「措置入院」精神病棟の日々(77)

2017/12/05

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「措置入院」精神病棟の日々(77)
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“シーチン”修一 2.0

「修一はん、ほんまにイチビやなあ」

この頃は昔のことをやたらと思い出す。芦屋(蘆屋、兵庫県)の若奥様はこう言ってくすくすと笑った。

芦屋は高級住宅街が多く、“日本のビバリーヒルズ”などと言われている。谷崎潤一郎の名作「細雪」は芦屋の旧家の暮らしぶりを伝えているが、谷崎自身もこの地に別荘(倚松庵、いしょうあん)を持っていた。こう書いている。

<蘆屋のこのあたりは、もとは大部分山林や畑地だったのが、大正の末頃からぽつぽつ開けて行った土地なので、この家の庭なども、そんなに広くはないのだけれども、昔の面影を伝えている大木の松などが二三本取り入れてあり、西北側は隣家の植え込みを隔てて六甲一帯の山や丘陵が望まれるところから、雪子はたまに上本町の本家へ帰って(修一:蘆屋の別荘に)四五日もいて戻って来ると、生まれ変わったように気分がせいせいとするのであった>

若奥様は芦屋生まれの芦屋育ち、女学校を終えてからの勤務先は大阪だった。「栴檀は双葉より芳し」、人を疑うこともしないから小生のような濁りの塊からすると純真でとても可愛らしい。

若奥様は冷えた吟醸酒を好んだ。芦屋の近くには「灘の生一本」の酒蔵が多いから、酒といえば日本酒なのだろう。

若奥様は旦那さんの東京赴任で一緒に上京しているのだが、暇つぶしで働いている。子供はまだいない。3年後には芦屋に戻るのだろう。とても気楽そうだった。

若奥様はわが社の得意先の上場企業の大阪本社(上本町)でOLをしていたので、東京でも友人知人が多く、世話になっている販促課長から「修ちゃん、芦屋夫人を採用してみいへんか、ええ子やで」と紹介され、嫌も応もなくわが社で働いてもらった。

一緒によく飲みに行ったが、小生は飲むと人格が変わり、通常は聞き役なのだが、気に入った女性の前では面白い話とか冗談をよく言っていた。その時彼女が小生を「イチビリ」と言ったのである。

「イチビってなんや?」

「イチビやなくて“イチビリ”や」

「悪口かいな」

「そやないで、イチビリっていうんは誉め言葉や。おもろいことをいっつも考えてな、なんかの際にポロっと言ってみんなを笑わせるんや、そういう吉本の芸人みたいな男の子はな、笑うて一生暮らしたい関西の女の子は大好きやねん。イチビリはもてるんやで、サンマみたいに」

「ふーん、そうかいな・・・この剣菱けっこう旨いな」

「ほんまに・・・うち幸せや、修一はんのこと、うち好きやねん」

若奥様は成城学園前に住んでおったさかい帰りは小生と一緒の小田急線。小生は若奥様を抱きしめるのが精一杯やった。旦那に見られたら一大事や、それこそビール瓶ものやし・・・

ネットで「イチビリ」を調べたらこうあった。

<「お調子者」にも近い。こう言うと関東ではマイナスイメージですが関西(特に大阪では)そうでもありません。頭の回転が速くなければ「いちびり」にはなれないし、結構人気者でもあります。かわいげのある表現で、わざと悪さする児童(ワルガキ?)って感じですかね>

浪速の女の子には“雌虎”もいて苦い思い出もあるが、若奥様との一件は純愛ぽくってええ思い出やった。キチ〇イ老人はやたらとフラッシュバックするものだが、上記のような記憶はいい意味でのフラッシュバックだろう。「“フラッシュバック”修一」なんて筆名もいいかもしれない。

この頃は体調も良くて面白い夢もいっぱいみる。人間が皆、風船になって空に浮かんでおり、ぶつかっても誰もケガをしないという愉快な夢もあった。夢追い人、今日も躁状態で作業療法にいそしむ発狂亭雀庵の病棟日記から。

【2017/1/9】*12:45、K来、一緒に70日ぶりに外出、散策。入院以来、初めてまともな話ができた。Kは「穏やかに、普通になってほしい」と言う。

とりあえず家庭内別居で、料理と洗濯は小生の楽しみでもあり、運動にもなるので「無理しない範囲で」小生の担当にしてもらった。心が通い始めた感じで、これはもしかしたら数か月ぶりかも知れない。心が温かくなり、これが「親愛の情」なのか。

丹沢山麓を散策したが、竹林ではずいぶんと太い竹が折れていた。雪の重みに耐えられず、ある瞬間にパキンと、あるいはバキンと大きな音を立てて折れたに違いない。折れる竹、折れない竹、紙一重だろう。谷間の畑は鹿、猿よけの電線で囲まれていた。理由や原因が何であれ、ルール破りは制裁を受ける。

退院後、小生の部屋は2Fから3Fになる。Nがヤマダ電器と連絡、交渉しており、WiFiで2Fから3Fへ電波を飛ばすとか。15日に完成するようだ。ブログやメルマガについてはアーシロ、コーシロ、これはダメとかいろいろ注文が多いが、当面は小生の脳ミソが正常に機能するまでは大人しくするしかない。つまり、小生は病気であり、いつまた発狂するか自分自身でも恐れている。

新ブログタイトルは「必殺クロスカンター!」を提案したが、どうなるものやら。後見人がいっぱいいて萎縮しそうだ。

KとDr.面談、Kが了承したので明日から一人で外出できることになった。Kとの散歩で山裾の素敵なコースを見つけたので、その辺を歩くことになりそうだが、人気(ひとけ)がないのでちょっと不安だ。住民にとっては小生こそが不安だろうが・・・

「今日ママンが死んだ。もしかしたら昨日かもしれない・・・」、カミュの「異邦人」を急に思い出した。小生は家に帰っても異邦人、異人、移民、難民かもしれない。

【1/10】*一人外出し、近隣散策。山中ではパーン、パーン、パンパン、パンパンパンなどという爆竹みたいな音がする。派手なオレンジ色のベストを着たオッサン2人が麓に来た鹿か猿を脅しているのだろう。周囲をよく見るとあちこちの畑はGallagher印の電気柵/電気牧柵で囲まれている。

https://security.gallagher.com/solutions

爆竹はゴムのパチンコで飛ばすようだ。猟友会が駆除してモミジ鍋用に売っているのかどうか。

外出から戻る時間が決まっているので時計があるといいが、明日からは目覚まし時計をもって行こう。時計は必携だ。今日はセブンイレブンで時間を知った。上り下りの山麓を80分歩きっぱなしで結構な運動量になった。(つづく)2017/12/3










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創刊日:2017-02-04  
最終発行日:  
発行周期:日刊  
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