小説

猿まじの自作小説

僕が書いた自作小説を送りするメルマガです、ジャンルはファンタジー系から戦争系です。

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第317回配信!!

2008/01/03

1、sarumajiからの言葉
 2、今回の一言
 3、連載
      ◎『カルディア戦記』
   ◎『死神の仔』
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☆sarumajiからの言葉

新年、明けましておめでとうございます!
今年も一年、精進して執筆して参りますので何卒一つ宜しくお願いいたします。

☆今回の一言

今週号は休ませて頂きます。

☆連載

『カルディア戦記』

2 出立
レオニス=カルディアス率いるクデナ王国軍がクデナに凱旋するのを、王都の民は歓声を以って答えた。
一部隊一部隊が通過する度に、廷臣が部隊名を読み上げ、観衆は歓呼の叫びと共に隊長名を連呼し、勝利を寿ぐ。
クデナ王国が誇る精鋭部隊『銀鱗聖騎士団』団長アフロディーテ=ヘジェットの名が読み上げられると歓声が爆発し、人々の興奮も否が応なく高まる。
その歓声に、剣を掲げて答える馬上のアフロディーテの姿はさながら戦女神の如き神々しさを放ってさえいるかのようだった。
かつての敵、帝国十二神将の独りにして《神槍》の異名を持つセアラ=ツヴァイクの名に対してはアフロディーテほどの歓声は上がらなかったものの、しかし、他の部隊長同様の歓呼が上がった。
それはクデナの民が、彼女を銀鱗の騎士として迎え入れた事を意味している。
ぎこちない表情を浮かべながらも、セアラは義手で《ヴェノマス》を掲げる。
続いて、帝国軍の侵攻の折にもクデナ王国を救う働きをした事で勇名を馳せた『デュラード=デュラン傭兵団』団長デュラード=デュランの名が読み上げられ、再び歓声が爆発した。
デュラードのこの国での人気はもはや不動の地位を築き、少年達の憧憬の眼差しを集め、吟遊詩人達の格好の歌材として夜な夜な酒場に賑わいを齎している。
彼は精悍な笑みを浮かべつつ、《ブルートガング》を頭上で振りまわして歓喜の叫びに答えた。
そして、最後に―――。
王国軍を指揮した、王女ミリィの将来の伴侶にして、次期国王レオニス=カルディアスの名が唱えられルと共に観衆の興奮は最高潮に達し、歓声は轟き、万雷の拍手が木霊する。
面映さと誇らしさ、二つの感情を端麗な容貌に刻み、レオニスは民衆に手を振って答える。
「うっ、ううっ………」
そんなレオニスの傍らで、感涙に咽ぶ男一人。
幼き頃よりレオニスの共に在りし副官エルディオール=サイネッガーであった。
彼は紫紺の瞳を潤ませ、敬愛する主君の晴れ姿を見やる。
「エル、泣き過ぎ」
振り返ったレオニスが困惑と共に、嬉しげな微笑を浮かべる。
「は、はっ、申し訳ありません、殿下。ですが、私は……嬉しいです!」
「ありがとう。けど、これからも大変だよ」
微笑し、そしてやや真剣な面持ちを作ってクデナの宮殿を見やる。
反乱は鎮圧した。
とはいえ、クデナ王国が帝国と同盟、レアレス大陸を二分する大国に挟まれた小国である事に違いはない。
彼の母国であるカルディア王国やルフェニア王国と連合を形作って居るとは言え、その力はまだまだ弱小。
しかも、カルディア王国は辺境三強国の残る一つ、アルザス皇国と戦火を交えているのだから。
前途多難と言えば、まさしくその通りなのだ。
きりり、と表情を引き締めて、レオニスはエルを振り返った。
「城に戻って少し休憩したら軍議を開く。皆を召集して。姉上も」
「はっ」
涙を拭って、エルは応じた。

「―――え?」
レオニスは一瞬唖然とし、ゆっくりと目を瞬いた。
軍議の場にはレオニスと彼女の伴侶であるミリィ=クデナ王女、そして『銀鱗聖騎士団』よりアフロディーテ=ヘジェット団長、ルーク=スピーザ副団長、『デュラード=デュラン傭兵団』よりデュラード=デュラン団長、イリーナ=スヴォロフ、カイル=ミッツォ、そして一同にレオニスから事情説明が為された後に、レオナ=カルディアス、ユバ=エメラダの二人が出席した。
開口一番に口を開いたのはレオナだった。
クデナ王国軍の勝利に祝辞を述べた後、この軍議が終わり次第出立する事、凱旋の宴には出席できない非礼を詫びたのだった。
それが、上記のレオニスの反応を引き出したのである。
「義姉上様、何か変事でも起こったのですか?」
惚けているレオニスに対し、ミリィはその鋭敏な頭脳を働かせ、表情を引き締めつつ尋ねていた。
「変事?……そうなの、姉上?」
ミリィの横顔をちらりと見やった後、レオニスも不安そうにレオナを見やり、尋ねる。
「国から報せがあったの。カルシファが同盟海軍の襲撃を受けたって」
「えっ………」
「そんな………」
レオニスとミリィが絶句し、他の者もざわめく。
只一人、デュラードだけは面白そうに目を細めたのだったが。
「そ、それで被害は………?」
「幸い、叔父上やリフのおかげで最小限に抑えられたみたい。だけど、こっちの海軍は壊滅し、敵は未だに海上封鎖を続けている状態らしいのよ。だから、私は戻るわ」
そこまで言って微笑を浮かべ、
「こっちの戦いは一先ず片付いた訳だし、出番もなかったしね」
「今度こそ暴れられる訳だ」
デュラードが口を挟む。
「そうよ」
「そうですか………」
レオニスはまだ困惑と驚きの余韻を残しつつも、頷く。
「ま。どっちにせよ、私が宴に出る訳にはいかないでしょう?ここで皆に挨拶できるだけでも嬉しいよ」
「本当に、今回は申し訳ありませんでした」
ミリィが頭を垂れ、レオナはひらひらと手を振る。
「いいって。私が勝手に押しかけてきただけなんだし。気にしない気にしない」
「そう言って頂けると気が晴れます」
「だが、カルシファを襲うとは同盟もなかなか思い切った事をしたな」
デュラードの興味はそちらに移っているようだ。
鋭い眼光をレオナに向け、
「それはやはり、アルザス皇国との戦に対する牽制、なのか?」
王族に向ける言動としては無礼極まりないが、彼の場合はいつもの事であり、もはや誰も口を挟まない。
もっとも、内心ではどう思っているかは別だったが。
少なくとも、レオナがそれを不快に思っていないのは確実だろう。
「でしょうね。今回の反乱に、同盟の関与は?」
「証拠はないな」
ひょい、と肩を竦めるデュラード。
アフロディーテも渋い表情になり、
「あったとしても、おそらくは城と共に燃え落ちた事でしょう」
「燃えた?」
眉間に皺を寄せ、首を傾げるレオナに、レオニスが説明する。
「我々がイシュルードに辿り着いたときには既に城は炎に包まれてたんだ」
「反乱の首魁は?自害したの?」
「かもしれない。確かにフリオベール伯爵は行方不明。だけど多分………」
レオニスは言葉を濁したが、それで十分分かる。
「そう」
「証拠の隠滅、そして口封じって所だろうな」
椅子の背凭れに身を預けつつ、デュラードは顎を撫で、
「焚き付けて利用しといて、要らなくなったらぽい捨て。酷い話だな」
「確かに。反乱を起こしたフリオベール伯爵を許す事はできないけれど、同情の余地はあると思う」
レオニスがやや目を細めつつ呟く。
レオナはちらり、とそんな弟を見やり、はぁ、と嘆息した。
「同情するのは良いけれど、同盟がクデナ王国にこれ以上ちょっかいを出して来ないとは限らないんだから気を引き締めなさいよ」
レオニスとて馬鹿ではないのだからそれぐらい分かっているだろう、とは思うのだが遂口を出してしまう。
「うん、分かってるよ、姉上」
レオニスが素直に頷くものだから、思わずレオナは舌打ちを漏らしそうになった。
もう、彼はいつも控え目で大人しかった弟ではなく、一国を差配する立場にいると言うのに。
そんな苛立ちを垣間見せたレオナを、ユバは横目に、口元に微笑を浮かべつつ眺めていた。
「確かに、警戒は必要です。フリオベール城が燃え落ちた事によってイシュルード地方の防御は無きに等しい状態です。このどさくさに紛れて同盟が進撃してくれば、防ぐ事はできません。早急に防衛体制を整えると共に城の修築を急がなければなりません」
険しい表情でアフロディーテが進言する。
「うん」
レオニスは頷き、視線をデュラードに向ける。
「デュラン殿。もし貴殿が良ければ、我々に力を貸して欲しい」
「そうだな………」
デュラードは考えるように首を傾げ、
「契約はクデナ王国の戦力再建までって事だったが、今回の戦を見る限り、既に『銀鱗聖騎士団』の力は十分復旧している」
「確かに。契約は終了している」
やや苦渋を瞳に宿しつつ、レオニスは頷いた。
「殿下!」
驚いたようにアフロディーテが声を上げるが、レオニスは片手を挙げて制止した。
イシュルードへ攻め込む折の先陣を『銀鱗聖騎士団』に譲る代わりにデュラードが持ち出した条件。
それが、この反乱を鎮圧したならばその時点で契約を打ち切りにするというものだったのだ。
レオニスが約束どおりに頷くのを見て、デュラードは笑みを浮かべ、視線をレオナに向けた。
「姫さん、俺との約束覚えてるか?」
「約束?」
「あんた達を王宮に手引きした報酬に、俺達を連合で雇うって話だ」
「あぁ……そんな事も言ったわね」
「どうだ?確か、クデナ王国との契約が終了したら考えると言ってたよな?」
「ええ」
レオナは頷きつつ、レオニスやミリィに視線を向け、数秒考え、それからデュラードを見やり、彼の浮かべているにやにや顔に眉を顰める。
と、さらに数秒が経った頃に、彼女の瞳にパッと理解の灯が点った。
「そういう事」
「で、どうなんだ?」
「分かったわ。すぐには決められないけど、シルクは説得する」
「雇ってくれるんだな?」
「ええ。雇い主は連合。それで良いわね?」
「勿論だ」
「契約の細部は後に定めるとして、レオニス、あんたも連合の一人として雇い主の一人だけど、『デュラード=デュラン傭兵団』にやってもらいたい仕事はある?」
「あっ………」
それまで不安そうに姉とデュラードの遣り取りを眺めていたレオニスも漸く納得したようだった。
傍らを見やれば、聡明なミリィはとうに理解していたらしく、にこにこしている。
デュラードの狙いは明白だった。
やる事が同じでも、彼等は傭兵団。報酬が多い方が良いに決まっている。
それに、レオナの側からすれば、クデナ王国にのみ『デュラード=デュラン傭兵団』を独占されるよりも連合という形で雇うことによって報酬を共同出資し、いざという時にカルディア王国のために傭兵団を働かせる事ができる上に、弱小国であり、『デュラード=デュラン傭兵団』の戦力を必要とするクデナ王国を連合に引き寄せて置く事ができる。
クデナ王国の側からしても、決して安くはない報酬が軽減されるのだからありがたい。
「しかし、姉上。カルディア王国もアルザス皇国と戦闘中なのでは?」
だが、レオニスは慎重だった。
連合の共有兵力として『デュラード=デュラン傭兵団』を雇うとすれば、いざという時にカルディア王国に引き抜かれる場合もある。そのために、引き抜かないとの言質を貰っておく必要がある。
そんな弟の様子に、レオナは満足げな微笑を浮かべつつ、
「舐めないで。『デュラード=デュラン傭兵団』の力を借りなくても、アルザス皇国なんかには負けないし、何かあったとしても、連合の各君主の同意の下でなければ傭兵団は動かさないよ」
レオナの言葉はこの場しのぎの物ではなく、後に連合と『デュラード=デュラン傭兵団』の契約にも盛り込まれる事になる。
「分かった。だったら、デュラン殿。『デュラード=デュラン傭兵団』でイシュルード地方を守って貰えないかな?」
「承知した」
にやり、と笑みを浮かべた後、ごほんと咳払いして真顔を取り繕い、デュラードは重々しく頷いた。
無論、正式な契約が結ばれるのは後の事である。
この場での遣り取りはただの口約束に過ぎず、そして連合の正式契約と言う形にするには連合の一角を占めるルフェニア王国のシルク=ルシフェニアン王の同意も得る必要がある。
が、後に歴史家が振り返る時、西部辺境連合の遊撃兵力としてその名を大陸に轟かせる『デュラード=デュラン傭兵団』が、連合と契約を結んだのはまさに、このクデナでの会談時だとされている。
「ありがとう。『銀鱗聖騎士団』は通常業務を」
「御意」
「で、良いよね、ミリィ」
「ええ、勿論ですわ、ダーリン」
少し不安そうに尋ねるレオニスに、ミリィが満面の笑顔で頷く。
多少は成長したようにも見えるが、夫婦の主導権は完全にミリィが握っているらしい。
「これで議題は終わり?」
「姉上、もう?」
「ええ。少しでも早く戻りたいから」
「そっか。今回は本当にありがとう」
「私は何もしてないわよ」
「文字通りな」
「煩い。デュラード、ちゃんと働きなさいよ」
「おいおい、今回だって働いたぞ?」
「もっと」
「やれやれ。雇い主になった途端人使いが荒いな」
苦笑しつつ、肩を竦めるデュラード。
レオナはにやりと笑みを浮かべつつ、
「その内、連合に雇われた事を後悔するかもよ?」
「かもな。が、少なくとも退屈はせずに済みそうだぜ」
「期待してて頂戴」
「了解」
「それじゃ、皆、元気で」
別れを告げ、席を立ち、颯爽と踵を返す。
ユバが一礼して続き、二人は一陣の風の如く部屋を出て行った。
「ほんと、面白いよな」
笑みを含みつつのデュラードの言葉に、場の全員が頷くのだった。

次週、「3 皇子と共に」


『死神の仔』

第五章 蠢く守護者
1 遺跡の奥へ
「うがぁぁっ………おっ!」
悲鳴をあげながら空中を跳んだ兵士が、壁に叩きつけられて息を詰らせる。
凄まじい衝撃に壁は人型に凹み、放射状にひびが走った。、
兵士は壁にめり込んだまま、絶命してしまった。
「おのれっ………!!」
ライムベールは目を剥いて、目の前の番人に向かって剣を振り下ろした。
肩から反対側の脇腹まで断ち切る。
蒼い返り血を飛び散らせながら、最後の番人が倒れた。
「はぁはぁはぁ………これで全部か」
「少し梃子摺りましたな」
息を荒らげているライムベールに対し、ロキもルツカも呼吸一つ乱してはいなかった。
それどころか、ロキに至ってはその純白の外套に一滴の返り血すら浴びていなかった。
美しい純白さを保ったままである。
だが、番人を倒した数は彼が一番多いだろう。
彼等も無数と言っても良い程の番人に襲撃を受け、苦戦を強いられていたのだ。
だが、その最後の一体も倒し、やっと一息つく事ができた。
「被害は?報告しろ!」
「生き残っているのは三名だけです!」
ライムベールの命に、兵士が答える。
「半分か」
半日で、連れてきた正規兵の内、半分が殺されてしまった。
訓練を積んだ正規兵でさえこの始末なのだ。
戦闘訓練を積んでいない調査隊が全滅したのも頷ける。
全滅したがために内部の報告は皆無と言っても良い程だが、その中にもこのような化け物に関する報告はなかった。
「この化け物達は一体何なんだ?」
「遺跡の番人でしょう」
ライムベールの問いに、ロキは事も無げに答える。
「番人?」
彼は眉をぴくりと動かして、
「この化け物が?」
「ええ。彼等は、ここを守っていたのですよ」
「彼等?……まるで、人間に対するような物言いだな」
「人間ですよ、彼等は」
「何………?」
今の今まで戦い続けていた醜悪な化け物を人間だと言い切るロキに、ライムベールは唇をぴくりと震わせる。
「どう言う事だ?」
「これが古代文明の力だと言う事です」
詳しい説明をする気はないのか、ロキはそう言ってさっさと歩き出す。
仕方なくライムベール達も続きながら、
「古代文明だと?千年もの昔から、連中はここにいたと言うのか?」
「勿論、当時の個体が今も生きていると言う事はないでしょう」
「………繁殖していると言う事か。雌雄の差があったようだが」
「さすがです。あの乱戦の中、しっかりと観察していらっしゃる」
「だが、この遺跡は地中に埋もれていたのだぞ?一体何を食べて………」
「さあ。蝙蝠かもしれないし、鼠かも。或いは虫と言う事もあるでしょうか。それでも足りないのであればお互いを貪ることもあったかもしれませんね」
「むぅ………」
想像するだに、理解の及ばぬ世界だ。
古代文明の担い手達は番人を遺跡に平然と閉じ込めるような連中だったのか。
「だが、この見た目は何なんだ?人間だとは思えないが………」
「古代文明の力ですよ」
「どう言う事だ?」
「改」
滅多に喋る事のないルツカが喋った。
もっとも、喋ったとしても、漢字一文字しか口にしないのでは、その意図を測り知る事はできないのだが。
「なんだって?」
「改造ですよ」
ルツカ本人ではなく、ロキに尋ねる。
「改造?」
その答えに、眉間に皺を寄せ、聞き返す。
「人体を改造して作り出した強化戦士。それが彼等なんですよ」
「人間を改造したと言うのか!?」
「そうです」
「そのような事、神はお許しになるのか!」
「ふ………」
神を持ち出したライムベールに、ロキは嘲笑とも憐憫とも取れぬ笑みを零し、
「だからこそ、滅びたのかもしれませんね」
「古代文明とは恐ろしいものだな」
「だからこそ、教皇庁はその研究を禁じているのでしょう」
「ロキ、おまえの目的はなんだ?」
「どうしたのですか、急に?」
「急にじゃない。ずっと気にはなっていた。だが、この遺跡に入ってみて、さらに疑問に思うようになった。おまえの目的はなんだ?この遺跡には何がある?」
「後でわかる事です」
「ならば今教えても良いだろう?」
「それを知って、いかがなさるおつもりで?」
「何故隠す?」
「隠すつもりはありませんよ」
「ならば教えて貰おうか」
「そうですね………」
ロキは少し考えるように首を傾げ、
「その話しは後にしませんか?」
「何故だ?」
「着いたので」
「何………?」
気付けば、ロキもルツカも足を止めていた。
そして、彼等の前に巨大な扉が聳えていた。
遺跡の入口を塞いでいたものよりも、さらに大きい。
「これは一体………」
「扉です」
「そんな事は分かっている!この先には一体何があるんだ?」
「私が探し求めているものが」
「だが……どうやって開けるんだ?この扉を開けるのにも精霊具が要るのではないか?」
「さすがはライムベール殿。良い事にお気付きなされた」
ロキは微笑を浮かべつつ、懐から何かを取り出した。
「宝珠………?」
ロキが取り出した物を見て、ライムベールはそれと扉を見比べながら、
「それも精霊具なのか?」
「ええ。《神龍の宝珠−シェンロン・パオズウ》と言います」
「《神龍の宝珠−シェンロン・パオズウ》………?名前からすると華中大帝国のものか?」
「かつては」
短く答えて、ロキはそれを扉の窪みに嵌めた。
扉にはその窪み以外にも幾つかの窪みがあった。
この扉を開ける鍵はこの宝珠だけではなく、他にも何種類かある事が見て取れる。
窪みに嵌った《神龍の宝珠−シェンロン・パオズウ》が淡く輝きを発する。
蒼白い輝きが、扉の表面を走り、複雑な紋様を描き出す。
そして、扉が重々しく、ゆっくりと開いていく。
「この奥にあるのか。おまえが狙っているものが」
「はい」
ロキは頷き、扉の隙間に身を滑り込ませる。
続いてルツカが。
「隊長………」
動かないライムベールに、兵士がおずおずと口を開く。
扉の先には深遠なる闇が広がっていた。
それも、ただの闇ではない。
ねっとりと濃度の濃い、生理的な恐怖感を増幅させるような闇だった。
ごくり、と固唾を飲み込む。
と、その闇の中から白いものがぬるりと現れた。
「っ………ろ、ロキか」
一瞬驚いたライムベールだったが、その白い者はロキだった。
「いかがなされた?」
「いや………」
「この闇が恐ろしいのですか?」
思わず言葉を濁したライムベールに対し、ロキは微笑を浮かべてずばりと核心を突いてくる。
「恥じる事はありませんよ。この空間には、確かに恐るべきモノがいます」
ロキは闇を引きずりながら扉の外に出る。そして、それにルツカも続いて。
すると扉がゆっくりと閉じられる。
が、その表面に浮かんだ紋様はそのままだった。
それはロキが《神龍の宝珠−シェンロン・パオズウ》を外しても変わらなかった。
ロキが内部で何かをしてきたのかも知れない。
「手に入れたのか?」
「いえ」
尋ねるライムベールに、ロキは簡単に首を振る。
「どう言う事だ?それを手に入れるためにここまで来たのではないのか?」
「そうです」
「ならば何故」
「今はまだ、手に入れる事はできません。いえ、それは少し違いますね。手に入れようとすれば、手に入れる事はできるでしょう。でも、私は確かめたい事があるんです」
「確かめたい事?」
「ええ。彼が、守護者を倒せるかどうか」
「彼………?守護者………?」
思わせぶりなロキの話し方は次々に新たな疑問が出てくる。
彼が手に入れようとしているものがなんなのかもまるでわからない。
そして、彼だの守護者だの、一体誰の事を言っているのかまるでわからない。
「じきに分かる事です。しばらく、ここを離れましょう」
「離れる?ここをか」
「ええ。とりあえず、今の所の目的は果たしましたから」
「目的だと?」
「はい。鍵は開かれました」
未だ紋様が浮かんだままの扉を振り返り、ロキは踵を返して歩き出す。
ライムベールは扉の先、あの蠢く闇の向こうに何があるのかも分からぬままロキの言うがままに動く事への抵抗感を感じつつ、それでも今は従うしかないと考えざるを得なかった。
だが、ロキが提示したヒントを元に類推する事はできる。
(おそらくは、彼と言う奴に守護者と戦わせるつもり。試したいのは彼の実力か)
その思考経路さえも、彼の予想の範疇を外れるものではないだろう。
そのように誘導された思考だろうが、それでも誤ったものではないだろう。
「その彼、と言うのはもしやベルセルクの事か………?」
アクスバーグ子爵の居城で少し会話しただけの、レヴナント村の傭兵ベルセルク。
彼と《白い月》のロキとの間にどのような関係があるのか。
ここまで拘る理由は何なのか。
(聞いても、答えはしないんだろうがな………)
「………ほう?」
ロキは足を止め、興味深そうに振り返った。
「これは驚きましたな」
「何?」
「いえ。素晴らしい推理力です。ですが、どうしてそのように考えたのですか?」
「どうして………?」
尋ねられれば、確かにその通りだ。
どうして、自分はそう考えたのだろうか。
「おまえ達が探している物は………同じだろう?」
「そこまでおわかりなのですか。これは驚いたな」
「馬鹿にしているのか」
「いえいえ、褒めているんです」
「それが馬鹿にしていると言うのだ」
「ふふ、面白い人だ」
ロキは微笑を浮かべ、再び歩き出す。
「彼と私は同郷の出身なのです」
「と言う事は、おまえもレヴナント村の傭兵だと言う事か」
「なるほど。その道では私よりも彼の方が著名だったのかもしれません」
「それがどうして対立している?」
「進む道の違いですかね」
「進む道………?」
「彼の纏った生温さが、私には我慢できなかった。いえ、羨ましかったのでしょう。私はいつも、孤独を感じていましたから」
「孤独………?」
「ええ。師の寵愛を一身に浴びていたのも彼。私が愛していた女性の愛を一身に受けていたのも彼。彼が陽ならば、私は陰でした」
「それで道を違えたと?」
「勿論、それだけじゃありませんが………大きな要因です」
「嫉妬か」
「人間の情とは恐ろしい。私は自分を、もう少し冷静な人間だと考えていたんですがね」
ロキは苦笑し、そして足を止めた。
「それもまた昔の話し。今の彼とはなかなか面白い関係を結べていると思っていますよ」
その笑顔は彼の本音を覆い隠す、仮面のように何も映していなかった。

次週、「2 場違いなる二人」


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