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「措置入院」精神病棟の日々(27)

発行日:4/19

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「措置入院」精神病棟の日々(27)
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“シーチン”修一 2.0

昼食に「肉まん」を食べようと思い、散歩に出かける次女母子に調達を頼んだが、「どこにも売っていない、店員にも確認した」と言う。がっかりだ。肉まんはいつの間にか冷やし中華みたいに季節商品になってしまったのか。

売り場の棚は限られているから売れ行きの良い商品を置くのが原則だろう。秋から冬には100個/日売れていたものは春以降は10個になるのか。「それなら鍋の具材よりもっと売れるもの、行楽の季節だからサンドイッチやお握りの品ぞろえを増やそう」とかなって、売れ行きの悪くなった商品は排除されたりするのだろう。

日本は料理に恵まれている。料理が発達する地域は「飢饉が発生しがち=カタツムリ、ツバメの巣、クサヤ・・・何でも試してみる」、「絶対的な王政が敷かれた=王様は宴会好きだから宮廷料理が発達する」、「暑い夏や寒い冬など明確な季節がある=旬の食材・料理がある」というのが絶対条件だろう。

この3点を満たしているのは中華料理、フランス料理が双璧で、これに続くのがイタリア料理、日本料理あたりか。手を伸ばせばバナナがあるような熱帯地では料理はなかなか発達せず“猫まんま”みたいなのが多いようだ。(熱帯の○○国を訪れた際にそう思ったのだが、ケナスのもどうかと思って黙っていた。しかし、数年後に訪れた部下(女性)曰く“○○料理? ありゃ猫まんまですよ”。

熱帯地でも寒帯地でも地元の人にとっては「旨い!」というものはあるだろう。米国ではアラスカで食べたカニはとても旨かったが、ビーフステーキ(硬い!)、フライドチキン(南部ではサザンフライと言っていた)は味は並だが量に圧倒された。日本の倍はある。

上記の部下は香港観光協会の招待旅行で食べた中華料理(上海料理、広東料理だろう)の「あまりにもの美味しさに感動して涙が出ちゃいましたよ!」と言っていた(女はすぐに泣くなあ、感動しやすいのだろう)。

「感動」・・・大辞林(第五版)にはこうある。「深く心に感ずること。感じて起こる急激な精神の興奮」。

精神病患者にとって負の感動、急激な精神の興奮はあまり良くないかもしれない。気分が落ち込みやすく、家庭不和などによる破滅願望から「死刑になりたかったので殺した、誰でもよかったが、できるだけ大事件を起こして家族や世間を騒がせ、復讐したかった」という症例は昔から多いようだ。

うつ病患者はそういうことをしてしまいかねないという不安を抱えているのだろう、小生も自分自身が怖い。不満、ストレスが突飛な言動を誘発する。

優れたボクサーであった具志堅用高は試合直前の習慣となっていた「計量後のアイスクリーム」を周囲から止められたことで戦意を喪失したのか、世界王座から陥落した。たかがアイス、たかが肉まん、されどアイス、されど肉まん。小生は食パンを利用して肉まんもどきを作り、鬱屈を解消した。

何事もなく感動の薄い穏やかな病棟日記から。

【2016/11/25】学研編「もう一度読みたい『教科書の泣ける名作』再び」(2014)を読み始める。何しろ病棟でやることと言ったら、読書、作文、服薬、カウンセリング、作業療法、室内歩行&運動(通路の1往復は150メートル)、中2日の入浴、食事、多少のおしゃべりくらいしかない。

ナースは「脳を休めることはとても大事」としょっちゅう言うから、病棟で感動や感涙することはまずない。たまに大声で泣き叫んだり暴れる娘さんもいるが、それはただの発狂にすぎない。

10:00から1時間ほどのOT(作業療法)は、数十年ぶりのラヂオ体操第1と第2、さらに柔軟体操。その後は8人でチームを組んでホッケーゲームに興じた。わがチームは大逆転され、トップから屈辱の最下位に落ちてしまった。まるで小生の人生そのもので、こういう場面では笑うしかない。

車椅子の45歳ほどの白人も参加していたが、左腕なし、両足は義足で、慢性期病棟の人のようだ。事故にでもあったのか、電車に飛び込んだのか、この辺には米軍基地も多いから戦傷なのか・・・人生いろいろだ。

昨日カウンセラーから「奥様の良いところ、感謝することを書いてみたら」とアドバイスを受けたので、ホールで「カミサンの良いところ、感謝すること――あるいは小生の半生記/反省記/自省録」を書いた。

*ロクデナシを拾ってくれた

小生の青春は概ね悲惨だった。公安事件で長期裁判を抱えており、法的身分は「保釈中」だった。大学も除籍処分になったが、それ以前に内ゲバが激しく、大学に戻れる状況ではなかった。戻れば殺されていたろう。

経歴を糊塗するために、鳶職で学資を貯めて専門学校で学び、1975年、24歳でどうにか海外旅行関係の出版社にもぐりこんだ。

当時、B747ジャンボ機の就航で運賃が下がり、海外旅行は大ブームになりつつあった。旅行会社は海外事情などの情報を求めていたが、特に上り坂の業界では「先んずれば人を制す」で、とても情報に敏感だった。

小生は週刊業界紙の記者・編集者として読者に現地情報、市場動向、マーケティング戦略、政治・行政の動き、業界動向などを伝えるのが仕事で、当初は保釈中のためにパスポートを取得できないという障害もあったが、なんとかクリアし、やがて編集デスクになった。

その後、月刊の海外旅行雑誌を立ち上げることになり、小生は事実上、その編集長になったが、広告・販売ともに低調で休刊、小生は週刊業界紙に戻されたものの、なんとなく“窓際”のようだった。年収もがくんと減って意気消沈していたものである。

そんな時に出会ったのがカミサンで、小生がフィリピン出張でコレラになり、3週間隔離された際に毎日のように見舞いに来てくれた。30メートルほど離れた別棟の内線電話から顔を見せ手を振りながら会話するのだ。

フィリピンから帰国した足で会社、印刷所、寿司屋、そしてカミサンのアパートへ行ったが、すべて消毒され、接触した人は検便させられた。会社からは始末書を取られた。

こういう孤立無援の中で、カミサンの見舞いは何よりもありがたかった。「この人を世界中で一番幸せにしよう」と心に決めた。

結婚すると“青春の鬱屈”はきれいに晴れて、仕事も上手くいき、29歳で週刊業界紙の編集長(部長待遇)に昇進。良き先輩、同僚のおかげでもある。

家庭も仕事も絶好調で、勢いに乗って日刊紙と旅行業界年鑑も創刊し、生まれて初めて表彰された。

そんな折、カミサンに「なんで俺みたいに見栄えのしない奴を選んだのか」と問うと、「あなたと一緒なら一生退屈しないと思ったの」と答えていた。確かに退屈はしなかっただろうが、今は心配ばかりかけているから心苦しい。

小生はカミサンに拾ってもらったおかげで、まずまず人並みの幸福な人生を得たと感謝している(カミサンはどう思っているのだろうか・・・聞くのが怖い)。

*起業を支援してくれた

3人目の子(男)が生まれた1984年、33歳の時にスピンアウトし、編集プロダクションを起業、同時に自宅を新築し、不動産賃貸事業も始めた。長女4歳、次女3歳の春だった。

計算外だったこともある。起業後に仕事はきたが、納品から入金まで最低3か月、中には6か月の約束手形払いもあって、カミサンに十分な金を渡せない。

このためカミサンは再びナースとして働き始め、小生の仕事を支えてくれた。幸いにも病院の育児室で0歳児を預かってもらえ、その後は近所の公立保育園に預けることもできた。

空前絶後のバブル景気(1986〜2002年頃)の追い風もあり、事業は軌道に乗り、カミサンの支援、踏ん張りもあって子供3人を無事育て上げることができた。

*自殺未遂、蘇生、そしてがん手術

2000年8月、大阪出張から疲れ果てて帰宅した夜、酔った小生は首吊り自殺を試みた。アッと思う間もなく気が遠くなり、夢を見るように黄色い花畑の中を歩いていた・・・遠くからカミサンの声がし、やがて「生きて!生きて!」という声で目覚めた、というか蘇生した。

カミサン「アンタ、飲み過ぎよ!」
小生は喉が壊れたシワガレ声で「長生きし過ぎた」。

カミサン「命を救ったのは私だからね、アンタはこれから私のものだから」
なんのことやら小生には分からなかったが・・・

2003年4月、胃潰瘍から胃がんになり、胃のほとんどを摘出した。退院した夕方、酒を飲んでいるとカミサンが激怒し、「アンタって人は!」と蹴飛ばしはじめた。小生は抜糸して間もない腹を蹴られないようにするのが精いっぱいだった。

カミサンは懲りずに酒を飲む小生に、「私がとても心配しているのに・・・コイツは許せない!」と怒り心頭に達したのだろう。

愛する者、自分の飼い犬に裏切られた思いだったに違いない。

*キッチンドリンカー、発狂、措置入院へ

胃がん手術で小生のQOL(quality of life、生活の質)は著しく低下し、ダンピング症、低血糖、下痢、嘔吐、こむら返り、さらに抗がん剤の副作用で「生きながら死んでいる」ようなフラフラ状態になり、仕事を再開するまでに1年かかってしまった。

仕事をしていれば飲酒は夜からだから問題ないし、2009年、58歳でリタイアし、家事と、呆け始めた母(89歳)の介護を担当したからおのずと酒量は限られる。カミサンの協力もあって母は92歳、自宅で大往生した。

介護が終わってから、飲み始めは午後4時になった。家には誰もいないからブレーキが利かない。キッチンドリンカーへの道だ。その頃(2011年)から飲酒や生活に対するカミサンの苦情、説教、干渉が増えていった。

当時はもっぱら焼酎を飲んでいたが、体調が悪化し、肝機能低下、前立腺肥大、脳機能劣化を招き、2013年には半年間断酒、再開後は焼酎をやめて赤ワイン主体にしたところ、体調はかなり改善された。

ところが2016年5月頃からウイスキーも飲み始め、9月末の発狂事件の10日ほど前からは風邪で体調が悪く、元気をつけるため、と朝から飲むようになってしまった。

当然、カミサンは苦情を言い、小生は「干渉するな、話しかけるな、ほっといて、Leave me alone!」と反発する。小生はついに酒乱となり、発狂したのだった。

古人曰く「後悔先に立たず」、今さら元には戻れない。戻りたいのなら「君子危うきに近寄らず」で断酒すべきなのだし、「今度しくじったらおしまいだ」「カミサンを世界一幸せにするという結婚時の誓いを反故にするな」とは分かっている。

それでも未練たらしく「節酒で上手くいくかもしれない」などと悩ましい日々が続いていたが、1か月の入院治療でようやく吹っ切れた。哲学者曰く――

「君は心の中に葛藤を抱えている。今のままではダメだ、自分を変えたい、変わりたい、という思いがある一方で、変わろうとしない頑固な自分もいる。頑固な自分に打ち克つことが、本来の“あるべき自分”を活かすことになるだろう」

“あるべき自分”とは何か? 冷静沈着、知行合一、良き夫、良き父、良き生活者だろう。それが酒乱では誰からも相手にはされない。先達の言、もって銘すべし。

余生は短く、十分な報恩はできないかもしれないが、カミサンや娘たちの受けた傷はあまりにも深く、大きく、どんな言葉も癒しにはならないかもしれない。それならなおさらのこと、行動で反省、改悛を示すべきだろう。(つづく)2017/4/19






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