小説

猿まじの自作小説

僕が書いた自作小説を送りするメルマガです、ジャンルはファンタジー系から戦争系です。

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第73回配信!!

2002/12/25

★目次
 1、sarumajiからの言葉
 2、今回の一言
 3、連載
      ◎『ラブラルの狩人』
   ◎『闇を生きる者』
       ◎『神崎物語』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
☆sarumajiからの言葉
さあ!明日からは冬休み!と言う所も多いのではないでしょうか!?
うちは明日から休みです!と言って喜んでもいられないんですけどね。
もうすぐ三年………そろそろ受験勉強を始めなければならない時期ですからね。
受験シーズンに突入しても、出来るだけ毎週配信していきたいと考えていますので、
今後ともよろしくお願いします!

☆今回の一言

ヴリコラティオス(Vrykolatios) 
【地域】
 ギリシア神話(Greek&Roman mythology)
 ヴァンパイア伝説(The Vampire Legend)
【解説】
 1900年に発行された『ギリシア旅行ハンドブック』にその記述がある。エーゲ海のサントリーニ島(テラ)に住む怪物。生きる者全てを食い尽くすといわれている。
 手に負えないヴァンパイアは、サントリーニ島に送られるといわれ、必然的にこの島に住む住人は吸血鬼退治のスペシャリストとなった。

☆連載

『ラブラルの狩人』

「我々の被害は甚大だ」
ギルバートは司令部内に居る幕僚達の姿を順々に視野の中心に捉えつつ、重々しい声で呟いた。
「それに比し、ラブラルの狩人側に与えた損害は軽微だ。それどころか我々の兵器が多数拿捕され、連中の機械化兵力はさらに増強されたと見て良い。ウェザード軍の進軍はドールクエストの市街にも到達しなかった。しかし、ウェザードを責めるのはお門違いだろう。確かにウェザードは単独で攻め掛かったが、今回の被害は全軍で掛かっていたとしても同じ結果を招いていたと判断する」
「すまなかった………ギルバート、おまえの言う通り、持久戦の構えを取るべきだったようだ」
「ウェザード。このままではおまえの突撃で死んだ兵は犬死だ。必ず、ドールクエストは落とさねばならない」
「―――そうだな」
「そこで、諸君にはドールクエストを攻略する方策を再び考えてもらいたい。敵はドールクエスト周辺部の地理を知り尽くしており、各所に罠が仕掛けられている。これらの難関を突破しなければ、我々はドールクエストにすら迫れない事になる」
「やはり、このまま包囲を続け、音をあげるのを待つのが良策ではないでしょうか」
参謀の一人が告げる。
「ただ包囲しているだけでは効果の程は薄いだろう」
それを否定したのは温厚な顔をしたフレイドル准将だった。
「ドールクエストは元々鉱山都市です。その地下部には膨大な総延長を持つ地下通路が張り巡らされている。これらの地下トンネルの中に潜伏していると思われるラブラルの狩人はこれらの地下通路の出入り口を補給路として使用していると思われる。これらの出入り口をすべて封鎖しなければ、完全な包囲が完成しているとは言えない」
「ではどうするべきだと思う?」
ギルバートが問うと、フレイドルは当惑したような表情を一瞬し、
「出入り口の封鎖を出来るだけ行うのは当然とするものの、それだけでは効果が薄いと思われます。まだこのラブラルの狩人の補給路に対する有効な対抗策はありません」
「ない、と言うのか」
「はい。ラブラルの狩人が補給物資を何処で得ているのかが判明すれば、それを潰す事により、ドールクエストの補給を完全に封鎖する事が出来ると考えています」
「ではその補給部隊の発見と壊滅を急いで行え」
「はっ」
「後は地道な作戦だが、敵が仕掛けた地雷は解除しなければならない。これを解除しなければ我々は進軍も出来ない」
「既に一個連隊が作業に当たっています」
ジョーゼフが報告する。
ギルバートは眉間に皺を寄せ、
「一個連隊?少なすぎる。三個連隊か、一個師団規模の兵力を投入しろ」
「はっ」
「ウェザードは戦力の回復を謀ってくれ」
「わかった………ギルバート」
「何だ?」
「もしドールクエストの攻略に手間取るようならば一旦撤退するのも考慮に入れておくべきだと思う」
「それでは再びパキスロン軍とラブラルの狩人を相手にする事になる。どちらを攻める場合にもどちらかに側面を突かれる事になるんだぞ」
「こちらから攻撃を仕掛ける必要は無い。敵の来寇を待ち伏せ、迎撃すれば、相手に側面を突かれることも無くなる」
「―――それは選択肢の一つだな」
「ああ―――もちろん。作戦を最終的に決定するのはおまえの仕事だ。それに―――」
ウェザードは自嘲の笑みを浮かべた。
―――敗残の将の言葉にどれほどの重みがあろうか。
笑みを浮かべ、沈黙したウェザードはそう言おうとしたのではないだろうか。
それを察したギルバートは、瞳を穏やかにしつつ、
「ウェザード。まだまだ戦はこれからだ、次で名誉の挽回を謀るんだ」
「―――ああ」
頷くウェザード。
ギルバートも同じように頷き、かすかに目を細めた。

ガルバディア軍の司令官が目を細めて居たちょうどその時、ドールクエストの地下司令部でガルフォン・ビンセントは目を瞑っていた。
「今回の戦闘での死者は百三十六名。負傷者は三百七十四名に留まり、相手方の兵器多数を押収した。間違いなく、勝利だ」
報告を終えたクレイモアが晴れやかな顔をあげる。
「敵の攻勢が始まったのかとやきもきしたが、北東部で戦っていた将軍の単独攻勢で多大の損害を与える事に成功してよかったな」
「ああ」
ガルフォンは軽く、それだけ答えた。
だが彼は敏感にラブラルの狩人内部で進行している分裂の気配に気付き、頭を抱えていたのだった。

分裂の兆しはかなり前からあった。
その中心に居るのは鬼 龍之介だ。
彼はガルフォン・ビンセントの元で戦う事に不満を持って居るらしかった。
彼の家柄を考えれば、たかが殺し屋風情のガルフォンに従ういわれはないのだ。
ドールクエストを包囲され、何とか勝利した物の攻撃されている現在、もしラブラルの狩人を見限ってガルバディア軍に降るかこのままガルフォンの元で戦い続けるのかを選択する最後の時になっているのだと彼らは考えているのだった。
龍之介は自分に与えられている部屋に、腹心達を集めた。
「我々はラブラルの狩人から離脱するべきだと思う」
龍之介はゆっくりとそう告げた。
何代にも渡って鬼家の元で働いている腹心達は互いに顔を見やり、
「今離脱する事をガルフォン殿やクレイモア殿、グランス殿などが認めるでしょうか?」
その中の一人がそう訊いた。
彼の顔と他の者達の顔を見れば、皆が不安に思っている事は間違いなかった。
「許しはしないだろう………だが、ガルバディア軍とこのまま戦い続けていても必ず負ける。そうなれば、我らは皆殺しにされ、名族鬼家も途絶える事になる」
「しかし………そうなれば、分裂闘争となる可能性があります」
「そんな時にガルバディア軍に攻撃されれば、それこそラブラルの狩人は皆殺しにされます」
「そうなる前に、ガルバディア軍に使者を送る。我々が内応者となり、ガルバディア軍を引き入れれば、我々の功績も認められよう」
「しかし、裏切り者の謗りを受ける事にもなります」
「名族の地を守るにはそれも仕方がない………それに我らは領地に家族を残してきている。ガルバディア軍によって占領されたと言う情報もある。このまま我らが戦い続ければ、捕虜となっている皆は殺されるだろう」
「そのような事を恐れる鬼一族でもございますまい」
「しかし、わしは鬼の総領として皆の命を守る義務がある」
「―――決意は硬いのですか?」
「鬼の血に賭けて」
龍之介の決意を込める言葉を聞いた腹心達は諦めたように頷き、
「わかりました………総領がそこまで決意していらっしゃるならば、我々は従うだけです」
「わかってくれたか」
そう言って、鬼 龍之介は暗い顔に微笑を浮かべた。

「…………」
男達の密談を聞く影が一つ。
ミストである。
やがて―――彼の姿は消えた。

次号に続く・・・

『闇に生きる者』

第四章 守護する者の務め

「ここか・・・?盗賊団が潜んでいると言う遺跡は」
バヌスはそう言って傍らに立つ男に視線を送った。
男はバヌスが自分に話し掛けている事にすら気付かない様子で、その獅子の口を見つめていた。
こほん、と咳払いしてから言い直す。
「ここにいるのか?」
少し強めの口調に男もようやく気付いたようだ。慌てたように大げさな身振りでバヌスを振り返り、激しく何度も頷く。
「そ、そうです!閣下!ここに武装していると思われる盗賊団がいる事は間違いありません」
「そして、第三者もいるようです」
ゆっくりとした動作で歩いてきて報告したネーダーに頷き、男を横目で制す。
男が口を噤むのを待って新たに現れた男、ネーダーが口を開いた。
「盗賊団の構成員と思われる物の死体が三つ、遺跡の入り口付近に転がっていました」
「死体・・・!?」
男が絶句するのを冷ややかに見つめ、
「珍しいかね?」
嘲りを含んだ声音で訊く。その言葉の意味には気づかずに男はやはり激しく頷いてきた。
その肥満した体はここまでの道程のせいで汗と脂に汚れている。
「は、はい・・・死体なんて、ここ数年見た事がありません」
「これからたくさん見る事になるだろう」
何の気なしに呟いたバヌスだったが、男は明らかに驚いたらしい。絶句して、遺跡の入り口に視線を送っている。
「この遺跡に潜入したものは何者だろうか」
そんな男からはあっさりと興味を失い、バヌスは腹心に尋ねた。
ネーダーは小さな挙動で頷くと、まくし立てるような早口で報告した。
「おそらくは、ジャネシュで魔女を倒した者たちかと」
「カイン・・・か」
嬉しげに口元をゆがめ、その名をつぶやく。
分かれてから数日しかたっていないのでその風貌を思い出すのもそう苦にはならなかった。
燃えるような、とでも表現すればいいのか、そんな感じの赤い髪に、赤い瞳。
そして、神剣マベロードを持つ者。光の戦士の『血の後継者』。
史上最強の光の戦士、ルカ・ブラスの直系・・・。
「面白そうだ」
呟くようにしていったのだが、ネーダーには聞こえたらしい。眉をいかめしくひそめて、小声で注意してくる。
「面白がらないでください・・・人間の命が掛かっているんですから」
「・・・そう、だな」
(こんな能無しでも、人間は人間・・・か、つまらん道徳だ)
横目ででっぷりと肥え太った男を見やり、胸中で苦々しく呟く。
「さて、ここで問題となる事がある」
バヌスの言葉に、今度は異論も無いのか、ネーダーは何も言わない。
バヌスは大仰に両手を広げて見せた。
あたり一体を示すようにしてから、とりあえず、男の上に視線を合わせる。
「残った兵士がこれだけだと言うのはどういうことかね?」
完全な詰問口調で言う。びくっと震えて男があたりを見渡した。
改めて見渡しみる必要もない。残った兵士はたったの三人だけだった。
子供と、老人と、太った奴。とても役には立ちそうにも無い。
バヌスはため息をあからさまについて、男の胸につくかつかないかの当たりにまで、腰の剣を突きつけた。男が恐怖に硬直するのがわかる。
冷たい表情、冷たい声で告げる。
「どういうことかね?」
男が答えようと口を開くが、無駄にぱくぱくと動くだけで言葉を紡ぐ事が出来ない。
バヌスは剣をさらに数ミリ進みた。剣先が男の服に突き入るのを無感動な眼差しで見下ろす。
「お、おそらく・・・疲れて脱落したものと・・・」
かすかに聞き取れるかどうかと言った感じの声。バヌスはさらに表情の温度を下げながら、
「それで残ったのがこの三人だと?」
空いている左手で残った三人を指し示す。彼らは直属の上司が胸元に剣を突きつけられていると言うのに止めるでもなく、岩の上やら木の根元に腰掛けている。
伸ばした左手の指先が震え出すのを自覚する。情け無さ過ぎて涙も出ない。
「こんな戦力で、武装している盗賊団と戦おうと言うのかね?」
「私は別に戦う必要は無いと考えています」
真剣に考えている表情で、男が囁く。なぜ声をひそめているのかは見当がつかなかったが、バヌスは耳を傾ける気になった。
「ふむ?」
頷いて、促す。男はややあたりを窺うような素振りを見せた後、バヌスの耳元に口を近づけた。
「ここは一時撤退と言う事で・・・」
バヌスは失望を感じ、男から顔を離した。うめくように、呟く。
「何を考えてそんな事を私に言っているのだ?君は」
「自己の保身、あ、いや。犠牲を最小に止め、有効な手をですな」
「ほぉう?」
憎々しげに眉を吊り上げて、男の瞳を除きこむ。
「どんな有効な手なんだね?」
「ずばり、軍が動くのを待つ!」
「当分は動けないと言っただろうが。動くまでの間はどうするのだ?」
「これまで通り、捜査をしている振りをしてやり過ごします」
今までの人生では確信をもって、これからの人生でもおそらく、最低の温度だったろう。
それほどまでに冷たく硬直した表情で、バヌスは男を殴り倒した。

静かな部屋の中に、張り詰めた空気が流れていた。
今までの人生で幾度となくお目にかかってきたものだが、慣れると言う事はないかもしれない。
部屋の中には三人の人間がいた。
古ぼけた木の机の上に乗っている書類を腕を組んで睨んでいる黒髪の男。
部屋の隅にあるソファに腰掛、心配そうに黒髪の男を見つめつつ、愛刀の手入れをしている女。
窓際の壁に背を預けて、生欠伸をかみ締めながら男を見ている金髪の男。
三人とも、ハーブル帝国の宮廷騎士団に所属している。黒髪の男、ハインハルトは宮廷騎士団の団長を務めていた。
窓際にいる金髪の男が伸びをしながら、それでもはっきりとした声音でしゃべりかけた。
「開けないんですか?団長、その書類」
目線でその書類を指し示すが、振り返りもしないハインハルトにはそんな彼の動作はわからなかっただろう。
「そう、だな・・・」
苦渋に満ちた声で同意し、書類を持ち上げる。その書類の横には封の切られたもう一枚の同じような封筒が置かれていた。金髪の男、ニコルドはその中身を知らなかったが、別に興味も湧かなかった。
ハインハルトが書類を持ち上げ、思い切ったように封を切る。
中の書類を引きずり出し、机の上に置く。
窓際から身を乗り出すようにしてその書類を覗き込むと、お約束の文字が見えた。
赤文字で、『極秘指令文書・・・余人に見せるべからず、読後、即時焼却せよ』
と記されていた。ハインハルトが震える手でページを繰る。
ぱさ・・・、と言う音がやけに静かになっている部屋の中に大きく響いた。
ハインハルトはページを捲ると、その書類に記されている文字を食い入るように見つめた。
心の中で、読み上げる。
(―――さて、ハインハルト君。私は、『帝』執行部長官のレオン・ランディだ。君とは面識があるはずだな?)
ある・・・胸中で答える。40代前半の、寡黙そうな男だ。もっとも、書類を書く時には饒舌になるらしいが、それも、この書類を読めば納得できる。書類を受け取る側との面識のあるなしはどうでもいいことでしかないはずなのだから。
書類に再び視線を戻し、先を読む。
(我々、『帝』執行部の主任務は、『帝』の・・公式・で・・ない命令を実行する事である)
わかりきった事を・・・呆れをも含んで呟く。公式な命令は四老院の協議を経て発せられるのだ。
そして、宮廷騎士団や『死を齎す者』は『帝』の直属ということで『帝』執行部に所属している。
これに対し、各政庁や司法組織、軍などは公式の組織として四老院の支配下に入っているのだ。
(現在君には・・・光の戦士、抹殺指令が下され、君はその任務に従事している)
そうだ・・・だから、普通は新たな指令書が届くはずが無い・・・でも、届いた。なぜ?
(君の任務に加勢が決まった・・・といってもすぐ、というわけではない)
加勢・・・?別に自分は負けたわけじゃない。いや、あれを負けたというのだとしても一回だけだ。そんな事で『帝』は私を見捨てたのか?
心の中で激しく疑念が渦巻く。だが、それに反して冷静な部分が答えを用意してしまった。
そうかもしれない・・・。
彼は目の前が暗くなるのを感じながらも、書類に視線を落とした。
(とりあえず、君には情報部の人間と協力してもらう必要があるかもしれない。そうなった場合には追って連絡する。―――P.S 一緒に渡されたと思うが、恋文はお前の事を慕っているさる高貴なご令嬢のお気持ちを汲んで送らせて貰った)
「それだけ?」
彼は思わず声に出して呟いていた。
体中から力が抜けていくのを感じる。こんなことのために―――、
横目で窓から外を見やる。既に朝日は昇ろうとしていた。この黎明の時間が本来ならば一番好きな時間帯なのだが。
「丸一日潰したのか・・・我々は」
標的となる光の戦士は・・・一体何処にいるのだろうか?

次号に続く・・・

『神崎物語』

第三十四話 ホワイトクリスマス

十二月二十五日 朝
「もう二十五日だね!」
「…………」
なにやら無性に嬉しそうな槙原の顔を寝起きのぼけーっとした視線で見つつ、欠伸を一つ。
「ああ………もうすぐ冬休みだな。冬休みになるのは良いんだが、宿題が多いのが嫌だな」
「…そっそうだね」
「ああ……」
「でっでもさー、二十五日と言えば?」
「何だよ」
修平は気付いていないのかまた聞き返した。
「あっ!」
「あん?」
「母さんに頼まれてた事あったんだ」
「頼まれ亊?………ろくな用事じゃないだろ」
「う〜ん………そうかな?」
小首を傾げる槙原。
しかし、槙原の母親である梢さんはかなりずれた所のある人物だ。
彼女から用を仰せつかったとなると、その用事とはかなりずば抜けた物である事が予想できる。
「―――で、どんな用事なんだ?」
「うん―――なんだか、今夜修ちゃんを家に連れて来いって」
上目遣いにそう切り出す槙原。
修平は少し驚いた。
もちろん、槙原とは幼馴染と言う間柄なので、子供の頃はよく彼女の家に遊びに行った事ものである。
「う〜ん………そう言えば、最近は梢さんにも会ってないな」
「うん、母さんも喜ぶよ」
「むぅ………どうするかな」
難しい顔で考え込む修平を不安げに見つめる槙原。
「なんか予定が入ってる?」
「いや………予定は入ってない」
「じゃあ、OK?」
「ああ………まあ、良いか。たまには梢さんの顔を見るのも悪くないだろう」
「よかったぁ………」
心底安心したように詰めていた息を吐き出す槙原を意地悪く見る。
「で、今度は何を人質にとられたんだ?」
「え?」
「梢さんの場合、人に物を頼むとは名ばかりで、必ず人質をとるからな………いや、物だから物質か」
「うん―――熊のぬいぐるみをね」
「熊のぬいぐるみって………まだそんな物持ってるのか?」
「そりゃそうだよ………だんごのぬいぐるみだって、アザラシのぬいぐるみだってあるよ」
「…………」
こうして、修平の槙原宅訪問は決定されたのだった。

同日 昼
「―――聞いたぞ………神崎」
弁当を食い終えた修平は読書モードに移行していたのだが、まるで親の仇にでも掛ける様な声で話し掛けられ、顔をあげた。
視線の先では目を半眼にし、怒りの炎を湛えた鋭い眼差しで佐伯竜馬が修平の事を見下ろしていた。
「どうしたんだ?佐伯。聞いたって何をだ?」
彼が逆にそう聞き返すと、佐伯は一瞬言葉に詰まってから慌てて周りを窺い始めた。
あからさまに怪しい態度である。
5、6秒も掛けてこちらの話しに聞き耳を立てている人間が居ない事を確認すると、佐伯は押し殺した声で言った。
「おまえが槙原の家に行くと言う事を、だ」
「―――なんで?」
「都立萬神高等学校高等部生徒会の情報収集能力を甘く見ない方が身の為だぞ」
「まさか、俺に盗聴器を?」
「さあな」
そう言う佐伯の顔には凄みのある笑みが浮かんでいた。
「相変わらず黒い連中だな」
「なんとでも言うが良いさ………しかし、その口ぶりだとどうやら本当らしいな」
「ああ―――今朝誘われたんだ」
「なるほど………両親に紹介………と言う事か………」
「おい………独り言をぶつぶつと呟いている所悪いが、俺と槙原は幼馴染なんだぞ?当然あいつの両親も知り合いなんだぞ?」
「何………既に十年以上も昔から工作を行っていたと言うのか!?恐るべし」
「人聞きの悪い事を言うんじゃねぇ」
「事実を別の観点から言っただけだろうが」
「それを事実を歪曲すると言うんだ!」
「―――で、一体槙原の家で何をするつもりなのだ?」
「いちいちそんな事を何でおまえに言わなけりゃいけないんだ」
顔を逸らしつつ突き放す。
すると、佐伯は妙に酷薄な笑みを浮かべ、
「なるほど………つまり、お前は槙原に対し、他人には言えないような事をするつもりなのだな?」
わざと声を大にして言う彼の言葉に、教室の中にいた生徒連中が反応する。
「神崎………そうか、そうなんだな。おまえは昔からの幼馴染と言うコネを利用して槙原の家に上がりこみ、他人には決して言えないような事を行う腹積もりなんだな」
『なんだと!?』
みたいな敵意を存分に含んだ視線を向けてくる生徒連中を諦めを含んだ視線で見やりつつ、
「だから、何でそう言う風に―――」
修平は弁解の言葉を最後まで口にする事も無く、暴徒と化した生徒連中(男子中心)に飲み込まれたのだった。
「てめぇ、遂に槙原に手を出すつもりか!?」
「裕美さんは俺達の永遠のアイドル!おまえなんかが手を出して良い存在じゃないんだ!」
「だいいち、何でおまえが槙原の幼馴染なんだ!」
「そんな事知るかっ!!」
無茶な事を言い出した奴(圭太だったようだが)の顔面を殴ったのが、修平の最初で最後の抵抗らしい抵抗となった。
数で遥かに勝る暴徒はあっという間に修平の体に数ヶ所の生傷をこしらえる事に成功したのだった。

同日 昼 保健室
「自業自得だな」
修平の話しを聞いて、保健室の主である栗瀬紗織は普段と変わらず、よれよれの白衣に咥え煙草と言う出で立ちで断言した。
「―――なんでですか?」
全身にばんそうこうを貼った修平が不機嫌気に聞き返す。
「おまえがいつまでも槙原に手を出さない事に苛々とする気持ちと自分達の想いが遂げられない事への無力さとの間において、彼らも葛藤を抱えているんだろう」
「その葛藤を俺にぶつけたって事ですか?」
「そうだろう―――まあ、妥当な八つ当たりだろうな」
そう言って咥えた煙草を上下に揺らす紗織の瞳には楽しそうな色が浮かんでいた。
それを目ざとく見つけた修平が口を尖らす。
「面白がらないでくださいよ、先生」
「他人事だからな」
それだけ答え、紗織は口を笑みの形にした。
その拍子に煙草から燃え尽きた灰が彼女の白衣へと落ちる。
紗織は無造作にそれを払い落としながら、
「それはそうと、本当に何もするつもりは無いと言うのか?」
「だから、何もするつもりはありませんって。ただ招待されたってのと、この頃は行って無いから行くってだけですよ」
「―――なんだ、つまらないな」
「つまらないじゃないよ―――ったく」
紗織には聞こえないよう、声をひそめて修平はうめくのだった。


同日 放課後
「…………」
「…………」
修平と槙原は言葉を交わす事も無く学校からの帰路を急いでいた。
『…………』
そんな彼らの背後から十数人分の気配と足音、それに無言の重圧がつかず離れずの距離を保ちつつ付いてくる。
学校を出てからずっと、この気配達は修平と槙原を執拗に追尾しているのだ。
おそらく、その目的は修平が槙原の家で何をするのかを見届けようと言う物であろう。
しかし、
(―――迷惑だ)
決然と、心の中で修平は呟いた。
もちろん、彼自身槙原の家で自分が何かまずい事をするとは思えなかった。
だが、槙原の母親はあの梢さんである。
梢さんの招待である以上、何らかの問題が生ずる事はほぼ間違いない。
何が起こるかわからないにせよ、連中には見せない方が無難であろうと思われる事柄が起こる可能性は極めて高い。
(なんとかして撒かないと………面倒な事になる)
修平は無言で隣を歩く槙原を見た。
彼女がどんな思いで居るのかはわからないが、背後の気配に気付いていないわけはないだろう。
「―――槙原」
「うん?」
学校を出てから始めてかもしれない修平の言葉に、かすかに首を傾げながら反応する。
槙原のこういった仕草が男子生徒連中の間で『小動物のようで可愛い』と評判なのだろう。
本人が意識してやって居る訳ではないのは確実なので、ますます人気は根強いようだ。
そして、槙原への人気と比例するかのように、修平への風当たりも強くなる。
彼が槙原の幼馴染で、親しいと言うのがその主な理由らしい。
「後ろの連中をどうにか撒かなきゃならない」
「どうして?」
「あの連中をこのままおまえの家まで案内したら、毎日おまえはストーカー、しかも複数に毎日追い掛け回される事になる」
―――大げさか………
修平は一瞬そう考えた。
後ろに居る連中がいくら槙原のファンだからと言ってストーカー化するほどの熱烈なファンとは限らない。
だが、これぐらい言わねば槙原は納得しないかもしれなかった。
「さすがにそれはないと思うけど」
そう否定する槙原の言葉にも力はない。
「なら、用心の為だ。走るぞ」
そう告げるやいなや、修平は駆け出した。
自分に付いてくる槙原と動揺する連中の気配を背後に感じつつ、修平は曲がり角を曲がり、
他人の家の塀を乗り越えた。すぐに槙原も乗り越える。
数秒身を潜めていると、
「消えた!?」
「あっちだ!」
「よし、行くぞ!」
などといった掛け声と共に騒々しく連中が修平達の隠れて居る塀の向こう側を走り抜けていくのがわかった。
なおも数分の間そうやって身を潜めていた二人は再び塀を乗り越えて路上に戻ると、
「奴らが待ち伏せを思いつく前におまえの家に行くぞ」
「うん」
槙原にそう告げて再び走り出した。

「―――よし、誰も居ないな」
周りを確認し、誰も居ない事を確信してから、修平はその家の敷居を跨いだ。
標識には槙原とある。
同姓の家でなければ、ここが槙原の家である。
「―――修ちゃん、どうだった?」
玄関の扉の前で待っていた槙原に、
「大丈夫だ、誰も居ない」
告げる。
槙原は安堵したかのように頷き、微笑を浮かべると、玄関の戸を開けた。
「ただいま」
「お邪魔します」
槙原の後について中に入る。
と、すぐに奥の方から人の声がし、スリッパのパタパタとした音が近づいてくる。
奥から姿を現したのは、見た目二十代前半か、下手をすれば十代にも見えそうな槙原の母、梢さんだ。
彼女は修平の姿を見るなり破顔して、
「まあ、まあ、修平君!随分と立派になっちゃって!」
若々しい、と言うか黄色い歓声をあげる。
「梢さんこそ、変わってないじゃないですか」
―――まるで、化け物のようだ。
そんな考えなどはおくびにも出さずに言うと、梢さんは嬉しそうに頷いて(否定したりしない所が彼女らしい)、
「まあ、まあ、お上がりなさい、すぐにお茶出すから」
「いや、お構いなく」
修平がそう返事を返す頃には既に梢さんの姿は台所に消えていた。
上がり込み、居間に行くと、既にお茶と菓子がテーブルの上に出されていた。
「…………」
修平が沈黙したまま、槙原を見やり、苦笑して見せると、槙原も同じような笑みを浮かべてから、
台所の方に向かって、
「お母さん!もう、お茶出てるよ!」
「―――あら?そうだったかしら?」
スリッパの音をパタパタと立てながら現れた梢さんはテーブルの上に置かれているお茶と菓子を見て恥ずかしそうに笑うと、。
「あらやだ、私ったら。きっともうすぐ息子になる人が来てるから緊張してるのね」
「息子って………梢さん、十年以上前から言ってますけど、俺達はただの幼馴染ですよ?」
無駄だとわかっては居るが、一応、否定しておく。
「大丈夫よ、修平君。いくら否定してもこれは運命なのよ」
「運命と言うよりは思い込みのような気が………」
「そう言えば、お母さん、なんで今日は修ちゃんを連れてくるように、なんて言ったの?」
話しを逸らしたいのか、槙原が割り込んでくる。
渡りに船とばかりに修平もそれに加わる。
「なにか俺に用があるんじゃないですか?」
「用?………用なんてあったかしら?」
槙原そっくりな小首をかしげると言うポーズで何かを思い出そうと考える梢さんの顔はとても高二の娘が居るようには見えない。
確実に、槙原と並べば姉妹だと思われるだろう。
(俺と並んだら………)
ふとそんな想像が脳裏を走り、背筋を冷たい物が走った。
梢さんと並べばおそらく、カップルに見られるだろう。
それを学校の連中に目撃されれば、次の日には確実に、
『修平、槙原とその姉の二股!?』
と言うような話しが広まっている事だろう。
例え、槙原の母親だと説明しても、確実に信じてはもらえない。
そんな絶望的な考えを抱いている修平の目の前で、何かを思い出したのか、梢さんが目を輝かせて手を打ち合わせた。
「そうだわ!私ね、試したい事があったのよ!」
「試したい事?」
「…………」
槙原裕美が聞き返すのを聞きながら、修平は嫌な予感に震えていた。
そして、見事に修平の嫌な予感は実を結ぶのであった………。
「私が修平君と並んだらどう見られるのかな、と思って」
何の邪心も無く、童心のまま、梢さんはその悪魔の言葉を口にしたのだった。


同日 夜 萬神付近の繁華街
夜の繁華街、恋人達は連れ添い、幸せを噛み締めるように笑う。
「ケーキはいかがですかぁ〜!?」
サンタクロースの格好をし、立て看板を持って声を張り上げるこの虚しさ。
行き過ぎる恋人達の姿を見るたびに、心は重く、沈んでいく。
「はぁ………」
圭太はこの日何度目かもわからないため息を吐き出した。
ケーキの売れ行きは悪くは無い。
このバイトは中学の時から毎年やっているため、既に堂に入った物がある。
だが、そんな事とは関係なく、やはり圭太の心は重かった。
(今ごろ修平は槙原と楽しく過ごしてるんだろう………)
脳裏を修平と槙原の姿が過ぎる。
さらに気持ちは沈むだけだった………。
(こんな事を考えていても仕方が無い………仕事だ仕事)
そう思い直し、顔をあげた圭太は道路の反対側を女性と並んで歩く修平の姿を見つけて目を見開いた。
修平の隣を歩いている女性は槙原ではなかったのだ。
沈んでいた圭太の心にふつふつと怒りの感情が湧き起こる。
「俺が一人虚しくサンタの真似事なんかしてるって言うのに、おまえは新しい女を作ってやがるってのか!許せねぇ」
圭太は持っていた立て看板を力を込めて折ると、駆け出した。
そんな彼の様子を見ていた子供が母親のコートの裾を引っ張り、
「見て見て、お母さん!あのサンタさん、すごい力持ち!あんなに力があるから子供達のおもちゃを背に担げるんだね!」
などと歓声をあげていたが、怒りに燃える圭太の耳には届かなかった。

「はぁ………」
ここにもため息を吐いている人間が一人。
誰が見ても幸せ者のサイドに居る筈の、修平の口がそのため息の出所だった。
浮かぬ顔の彼とは対照的に、彼の隣を歩いている女性、梢さんは大はしゃぎだ。
十代の娘が着る様なコート―――おそらくは槙原の物だろう―――を着た梢さんは何処からどう見ても修平と同い年、どうがんばっても一、二個上ぐらいにしか見えない。
確か槙原は梢さんが十六の時の子供だったはずだ(梢さんはこう見えても昔は不良少女で、旦那さんとも出来ちゃった結婚と言う奴だったらしい。現在では近所でも有名なおしどり鴛鴦夫婦である)。
と言う事は現在の梢さんの年齢は三十三。
十分に若いが、見た目はさらに十数年若く見えると言うつわもの兵だ。
それ故にか、何処へ行っても掛けられる声は、
「おっ!兄ちゃん、可愛い彼女引き連れて、よっ!うらやましいねぇ!」
や、
「まあ、憎たらしいぐらいお似合いのカップルですこと、おほほ」
などである。
修平の気持ちも沈むと言う物である。
だが、そう言った言葉を言われるたびに梢さんは喜び、元々ハイテンションなのがどんどん高まっていく。
(絶対梢さんって酒飲んだら怒られるよな………未成年にしかみえねぇもんな)
などと考えて見る。
「ねえ、修平君!」
と、そこで修平は梢さんに呼びかけられて我に返った。
声の出所を探るような思いで振り向くと、梢さんは店先に並べられているコートの前でこっちに手を振っている。
その顔は本当に恋人とデートしている娘のように見える。
(誰かに見られたら絶対に誤解されるな)
そんな事を思いつつ、梢さんの元まで戻る。
見た目は若いがそれでも一応は主婦なため、見ている服もそんなべらぼうに高い物ではない。
高校生である修平にはきついが、今日も今まであちこちの店に寄ったが、その何処でも梢さんは自分で支払っているため、まあ、大丈夫だろう。
「ねえ、修平君、これどう?」
そう言ってコートを前から当ててみせる梢さん。
修平はやる気の感じられない弛緩した瞳で上から下まで投げやりに見た後、
「ああ、似合ってますよ」
「なんだか適当」
不満そうに口を尖らせる仕草は槙原そっくりだ。
さすがは親子である。
「しゅ〜う〜へ〜い〜」
血の底から響いてくるようなその声がしたのは、買うのを止めたらしく、梢さんがそのコートを元の場所に戻した時だった。
「!」
修平は驚愕に目を見開き、ばっと後ろを振り向いた。
そこに立っているのは、サンタの格好をした圭太だった。
「け、圭太………」
一瞬で喉が渇き、ようやく搾り出せた声はそれだけだった。
(しまった………こいつはいつもこの時期ここら辺でバイトしてるんだったか)
後悔にも似た思いが脳裏を巡るが、ここに来る事を決定したのは彼ではなく、梢さんである。
彼にはどうしようもなかった事だが、圭太が居るとわかっていればそれなりの対応策は取ったのだが………どちらにしろ、既に遅かった。
「よお、圭太………バイトか?精が出るな」
自分でも卑屈だと思えるような笑みを浮かべてそれだけを呻く。
そこに折悪しく、梢さんがひょっこりと現れた。
「あれ、修平君、知り合い?」
「ええ、同級生です」
「修平、おまえらは一体どういう関係なんだ?」
「梢さんはな―――」
修平が言おうとするのを遮る様に、梢さんが、
「貴方の目に映る通りよ?」
などと言う事を言ってのける。
瞬間、圭太の瞳に怒りの炎が揺れるのが見えた。
「修平、おまえ、槙原と言うものがありながら」
「待て!おまえは確実に誤解してるぞ!梢さんもそんな誤解を招くような事言わないでくださいよ!」
「何が誤解だ!俺は誤解なんかして無いぞ!おまえは槙原と梢ちゃんに二股を掛けている!」
わざわざ大声で喚く圭太。
しかも馴れ馴れしく『梢ちゃん』と来たものだ。
『二股』という言葉に反応してであろう、周りを歩いていた恋人達の足が止まり、興味本位の視線が修平と梢さんと修平に指を突きつけている圭太の周辺に集中する。
「だから、おまえ―――」
修平が口を開こうとすると、この状況に興奮しているらしい梢さんが、
「修平君!そうだったの!?」
「はあ?ちょっと梢さん―――」
「私とその槙原って女とどっちが大切なの!」
「そうだ!」
悪乗りした梢さんと鬼気迫る表情で怒鳴る圭太。
「そうだ、どっちが大切なんだ!」
「二股なんて男の風上にも置けない奴だ!」
「そんな可愛い子を泣かす奴は俺が許さない!」
「おまえみたいな男が可愛い子を独占するから俺達一人身の所に回ってこないんだ!」
などなど、無責任な野次馬達が蛮声を張り上げる。
「ああ………俺の人生って一体」
そんな中、修平はため息と共に天を仰いだ。
『こんな奴は世界から消しちまえ!』
的な空気に統一された野次馬達が修平に殺到する。
その時、
「待って!」
凛とした声が聖なる夜に響いた。
野次馬達が動きを止め、その声の主のために道を開ける。
そこから、きれいな茶髪を腰まで伸ばし、首から双眼鏡をぶら下げている少女が闘争の舞台へと進み出た。
「槙原………」
『槙原!?』
修平の呟きに、野次馬達のボルテージが一挙に跳ね上がる。
二股されていた女がこれで揃ったのだ。
と、同時に二人共が可愛いとあっては野次馬達の怒りのボルテージが跳ね上がるのも当然だろう。
だが、修平達の近くまで進んだ槙原が口にしたのは、野次馬達が期待していた怒りの罵声ではなかった。それでも口調の端々に怒りの色が浮かぶ声で、
「もう好い加減にしてよ、母さん」
『え?』
当事者三人を除く全員が一様にそんな間の抜けた声を発した。
はっきり言って、槙原が口にした言葉は理解できなかった。
もちろん、その言葉の意味が理解できなかったのではないが。
修平の隣に居る女はどう見ても槙原と言う女とは同じぐらいの年にしか見えない。
とてもではないが、親子には見えなかった。
「てへへ、ごめんね〜」
しかし、そんな観衆達の混乱を尻目に、梢さんはぺろっと舌を出して謝り、呆然としている圭太の方を向いて、
「からかっちゃってごめんなさいね。私は槙原裕美の母親で槙原梢って言います。娘がいつもお世話になってます」
「は、はあ………」
生返事を返した圭太が説明を求めるようにこちらを向く。
「俺は梢さんの買い物に付き合わされてただけだ」
「だって………じゃあ、何でさっきはあんなに狼狽してたんだ?」
「こう言う状況になるのがわかりきってたからだよ!」
そう怒鳴ってから頭を抱え、
「ああ〜もう絶対嫌な予感がしたんだよなぁ………ったく」
嘆く修平の首筋に何かひやりとした物が触れた。
頭を抱えるのを中断して頭上を振り仰ぐと、白い粉のような物が次から次へと降臨していた。
「雪………」
槙原が呟き、
「きゃっ❤ホワイトクリスマスね!」
梢さんが黄色い歓声を上げ、
「親子には見えないな」
圭太がうめき、
「今日もなんだか散々な目にあった………俺ってもしかしてついてないんじゃないか?」
今更の様に、修平は嘆くのだった………。
                       第三十四話 ホワイトクリスマス 完
次週 第三十五話 元旦 お楽しみに!

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創刊日:2001-07-11  
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