ビジネス一般

日本の支え「モノづくり」

日本の「モノづくり」への賛美と懸念を頭に置きつつ世の森羅万象を考える。図案屋稼業の傍ら、かって商社に勤務した経験も振り返り、書き溜めた著者自身の備忘録でもある。

全て表示する >

モノづくり、あれもこれも (続編) 《42》

2003/09/01

    ┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
    ┃モ┃ノ┃づ┃く┃り┃、┃あ┃れ┃も┃こ┃れ┃も┃ (続編)
    ┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛

                         --浪費なき日本の繁栄のために--

 《42》 エアクラフトセールスマン

大型の商談で、誇り高き政治家がセールスマンになる。

大統領や首相級の大物が、売り先の政府要人に直談判する。
雇用を促進するなど、自国の経済への波及効果が大きいことが動機だ。
航空機などの高額で後を引く商談になると、熱心さが増す。

わが国では、故・池田首相がセールスマンとして名を上げた。
しかし、意に反してセールスマンに祭り上げられたのが真相だろう。
1962年、フランスのドゴール大統領(当時)を訪ねて会談した際、
手みやげに持参したトランジスタラジオを贈った。それまでのラジオは、
真空管式だから消費電力が大きく、バッテリーも大きなものが必要だった。
ポータブルといっても、大型辞書ほどの大きさと重さがあった。1955年、
トランジスタを組み込んだポケッタブルラジオを、ソニーが初めて開発、
日本の家電メーカー各社が後追いし、日本を代表する輸出製品に成長した。
手渡しながら、得意満面で効能を述べた池田首相の姿が目に容易に浮ぶ。
同大統領をして「トランジスタセールスマン」といわしめ、話が外に漏れた。
コチコチの軍人上がり、軽蔑の意味を込めた池田評だったと分かる。

ところが、ドゴール以後、池田も負けていられなくなった。
フランスには、大統領と首相がいる。諸外国を手分けして表敬訪問し、
兵器まで売り込む。絶妙のタイミングと手腕は、他国の及ぶところでない。
1986年、日本政府は、フランスから要人輸送の専用にヘリ3機を買った。
同年の東京サミットで使用したが、当時は、旅客機も戦闘機もヘリも、
アメリカ製一辺倒だった。政治決着とはいえ、素人目からも唐突に見えた。
新聞は、中曽根首相がミッテラン大統領の口説きに屈した、と解説した。
この頃、日本の輸出攻勢が止まらず、ヨーロッパが悲鳴を上げていた。
貿易不均衡の是正という大義名分も、ミッテランに味方した。

それより前の1981年、エアバスA300が日本で初就航した。
フランスやドイツ、スペイン、イギリスなどが共同開発した旅客機だ。
ダグラス(当時)とボーイングなど、アメリカ勢が独占する日本市場を狙い、
英国のサッチャー首相も得意の剛腕で攻め、日本政府は逃げ場を失った。
やむなく、大手の日航や全日空に同機の新規導入を打診した。しかし、
両社ともあっさり断ったらしい。これに困り果てた政府は強硬策に訴え、
東亜国内航空(現・日本エアシステム)に押し込んだ。当時の同社は、
ローカル路線を飛ぶだけで、300席もある初の大型機となれば手に余る。
見返りに、日航や全日空が独占するドル箱路線への割り込みを許可した。
同社は、A300の導入を契機に、日航と全日空に肩を並べることができた。
1988年、悲願の国際定期便を成田とソウル間に開設した。

アメリカによる売り込みの激しさも、例外でない。
貿易の不均衡が大きい相手だから、スケールも大きく、勢いも強い。
田中首相(当時)を巻き込んだ「ロッキード事件」が、忘れられない。
日本は、ドル減らしの方策として、旅客機などの緊急輸入を提案していた。
1972年、ニクソン大統領は、ハワイ会談で暗にロッキードを推した、
と伝えられている。違法な裏工作も仕組まれたため、先ずアメリカで露見、
日本にまで波及して田中首相が失脚した。この「トライスター*」は、
全日空が購入し、1974年、羽田と那覇の間で初就航した。私見だが、
同格のDC‐10の後部エンジンの取りつけは、むき出しで格好が悪い。
対して、なだらかなケーシングで覆った「トライスター」が好きだった。
すでに全日空になく、ロッキードは、旅客機の生産から撤退した。
http://www10.plala.or.jp/twinky/25yshnd.html

政府専用機には、ボーイングの「ハイテクジャンボ」が採用された。
初フライトは1993年のことだが、アメリカの歴代の大統領から、
ドル減らしの格好の材料として、購入を執拗にすすめられていた。
千歳空港の脇の航空自衛隊に2機が待機し、首相などが外国を訪問したり、
国際会議に出席する際に出動する。自衛隊員が、乗員の役をすべて担うが、
軍用機とは勝手が違ったらしく、機長の候補者が試験に繰り返し落ち、
関係者をやきもきさせた時期があった。紛争国の邦人救出にも緊急出動する。
世界第2位の金持ちの国、贅沢をとがめる声はなかった。

航空機の売り手にとって、ビジネスのうま味が際立って大きい。
買い手の初期投資が大きく、安全確保と維持という大義名分のもと、
機材の供給と更新、要員の育成など、法にも守られ、うま味が後を引く。
さらに、飛ぶ目的は同じでも、国やメーカーによって開発思想が微妙に違う。
運航の現場は、ジャンボ一途、エアバス一途、というような単純化を好み、
異質の機体や機種を混在させる運航体制を嫌う。複雑化すればするほど、
慣熟までの時間がかかり、もっとも重要な安全運航が脅かされるというのだ。
日航と全日空が、エアバスA300の新規導入を断ったのも理解できる。
しかし、特定の買い先へ過度に依存すれば、大事な競争原理が働かない。
やり繰りがややこしいが、買い手側は、浮気の余地を残すことが賢明だ。
ともあれ、売り手側は、シェア争いに負けては、元も子もなくなる。
エアラインを巻き込み、アメリカとヨーロッパの確執がつづく。

大物のエアクラフトセールスマンの暗躍が止まらない。

つづく

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2001-04-23  
最終発行日:  
発行周期:3週間毎  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。