文学

彼の声

この世界について、この社会について、この時代について、未来について、過去について、人々について、自分が日頃感じていることを率直に語る。

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彼の声 2017.3.1 「武士道」

2017/03/02

天下泰平だった頃の江戸時代においては、
主君が死ねと言えば死ぬことが、
建前としての武士道精神だったかも知れないが、
戦国時代においては弱い主君を裏切って
より強い別の主君に仕えるのが当たり前だっただろうし、
時代状況に合わせて武士道精神も変わっていくのは当然であるが、
明治天皇が亡くなった後に殉死した乃木希典は、
そもそも天皇は武士ではなく公家だし、
乃木希典ももとは武士だったが軍人だし、
長州藩の同郷の数多くの知人たちが士族の反乱などで切腹しているし、
日露戦争では二人の息子を始め数多くの戦死者を出してしまったし、
死に場所を探していたのだろうから仕方がないにしても、
当人は武士道精神に則った死に方をしたのだろうが、
それは時代状況に合わない武士道精神だったことになるだろうか。
またそこからさらに時代が下って三島由紀夫の割腹自殺ともなると、
彼が皇国主義者として知られていたとしても、
やはりその対象は武士ではなく天皇だし、
そもそも三島由紀夫は武士でも軍人でもなく小説家だし、
果たしてそのハラキリパフォーマンスが
武士道精神の表れなのかと言えば、
当人は武士道精神に則って自決したのだろうが、
では腹を切って自殺すればそれが武士道精神なのかとなると、
現代にもいるかもしれない武士道精神の体現者に問えば、
そんな単純で人を馬鹿にしたような解釈では怒られてしまうだろうが、
実際に江戸時代は比較的平和で大規模な戦闘は少なかったから、
武士が武士としての働きができずに、
単なる役人か官僚でしかなかったわけで、
武士も武士道精神も形骸化していたはずで、
その時代の武士道精神というのは、
単なる礼儀作法の類いだったのではないか。
ある意味では世の中で礼儀作法ほど大事なものはなく、
礼儀をわきまえない人はまともに扱ってもらえない面もあるから、
そういう面ではその時代の武士道も
武士にとっては必要不可欠だったのだろうが、
少なくともその時代の武士道精神と、
現代もごく一部で愛好されているらしい武士道精神は、
その意味合いが全く違うだろうし、
要するに戦国時代の武士と江戸時代の武士と現代の武士道愛好家とは、
中身の全く違う存在なのではないか。

そんなことはわかりきっているかもしれないが、
人々が思い描くイメージとしての武士道精神が、
各時代に合わせて様々に移り変わる武士道精神のうちの
どれなのかと言えば、
たぶんどれでもなく、
それは架空の武士道精神でしかないだろうし、
大方が時代劇などでよく出てくる切腹シーンなどから
妄想されたものだろうし、
罪を認めて自ら責任をとって腹を切るのは潔く、
男らしいような態度に思えて、
過酷なことを平気でやってのける精神力の強さに感動して、
それが武士道を連想させるのだろうが、
それも実際に江戸時代に切腹した武士たちが
どんな心境で腹を切ったのかは、
現代の人たちには知る由もないことかもしれず、
当時の文献などに切腹する時の精神状態が記されているとしても、
それは辞世の句の類いだろうし、
普通はそういう時は心境を詩的に美化するものだから、
そういう句を読むと余計に感動してしまうのでないか。
そしてそういう良いイメージとしての武士道精神が、
メディアによって都合の良い場面で
都合良い意味合いで都合よく活用されて、
例えば日本のスポーツ選手が海外で活躍すれば、
何でもかんでもサムライだし、
保守系の大物政治家が不祥事の責任をとって
涙ながらに役職を辞任すれば、
これぞ武士道精神だなんて喧伝する人たちまでいるし、
日本の伝統を重んじているにしては
チャラすぎるような気がしないでもないが、
もともとが形骸化した礼儀作法でしかないなら、
茶道や華道などのように、
そこにいくらでも肯定的で厳かな意味づけをできるのかもしれず、
一般的に〜道と呼ばれる形態は、
本来の実用的な意味合いが抜かれて、
型だけの形式化された形骸化を被ると、
その抜け殻の空疎な部分に
使用者の都合に合わせた中身を詰め込めるのであり、
そういう処理を好むのは別に日本固有の習慣でもないのだろうが、
うがった見方をするのなら、
大和魂とか日本精神とかいうイメージの神髄は
そういうやり方にあるのではないか。
そしてそういう見せかけに騙されてはいけないというよりは、
騙されたつもりになっていれば、
空気を読んでいることになるのだろうし、
そういうものと理解している限りは、
本気で信じることもないのだろう。 

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創刊日:2001-03-26  
最終発行日:  
発行周期:不定期  
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