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蔵元日記

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蔵元日記【上撰の包装】

2009/06/14


蔵元日記【上撰の包装】
 

旭酒造もアルコール添加した普通酒がまだまだ主力だった、そろそろ2
0年前の話です。「ほんとにやるんですかぁ?」と、私。「いや、やら
なきゃならんのです。理事会で決定しましたから。来月から、全組合員
挙げて実行いたします」と力強く答える酒造組合の事務局長。
 
何を話しているかというと、当時騒がれ始めていた資源保護の問題に鑑
みて一升瓶の包装を廃止するという酒造組合の通達。これについて「本
当に実行するのか」と言う私の疑問に対する県の酒造組合事務局の返答
です。
 
実は、その頃、上撰の一升瓶はすべて包装して出荷しておりました。こ
れは酒蔵にとって大きな労役負担になっていました。少しは紫外線をカ
ットし品質保護の効果があるといっても、お酒屋さんに品質というもの
に理解いただいて紫外線の当たらないところに在庫していただくとか酒
にも品質がありそれは保存状況や鮮度が影響するということを理解して
もらう方がはるかに効果的です。要は、各酒蔵が販売増強のためのサー
ビスとして始めた過剰包装が常態化してしまい、横並びでみんな引くに
引けなくなったというのが正確なところ。
 
こんなことに経費をかけるぐらいならもっと原料米や精米など原価を掛
ける方向に振って、本質的な品質を追求するほうがよほどお客様にとっ
て幸せだったと思います。
 
ですから決議そのものは理解できるものでした。しかし、組合員が足並
みをそろえることができるんだろうかと思い、電話した当方への返事が
冒頭の話です。
 
今まで、しなければならないことや問題点があったとしても理想からは
程遠い現実論ばかり繰り返してきた酒造組合としては珍しい決定です。
「本当にみんな実行するんだろうか?」とかなり不安はありましたが、
あそこまで断言するからにはと「そんなことして売れなくなりますよ」
という社内を説得し通達どおり翌月から実行することにしました。
 
で、翌月。なんと、私どもの販売地域の県内酒蔵はそんな通達はどこ吹
く風とみんな包装して出荷してるじゃないですか。一社だけ半分ほど無
包装で出荷していましたが、あとは皆無。見事なほどでした。これが日
本の大人の対応なんですね。
 
「参ったなぁ」と思いましたが若かったんですねぇ、今更振り上げた拳
を下げたくなくてそのまま無包装で突っ走りました。結果としてその月
からの上撰の売り上げ実績は惨憺たるモノでした。
 
それでどうなったかといいますと・・・・・、実はこれが大正解だった
んです。その年の需要期はそれまで売るのに苦労していた純米吟醸や大
吟醸が何をビックリしたのか大都市圏を中心に前年比200%を超える
勢いで売れ始めました。当時の旭酒造の製品ですから、今のように実質
本位のパッケージでそんな高級酒が売れるべくも無く、掛け紙がかかっ
ていたり小印シールや裏張りがいくつも張ってあったり出荷の手をとる
商品ばかりでした。
 
また、これまでの各セールスが自社のトラックで積んで出る手馴れた方
式と違い運送会社の小口便に乗せる出荷方式は慣れていませんから伝票
や割れ物シールなどを書いて貼り付けるだけでも右往左往。その上当時
は、こんな山奥の小さな酒蔵まで宅急便のトラックは上がってくれませ
んでしたから営業所までこちらから持ち込まなければなりません。手が
掛かる事おびただしい。
 
ですから、この年もそのまま手のかかる上撰の包装を続けていたらとて
もじゃないけどこの新たに生まれて来始めた需要に応える事ができませ
んでした。
 
しかしながら、結局あの事務局長さんの力強い断言はなんだったんでし
ょう。あれは「酒造組合だって本当はこうなったらいいなと考えている
」という意味であって、酒造組合「語」としては「こうする」という意
味ではなくて「これが理想と考えている」ということです。つまり建前
と本音に違いがあり空気を読むということがこの世界では重要だったわ
けです。
 
ところが、基本的にその能力が欠落しているというかその気のない私に
は分らなかったんです。私の能力の欠落が瓢箪から駒を呼んだそんな出
来事でした。

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創刊日:2001-01-30  
最終発行日:  
発行周期:第1・第3金曜日  
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