉じ込められていたんでしょうね」
清華も、まるで我が事のように苦しそうな顔をする。
「これも、古代文明の仕業なのか?」
「さあな。いずれにせよ、古代文明がなければ、こいつも存在していないだろう」
リュカの問いに、ベルセルクが苦々しく応じる。
「古代文明ってのはどんな連中だったんだろうな」
古代文明は精霊具を用い、このラスカーナ大陸に比類なき文明を築いた。
しかし、その驕りゆえに滅び去った。
だが、古代文明の驕りは時を越え、今でもその末裔達を苦しめているのだ。
ロキは力の妄執に捉われ、それが故に多くの人間が苦しみ、命を落としている。
「罪深い、ですね」
レトは呟き、
「せめて、成仏させてあげましょうか」
「そうだな。このまま生かしておく事はできん」
レトの言葉に、ベルセルクが応じる。
このような化け物がこのまま野に放たれれば、大変な被害が出る。
「だったら、苦しまないように仕留めるわよ!」
言い様、ユリアは早速短剣を操り、攻撃を仕掛ける。
糸によって彼女の指と結び付けられた十本の短剣が、自由自在に空を舞い、化け物に襲いかかる。
触手を切り刻み、その本体に突き刺さる。
「キシャァァァァッ!!!」
本体には痛覚があるのか、化け物が思わず身の毛もよだつような甲高い声で啼いた。
口らしきものは見当たらないので、或いはそれは声と言うには不適切なのかも知れないが。
叫んだ化け物は改めて、ベルセルク達を敵と認識したようだった。
それまで無為に虚空を漂い、或いは地を這っていた触手がびくんと震え、次いで一斉にユリアに襲いかかった。
「って、なんで私だけ!?」
「そりゃ、おまえが真っ先に攻撃を仕掛けたからだろう」
慌てて短剣を操って触手を振り払うユリアに冷ややかに突っ込みつつ、ユリアを援護する。
「清華はウォーブル君を」
「は、はい!」
ウォーブルを清華に任せ、レトは三叉の槍を振り回しつつ、触手の中に飛び込んで行く。
そんな彼を捕捉しようと触手が襲いかかるが、レトの的確な槍捌きの前に次々に切断され、ぼとぼとと地に落ちて行く。
だが、触手には痛覚が走っていないらしく、幾ら切り落とされても苦痛の声一つ上げる事はなかった。
「やはり、胴体を斬るしかない様だな」
そんな様子を見ていて、ベルセルクはそう分析した。
「リュカ!」
そして彼は《ドラグヴァンディル》を肩に担ぎ、弟子の中でもっとも身軽にして素早いリュカを呼ぶ。
「なんだ、師匠!?」
ユリアに襲いかかる触手を振り払いつつ、答えるリュカに、大刀を振り回して触手を一気呵成に薙ぎ払いつつ、
「俺たちが道を開く。胴体に一撃を浴びせろ」
「合点!」
「レト、ユリア!」
「分かりました」
「なんで私がリュカの援護なんて」
師の指示にレトは即答を返し、ユリアもぶちぶち言いながらも従う。
ベルセルク、レト、ユリア、三人の攻撃に対応するべく触手が分断される。
化け物の注意がリュカから逸れたその瞬間、彼は低姿勢で地を蹴り、飛び出した。
剣を片手で握り、身軽な動きで彼の突撃に、僅かに反応した触手の攻撃を掻い潜り、懐に飛び込んで行く。
触手の奥。
そこに隠された化け物の本体。
醜悪に濡れ輝くその体表に、
「喰らえぇぇぇっ!!」
思い切り、剣を突き刺した。
ぶしゅっ、と鼻が曲がりそうなほどの悪臭を放つ体液が噴出す。
「クシャアアアアアッ!!!!!」
その瞬間、猛烈な絶叫を化け物が上げ、触手が一斉にリュカの四肢に絡み付き、放り投げた。
「うおっ!?」
空に放物線を描いて飛ばされたリュカを、ベルセルクが受け止める。
「やったか!?」
「いや、まだだな」
化け物は怒髪天を衝くと言う表現そのままに、触手を激しく動かし、ユリア、レトの二人に襲い掛かる。
「リュカ、もう一度だ」
「何度だってやってやる!」
剣を構えなおすリュカに一つ頷き、ベルセルクも《ドラグヴァンディル》を振り翳して吶喊して行く。
しかし、手傷を負った化け物は怒り狂い、凄まじい速度で触手を振るい、リュカをして飛び込む隙を見出させない。
「早く行きなさいよ!」
短剣を操り、必死に戦いながらユリアが急かすが、
「うっせぇ、んな事分かってる!」
怒鳴り返しつつも、飛び込む隙を見出せない。
下手に飛び込んだところで、本体に剣が届かなければ意味がないのだ。
触手に阻まれてしまえば、幾ら触手を斬ったところで相手にダメージを与える事はできない。
そして、下手に相手の懐に飛び込んで触手に阻まれれば脱出は難しく、下手をすれば重傷を負う可能性もある。
「リュカ、できれば………」
レトが控え目に催促する。
彼をしても、手に負えなくなるほど化け物の攻撃は勢いを増していた。
この化け物としても死に物狂いなのだろう。
さながら、やっと自由を得た者が、その自由にしがみ付くように。
「チッ………」
思わず舌打ちを漏らしたところで、リュカの脇を走り抜け、触手に斬りかかった者達がいた。
「うおおおっ!!」
「あちゃあああっす!!」
「っ、おまえら!?」
思わずリュカは驚きに目を見開いた。
その二人は遺跡の中で姿が見えなくなった二人の元山賊、ドゥマとサリエルだったからだ。
「やっと出れたと思ったらなんだこの化け物は!?」
「踏んだり蹴ったりっす!」
文句を言いながら懸命に触手を切り払い、
「早くしろ!」
「お願いっす!」
ドゥマとサリエル、二人合わせても大した戦力ではないが、それでも触手はさらに分断され―――
「見えた!」
リュカの目に、はっきりと本体の姿が映った。
その瞬間には既に地を蹴り、飛燕の如く高速で触手の中に飛び込んでいた。
自分に手傷を負わせたリュカの突撃に対し、化け物は怒りの声を上げるとその動きを止めようと無数の触手が攻撃を仕掛けてくる。
それらを、或いは跳び越え、或いはしゃがんで、或いは身を捻り、或いは斬り捨てながら、本体を目指して突き進む。
しゅるっと右腕に触手が絡み付いた。
「あっ、しまっ―――」
そう思ったときには、その触手は切断され、体液をぶちまけながら拘束が外れる。
視界の隅に、短剣が見えた。
「いっけぇぇっ、リュカ!!」
「おう!!」
ユリアの声援に背を押され、さらに地を蹴る軸足に力が篭る。
触手の壁を強引に突破する。
全身がぬるぬるの体液に覆われる気持ち悪さを感じることすらなく、ただ只管前を目指す。
そして遂に、本体が彼の前に姿を見せた。
怯えているかのごとく萎縮している、肉の塊。
或いははじめて浴びる陽の光に歓喜しているのかもしれないその肉塊に、
「悪いな。ここでくたばれッ!!」
思い切り剣を突き刺し、ねじり、さらに真一文字に引く。
糸を引く絶叫を肉塊が挙げ、触手が無茶苦茶にのた打ち回る。
噴きだす体液を全身に浴びながら、剣を引き抜き、もう一度突き刺し、下に一気に引く。
十文字の裂傷から先ほどに倍する勢いで体液が溢れ出す。
どくっ、どくっ、と化け物の鼓動に合わせる如く噴きだす体液は、化け物の命そのものだった。
「ハッ!!」
リュカが本体を攻撃した事で触手の動きが鈍ったのか、リュカが剣を突き刺している反対面にレトが三叉の槍を突き刺す。
さらに別の面に、次々に短剣が突き刺さる。
その度に絶叫を挙げ、ぶるぶると巨体を震わせる化け物。
残る一面の前に、ベルセルクが触手を振り払いながら進み出、《ドラグヴァンディル》を構える。
「止めだ」
言い様、強烈な一撃を振り下ろす。
ざっくりと、肉塊が半分に断ち切られる。
絶叫が止み、触手がばたばたと地に落ちる。
化け物は絶命した。
「厄介な相手だったな………うへぇ。気持ち悪」
体中にべったりと付着した体液を手で拭うが、その手も体液でべたべたな状況では効果は薄い。
「うむ、我々のお陰だな」
「さすがっす、兄貴。この状況ですかさず恩を売るなんてなかなかできないっすよ」
ドゥマとサリエルの遣り取りを聞いてリュカは二人に歩み寄り、
「だがま、確かに今回は助かったぜ。あのままだったら飛び込めたかどうか分からなかったしな」
二人の元山賊はきょとんとリュカを見やり、
「い、今のはなんだ?」
「礼………っすかね」
そんな二人にリュカは眉を顰めて、
「礼を言っちゃいけねぇのかよ」
「いや、そうではないが………」
「人の好意に慣れてないので、戸惑ったっす」
「馬鹿野郎!んな解説要るか!」
「いだっ、なんで殴るんすかぁ!?」
「しかし、良くあの遺跡から生きて戻ってこれたな」
《ドラグヴァンディル》を背に背負い直し、腕を組んだベルセルクが顎を撫でながら二人を見やる。
「確かに、驚きですね」
レトも首を傾げている。
「てか、また会うなんてなんかの呪い?」
「おいおい、それは酷いだろう。仮にも命の恩人―――」
「誰が命の恩人よ。あんなのリュカが手間取ってたのを助けただけでしょ。私だったらこんな奴、さっさと倒してるもん」
「んだと、それじゃ俺のせいみたいじゃないか」
「あれ、違うの?」
「うぐっ………」
むかつくが、ユリアの指摘は確かに正しい。
リュカが隙を見出す事ができていれば、この二人の助けを必要とする事もなかったのだから。
「何はともあれ、御無事で良かったです!」
清華の笑顔を見て、サリエルが思わず涙ぐむ。
「うぅっ、清華の姐さんはやっぱ素敵っす!」
「ちょっと、私は?」
「も、勿論、姐さんも素敵っすよ」
「うむ。よろしい」
「暴君だな」
「あ?」
「な、なんでもない」
凄むユリアから距離を置く二人。
「再会の挨拶はそれぐらいにしておけ」
「挨拶って………」
「それより、遺跡を封じるぞ」
「そうですね。あの番人達を外に出す訳には行きませんからね」
ベルセルクの言葉に、レトが同意する。
「だけど、どうやって?」
首を傾げるユリアを尻目に、ベルセルクは遺跡の入口に取って返し、《ドラグヴァンディル》を構え、
「はぁっ!!」
跳び上がり、遺跡の天井に斬撃を見舞った。
その衝撃に耐え切れず、天井が崩落し、遺跡の入口を埋没させる。
「よし」
「よしって………すげえ強引だな」
「問題ない」
何処となく満足そうな師の様子に、弟子達はこそっと吐息を吐き、
「それで、これからどうする?」
「一端、ザルカに戻る」
「そうね。御腹も空いたし」
「……ちょっと久しぶりだな、その台詞」
「ずっと我慢してたのよぉ」
「さすがに番人の味には懲りたのか」
「と言うことで、ザルカで思う存分食べるよ!」
おーっ、と拳を突き出し、走り出すユリア。
ベルセルク門下と元山賊二人は顔を見合わせ、それに従うのだった。

次週、「第四章 ザルカの動乱 1 軍司令官、暗殺」

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