小説

猿まじの自作小説

僕が書いた自作小説を送りするメルマガです、ジャンルはファンタジー系から戦争系です。

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第265回配信!!

2006/12/27

1、sarumajiからの言葉
 2、今回の一言
 3、連載
      ◎『カルディア戦記』
   ◎『死神の仔』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
☆sarumajiからの言葉
クリスマスも終わり、2006年も残す所一週間ないですね。
ノロウイルスも流行っていますので、健康に気を配りつつ、良い気分で新年を
迎えたいものです。

☆今回の一言

「久安を恃む事なかれ、初難を憚ることなかれ」『菜根譚』

「今の幸せがいつまでも続くと思うな。最初の困難にくじけて逃げ腰になるな」
と言う意味である。
幸せな状態が長く続くとついその幸せがいつまでも続くものだと思ってしまう。
その結果、不幸に見舞われると途端に取り乱してしまう。
そうならないためには、普段から物心両面の備えを怠ってはならない。

特に、今の日本人にはよく噛み締めてもらいたい言葉ですね。
戦後60年間、日本は平和だったが、それがいつまでも続くわけではありません。


☆連載

『カルディア戦記』

2 王と魔女
大陸暦七八九年三月二十日
レオナ=カルディアスがクデナを発った頃。シュヴァンにて。
「今日は風が強いな」
美しい王城に聳える尖塔の一つ。その頂上付近にある《風の間》。
この国の王となったばかりのシルク=ルシフェニアンはこの部屋で、塔の周りを吹き過ぎて行く風の音を聞いていた。この部屋は壁が全面硝子張りとなっており、夏ともなればすべて取り外し、外の回廊に出られるような仕掛けになっている。しかし、まだこの季節では肌寒い。
ここは滅多に人も来ず、話を聞かれる恐れもないので、歴代の王が密談や間者からの報告を聞くために用いてきた。
「報告を聞こうか」
今日シルクがこの部屋にやってきているのも、そう言う目的からだった。
「はい」
片膝を付いたまま、そう答えたのは小柄な老人だった。外見年齢で言えば七十ほど。
皺が多く、肌も乾いて、ほとんど木乃伊のようになっている老人だったが、果たして彼の実年齢はどれほどなのか。変装の達人である彼の実年齢はシルクも知らなかった。見た目どおりの七十代なのか、もっと若いのか。どころか性別すら判然としなかった。
ルフェニア王国の諜報機関『聖馬の瞳』の頭領を勤めている男だ。ウェルブルグ帝国の『神の子』に比べれば小さな組織だったが、歴代の王にとってはやはり重要な情報源となる。
「タルムード、クデナ王国の方はどうだ?」
ちらりと老人に視線を向けてから、再び外の風を見ようとするかのように目を細める。
「お味方は大勝利。クデナを解放しました」
「敵主力はシュデッヒンか?」
「御意。『銀鱗聖騎士団』、『デュラード=デュラン傭兵団』と対峙中の由」
「順調だな。あいつなら《神槍》をも討ち取るかも知れん」
「………」
「お前はそうは思わないか、タルムード?」
口元に笑みを浮かべ、褐色の瞳で老人を見やる。
「我々が扱うのは真実のみです」
「憶測で物は言わないと言う事か。なら、真実だけを報告してもらおう。第四軍の動きは?」
「今のところ、格別の動きはありません。兵数の補充はほぼ終了したようですが、ルクシア=フロレンスの後任となる軍団長の人選が難航している様子です。他方面の軍団長を横滑りさせるのか、それとも師団長の中の誰かを昇進させるか」
「いずれ、こちらの動き次第だな。クデナで苦戦すれば、第四軍を動かさざるを得ない、と五賢会議が判断する可能性もある」
タルムードを見据えて、
「クデナでの戦が終わるまで動きを見せないでくれれば良いがな。おまえはどう思う?」
「…………」
「保証はできないと言うわけだな」
シルクは苦笑してから、
「良いだろう。この話はここまでだ。次に、《漆黒の魔女》の動き、探れたか?」
当然予期していた質問ではあったろうが、タルムードはすぐには答えなかった。
それも織り込み済みと思え、シルクは外に視線を向けたまま、口を噤む。
「されば…既に十名の部下が消されました。現在も何名か生死を確認できない者が」
「『神の子』に、か」
「御意」
苦しそうにタルムードが頷き、視線を逸らす。シルクはその視線を追いかけるようにしながら、
「ただ殺されただけではないな?」
「…………」
「真実を報告しろと言ったが?」
静かに、温和な微笑さえ浮かべてのシルクの問い掛けにタルムードは逸らしていた視線を自分の膝に落として、
「こちらの動きが筒抜けになっている様子」
「『聖馬の瞳』の中にも『神の子』の手は及んでいると言うことか」
呟きながら、それでもさして意外そうではなかった。
『神の子』が世界各国に忍び込ませている者の数は数万とも数十万とも言われている。
現在、ルフェニア王国は帝国と境を接し、しかも、決して友好的な国ではないのだから『神の子』が諜報員を送り込んでいると言うのは十分に考えられる。こちらの諜報機関である『聖馬の瞳』の中にまで浸透していると言うのは少し意外なような気もするが、『神の子』ほどの組織ともなれば、そのぐらいは朝飯前なのだろう。
「動きが読まれているだけではなく、《漆黒の魔女》の周りは特に精鋭が固めている様子です」
「カールス=ソレントまで居るんだから、そうなんだろうな………」
『神の子』を取り仕切っている、帝国十二神将の一人。彼の直属の配下は『神の子』の中でも最精鋭を揃えて居るであろう事は簡単に予想が付く。
皇女アナスタシアとカールス=ソレントは未だにシュヴァン滞在を続けていた。
名目上はシュヴァン湖などに代表されるルフェニアの美しい国土に魅せられて、と言うことだったが、これを言葉通りに受け取るほどシルクはお人好しではなかった。
「それで?何も探り得なかったのか?」
「いえ、そのような事は………」
「では、探り得た事もあると言うのだな?」
「勿論です」
このようにムキになる辺り、果たしてその外見通りの年齢なのかと訝しく思ってしまう。
実年齢は想いの外若いのではないか、と。
「何を探り得た?」
「《漆黒の魔女》の元へ、盛んにご機嫌伺いに伺候している貴族の名簿です」
そう言って、タルムードが懐から書類を取り出す。シルクはそれを受け取り、ざっと視線を走らせて、笑みを浮かべる。
「反宰相派ばかりだな」
「御意」
「頭目はアイスナーヘン伯爵、か。領地も帝国と接しているし、帝国に接近するのは当然と言うところか。ザッハーク伯爵とは政敵でもある、と」
最初こそ一致団結してザッハーク伯爵を宰相に推した貴族たちだったが、現在では主に三派に分かれている。その一つは双子の女神都市同盟と結ぼうとする宰相ザッハーク伯爵の一派。
もう一つは帝国と結び、ザッハーク伯爵に代わって権力を握ろうとする一派。これの頭目が帝国と領地を接するアイスナーヘン伯爵である。そして、もう一派がシルクを支持し、ルフェニア王国を盟主として西部辺境を一つに束ね、帝国、同盟双方に伍していこうとする一派。残念ながらこれがもっとも少数派となっている。
勢力的にはザッハーク派が五割、アイスナーヘン派が三割、シルク派が一割、そのどれにも属しない日和見的な貴族が一割ほどと言う感じだった。
「皇女はアイスナーヘン派との結びつきを強化するために止まっている………と思うか?」
「わかりません」
「そうだったな。憶測で物は言わないか」
シルクはそう言って書類を懐に収めて、首を傾げる。
「もっとも、俺はそうは思わないがな」
「と、仰いますと?」
「なんだ?興味があるのか?」
「いえ、そのような事は………」
前に乗り出しかけた身を戻して、タルムードが首を振る。
「そうか………まぁ、言わないで置こう」
そう言って、シルクは席を立つ。
「引き続き監視を。だが、危険は犯しすぎるな」
「御意」
タルムードが頭を下げ、そして姿を消す。
(さて………)
シルクは首を傾げて、外を見やる。
(危険かもしれないが、こっちから動いて見るか………)
外の風はますます強く、雨さえ混じりだしていた。

窓ガラスを雨が叩く音に耳を傾ける。
そんな何気ない仕草でも、神すらもが見蕩れるであろうほどの美しさだった。
もっとも、今、この部屋の中に彼女の姿を目にできる者は一人も居なかった。
居るのは目も鼻も削ぎ落とされた侍女達だけ。と、扉が外からノックされた。
「只今戻りました、殿下」
「入りなさい」
「失礼します」
カールス=ソレントが中に入ってきて一礼する。信じられないほどに美しい風貌の男だったが、その目は閉じられ、盲目である事を示していた。
「僭越ながら、お人払いを願わしゅう」
「皆、カールスが話があるそうです。下がりなさい」
アナスタシアの命に、侍女たちが恭しく礼をしてから部屋を出て行く。
「誰も居なくなりましたよ」
窓際に置いた椅子に優雅に腰掛けつつ、アナスタシアはカールスを見やる。
カールスは静かな風情で佇みながら、
「潜入して来ていた者を始末してきました」
「これで、何人目でしたか?」
「十四人目、です」
「何者ですか?」
「おそらくはルフェニア王国の諜報機関『聖馬の瞳』の者でしょう」
「おそらく、などと白々しい」
アナスタシアは微笑を浮かべつつカールスを見やって、
「それも、『神の子』が掴んだ情報だと言うことくらいはわらわにもわかります」
「これは恐れ入りました」
「心にもない事を」
アナスタシアは興味を失ったようにカールスから視線を逸らす。
「皇女殿下に御目に掛かりたいと御機嫌伺いの者が参っておりますが」
「誰ですか」
「アイスナーヘン伯爵と言う者です」
「会えと言うのですか?」
「そのような恐れ多い事」
「…わかりました。会いましょう。ここに通しなさい」
「畏まりました」
カールスは一礼し、伯爵を連れてくるために一端退室した。
数分後にカールスがアイスナーヘン伯爵を連れてきた時にはアナスタシアの前には御簾が垂れ下げられ、その姿を直接目にすることはできないようになっていた。
「アイスナーヘン伯爵、罷り越しました」
カールスがそう取り次ぐと侍女がそれを皇女に取り次ぐ。無論、直接聞こえているのだが、皇女と言う地位を保つためにしているのだ。アナスタシアの言葉も、侍女、カールスの二人を経てアイスナーヘン伯爵に伝えられる。
「ようこそ、伯爵。わらわがアナスタシアです」
「はっ。玉顔を拝し奉り、恐悦至極に存じ上げます」
「伯爵。何か申し上げたい事でもあるのではないですか?」
カールスが促す。伯爵はハッと頭を下げる。その顔中にびっしりと汗が浮かんでいるのは御簾だけでは抑えられないアナスタシアの圧倒的な気配に晒されているためだろう。
(感じているのは畏れか、それとも恐れか………それとも、その双方でしょうか)
カールスは盲目故に、より人間の心情には敏感だった。
「このまま王都に留まられるのは殿下にとっても大変危険ではないか、と愚考いたす次第で」
「それはどうしてですか?」
侍女、カールスを取り次いで、アナスタシアの言葉が伝えられる。
アイスナーヘンはますます額に汗の粒を浮かべつつ、
「ハッ。宰相ザッハークは同盟と結ぶ事を企てております。もし、殿下の身を虜にする事ができますれば、これに勝る手土産はないかと。恐縮ながら臣はこの誇り高きルフェニア王国を同盟の犬に成り下がらせたくはないのでございます。しかしながら、現国王は我らの至誠ある諫言よりもザッハーク等の甘言に踊らされている様子。このままでは殿下の御身にどのような不慮の事が起こるやも知れず………」
「良くわかりました。わらわの事を心配してくれての忠告、身に沁みました」
「も、勿体無いお言葉にございます」
「それで、わらわにどうしろと言うのですか?わらわはこの風光明媚な国を気に入りました。もう少し、この国の景色を色々と見たいのだけれど」
「はっ…ならば、我が領地へお移り願うと言うのはいかがでございましょうや?もしお望みとなれば御殿を建て、殿下に献上いたしたいと存じますが。アイスナーヘンはこのシュヴァンにも劣らぬ風光明媚な土地でございますれば、何卒、御一考の程を」
「わかりました。考えて見ましょう」
「ありがたきお言葉。それではこれにて失礼いたします」
アイスナーヘンは背中にべっとりと汗を掻きながら、退室して行く。カールスはそれを迎賓館の外まで見送って、すぐに戻ってきた。その時には既に御簾も片付けられ、侍女たちも下げられていた。
「皇女殿下、いかがなされますか?」
「何をですか?」
「アイスナーヘン伯爵の申し条に付いてです」
「このシュヴァンを当分離れるつもりはありません」
「彼の言い分が正しければ、このシュヴァンは同盟派の伏魔殿かもしれませんが」
「本当にそうなのかどうかは貴方が一番良く知っているでしょう?」
「これは恐れ入りました」
カールスは薄笑みを浮かべて頭を下げ、
「それと、今、王城より使者が参りました」
「なんと?」
「折り良い日に、舟遊びでもいかがか、と」
「シルク王のお誘いと受け取って良いのかしら」
「使者はそのように申していましたが」
「そうですか」
アナスタシアはわずかに目を細め、楽しそうに口元に笑みを浮かべる。
「何を考えているのでしょうか?」
「さあ、それを申し上げて、殿下の興を削ぐのもどうかと思いますが」
「では、わかっているが言わない、と?」
「はい」
「貴方も面白い。それゆえに気に入っているのです」
「恐れ入ります」
「日にちは適当に。いつでもわらわは構いません」
「畏まりました」
カールスは胸に手を当てて、退室して行く。入れ替わりに侍女たちが入ってくる。
アナスタシアは口を閉じ、窓を叩き続ける雨を見つめだした。

次週、「3 王と皇女」


第二章 幻の巨大魚
1 湖面に映りしは巨大なる影
ミルウェイ氏が漁師から借りた船をレトとリュカが漕いで、湖の沖を目指す。湖面を渡る風は爽やかで、夏の暑さを暫時忘れさせてくれる。空を飛んでいる水鳥達の優雅な姿も、心和むものがある。
ユリアは水面に片手を突っ込んで波を作りつつ、
「気持ち良い!もう、最高っ!ねぇ、ミルウェイさん!」
「ええ、本当に」
満面の笑顔のユリアに、ミルウェイ氏も微笑みを返す。
「あのなぁ、ユリア。その船を漕ぐ俺達の身にもなってみやがれよ。結構しんどいぞ」
リュカが口を尖らせて言うが、ユリアは腕を傲岸に組みつつ、
「何よ、このぐらいでもうへばったって言うの?だっらしないわねぇ。レトは全然平気そうに漕いでるじゃない」
「レトはこう見えて、体力とか底無しなんだよ」
「あはは。底無しという事はないけどね」
レトは笑ってそう言ってから、
「ミルウェイさん。もう大分沖に出ましたけど、その魚はどうやって獲るんですか?」
「これです」
そう言ってミルウェイさんが船底から取り出したのは銛だった。
「銛で刺して獲るの!?うわぁ、楽しそう!」
目を輝かせるユリア。レトは軽く眉を寄せつつ、
「じゃあ、潜るんですか?」
「素潜りか。川じゃやったことあるけど、湖ではないな」
リュカが湖を見渡しながら言う。しかし、ミルウェイさんは首を振って、
「いえ、潜るのは危険なので、湖面から狙います」
「潜るのが危険………というと?」
「もしかして、この水、人体に有害だったりするのか?」
「そんな!私さっきからずっと触ってるわよ!」
顔色を変えるリュカとユリアに、ミルウェイさんは笑みを浮かべつつ、
「いえいえ、この湖の水は決して有害じゃあないですよ」
「そもそも、有害だったら魚達も生きていられないじゃないか」
「それもそうよね。うん。そんな事は分かってたわよ。馬鹿リュカじゃないんだから」
「なっ…おまえだって、さっきおろおろしてたじゃねぇかよ」
「何かの見間違いじゃないの?」
「うっわ。こいつ、良い性格してるよ、まったく」
「それで、ミルウェイさん。危険と言うのはどう言うことなんですか?」
レトが話を戻す。ミルウェイさんは頷いて、
「これから獲ろうと思っている魚は実は結構凶暴な奴でして」
「凶暴って………噛み付いたりするのか?」
「人食い魚かぁ。頑張りなさいよ、リュカ」
「頑張るって何をだよ」
「勿論、魚を獲るには餌が必要でしょ。人間にも噛み付く魚だってんなら好都合じゃない。あんたが餌になれば良いんだから」
「冗談じゃねぇ。んな事したら痛いだろうが!」
「大丈夫よ。心配する必要はなにもないわ」
「ん?なんでだよ」
「私は痛くないもの」
「だったら、おまえが飛び込め」
「そうしたら危ないじゃない。聞いてなかったの?ここは潜るのが危険―――」
「な湖に俺を餌として放り込もうとしてるのはおまえだろうが!」
「ちょっと二人とも!船の上で暴れちゃ駄目だって!転覆したら皆湖に落ちるんだからね!」
取っ組み合いの喧嘩を始めそうな様子の二人を、レトが押し留める。
「でも、確かに呼寄せる為の餌は必要なんですよ」
ミルウェイさんは何やら袋のようなものに何かを詰めながら言う。びくっと身を震わせたリュカが振り向いて、
「って、ミルウェイさん。まさか本気で俺を?」
「へ?………ああ、いやいや」
顔を上げたミルウェイさんは慌てて首を振り、
「そう言う訳じゃありませんよ。餌はちゃんと用意してあります」
そう言って、袋を持ち上げて見せる。一見すると何の変哲もない、皮袋である。
「それは?中には何が入っているんですか?」
「ぶつ切りにした魚です。これから獲る魚の好物で、これを水面付近に漂わせておけば血の臭いに誘われて上がってくるはずです」
「そして、湖面に姿を現したところをこの銛で仕留めるということですね?」
「そう言うことです。それじゃあ、餌を投げます。獲物が上に上がってくるまでは静かにしていてください。そうしないと逃げられてしまうか、もしくは我々が襲われる事になるので」
「わかりました。ユリアもリュカも聞いたね?暴れちゃ駄目だよ」
「わ、わかったわ」
「一体どんなのが来るんだ?楽しみだな、正直」
「それじゃ、投げます」
皮袋に付いた紐を持ち、頭上でぐるぐると回して投擲した。十五mぐらい向こうに、皮袋が落下する。
紐を数回引っ張って、辺りに魚の臭いと血を巻き散らす。
「あんなに遠くで大丈夫なの?銛が届かないじゃない」
「大丈夫です。上がってきたら徐々に引き寄せますから。それより、銛はしっかり刺してください。多分、暴れると思いますが」
「わかりました」
「ミルウェイさんの話を聞くに、俺が思ってるよりも大物っぽそうなんだけど、ユリアはどう思う?」
「少なくとも岩魚や山女サイズじゃないでしょうね」
「見たことないけど、鮫とかってでかいんだろ?」
「でも、鮫は海の魚だから湖には居ない筈だよ」
リュカとユリアの会話に口を挟みつつ、レトは辺りに視線を配る。一方、ミルウェイさんはまだ暢気さが残る他の三人とは異なり、一人、緊張の様子で皮袋の落ちた湖面の辺りを見つめていた。しかし、餌を投げ入れてから五分以上経っても、何も上がってくる気配がなかった。ただ、餌を投じた辺りの湖面に水鳥が集って、魚を啄ばんでいるだけだ。
「上がって来ないじゃない。どうしちゃったのよ」
早くもこの対峙状況に飽きてきたらしいユリアが伸びをしつつ言う。リュカも欠伸をしつつ、
「臭いに気付いてないんじゃないのか?」
「いえ、臭いには敏感なはずです。きっと警戒しているんでしょう」
「警戒?………僕達に気づいているんでしょうか?」
「かもしれません。害を為す敵かどうか判断しようとしているんでしょう」
「実際私達は害を為す敵なんだけどね」
「だったら上がって来ないかもしれないって事か?」
「まぁ、まだ五分しか経ってないからね」
レトの言葉で一同は再び沈黙し、湖面を見回し、待つ体勢に戻ったが、さらに五分経っても湖面には何の変化も現れなかった。
「この辺には居ないんじゃないの?もっと、別の地点に移動した方がいいんじゃない?」
焦れてきたユリアが場所の変更を提案する。しかし、ミルウェイさんは首を振って、
「もうすぐだと思いますから、もう少し待って見ましょう。それに、他の地点に移動しても、すぐにあがってくるという訳じゃないですから」
「まぁまぁ、ユリア。もう少し待ってみようよ」
「う〜。早く出てきてくれないと私、寝ちゃうわよ」
「それはちょっと困るな」
退屈し切っている様子のユリアに、レトは困ったなぁ、という風に笑みを浮かべる。と、その時、リュカが何かに気づいた。
「さっきまでと何か違わないか?」
「え、何何?来たの?」
ユリアが目を輝かせて尋ねるが、餌の漂う湖面には何の変化もなく………
「来てないじゃない。何が違うってのよ」
口を尖らせつつリュカを振り返る。リュカは餌を蒔いた湖面と別の湖面を見比べて、
「湖の色が他のところより濃くないか?」
「え?」
「言われて見れば確かに………ミルウェイさん、あれは一体………」
「来ましたね」
リュカと同じように数ヶ所の湖面の色を見比べて、ミルウェイ氏は頷いた。
「あれは魚影です」
「魚影って………あんなに大きいのが!?」
ユリアが素っ頓狂な声を上げる。何と言っても、その魚影は半径だけで十m以上もありそうなのだ。
「あれが、魚影って………」
リュカも呆然と見続けるしかない。しかも、魚影はだんだんと大きさを増して来ている。それはつまり、
「上がってきています。皆さん、船縁にしっかり捕まって!」
湖面がざわめき出した。大きな波が、小さな船を容赦なく揺らす。四人は船縁に捕まって、なんとか船のバランスを取りつつ、湖面に視線を注ぐ。深い水の底から、何かが浮上してくる。
「何か見えてきたわよ!」
片手で船縁をしっかりと掴みつつ、ユリアが色の変わっている湖面の中心辺りを指差す。
「光ってる………のか!?」
リュカが目元を擦る。水中に、黄金の輝きが見えたのだ。ミルウェイ氏が頷く。
「鱗です」
「鱗!?金の鱗とか、マジで!?」
「来るよ!掴まって!」
レトが大声で叫ぶ。四人はひしと船縁に捕まった。その次の瞬間、湖が割れた。何か巨大なものが、水中から飛び出したのだ。
「きゃああっ!?」
「うわぁぁっ!?」
「これは凄い―――」
「あああ!?」
ユリア、リュカ、レト、ミルウェイ氏四人がそれぞれ大声を上げつつ、船の動揺に耐える。
巨大な水柱が吹き上がり、そして、空中で崩れ、水中から飛び出した物を彼等の視界に現した。
巨大で、黄金に輝く―――ミルウェイ氏は片手で目の上に廂を作りつつ、頷く。
「あれが、ラディ・ゴールデン・フィッシュです!」
「金魚ぉっ!?」
ユリアが頓狂な声を上げる。そう、水中から踊り出したのは全長二十mはあろうかという巨大な金魚だったのだ。頭に、大きな二つの瘤があり、それゆえに、頭でっかちな印象を受けるが、体も鰭も黄金の輝きに覆われていた。誰が名付けても、おそらくは金魚だろう。それ以外に名前が思い浮かばない感じの魚であった。空中に身を躍らせた金魚が頭から湖面に突っ込む。どぱぁんっと大量の水が噴き上げられ、ばしゃばしゃと四人にも降り注いだ。
「あ、あれを獲るの?」
ユリアが震える声で聞く。
「このちゃちな銛で?」
リュカが銛を持ちつつ、尋ねる。
「あれはちょっと………凄いですね。というか、なんだかこの湖の主という感じがするんですが、食べちゃって良いんですか?」
レトが曖昧な笑みを浮かべつつ、尋ねる。ミルウェイ氏は頷きつつ、
「あれはちょっと大きすぎですね。確かにこの湖の主かも知れません。もう五回りくらい小さな奴で十分なんですが………」
「だ、だよね」
「良かった………」
「確かにあれはちょっと………」
三人がホッと胸を撫で下ろす。しかし、湖面に浮き出た金魚はどうやら先ほどの餌だけでは満足できないらしい。その巨体の割りに円らな瞳が、彼等の乗るボートを見つめている。
「あれって………なんで、こっちを見てるの?」
ユリアが尋ねる。
「俺に聞くなよ。俺だって、できれば違う事を祈りたいぞ」
「あれぐらいの大きさだと、僕達と言うのはアメンボぐらいの大きさに見えているんだろうね」
レトが嫌な事を言う。ミルウェイさんも額に汗を浮かべつつ、
「レトさん、リュカ君。ここはちょっと、逃げましょうか」
「賛成です」
「俺も」
「さすがの私も賛成」
全員の意見が一致したところで、レトとリュカがオールを握る。次の瞬間、金魚がその場でゆっくりと向きを変えた。頭を彼等に向けたのだ。そして、カパッという感じで口を開ける。巨大な口だった。それこそ、小さなボートなど一飲みにできる程に。そして、口の中には無数の巨大な牙が林のように生えていた。なんかもう金魚のイメージがいろいろぶち壊しである。ユリアも頭を抱えて猛烈に左右に振りつつ、懊悩の気配濃い声を上げる。
「金魚って、牙なんかあったっけ!?」
「見た目が金魚に似ているから金魚と呼ばれているだけで、生態的にはまったく別の種類なんです!どちらかというと鮒に近いんだそうです」
悲鳴のようなユリアの声に、ミルウェイさんが応じる。ユリアは船縁をバンバンと叩きながら、
「漕いで!力の一杯漕いで漕いで漕ぎ捲れぇぇっ!!」
「さすがにこれはちょっとまずいかも。行くよ、リュカ」
「おう!」
レトとリュカが漕ぎ始める。船が岸に向かって動き出したのに気付いた金魚もどきも追ってくる。どうやら完全に彼等を餌と認識したようである。
「逃げて!逃げなきゃ、喰われるわよッ!!」
ユリアが叫ぶ。だが、二人で漕いでいても、小さなボートはなかなか進まない。
「水の上で、水生生物に勝てるかよ!」
「ユリアさん、銛を!」
ミルウェイ氏が怒鳴る。
「そ、そうね!攻撃は最大の防御よ!」
銛を掴み、ユリアはそれを思い切り、金魚もどきに投げつけた。鋭い軌跡を描きつつ飛んだ銛は―――金魚の鱗に、カンッという音を立てて衝突し、呆気なく弾かれた。
「駄目じゃんっ!」
「固すぎよッ!本物の金な訳!?」
「いえ、本物の金という訳じゃないんですが………さすがにちょっと銛じゃ駄目でしたか」
「駄目じゃないのよ!」
ユリアが叫ぶ。その間にも金魚はますます近づいて、近づいて―――
「ぎゃああああっ!!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
「これは困ったなぁ」
「誰か助けてぇぇぇぇっ!!」
悲鳴とボート、そして大量の水と一緒に、四人を飲み込んでしまった。

次週、「2 金魚の腹の中」


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