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日本の支え「モノづくり」

日本の「モノづくり」への賛美と懸念を頭に置きつつ世の森羅万象を考える。図案屋稼業の傍ら、かって商社に勤務した経験も振り返り、書き溜めた著者自身の備忘録でもある。

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モノづくり、あれもこれも (続編) 《35》

2003/04/07

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    ┃モ┃ノ┃づ┃く┃り┃、┃あ┃れ┃も┃こ┃れ┃も┃ (続編)
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                         --浪費なき日本の繁栄のために--

 《35》 先端技術が黙る安全保障

日本初の情報収集衛星が、打ち上げに成功した。

打ち上げのきっかけをつくったのは、北朝鮮のミサイル「テポドン」だった。
1998年8月、テポドンの2段目と3段目が三陸沖に落下したらしい。北朝鮮は、
多段式ロケット「白頭山1号」を使い、人工衛星「光明星1号」を飛ばした、と説明した。
しかし、計算間違いか、地球の引力圏を脱出するパワーと速度がなかった。1970年4月、
中国が初の人工衛星「東方紅」を打ち上げたとき、国歌を電波で高らかに流しながら飛んだ。
しかし、北朝鮮が得意の、プロパガンダを声高に流す新入りの衛星は見つかっていない。
ために、ミサイルと断定された。しかも、日本の上空を飛び越えたと知れて大騒ぎになった。
日本は、この騒ぎに乗じるように、情報収集(偵察)衛星の開発に急いで取り組んだ。
北朝鮮の自業自得というべきか、頭上を飛ぶスパイにみすみす全身をさらす始末になった。
無用な騒ぎを起こした結果、大損したのは北朝鮮だろう。

偵察衛星の開発は、1998年11月、小渕内閣時代に閣議で難なく決まった。
テポドン発射から3ヶ月という速さだ。平和利用を国是としてきた日本の宇宙開発が、
安全保障の領域に踏み込んだ一瞬だった。衛星の制御や収集した情報データの分析などは、
経験を積んだ防衛庁でなく、内閣府の「内閣衛星情報センター」によって一元管理される。
しかし、実質は、同庁や警察庁、科学技術庁の専門家によって構成されている。かってなら、
国内外からの強い反発の声が上がったはずだが、そういう記憶がない。今回の打ち上げでも、
メディアを通して知る限り、反発したのはロシアでも中国でもなく、北朝鮮だけだった。
こと北朝鮮に関わると、従来なら難題のはずの案件が、歯止めなしに素通りする。

わたしは、日本のロケットの話について、2人の科学者を思い出す。
ひとりは、東工大の桶谷繁雄助教授(1910〜1983)だ。講演のタイトルは忘れたが、
1958年頃、通っていた高校の依頼で来校し、話をされた。科学分野の評論活動に熱心で、
当時のアカデミーの人にしては珍しく、メディアへの露出度が高かった。その年の夏休み、
学生数人を連れ、富士重工のスクーター「ラビット」でヨーロッパを巡るという計画があり、
その全貌を熱く語った。今や「世界のオザワ」として有名になった指揮者・小澤征爾が、
同じ「ラビット」を借り、単身ヨーロッパに向けて神戸を経ったのが1959年という。
ちょうど同じ時期になるが、この頃はスクーターも高価で、個人で持つことが難しかった。
ましてや、学生の身分でヨーロッパに行くなど、うらやましい限りだった。

その講演で、日本が開発するロケットの話が出た。
1955年、東大生産技術研究所の糸川英夫教授(1912〜1999)が、直径13ミリ、
全長230ミリという玩具のような「ペンシルロケット」を、水平発射したニュースがあり、
新聞が大きく取り上げたから知っていた。話では、糸川教授が狙う最終の目的というのが、
「大平洋の超高層を超音速で飛ぶロケット輸送機」にあると聞いて度胆を抜かれた。同時に、
小さなペンシルと輸送機という取り合わせの、想像を絶するコントラストにも驚かされた。
小さくスタートし、研究を重ねて大きく進化させる科学者の開発手法にも感心した。

日本のロケットは、開発元が2系統からなる*。
ひとつは、文部科学省の宇宙科学研究所が開発した中型のM5だ。輸送能力として、
1.8トンの物体を高度250キロの低軌道まで運べるという。固形燃料の使用が特徴で、
ペンシルロケットからベビー、カッパ、ラムダ、M(ミュー)へと進化し、1970年2月、
ラムダ4S5号機が、中国に先立つこと2ヶ月、日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げ、
日本は、旧ソ連、アメリカ、フランスにつぐ、世界で4番目の衛星打ち上げ国になった。
この系譜のロケットは、研究開発を2005年までに終える運命にある。
http://www.sf-fantasy.com/magazine/serials/develop/04.html

もうひとつは、特殊法人・宇宙開発事業団が開発した大型のH2Aだ。
液体水素と液体酸素を燃やし、高度36000キロの静止軌道に2トンの衛星が運べる。
1994年、H2ロケットが、海外から導入したブラックボックスのままの技術を一掃し、
純国産技術のロケットとして種子島宇宙センターから打ち上げられた。しかし、コスト高で、
人工衛星の打ち上げを請け負う国際市場への参入が困難なため、新しくH2Aを完成させた。
輸入部品を一部に採用し、H2と比べ、部品数で2割減、打ち上げ費用で半減させたという。
今回の日本初の情報収集衛星は、この系統のH2A5号機によって打ち上げられた。
今後は、両系統の混合型ロケットや、さらには民営化へと進む計画がある。

北朝鮮が、核兵器の開発に強引に手を染めようとしている。
そんななか、日本の動向が海外から注目されている。幸いなことに、核武装を待望する声を、
国内で大っぴらに聞くことはない。しかし、今後の北朝鮮の動きが不穏になれば、
待望論が急速に芽を吹く素地はある。腰を抜かすのは、韓国、中国、ロシアに限らない。
アメリカは、日本をイギリスにつぐ同盟国と認めつつ、半世紀前の悪夢を忘れてはいない。
日本の偵察衛星は、やや精度が低いから目こぼしがあった。核武装なら、そうはいかない。
北朝鮮が再び騒ぎを起こし、日本が不毛な論争に煩わされることがないよう願う。

つづく

さぶみ・ごろう

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創刊日:2001-04-23  
最終発行日:  
発行周期:3週間毎  
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