ビジネス一般

日本の支え「モノづくり」

日本の「モノづくり」への賛美と懸念を頭に置きつつ世の森羅万象を考える。図案屋稼業の傍ら、かって商社に勤務した経験も振り返り、書き溜めた著者自身の備忘録でもある。

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《85》 「人造人間」と住む世界

2006/02/24

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    ┃モ┃ノ┃づ┃く┃り┃、┃あ┃れ┃も┃こ┃れ┃も┃ (続編)
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        --浪費なき日本の繁栄のために--


お詫び:
著者が中国の南昌(江西省)の大学で講師を始めるために同地に渡り、
パソコンの設定が遅れて遅配になりました。
お詫びします。

《85》 「人造人間」と住む世界

1999年の暮れ、2足歩行のロボットが出現した。

ホンダにつづいてソニーが、2足歩行のロボットを発表した。
奇しくも同じ暮れのこと、完成度の高さに驚いた。20世紀の技術の
目覚ましい進歩の歴史を締めくくるにふさわしい成果だった。戦後の日本の
「モノづくり」を特徴づけた両雄の快挙というのも印象に残る。かって、
ロボットを「人造人間」といったものだが、動作を見る限りそれに近いものは
なかった。21世紀の締めくくりには、温かい人肌のするロボットが完成し、
いっしょに住んでいるのだろうか。
ソニーとホンダは、その頃まで健在でいつづけるだろうか。

わたしは、商社の機械部門にいたせいで、1970年代、日本でにわかに
ロボットが実用化されことが、強い印象として残っている。いわゆる、「産業用
ロボット」といわれるものだ。1960年代、アメリカのユニメーション社
(当時)が「ユニメート」を完成、川崎重工がこの技術を買った。
やはりアメリカのAMF社が「バーサトラン」を完成、大同製鋼(当時)がこの
技術を買った。AMFは、アメリカのブランズウィック社と並び、ボーリング
ゲームを裏で支える自動装置の二大メーカーだった。当時日本中の老若男女が
競って熱中したボーリングゲームで世話になった全自動のシステムだ。ピンを
カウントし、一掃し、新しく立て直し、ボールを即時に送り返してくれた。
途中から、スコアも自動的につけてくれるシステムへと進化した。

わたし自身が担当した空気圧機器のメーカーも小粒ながら負けず、
オランダの航空機メーカー・フォッカーシドレー系の会社から技術を買った。
駆動方法が油圧か、空気圧かという違いはあったが、どれも台座に乗った横長の
胴体が、周囲360度を回転して方向を変え、上下し、その先の腕の部分が伸縮し、
あるいは回転し、その先の指が物体を挟んでつかむ、あるいは離すといった仕掛け
だった。つまり、電気信号のオンオフによって指令をつぎつぎに与えるのだが、
ある一連の動作を制御盤にプログラムして記憶させ、物体をつかみ取ったり、
食わえさせたり、他の場所に移動させるなどという作業をこなした。動きはやや
悠長だったが、人間が体力を消耗し、飽き飽きしてしまうような単純な繰り返し
作業に向いていた。例えば、パレット上に複数の箱を順序よく、ずれなく忠実に
積み上げるなどという作業が得意だった。が、「鉄腕アトム」とはほど遠く、
正直なところ、これをロボットというのか、という疑問を持つほどのものだった。

わたしの担当のメーカーは、ボーリングゲームのブームをうまく捕らえ、ボールの
メーカーへの販売が急伸した。ボーリングボールの原形は、お椀を二つ合わせた
ような樹脂の固まり(球)だ。これを一つひとつ切削機械に載せ、真球になるよう
削る。一連の手順として、床上に並んだ球や、台上に並んだ球を手で持ち上げて
切削機械に固定、切削が終わると球をはずし、台上の箱などに置く。本来は、
すべて手作業の繰り返しで、ゲームではないから結構な重労働になる。たまさか、
マイボールを持とうという気運が高まり、注文が殺到したため、メーカーでは、
時間外労働が当然のてんやわんやの忙しさで、ロボットが助っ人になった。

そんな頃、三田の東芝(当時)のデモ・フィルムで見たロボットは俊敏で、
スピードも速く、そのダイナミックな動きに圧倒された。さすが電動モータが得意
だけあって、油圧や空気圧でなく電力で駆動した。油圧は火気に弱く、空気圧は
精度に弱点があったが、電動式は清潔で、微細なコントロールが可能だ。自動車
メーカーの強い要請で開発したもので、複雑な形状の鉄板を接合するスポット
溶接の現場*に採用されるという話だった。自動車は、複雑な曲面を持った鉄板を
張り合わせて立体化する。各鉄板の端の部分を溶接して張り合わせる。当時は、
たくさんの溶接工がライン上のボディーに群がり、手作業で溶接していた。
天井から下がった溶接機を両手で抱え、要所要所へ移動させながらバシッ、
バシッと火花を散らす。一定の速さを保ちながら、しかも正確な点(スポット)を
狙って溶接する技術は並みのものでない。作業環境も想像以上に劣悪だったから、
溶接工のストレスは相当なものだっただろう。安川電機など、電動モータが得意な
メーカーが相前後して参入し、ラインの無人化が急速に進んだ。
http://www.honda.co.jp/kengaku/suzuka/fact/yousetu/001.html

万年筆や時計のメーカーまで、自社の生産現場の技術をそのまま商品化して参入、
ロボットメーカーを自称する企業が日本で急速に増え、その結果、自動車産業
ばかりか、日本の産業の多くがその恩恵に浴したことは間違いない。いっぽう、
先発のユニメーションもAMFも、いつの間にか消息を絶ってしまったのだから
皮肉だ。しかし、そんな産業用ロボットの華々しい活躍の裏で、ときに不意に
コントロールを失い、腕を振り回す暴走で人命が奪われる事故が少なからず
あったことも事実だ。

この21世紀、IT(情報技術)やBT(バイオテクノロジー)に一層の磨きが
かかるだろう。ヒトやモノの移動を遠く、速く、安全確実に請け負うMT
(ムービングテクノロジー)も同様だ。温かな人肌を感じさせる「鉄腕アトム」と
「フランケンシュタイン」の出現が、モノづくりの新しい成果になるかも知れない。
しかし、少なくとも「フランケンシュタイン」のような有害な「人造人間」を
生まないモノづくりが理想だ。

倫理の深化のスピードが、ロボットの進化に負けてはならない。

つづく

さぶみごろう

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創刊日:2001-04-23  
最終発行日:  
発行周期:3週間毎  
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