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Wing-Mel No.362 実写マンガ映画『パール・ハーバー』(上)

2001/07/06

 _/          _/  _/                      実写マンガ映画
 _/          _/      _/_/_/      _/_/_/   『パール・ハーバー』(上)
_/    _/    _/  _/  _/    _/  _/    _/                泉 幸男
 _/  _/  _/    _/  _/    _/  _/    _/      H13.07.06 4,407部
 _/  _/      _/  _/    _/    _/_/_/         JOG Wing No.362
                                _/     国際派日本人の情報ファイル
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     伊勢雅臣です。私の愛読するメールマガジンの一つに「国際
    派時事コラム」があります。筆者の泉幸夫さんは、国際的に活
    躍する商社マンです。今回は、出張中のアメリカから、映画
    「パール・ハーバー」に関する興味深いレポートを送られてき
    ましたので、特別に許可を得て本誌に転載させていただきまし
    た。
    
■「国際派時事コラム」のお申込みは、以下のページでどうぞ
http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/mailmag.htm


■■■■■■国際派時事コラム「商社マンに技あり!」■■■■■
     
          実写マンガ映画『パール・ハーバー』(上)     
   
■■■■■■■■■平成13年6月28日発行■■■■■■■■■

        6月21日の東京ドームでの本邦初公開は、
              ニューヨークタイムズも3面で大きく報道した。
              「この映画を見てあなたは何かを学んだか?」
              と 観客に質問するハワード・フレンチ記者。
              いつもながら違和感のある記者である。
       
              コラム子も6月9日にこの映画を見た。 
              日本版は若干の削除シーンありと聞くが、
              日本の新聞を読んでいないので詳細不明。
              米国版にもとづいて論評してみたい。
          
     当地の新聞に転載されている日本の映画ビラを見ると、「本
    年度 全米サマー・シーズン No.1大ヒット!!」などと書いて
    あるが、これは真っ赤なウソだ。

■ 米国のヒット映画状況の実際は? ■

     No.1 大ヒットは、Shrek というオトギ話CGアニメ。これ
    が今のところ累積で2億1580万ドル稼いでいる。パール・
    ハーバーは第2位で、累積の稼ぎが1億7210万ドル。 
    (いずれも、6月25日付ニューヨークタイムズ掲載の ACNie
    lsen EDI 統計から。)

     当地の新聞を見ていても、パール・ハーバーの広告は日に日
    に小さくなりつつある。先週の映画ランキングでは、パール・
    ハーバーは第7位。ちなみに第1位は The Fast and the Furi
    ous という自動車レーサー映画で、これがちょうど封切り週に
    あたり、一気に4160万ドル稼いでいる。2位は Eddie Mur
    phy 主演の「ドリトル先生2」だ。Shrek は、なおも5位につ
    けているから、累積売上げでパール・ハーバーに抜かれること
    はないだろう。

     この夏のほんとの No.1大ヒットは、実は6月29日封切り
    の哲学的SF映画A.I. - Artificial Intelligence ではない
    かと言われている。スピールバーグ監督の作品。昭和57年の
     E.T. - The Extra-Terrestrial を超えるか?と話題になって
    いる。精巧なロボットが日常生活に浸透した未来世界で、人を
    愛することをプログラムされた少年ロボットが作られた。その
    愛の行方は? という映画。

     His love is real. But he is not. (その子の愛は本物だ。
    でもその子は作り物。)というのが広告コピー。

     これって、鉄腕アトムやエイトマンのころから、日本では繰
    り返し取り上げられてきたテーマではないか。スピールバーグ
    さん、40年遅いのでは? まさか、ライオン・キング顔負け
    の「パクリ」ではないでしょうね!

■ ニューヨークタイムズの酷評 ■

     日本のマスコミが、パール・ハーバーの広告欲しさにどんな
    オベンチャラを書いているのか、残念ながら分からないのだが、
    米国ではこの映画、売上げの割に何かと酷評されている。ラン
    キング順位が急速に落ちているのも、そのせいかもしれない。

     ニューヨークタイムズは、毎週金曜日に「週末芸能特集」の
    別刷りがつく。ここに「映画案内」があり、注目映画の短評が
    載っているのだが、パール・ハーバーについての批評が痛快だ。

    ≪最初の1時間あまり、喧騒と支離滅裂のアクションロマンス
    をさんざん見せられた挙げ句、ようやく日本の爆撃機が登場す
    ると、何かほっとするようなものを感じるかもしれない。少な
    くとも、あの耳をつんざくような音楽や、場違いなセリフ回し
    の数々は、諸々の爆撃によって吹き飛ばされてしまうから。

     たしかに、空中戦のシーンは真に迫っており迫力満点だ。し
    かし、技術的にかくも見事な仕上がりの映画が、構想そのもの
    においてかくも破綻(はたん)することは珍しい。

     アフレック、ハートネット、ベッキンセールの3名の俳優が、
    ばかげた三角関係の2人の米国人パイロットと看護婦を演ずる。
    ズッコケものの不自然な台本であるが、精一杯演じてはいる。

     しかし、映画そのものは、何かと吹聴されてはいるが、琴線
    にふれるような情感の描写は皆無と言ってよい。誇大広告に乗
    るなかれ。財布の紐を締めなさい。このテの映画が見たければ、
    レンタルビデオ店で  From Here to Eternity でも借りて見た
    方がいい。(スコット)≫

■ 日本の新聞でここまで書けるか? ■

     このスコット記者の映画評、6月15日、22日と、同じも
    のが載っていた。ニューヨークタイムズの定番批評なのである。
    辛口を自負するコラム子でも、ここまで直截(ちょくさい)に
    書けるかどうか。
  
     そして、パール・ハーバーの大広告が、この酷評の数ページ
    前にでかでかと掲載されている。映画会社とて、 天下のニュ
    ーヨークタイムズに、「酷評したら広告を出さないぞ」とは言
    えない。広告主の圧力など一切気にすることなくパンチをきか
    すニューヨークタイムズは、みごとな新聞ではないか。
  
     パール・ハーバーは、「歴史映画」としては多々問題があり、
    日本でも種々の批判が出ていると思う。当地でもいろいろな論
    評を読んだので、それは次回に取り上げることとしたい。

■ 病院爆撃シーンは許し難い歴史の歪曲ではないか ■

     コラム子が一番不満だったのは、軍病院の前に駐車してある
    救急車が爆撃されて吹き飛ぶシーンと、病院の前を逃げまどう
    美人看護婦をゼロ戦が機銃掃射しながら追いかけるシーンであ
    る。

     この看護婦は 結局、美人薄命の道をたどる。ロマンス映画 
    パール・ハーバーは、日本撃つべしの感情を盛り上げる1つの
    象徴として、この女性の死をクローズアップする。

     真珠湾攻撃そのものは、航空母艦をただの1隻も攻撃できず
    ただただ米国を怒らせただけの愚劣な作戦であり、この作戦を
    立てた山本五十六(いそろく)元帥は万死に値する。しかしそ
    れでも我々にとっての救いは、真珠湾攻撃があくまで敵国の軍
    事施設への攻撃だったという点だ。(一部に誤爆もあったかも
    しれないが。)

     ところが映画を見るかぎり、わが軍の爆撃機がか弱い女性を
    空から追いかけているではないか。

■ 常識で考えてみよう■

     さすがにこのシーンは、Time 誌でも問題にされている。
    Time 誌 の6月4日号の「実際には何が起きたのか」という記
    事で、真珠湾生存者協会の歴史家 Raymond Emory 氏(80
    歳)の発言が引用されている。

        ≪殺傷シーンが過剰だ。死亡した看護婦はいなかった。本
        隊に遅れて来襲する魚雷爆撃機などなかった。小規模爆発
        は映画ほど多くなかった。逆に、大規模な爆発は映画より
        も多かった。≫

      Time 誌には、当時の真珠湾の状況が 航空写真風に図解され
    ている。病院の南は石炭置き場、東は空き地、北と西は海だが
    艦船は1隻もいない。

      攻撃されていない軍事標的が、まだまだ基地周辺に山ほど残
    っているのだ。何を好んで、貴重な弾薬を使って基地対岸の病
    院を爆撃したり、撃墜されるリスクを冒して看護婦に機銃掃射
    したりするだろうか。

     常識で考えておかしいと思いませんか。
  
     海軍基地の北西には、海を挟んで  Pearl City という住宅
    地らしきものも見える。このPearl City 付近には10隻の艦
    船が停泊していたが、被弾したのは、いちばん沖にいた中型艦
    1隻のみであって、 他の小型艦9隻は無傷であった。この住
    宅地への攻撃も、皆無であったに違いない。

■ 珍妙なる日本のオンパレード ■

     普通の日本人なら一目見ておかしいと思うような、カリカチ
    ュア的日本が登場するのも不愉快だった。

     小型の鳥居の真ん中に、たらりと旭日旗(きょくじつき)を
    吊り下げた、珍妙なデザインのシンボル。これが日本海軍の研
    究施設に麗々しく据えてある。あまりに馬鹿げた代物で、さす
    がに日本版では削除されているのではないかと想像する。

     山本五十六が真珠湾攻撃を決断する会議は、野外の幕屋で行
    われ、幕屋の周辺には「尊皇」「興国」などと黒々と書かれた
    深緑色の幟(のぼり)が立っている。これまた到底ありえない
    光景なのである。やはり日本版では削除されているのではない
    か。

     兵士の褌(ふんどし)姿も出てくるのだが、この褌が珍妙。
    あたかも銭湯などでタオルで前を隠すときのように、腰に回し
    た紐からたらりと布切れを垂らした状態なのである。これでは
     後ろから見たら、大事なものが見えてしまうではないか! と
    思いきや、何と尻の方にも布切れが垂れている!!

      何で褌がこうなったのか不思議だったのだが、アメリカ・イ
    ンディアンの博物館のパンフレットを見て判然とした。この褌、
    何とアメリカ・インディアン流の褌なのである。

      真珠湾攻撃を前に、山本五十六がちぎる日めくり暦に、英語
    で大きく Sunday と書いてあるのは御愛嬌としても、 あれこ
    れの珍妙な日本はいったい何だろうか。専門家でなくとも指摘
    できる誤りがゴロゴロしている。
 
■ 60年経っても変わらぬ米国人流の無神経さ■
 
     製作に1億4000万ドルかけたと言われるパール・ハーバ
    ー。  しかし、映画の最後の配役・関係者一覧を見ていると、
    姓も名も日本名の人は Japanese Dialect Coach(日本語指
    導)の1人だけだった。アジア人顔の俳優たちは、日系や中国
    系の米国人なのである。

     日本についての描き方が、文化の基本的な部分で種々間違い
    があるのは、明らかに製作者のマネッジメントに問題がある。

     真珠湾の空中戦シーンのみごとな特殊撮影に巨額の投資をし
    ながら、昭和17年4月の東京「笹原兵器工場」爆撃のシーン
    はテレビの怪獣もの並みの安っぽさだ。中国での日本兵と米国
    兵の乱闘シーンも、日本兵はまるで仮面ライダーの無機質的な
    戦闘員を連想させる。

     それらはまあ良しとしよう。
  
     しかし、21世紀にもなって、明治時代の外国人見聞記もは
    だしの珍妙なる日本のオンパレードは何ぞや。日本関係の時代
    考証専門家を1名雇って、美術・服飾担当者と打合せさせれば
    済んだはずである。1億4000万ドルもかけながら、なぜそ
    こに思い至らないのか。

     このような米国人流の無神経さこそが、かつて昭和16年に
    も日本人を逆なでし、その12月の真珠湾攻撃へと日本人を駆
    り立てたのである。

     この映画を製作した米国人たちは、結局のところ、真珠湾か
    ら何も学んでいないのではないか。
    
    ===
    ■後記■
     今回の米国出張は実に長く、5月16日以来日本とはご無沙
    汰です。自慢にもなりませんが、5月23日以来、日本の新聞
    を目にしたのは6月9日の1度きり。映画『パール・ハーバ
    ー』について、日本でどんな論評が出ているか、全く知らずに
    書いています。読者諸賢のご存知のことばかり書いたコラムだ
    ったかもしれませんが、お許しのほど。

     日本の新聞を読まぬ分、ニューヨークタイムズとは毎日深い
    仲となりました。日本の新聞と異なり、長文の記事が多く、じ
    っくりと読ませてくれます。何しろページ数が多く、知的好奇
    心をかき立てる記事に事欠きません。

      東京駐在の Howard French 記者の ポンクラぶりは 一向に
    変わりませんが、同じ東京駐在でも  Stephanie Strom  とい
    う女性記者は なかなか優秀で、6月26日付の同紙には、小
    泉首相の30年来の右腕たる飯島秘書を取材した、みごとなル
    ポ記事が掲載されていました。

      400ページもある、電話帳のような日曜版など、犯罪的な
    資源の無駄遣いに思えたのが、今ではこれがないと週末が物足
    りない。人間まことに、慣れというのは恐ろしいものです。

      今回の出張期間中、日本関係の記事への反論投稿を何本か、
    ボストン・グローブ紙とニューヨークタイムズ紙に送りました。
    その辺のこともまた、このメルマガで書かせていただこうと思
    っています。

     さて、今週のメールマガジンの発行にも、北海道在住の畏友
    のお世話になりました。ちなみに、ホームページは 
    http://www.joy.hi-ho.ne.jp/nippon/
     わがホームページと合わせ、どうかご高覧のほど。

===
■発行者 泉 幸男 http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/
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