ビジネス一般

日本の支え「モノづくり」

日本の「モノづくり」への賛美と懸念を頭に置きつつ世の森羅万象を考える。図案屋稼業の傍ら、かって商社に勤務した経験も振り返り、書き溜めた著者自身の備忘録でもある。

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《89》 鶏卵業界が担う過酷な日々

2006/05/18

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    ┃モ┃ノ┃づ┃く┃り┃、┃あ┃れ┃も┃こ┃れ┃も┃ (続編)
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                         --浪費なき日本の繁栄のために--

  《89》 鶏卵業界が担う過酷な日々

タマゴ(鶏卵)の価格が変わらない。不思議だ。

商社に勤めていたせいで、いろいろな機械の販売を担当したが、たいへん興味深く、
苦い思いもしたのは、鶏卵の処理機械を通して見た鶏卵業の世界だった。

通常、出荷までの一連の作業として、集卵、洗浄(汚れの除去)、検卵(割れたもの、
血混じりのものの除去)、サイズ(重量)別の仕分け、パック詰めなどがある。
鶏卵の処理機械とは、それらの作業を機械で自動化、無人化するものだ。オランダから
輸入した機械で、商売として取り上げた動機は、当初、日本では見当たらない優れて
進んだ技術を駆使していたこと、併せて国内の需要が旺盛なことに着目したからだった。

鶏卵は、「物価の優等生」などといわれつづけているように価格が安定して安く、
調理が簡単な上、栄養源としても手頃だから頻繁に食卓に上る。しかし、飼料の
ほとんどを海外からの輸入品に依存するため、為替がからんだりする、なかなか
デリケートな商品だ。おまけに、作業現場の無人化がもっとも困難な業種といっても
過言でない。

相手が生き物だから、健康管理に手が抜けず、四季折々の気候の変化にも注意し、
休みなしの細心のケアが必要だ。悪性の病気が突然に襲って、鶏舎全体のトリが
全滅してしまうリスクもある。食品だから、飼育から採卵後の品質まで、衛生面の
厳格な管理が要求され、鳥インフルエンザが確認されれば、強制的に処分させられる。
自動化、無人化といっても、収益源の鶏卵そのものが数の勝負で量が多く、たいへん
壊れ易い小さな商品だから、なかなか馴染み難いことも問題だ。つまり、物価の
優等生といわれつづけているのが、むしろ不思議なくらい、人の手を求める業種だ。
もっとも、そうはいいながら、先日、目にした鶏卵は、なんと一つひとつの鶏卵に
賞味期限が黒く印字されていた。まさか、手作業のはずもなく、自動の印字機を
設備しているのだろう。わたしなどは、驚くばかりだ。

しからば、「物価の優等生」の地位を維持する裏の仕組みは、いったいどうなって
いるのだろうか。その一つは、家内工業的な経営に徹し、すべての経費を最小にして
いることだろう。それ以外の企業では、機械化や規模の拡大を進め量産効果をひたすら
追っている。増産し、出荷量を増やせば、それなりに収益が上がるためだ。なかでも
興味を引いた分析は、飼料業者が鶏卵の問屋を兼ねているため、それを容易にしている
というもの。つまり、飼料業者は、鶏卵業者に飼料を納めるが、同時に鶏卵を引き取る
という仕組みがあるのだ。一種のバーター取り引きのごとくで、鶏卵業者は、
仕入れ額に相当する一定の額の鶏卵さえ納めれば、余剰分ば丸まる収益になる。
その仕組みがインセンティブになって、新鋭の自動機械を競って導入し、設備の
近代化に熱心になるのも道理だろう。しかし、理論上、これでは鶏卵の産出量が無限に
増えつづけ、供給が需要を上回る。価格の上昇など困難なことが明白だ。鶏卵業には、
生き物が相手という宿命に加え、神経が休まる日がない。

わたしは、どうやら、そんな悪循環のなかの奇妙な仕組みのなかで、輸入機械を
販売していたことになる。このような、いわば動乱つづきの業界では、遠くオランダから
輸入する機械では、価格でも、納入後のサービスでも、悠長過ぎて満足してもらえない。
後日、商売の限界を感じ、止むなく撤退した。ちょうど1980年頃、日本のメーカーが、地の利を活かして攻勢に出てきたことと、彼らが試行錯誤を脱し、技術や販売で力を
つけてきたため、商売の環境がさらに厳しくなってきたこと、などが大きな理由だった。

わたしが商社に就職したほぼ40年前、オフィスの1階のパン屋で買ったゆでタマゴは、
1個が20円だったことをはっきり覚えている。最近のスーパーの目玉商品には、
10個入りパックで10円というのもあるそうだ。消費者としては大歓迎だが、鶏卵業が、
神経が休まらない日々のまま、やがて共倒れへの道を辿る恐れさえ感じる。

モノづくりの過剰が行き着く最悪の終末を迎えるのでは、消費者が救われない。

つづく

さぶみ・ごろう

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創刊日:2001-04-23  
最終発行日:  
発行周期:3週間毎  
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