ビジネス一般

日本の支え「モノづくり」

日本の「モノづくり」への賛美と懸念を頭に置きつつ世の森羅万象を考える。図案屋稼業の傍ら、かって商社に勤務した経験も振り返り、書き溜めた著者自身の備忘録でもある。

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モノづくり、あれもこれも (続編) 《36》

2003/05/04

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    ┃モ┃ノ┃づ┃く┃り┃、┃あ┃れ┃も┃こ┃れ┃も┃ (続編)
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                         --浪費なき日本の繁栄のために--

 《36》 COACHが採った戦略

カバンなどの身につける袋ものに、昔から興味がある。

本来の包む機能に、ファッション性が不可欠なところが面白いからだ。
使い勝手とオシャレの要素を上手に組み合わせた選択の冴えが、持ち主の評価を高める。
稼業のロゴマークづくりにも似たところがあり、TPOに耐える全天候型の実用性と、
人々の琴線に触れ、持ち主の自尊心をも満たす心地よさを兼ね備えることが求められる。
ときに、少々の遊び心があるカジュアルな雰囲気もほしくなる。

日本では、女性もののバッグというと、圧倒的に有名ブランドが巾を利かす。
有名ブランドに過剰に執着するのは、個性を捨てるようで、邪道といえなくもない。
むしろ、世にはびこる無名ブランドに、工夫を凝らした優れものがいくらでもある。
自分なりのマイブランドをつくり、使い勝手のよさと個性的なファッションを楽しむ、
それこそが、大人の本当のオシャレというものだろう。

1980年代、COACH*というバッグに初めて出逢った。
今でこそ、アメリカ発の、知る人ぞ知る有名ブランドだが、日本では無名だった、と思う。
出張先のマンハッタンでの休日、エンパイア・ステート・ビルの足下のデパートに寄った。
1階の売り場の資生堂やカネボウの元気な進出振りに感心しながらブラブラしていると、
婦人ものの革のバッグが目立つコーナーに出くわした。これぞアメリカといいたくなる、
やや無骨なデザインながら、逆に素朴さが好ましく、温もりを感じさせる品々があった。
家内と義理の妹のために、小振りのショルダーバッグを色違いで2つ買って帰国した。
その後、ほかのデザインも買って来るよう、リクエストが出た。
http://ginandit-ld.hp.infoseek.co.jp/link/coach.html

当時、わたしは工作機械をアメリカに輸出していた。
マンハッタン島の脇のロング・アイランドに販売会社を置き、そこから全米に売った。
アメリカは、繊維製品、鉄鋼、自動車、半導体と、進出止まない日本製品で溢れた。
工作機械も、絶対額は少ないものの、市場を占拠する勢いがあった。以前にも書いたが、
レーガン政府は、軍を支える産業が、日本の機械なしでは成り行かなくなる事態を恐れ、
当時の通産省に輸出規制を自発的に行うよう働きかけた。業界は渋々ながら説得に応じた。
ことごとく苦戦するアメリカの企業を見る中で、COACHと出逢った。

COACHが日本に進出したと知ったのは、後年のことだ。
職場のT嬢が財布を落したとかで、同情した彼女の同僚の男性がカンパを募った。
わたしも応じ、みんなで贈った財布が、何と三越で選んだというCOACHだった。
ブランドものに目ざとい若手社員の間で、すでに名が通っていたらしい。
事実、1988年には、三越を通し、日本向けの販売を開始した。
やがて三越の手を離れ、東京の山手線の外側の日比谷に直営店を構えた。しかし、今や、
150メートルほど銀座寄りに出世、山手線の内側の数寄屋橋交差点脇に移転を果たし、
老舗のエルメスと軒を並べている。バッグのデザインで見ても、斬新さが飛躍的に増し、
初対面以来の「バッグのCOACH」という、わたしの古いイメージが見事に消えた。
材質も皮革に止まらず、品揃えも格段に豊富になっていることが驚きでもある。
秘かにマイブランドにしていた愛好家は、少なからず困惑したに違いない。

どうあれ、COACHを日本に持ち込み、商売にした人物は偉い。
不思議に思うところだが、そもそもアメリカの企業というのは、日本とたいへん違い、
海外への進出を熱心には望まない。COACHは違った。三越の手引きがあったとはいえ、
用意周到な戦略で、老舗の胸を借り、ブランドを全国に浸透させ、実績を上げて自立した。
その間、新しいアイデア製品を日本市場に間断なく投入したことも、大きな支えになった。
この時代、フランスやイタリア発の強敵と果敢に競っているのだから見上げた度胸だ。
同じアメリカ発のTIFFANYも、珍しい例だろう。

最新号(4月26日発行)の「週間ダイヤモンド」の特集が面白い。
女性1226人による13業種、116社が対象の「ベストサービス企業ランキング」で、
「顧客満足度」を調査している。「高級ブランド」の業種の間では、ルイ・ヴィトン、
グッチ、プラダ、シャネル、エルメスの順に並ぶ。全13業種、116社のランキングでは、
東京ディズニーリゾートを筆頭に、ルイ・ヴィトン14位、グッチ40位、シャネル40位、
プラダ55位、エルメス57位とあった。どん尻の116社目が外食産業のCASAだが、
試しに、COACHとTIFFANYを探したところ、2つとも見当たらなかった。
つまり、116社からも漏れ、まだマイナーな存在であることが分かる。

アメリカ発というと、通常は物騒なものが目立つ。
自衛隊が装備する戦闘機やヘリ、イージス艦に加え、最近の注目はクラスター爆弾だった。
実用性だけで、ファッション性は無縁だから、図面を買って国産化すれば用が足り、
愛想もない。しかし、物騒でない、アメリカ的な温もりに満ちた商品なら大いに歓迎したい。
排他的といわれる日本の市場も、ブランドものには目がないのだ。

つづく

さぶみ・ごろう

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創刊日:2001-04-23  
最終発行日:  
発行周期:3週間毎  
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