国際情勢

JOG Wing 国際派日本人のための情報ファイル

政治・経済・外交・社会・文化などの分野において「元気な日本」を作るためのオピニオン誌です。

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JOG Wing No.00 by CLICK INCOME

2000/04/28

 _/          _/  _/                       シベリア紀行(4)
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 _/  _/  _/    _/  _/    _/  _/    _/      H12.04.28 3,086部
  _/  _/      _/  _/    _/    _/_/_/        JOG Wing No.0161
                                 _/     国際派日本人の情報ファイル
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                     東 知世子(モスクワ在住)さんより

(4)巨大人工都市 ノボシビリスク

     着いたと思ったら、毛布もたたまずにおばちゃんはさっさと
    去って行った。残念ながら大陸の人間はときどき神経がすごく
    鈍い人もいる。その上、長年の旧体制ソ連の悪弊が根強く彼ら
    の行動の原点になっている。したがって、日本でまともな礼儀
    というものを身につけている人間なら誰でも、彼らのぞんざい
    さは時に極めて不愉快であることは確かだ。
    
     わたしの場合、いつも腹が立つと、「この百貫でぶ。太りす
    ぎて神経ってものが鈍ってるんとちゃうか!」と思ったりする
    くらいだが、スリムで一見美しく見える若い女性であってもそ
    の無神経さ、相手を見下したような態度は典型的なロシアの職
    務的あしらいである。

     しかし、私的な見解としてはたいてい男性はまともな態度を
    取ってくれることが多い。やはり相手が女性だということに大
    いに関係するようだが・・・

     列車を降りると、かなり方向音痴のわたしは訳も分からず、
    しかし立ち止まらずになんとかみんなの行く方に行ってみるこ
    とにした。(これはロシアの大原則である。人の少ない方には
    行かない方がいいことが多い)すると、駅前になんとか出られ
    た。

     しかし道のあまりの氷結の仕方に、大きなリュックを背負っ
    ていたせいもあって、シベリア最初の転倒!思いっきり尻を打
    った。めげずに即座に立ち上がる。この辺、やっぱりたくまし
    く生きるしかない。どんなに慣れたロシア人ですら、転ぶとき
    には転ぶのだから。ま、骨を折りさえしなければいい!

     たしか、駅前にホテルがあるとか書いてたはず・・・と思い
    きや、目の前にあった! すぐに直行。チェックイン。はい、
    440ルーブル。朝食付きであった。ちなみに今回はバス・ト
    イレ付きの7階の部屋である。ここでもらった紙を7階で見せ
    ると、鍵をくれるロシアに典型的なシステムであった。(各階
    に担当の職員がいるのだ)
    
     しかしまあ、いつもながらに、この60年代か70年代の銀
    色で、昔のSF映画かなにかに出て来そうなエレベーターが怖
    い。ガタンと着くし、登るときにチェーンの音までしてる。も
    しかして「切れるんとちゃうかなあ・・」さすがに不安になる
    が、モスクワでもごく一般的なアパートの旧式エレベータ(ま
    るで貨物用ではないかという、ただの箱が付いたような)など
    もっとひどいのもあって、こういう点に無神経なのは非常に危
    険な気がするのだが。おそらく点検なんて、してなさそうだ
    し・・・(それだけ安全にかけるお金がないのか)

     ま、なんとかたどり着いた部屋はまずまずだった。テレビ、
    ラジオ、冷蔵庫、バスタオルもあるある、眺めも悪くない。と
    いっても見えるのは、これまた旧式のバス(しかし色使いがソ
    連時代の車って、どこかレトロでかわいい。オレンジ、グリー
    ン、ブルーみんなどこか愛嬌があるのだ。車体もおとぼけなヘ
    ッドライトが、まんまるで目のように見えたり)がいっぱいと
    まっている駅前広場の雑然とした風景のみだが。電光掲示板に
    気温と時間も出ているし。うーん、なかなか便利。あっ、地下
    鉄マークもある。(Mのネオンサイン)

     そして、さっそく紅茶と市場で買ったハム、きゅうり、パン
    で軽く朝食を取ったわたしは勇敢にも出掛けて行くのだった。
    ちなみに大体、この日の気温マイナス7℃。日中はもう少し上
    がったようだし、滞在中はたいして寒くなかった。しかし、足
    元には要注意だ。地下鉄に行く前に帰りの切符を買う。駅構内
    が清潔、広い、豪華!モスクワの大きな鉄道駅はたいてい場末
    の雰囲気だが、地方ではまさに街の顔。警備もしっかりしてる
    し、(余談*帰りの待ち合い室で酔っ払いが叫び出したら、3
    0秒もしないうちに警官がきてどこかに連れていかれてしまっ
    た! 数的にも質的にも警備員の配置状況がモスクワの比では
    ない。しかもちゃんと仕事してるのが「えらい!」と単純に思
    った。しかし、よく考えるとよっぽど警戒すべき対象が多いの
    か?それとも単なる失業対策なのか?わたしは後者だろうと思
    うが)
    
     天井なんて高すぎて、見上げていたらこけそうになったくら
    いである。(ロシアの建築はだから内部に入らないと、よさが
    分からない気がする。この圧迫感のなさがわたしは好きだ)こ
    ういうところは完全に日本の負けだ。地方の鉄道の中心だって、
    ここまで贅沢に空間を使えていない。土地のあるなしの問題で
    なくて、天井の高さに対するこだわりとか、そういったものの
    伝統の違いか。
    
     とにかく、まるで田舎者のように感動しつつ切符売り場に向
    う。周りの人も親切だ。「あんたちゃんと買えてるか?」周り
    の方が心配そうだ。モスクワ時間での切符表示と、現地時間の
    時差を考えないといけない・・・など事情は確かに日本と違う
    ので慣れるまで、ちょっと戸惑うが合理的といえばシステムは
    合理的だし、慣れてしまえば、たいしたことではない。しかし、
    彼らの気持ちは有り難い。だから、「一応、これでもロシア国
    内線常用させてもらってるんでっせ!」と言いたいのを我慢し
    て、機嫌良く、親切には礼を言っておく。常に相手に対する感
    謝は忘れてはいけないのだ。

     次の目的は、なにをさておき劇場探しだ。地下鉄の前にある
    二軒のカセットテープ屋が大音響で張り合っていた。しかし、
    客もいないのに・・・趣味の世界に入ってるなあ、と思いつつ
    通りすぎる。まず、地図を買わなくては。キオスクの女性に劇
    場の切符を総合的に扱う「カッサ」について聞いてみた。が、
    やはりモスクワのように頻繁にはないらしかった。とりあえず、
    中心に行ってこの地方で指折りと言われるオペラ劇場を拝見す
    ることにする。

     ソ連の計画経済っていうものの恐ろしさは、こんなシベリア
    の果てまで、ほとんどまったく同じ規格で地下鉄を作ってしま
    うことからも感じられる。本当にうり二つというか、モスクワ
    の地下に戻ってきたかと思うくらいなのだ。ただ、なぜか車両
    内にテレビがあり、その上、後生丁寧にも「列車の忘れ物発
    見」の折には鉄道員か警察にご連絡を!!という大真面目な放
    送が流れていて、一瞬「不審物」のことかと思い、どっかの地
    下鉄事件を思い出したわたしだった。
    
     またまた、乗ってるロシア人もあんまり大差ないように見え
    る。彼らはいたって地味な服装で、あまりモデルチェンジしな
    い(というか大事に着るんですね、この点、偉いと思う)型の
    ものが多いせいか、どの街でも似たような格好で、しかも顔立
    ちも同じように見えて、持っているカバンまでなぜか同じ。
    (これが皮製のどうもアジアっぽく象をあしらった手提げなの
    だが、おばちゃんに人気らしい) 乗り換えの長い長い通路を
    くぐって、一駅で中心まで出た。出口もどこの駅でも大体2箇
    所あって、方面ごとに広場の名前などが書いてあるのだが、ひ
    たすら劇場を目指す。

     地上に出てびっくりしたのは、なんと目の前に2−3メート
    ルの雪。もちろん、雪かきの後、そうなっているのだが。市内
    でこれだけ積もるとは。地元の人に言わせても今年はすごかっ
    たらしい。
    
     その辺の人に聞いて、劇場の方向に向い、またびっくり。し
    かし今度のびっくりはちょっと強烈。でっかいレーニンとその
    仲間(というか、労働者とか共産党の民間軍人か?)が”デー
    ン”と立っているではないか。
    
     この像、本当に巨大なのだ。幅は10Mくらいだが、端から
    端まで、大体40M以上あるかもしれない。高さも10Mはあ
    りそうだった。しかも黒い鉄の塊!という感じで、ずんぐりし
    ている上にその切りだしたての生生しい質感が(要するにデリ
    ケートな作品でなく、一刀彫りというか直線的、キュビズムを
    思い出すような)なんとも言えず、荒荒しい。これに親しみを
    寄せる人がいたら、すごいと思うくらい、どこか人間を突き放
    す鼻息の荒いものを感じた。こんな血なまぐさい銅像の後方に
    あるのがオペラ劇場というのが、その不釣合いの哀愁がソ連だ
    なあ・・・とも思ったりしながら、とにかく眺めたおしてから、
    劇場に向った。

     だが、劇場もまた巨大だった。外観はどうしてかオーストラ
    リアのオペラホール(シドニーか)のようでもあり、プラネタ
    リウムのようなドームが合体したようでもあり、あんまりお世
    辞にも格好良くなかったが、これだけ大きいと威厳はある。や
    っぱりロシアは大きさで勝負らしい。

     とりあえず、一回くらい入ってみたいと思い、3月8日の女
    性の日にちなんだコンサートの切符を買う。けっこう高いなあ
    (100ルーブル=400円)と思ったら、有名なサンクト・
    マリンスキー劇場のオペラ歌手を招いての特別コンサートらし
    かった。

     街はけっこうにぎやかだが、いかんせん、道路が広すぎて歩
    いて場所を探す人にとってはいちいち向こうに渡れる地下道を
    探すのに骨が折れた。ここでも、一軒もマクドナルドは見なか
    った。さまよううちに、お腹が減ってきた。「腹が減っては戦
    はできん」がモットーのわたしは行き当たりばったりで”レス
    トラン”という表示のある地下に潜入する。大体、こういう街
    でレストランに出会うのは稀で、こういう機会は逃さないのが
    鉄則である。おそらく、モスクワのように無茶苦茶な値段でも
    ないだろう、と軽く考えながら。

     ドアを開け、一歩踏み込んだ瞬間、クラッとした。照明が、
    雰囲気が、インテリアがすべて外界と隔絶している。つまり驚
    くほどのセンスで統一された贅沢な空間がそこにあったのだ。
    もちろん、モスクワにはたくさんのレストランがある。しかし、
    けっこう高級が売り物で値段は取るところでも、センスの悪さ、
    店員の態度のひどさ、やかましい音楽など、どこか欠陥がすぐ
    目につくのだが。
    
     この店にはそういうもののかけらもない。それどころか、引
    きこまれるような雰囲気のよさ、快適さがあるのだ。まず、目
    に付いたのは椅子が凝っていて、黒い鋼でできているのだが明
    らかに注文生産の品である。流通品とちがう手作りの温かさが
    ある。カウンターの辺りのつくりも考えてある。その奥の棚の
    酒瓶の配置、テーブルクロスのチェックの色柄。そして、BG
    Mは波の音。飾ってある海賊風の人形やオウムもカラフルで洒
    落ている。接客もヨーロッパ的というか、とにかく垢抜けてい
    る。

     呆然としながら、テーブルの上のチューリップの一輪差しに
    気付いた。そう、こういう「シンプルかつ繊細」な感性がいつ
    も足りないと思っていたのだ。こんなところにあるとは。残念
    ながら食事は月並みだったが、目の保養だけで十分値打ちがあ
    った。後で聞いてみて分かったのだが、やはりこのインテリア
    はすべて地元のものらしい。イタリアやフランスにかぶれてい
    るモスクワの成金どもを笑ってやりたい気がした。いくら金を
    出しても、自らに見る目がなければ、どうせろくなものを選べ
    やしないのだ。その点、シベリアの人の方が賢いし立派だ。モ
    スクワよりよっぽど、見こみありだ!

     それから、同じ道をぼちぼち歩いて行くと、展覧会らしき掲
    示が出ている小さな木造の家に行き当たった。「犬も歩けば棒
    に当たる」式に入ってみる。入ってこられた方も今回はびっく
    りだったらしい。しかし、大変気持ち良く迎え入れてくれた。
    
     ただ、その展示は大変悲しい思いをするものだったのだが。
    それは、チェチェンで戦死した若い兵士の遺品や写真、そして
    その孤児たちの描いた絵だったのだ。清潔なこじんまりした部
    屋だった。彼女は謙遜して、「自分はちゃんとした担当者でな
    いから説明がまずいかもしれないけど・・・」と言いながら、
    ぽつりぽつりと話してくれた。
    
     写真はみんな白黒だった。どの写真の若者も爽やかに笑って
    いて、もし戦闘服を着ていなければ、まるでどこかにキャンプ
    に行ったボーイスカウトみたいに見えた。でも、もう彼らはこ
    の世にいないのだ。遺族がここに集まって、自分たちの身の上
    を慰め合うらしい。彼女は言った。「戦争によってチェチェン
    に平和を取り戻せたわけでもないし、いいことなんてなにもな
    いですよ。この写真の若者は20でした。今年の1月に戦死し
    ました。一体、なんのために戦争をしているのか・・・」子供
    の絵にも戦車などが描かれていた。こんな平和な街で暮らす人
    々にさえ犠牲を強いる戦争の意義がいかなるものか、本当に心
    からこの理不尽さに怒りを感じた。子供たちは一体、この戦争
    をどう受けとめているのだろう。

     その後、学研都市のようなところにも行ったが、要するに産
    業も停滞し失業も多く都市より徴兵しやすい(モスクワの地下
    鉄では、徴兵拒否を呼びかけるビラをよく見かける)このよう
    な地方都市から、多くの若者が駆り出されている現実をつぶさ
    に見た。2,30年前には栄光ある科学技術を研究する都市で
    あったものが、いまは荒廃してしまって単なる辺鄙な住宅地と
    化し、軍服の若者ばかりが目に付くのも、あまりに皮肉なこと
    に思えた。


■編集長・伊勢雅臣より■

     センスの良いレストランに、チェチェンで戦死した若い兵士
    たちの遺品展示、シベリアにも様々な人生模様があります。

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