小説

猿まじの自作小説

僕が書いた自作小説を送りするメルマガです、ジャンルはファンタジー系から戦争系です。

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第324回配信!!

2008/02/20

1、sarumajiからの言葉
 2、今回の一言
 3、連載
      ◎『カルディア戦記』
   ◎『死神の仔』
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☆sarumajiからの言葉

大学卒業を前に四年間暮らしたアパートを引き払い、実家に戻りました。
うーん、久しぶりの故郷はなかなか落ち着きますねぇ。

☆今回の一言

崑崙(こんろん) 
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【分類】

 中国神話(Chinese mythology)
 土地(the name of a place)

【解説】

 崑崙丘、崑崙山、昆侖とも呼ばれる。
 西戎(せいじゅう)にあるとされた土地や山、また丘や塔の呼称で伝説上の聖地。日月の沈む場所としての、西の果ての象徴。西王母や黄帝などの神仙が住むとされた。

 『爾雅』の釋丘篇には、”丘の一成(段)を敦丘と為し、再(ニ)成を陶丘と為し、再成の上の鋭きを融丘と為し、三成を崑崙丘と為す”とある。
 『史記』の大宛列伝では『禹本紀』という物から、”河は崑崙にいで、崑崙の高さは二千五百余里、日月もこれを避け、その上に醴泉瑶地がある”と引いている。
 『山海経』の大荒西経では、”西海の南、流砂のほとりに、赤水を前にし黒水を後にした大山崑崙の丘がある”とされている。海内西経では”崑崙の城に九井九門があり、開明獣がその門を守り、人面虎身、東に嚮(む)かって崑崙上に立ち、鸞鳳(らんほう)などがその盾の上にいる”とされている。
 また『楚辞』の天問では、”崑崙縣圃(けんぼ) そのはてはいづくにかある !)城九重 その高さいくばくぞ 四方の門 それたれかここよりする 西北の辟(ひら)き啓(ひら)けたるは 何の氣か通ずる”と崑崙の形状を書いている。
  
 つまり巨大で三段もしくは九段をなす丘や塔のようなものと考えられていたようだ。東の果てにあるという度朔山や扶桑樹と対になる存在でもある。また同じく巨大樹の建木との関連性が考えられる。
 そこは樹木が茂り池が水をたたえる園庭が広がり、多くの仙人が住むという美しい神の世界で、穆王や東王父が訪れたとされる。
 さらに崑崙が世界の中心にあって頂上で北極星や北斗七星と繋がっており、星々を回転させているともされていたようだ。おそらく月神としての西王母との関連からだろう。 

 
☆連載

『カルディア戦記』

『下剋上』
第一章 六人の戦
1 作戦説明
「―――それで、作戦と言うのをお聞かせ頂けますか、姫様?」
久しぶりの再会を祝した後、ランディア伯爵は円卓を囲んだ面々―――レオナ=カルディアス、《白銀の剣聖》ユバ=エメラダ、ラファエル=フォーディア、『白鎧剣士団』団長リオ=ヴィネス、アルザス皇国皇子アランフェス=アルザス、自称クライスト騎士団騎士見習ケイン=ロートシルト、そして『白鎧剣士団』所属ティナ=エリュッセイム少佐とカレン=エドワーズ大尉―――錚々たる顔触れを見回し、尋ねた。
「援軍はたった六名。ですが、勝算はあると?」
「勿論あるわ」
レオナは自信満々に頷いてみせる。
「私達はこれから港湾部に突入し、アルザス皇国軍を攻撃するわ」
「えっ!?」
レオナが事も無げに口にした作戦の内容に、ティナが思わず絶句する。
「そ、そんな幾ら姫様やユバ様でも、千六百の軍勢の中にたった六人で飛び込むなんて自殺行為です!」
思わず身を乗り出して叫んでいた。
レオナはちらりとティナを一瞥し、
「確かに」
自信を揺るがせぬままに、頷いてみせる。
「私だってそんな事ができるとは思ってないわ。私は化け物ではないもの」
「ひゅう」
口笛を吹いたのはケインだった。
にやにやと笑みを浮かべている。
そんな彼に咎めるような視線が集中する。
「何?何か言いたい訳?」
「いや、別に。ここでは俺は外野だな」
ケインは肩を竦めて、口を噤んだ。
「こほん、とにかく。私達が突入する事で一つの契機を作り出す。だから、その隙に乗じて『白鎧剣士団』には港湾部への総攻撃を行って欲しいの」
「なるほど………」
伯爵は頷きつつ、ちらりとユバを見やった。
その視線に、ユバがレオナには気付かれぬように頷いてみせる。
これはおまえが考えた策か、と言う問いに対し、そうです、と応じる暗黙の会話だった。
「作戦は分かりました。しかし、疑問が二つあります」
「何?」
「まず一つ目、姫様方は何処から港湾部に侵攻するおつもりですか?」
「それは………」
伯爵の的確な問いに、レオナの視線は呆気なく空に泳いだ。
「隙を突く必要がある。城壁を越えてってのはナシだな」
だらしなく背凭れに凭れながら、リオが口を開く。
「どちらにせよ、城壁には敵も部隊を貼り付けているだろう。侵入する前に殺られるのがオチだ」
ケインも首を横に振る。
「じゃあ、どうするっすか?」
ラファエルが渋面を浮かべる。
ティナも少し不安そうな顔で皆の顔を眺めている。
カレンはいつもの如く御気楽な笑みを浮かべていたが。
「ユバ、どうするの?」
自信満々に勝算があると言いきった手前、ここで断念するのはあまりにも口惜しい。
レオナは小声でユバに尋ねた。
そんな彼女の耳元に口を寄せ、ユバが何事かを囁く。
「あ!」
それを聞いて、レオナの真紅の瞳が輝く。
「何か妙案があるみたいだな」
苦笑しつつリオが促す。
「急かさないでよ。こほん」
もっともらしく咳払いしてから、
「私達は港湾部に、川から侵入するわ」
「川から?」
伯爵は僅かに口元を綻ばせつつ、
「なるほど。それならば城壁側よりは敵の警戒も緩んでいる事でしょう。小船一艘程度ならば見張りの目を掻い潜ることも然程難しくはないでしょう」
「ええ。中に入ってしまえばこっちのもんよ。暴れ回って大騒ぎするわ」
「その騒ぎに応じて『白鎧剣士団』が総攻撃を仕掛ける、と。なるほど勝算はあるかもしれません」
伯爵の言葉に、ティナの顔色も僅かに晴れる。
「必ず、敵を撃滅します!」
強い決意を瞳に宿して頷く。
彼女が指揮する『白鎧剣士団』は騒動に呼応し、早急に城門を開いて港湾部に突入し、六人と合流する必要がある。
でなければ、孤立し、六人は危険に晒される事になる。
「伯爵、もう一つの疑問と言うのは何?」
難題に答えを見出せたことで安堵しつつ、次なる難問に挑むかのように表情を引き締めつつ、レオナが問い返す。
ランディア伯爵の人柄を考えても、次の疑問の方がより難題なのは間違いないだろう。
「『白鎧剣士団』の総攻撃のみで、敵を打倒できるのでしょうか?」
それは根本的な問いだった。
「それは『白鎧剣士団』の戦闘力に不安があると言う事でしょうか?」
硬い表情で、尋ねたのはティナだった。
彼女からすれば、『白鎧剣士団』を侮辱されたように感じたのだろう。
『白鎧剣士団』を侮辱される事は取りも直さず、リオ=ヴィネス中将の能力に疑問符を付けられるのにも等しい。
彼女からすれば、思わず冷静さを失いそうになる程の屈辱だった。
「ティナちゃん、落ち着いて」
思わずカレンが肩を抑えて諭すが、彼女は物怖じすることなく伯爵を見据えていた。
「止めろ、ティナ」
「っ……閣下!しかし……」
リオの制止によって、ティナの瞳は初めて揺らいだ。
「おまえだって分かってるだろう。伯爵はそんな人じゃない」
「それは………」
「それに、俺は何を言われても気にしねぇぞ」
「別に、閣下の為に言っている訳ではありません!」
「そうか、まぁ、そうカリカリすんなって」
宥めるようなジェスチャーをするリオに、ティナは僅かに不満そうながら席に腰を下ろす。
「悪かった。赦してくれ」
「いや」
片手拝みに謝罪するリオに、苦笑して首を振り、
「『白鎧剣士団』の力の源を思い知ったよ」
「ふむ?」
首を傾げるリオに、伯爵はティナとカレンを見やり、
「愛と信、それが忠誠と団結の源という事かね?」
「あ、愛ってなんですか!?」
「ははは」
顔を真っ赤にして身を乗り出すティナに、伯爵は爆笑する。
この数日で大分打ち解けたようだ。
「さて、話を元に戻しても良いかね?」
一頻り笑った後、真顔に戻った伯爵が切り出すとティナはハッとして、
「も、申し訳ありませんでした!無礼な事を数々………」
「今更って感じだな」
「閣下!」
「伯爵だってそんな事気にしたりしないっての」
「そんな………」
「いや、彼の言う通りだよ、少佐。部隊を想っての発言、多少の無礼は水に流そう」
「あ、ありがとうございます………!」
深々と頭を垂れるティナは、再び伯爵の話の腰を折っている事に気付いて真っ青になったが、これ以上話を停滞させまいと口を噤んだ。
そんな彼女から視線をアランフェスへと向けつつ、
「私は『白鎧剣士団』の実力に疑義を挟みたい訳ではありません。ただ、今後の事を考えると犠牲は必要最小限に抑えたい、いえ、抑えなければなりますまい」
「先、と言うとアルザス皇国への侵攻の事?」
伯爵の視線の先をなぞりながら、レオナが尋ねると伯爵は首を左右に振り、
「その、更なる先の話です」
「帝国や同盟との対峙、と言う事でしょうか」
「さすがは《白銀の剣聖》」
満足げに微笑を漏らし、
「『白鎧剣士団』は連合の軍事力、その中枢を担うべき部隊。その精鋭の被害を必要最小限に抑えるには戦力を集中し、戦闘期間を圧縮することが肝要」
「つまり、市街地に篭っている『ヴォルフスシャンツィエ』も総攻撃に参加させるべきだと言う事だね」
期せずして皆からの注目を浴びたアランフェスが苦笑しつつ口を開く。
「伯爵は総攻撃が開始されても『ヴォルフスシャンツィエ』は動かないとお思いなのですか?」
「あそこにはあの馬鹿もいるんだ。あいつは俺たちが派手に暴れるのを黙って見過ごすなんて事、できるとは思えないけどな」
ユバの疑問に対し、肩を竦めてリオが反論する。
「それはそうだろう。遺憾ながら、あれは君に対しては随分と敵愾心を燃やしているからな」
「ふん、迷惑な話だ」
「しかし、『ヴォルフスシャンツィエ』の指揮権は今、シュルトの手にある」
「シュルト=ラグウェル………。彼は動かないと?」
眉間に微かな憂慮を滲ませつつ、ユバが問う。
伯爵は顎の辺りを撫でつつ、
「命に忠実な男だからな、あれは。頑固なほどに」
「頑固なほどに………確かに、そんな感じだったわね」
初めてシュルトを目にした時の事を思い出して、レオナは頷いた。
漆黒の髪に、褐色の瞳、黒褐色の肌に、茶系統で纏めた胴着、腰には反りの深い太刀を佩いた痩身長躯の男。
シュルトには求道者と言う言葉が一番しっくり来る。
硬くななまでに己と言う物を譲らぬ。
それは一つの美徳であるが、同時に欠陥ともなりえる。
兵としてはよくとも、将としては臨機応変さも欠かせぬ要素となってくるのだから。
「市街地に命令を伝達する手段は?」
問うユバに、伯爵は首を左右に振り、
「ない」
「『四狐』ならば潜入する事はできると思う」
アランフェスの提案に対しても、反応は同じ。
「斬るだけだろう」
アルザス皇国の諜報員を、シュルトは信頼しない。
「『ヴォルフスシャンツィエ』はその場合、勘定できないと言う事ですか………」
ティナが深刻な表情で呟く。
『白鎧剣士団』一千だけで総攻撃を仕掛ければ、相手が混乱していたとしても大きな被害が出る可能性がある。
「もう一つ手がある。勘定に入れられる戦力を増す方法が」
満を持していたのか、やや微笑を湛えつつ、アランフェスが告げる。
「あれね」
既に彼の考えを聞いているレオナ達は賛同するように頷く。
「ふむ、その手と言うのは?」
「アルザス皇国軍と言っても一枚岩ではない。ヴァイク=イシュトバーン卿の軍六百はいつでもこちらに寝返らせることができる」
「三皇将の一人が寝返るのであれば、前線だけでなく本国にも動揺が広がるだろうな」
ケインが精悍な笑みを浮かべ、
「面白い手だ、と思う」
「本来であれば、彼には本国で、味方を集めて貰うつもりであった。しかし、同盟海軍の動きもあり、その目論見は崩れた」
アランフェスの白眼に、微かに憂色が浮かんだ。
同盟海軍の動き、そしてその結果、『紅の狼』と『蒼穹の支配者』がカルシファに釘付けにされてしまった事が大きな波紋を投げかけている。
連合軍の援助を受け、アルザス皇国国内でアランフェス派を、ヴァイク=イシュトバーン卿の下で蜂起させ、一挙に皇王を玉座から引きずり下ろし、ブライ=クロコディール卿を打倒すると言うアランフェスの計画は既に崩れてしまっている。
ヴァイク=イシュトバーン卿と言うカードをここで切ってでも、『白鎧剣士団』と『ヴォルフスシャンツィエ』の行動の自由を取り戻し、アルザス皇国内に侵攻する事が、この謀反を成功させるためには何としても必要だった。
わざわざ戦死を装ってまで連合の首脳と会談し、彼が皇王の座に就く事、そして連合への加盟と言う道筋を整えたにも関わらず、ここで断念する事は出来ない。
そして、事態を打開したいのは連合としても同様だった。
帝国への備えを怠れないルフェニア王国、国内の反乱への備えにまだ気が抜けないクデナ王国、同盟海軍を王都に抱えるカルディア王国、そしてさらにはアルザス皇国との戦線。
連合の戦力は四周に分散されてしまっている状況で、もし帝国か同盟の本格的な侵攻が始まれば連合軍は連携を取ることもできず各個撃破され、連合は早晩瓦解する事になる。
レシュティアークを解放し、アルザス皇国を連合に加える事ができれば連合の規模は拡大し、他の西部辺境諸国も雪崩を打って加盟するだろう。
そうなれば、帝国や同盟と言えども容易く手を出す事は難しくなる。
レアレス大陸は三強鼎立の新たな時代を迎える事になる。
「ヴァイク=イシュトバーン卿の軍が寝返れば、戦力差は逆転する。敵の混乱も大いに増すだろうな」
ケインはそう言って、
「で、連絡はどうする?」
「『四狐』がいる。イシュトバーン卿は斬りはしないだろう」
微笑を浮かべつつ、アランフェスは肩を竦めた。
「それで決まりね。いつ行く?」
「準備もあります。明日の夜でいかがでしょうか?」
「問題ない」
ユバの提案に皇子が応じ、六人の突入が決まった。

次週、「2 出港」


『死神の仔』

4 守護龍
「あ、あはは………」
「清華、気をしっかり持て!」
目の前の、あまりにも強大な存在を前にして気が触れたかのごとく笑い出す清華の肩を、リュカが支える。
しかし、彼女を支えるリュカの顔色も蒼白だった。
レヴナント村の傭兵として、ベルセルクの弟子として。
リュカは勇気には自信があると、少なくとも自分では考えていた。
どんな敵を前にしても、その勇気を奮い起こし、戦ってきたのだ。
だと言うのに、幾ら全身の細胞を振るわせても、勇気の欠片すらも見出せそうになかった。
巨大なドラゴンは微かに真紅の瞳を眇めるようにして、彼からすれば卑小な存在に過ぎない人間達を見下ろしていた。
<立ち去れ。我が眠りを妨げるな>
先ほどのような殺気はなかった。
代わりに吹き寄せて来たのは濃密な疲労感だった。
長い時、古代文明が滅亡してより、永久に等しい時を、この地下の遺跡で、たった独りで過ごしてきたのだ。
その孤独、絶望感は計り知れない。
それでも、ドラゴンは己の役目を果たすつもりでいるらしい。
《神龍の鉾−シェンロン・マオ》を守ると言う、その役目を。
人間達が特に動く様子を見せないのを見届けると、ドラゴンは再び頭を伏せ、瞳を閉じた。
真紅の輝きが厚い瞼に覆われると、広間に濃い闇が降臨した。
「これは………」
さしものレトも言葉が見つからないようだった。
あまりにも途方もない存在を前にして、彼等はあまりにも無力だった。
「う、あ、あぁ、はにゃ………」
あまりの恐怖感に腰が抜けたのか、ウォーブルがへなへなと座り込んでしまった。
圧倒的に、上位の生命を前にして、人間にできる事など多寡が知れている。
《神龍−シェンロン》は、やはり人間が手を出すべき存在ではないのだ。
《神龍−シェンロン》を精霊具に封じた古代文明を、レトは改めて驚きを以って見直していた。
一体なんたる技術を以ってすればそのような事が可能だったのか。
だが、そのような力を誇ったからこそ、古代文明は驕慢に陥り、滅亡への道を歩まざるを得なかったのだろう。
古代文明が滅亡して尚、彼等の力は様々な影響を後世に残している。
力を求める人間達。
それを妨げようとする人間達。
そして、ただ、常しえに、古代人の遺言を守り抜こうとする番人達や守護者。
(この遺跡には古代の瘴気が渦を巻いている………)
慄然と肌が粟立つのを感じつつ、レトは師に視線を向けた。
「師匠。これならば、《白い月》と言えども手を出せないのではないでしょうか?」
「そ、そうよ。あいつらだって、あんなドラゴンに勝てる筈ない!」
普段決して怖気づく事などないユリアでさえ、顔面を蒼白にして震えている。
リュカに縋る清華を見て唇を噛みつつも、一人で立ち尽くしているだけで精一杯と言った様子だ。
膝が笑い、今にもウォーブルのように崩れそうになっている。
「じゃ、じゃあ、どうするんだ?」
清華を支えたまま、リュカが問う。
「僕達は《神龍−シェンロン》を復活させようとしている訳じゃない。《白い月》が、ロキが、《神龍−シェンロン》を復活させるのを阻止できればそれでいい筈」
レトは師の顔色を窺いながら続ける。
「例えロキだったとしても、あのドラゴンを排除する事はできないでしょう。と言う事は―――」
「《神龍の鉾−シェンロン・マオ》を手に入れることはできない………ですよね?」
震えながらも、清華が顔を上げて口にする。
レトはゆっくりと頷いて、
「《神龍の鉾−シェンロン・マオ》を手に入れる事ができなければ、《神龍−シェンロン》を復活させることもできません」
「だよな。ここの扉は開いていた。あれってロキが開けたと考えるべきだろう?」
「おそらくは」
「と言う事は、あいつもここに来た筈だ」
「でも、《神龍の鉾−シェンロン・マオ》は取られてないわよ?」
「つまり、ロキも諦めた………?」
「馬鹿な」
レトの言葉を言下に否定したのはベルセルクだった。
彼は隻眼に剣呑な輝きを帯びて闇を見据え、
「あいつが、この程度で諦めるはずがない」
「ですが、師匠!幾らロキでも、こんなドラゴンを相手に勝てるとは思えません!」
「そうよ!現に倒してないじゃない!」
「おそらくあいつは、俺達とドラゴンを戦わせるつもりなんだろう」
「我々とドラゴンを!?」
「そのために扉だけ開けておいたってのか?」
「そう考えるのがもっとも辻褄が合う」
「それは………」
レトは曖昧な笑みを浮かべ、
「ここで戦えば、彼等の思う壺と言う事でしょうか?」
「そうなるな」
「冗談じゃないわよ」
ユリアが唇を尖らせる。
「そんなのに引っ掛かるなんて。絶対にお断り!」
「じゃあ、一先ず引き返しますか?」
清華の問いに、全員が頷きを返す。
ベルセルクを除いて、全員の表情にこのドラゴンと戦わなくて済むと言う安堵感があった。
「そうと決まれば、さっさと戻ろうぜ」
一瞬でも早くここから出たくてリュカが促す。
「清華、ウォーブルを頼む」
「は、はい」
リュカに言われて清華が頷き、腰を抜かしているウォーブルに肩を貸す。
二人がまず外へ。
それにリュカとユリアが続き―――
「師匠?」
後に続こうとしたレトが、一人動こうとしない師に尋ねる。
「すぐに追う。先に行け」
「師匠、大丈夫ですか?」
「当たり前だ。行け」
「………はい」
神妙な面持ちで頷き、レトが四人に続いて外に出る。
弟子達を外に出した後、ベルセルクは数度深呼吸してから、背に負う大剣《ドラグヴァンディル》の柄に手を掛ける。

「弟子達が出てきたな」
隠れて様子を窺っていたライムベールが呟く。
傍らのロキに一瞥を投げ、
「守護者を倒したのか?ドラゴンを?」
半信半疑で問う。
疑っているのは本当に守護者がドラゴンなのかと言う事だった。
ドラゴンなどお目に掛かったことなど一度もない。
まさに伝説の神獣なのだ。
アルティス荒野の東にあるドラゴンズ・ガーデンにはドラゴンと共に暮らす民族もいると聞いた事はあるが、よくある都市伝説の一種だと思っていた。
しかし、ロキは涼やかな表情のまま、
「彼の姿がありませんね」
楽しそうに呟く。
言われて視線を戻せば、確かにベルセルクの姿がない。
彼等が隠れている場所から、扉までは結構距離があるので会話も聞こえないが、あの目立つ姿を見落とすことなどないだろう。
「どう言う事だ?」
「ふふ、どういうことでしょう?」
首を傾げるライムベールをからかうかのような笑みを浮かべる。
「死んだか?」
「それはないでしょう」
「何故、そう思う。相手はドラゴンなのだろう?」
おまえの言う通りなら。
後半は飲み込んで、尋ねる。
「それではつまらないからですよ」
ロキは微笑を深くして、当然の如く口にする。
「つまらない、か………」
ライムベールはロキが口にした言葉を舌の上で転がして、
「分からんな」
「何がです?」
「おまえ達の仲が、だ。憎み合っているようには見えん」
「ふふ」
「むしろ、おまえはあいつと戦うのを心待ちにしているかのようだ」
「ええ、勿論」
「が、友ではないのだろう?」
「そう呼べば、彼はきっと雄叫びを上げつつ斬りかかって来るでしょうね」
「訳が分からん」
「色々とあったのですよ」
嘆息して首を振るライムベールに、妖艶な流し目を向けて、
「色々と、ね」
意味深に呟く。
ライムベールは目を細めて、扉の方、その前にいるベルセルク門下達を見やり、
「で、どうする?」
「暫く様子を見ます」
「そうか。いつまで?」
「彼が姿を現すか、死んだと分かるまで」
「分かった」

「はぁ。怖かった。寿命が確実に八十年は縮んだわ」
「幾つまで生きる気だ、おまえは」
胸に手を当てて深い息を吐き出すユリアに、半眼でリュカが突っ込む。
いつもどおりの遣り取りのように見えて、二人とも少し元気がないようだった。
さすがに、あんなものを見た後では元気も出ないのだろう。
と、清華が顔を上げて、レトを見やった。
「あの、師匠は………?」
「あぁ」
レトは少し深刻そうな面持ちになって扉を振り返り、
「まだ中にいるよ」
「まさか戦うつもりか?」
顔色を変えるリュカに、
「まさかぁ。幾ら師匠だって、あれ相手に戦いを挑むなんて………」
ユリアが首を振り振り否定する。
「だよな」
「きっと物珍しいから眺めてるのよ」
「こっちから危害を加えない限り、向こうが攻撃を仕掛けて来る事はなさそうだったし、大丈夫だとは思うけど………」
皆を安心させようと口を動かしながら、レトの表情は晴れなかった。
ざわざわと。
嫌な予感がしていたのである。
このままで済むはずがない。
そんな気がする。
もっと。もっと大変な事が、すぐ近くにまで迫っているような。
そんな、追い詰められたような切迫感を感じていた。
「大丈夫ですか?顔色悪いですけど」
清華が不安そうにレトの顔を覗き込む。
「あ。いや………何でもないよ」
慌てて笑みを取り繕い、安心させるように肩を竦める。
「ただ少し、びっくりしてね」
「そりゃそうよね。ドラゴンよ、ドラゴン!初めて見たわ」
扉一枚隔てた事で少し余裕を取り戻したのか、ユリアの白かった頬に朱が差す。
恐怖が薄れると共に伝説の生き物に会えたという興奮が込み上げてきたのだろう。
「ああ。まさか本当に居るとはな………俺も驚いた」
リュカの表情も大分明るくなっている。
「き、記事にしたら反響は凄いでしょうね………」
ドラゴンを前にして腰を抜かしていたウォーブルまでが、そんな冗談を口にする。
実際には、遺跡の中に入っているのは不法侵入でもあり、記事にするのは難しいだろう。
もっとも、この遺跡を立ち入り禁止にしていたアクスバーグ子爵は既にこの世にない訳なのだが。
「そうですね。凄い経験ですよね」
清華も、漸く笑顔を取り戻す。
凍えるような恐怖から解き放たれて、ホッと一息。
そんな緩んだ空気が彼らの間に漂う。
それに合わせて微笑を浮かべつつ、レトは気遣わしげな眼差しを扉へと向けていた。
(師匠………)
守護者の間を出る、最後に見た師の顔。
何か覚悟を決めたような、そんな表情だった。
(一体………)
何をするつもりなのか。
それがわからないだけに、不安だった。
ロキはおそらく、あのドラゴンとベルセルクを戦わせたかったのだろう。
そんな挑発に乗ってやる理由など無論ない。
だが、理由などなくとも………。
いや、ロキの挑発、それだけで、十分な理由となるのではないだろうか?

次週、「第二章 挑戦 1 問い」


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