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「措置入院」精神病棟の日々(10)

発行日:3/2

「措置入院」精神病棟の日々(10)
“シーチン”修一 2.0

2/28は4週に1回の通院日、カミサンの運転で“古巣”へ連れて行ってもらった。心理面接はいつものカウンセラー、通称“ピーコック”、銀ラメ入りの派手な青いアイシャドーをしている30代後半の女性だ。

カウンセラーの仕事は患者に話させることで、聞き上手、話させ上手であり、「そうよねえ」とか時々合いの手を入れたり、「でもそれは奥様にとっては疑問かもしれないわね、どう折り合いをつけるか、修一さんはどうしたらいいと思うの?」とか。

小生から話を引き出し、鏡のように小生を映し出し(精神科医の「きたやまおさむ」はこれを「リフレクション」=反射、反映と呼んでいた)、小生に課題を知らしめ、いい方向へと導くのだ。

入院中の心理面接では、患者VS医療者という上下関係があり、話下手の小生はとても緊張し、「自分は奇人変人ではない、まともな人です」とツジツマを合わせるためオツムをフル回転させていたから、30分の面接の後はぐったりしたものだが、今日は初めてのびのびと心境を語れた感じがする。

通称“イチロー”の担当医には、薬と症状について報告し、希望通りにしてもらった。カミサンのアドバイスも受け、特に眠剤は2種類から1種類にし、抗うつ剤は服薬時間を変えることになり、体のふらつきはかなり落ち着くに違いない。

先日紹介した電気ショック療法と同様に、薬との相性はあるし、服薬の量や時間も大きく影響するのだろう。

午後1時に帰宅した際、カーナビが「間もなく目的地周辺です、音声案内を終わります」と言っていたが、老人になれば「間もなくあの世周辺です、音声案内を終わります」ということかと笑ってしまった。静かにあの世に逝くのはまったく難しい。闘病日記から。

【続2016/11/11】ホールの4人掛けテーブルは男用は3台で、日当たりが一番いい席は“牢名主”のような風情の通称“ボス”がホール全体とナースステーションをウォッチしていた。体重80キロはありそうな偉丈夫で、彼1人がテーブルを占拠していたのだが、知らぬが仏の小生は畏れ多くも彼の斜め向かいを自席とした。

“ボス”は40前後だろうが、あちこちの精神病院を渡り歩いてきたような“風格”があり、またこの世界に通じていたので、子分どもがよく集まっていた。

(追記:2/28に、外来で4週ぶりに“ボス”に出会ったが、あの席は代々引き継がれているようだ。彼は退院後でも家族と折り合いが悪く、「自室に引きこもっているから太ってしまった」と言う。ホールのボスも娑婆ではただのデブのヒッキー・・・社会復帰は容易ではないだろう)

小生は2F病棟の往復150メートルの廊下を1日8往復しながらストレッチをしたり、相撲の四股踏み、摺り足などをし、一方でホールでは熱心に日記を書いたり産経をチェックしたり読書をしたりし、ほとんど会話をしないから「変な人」と見られていたかもしれない。

4人部屋ながら壁とカーテンに包まれた小生の“個室”は6畳間ほどで結構ゆったりしているのは、多分、患者をリラックスさせるためかも知れない。ここでの生活をいかに快適にするか、快適に過ごすか。創意工夫が大事になる。

ソ連強制収容所での日常を描いた「イワン・デニーソヴィチの一日」の主人公、通称シューホフは、戸外作業中に拾ったノコギリの破片をこっそり持ち帰り、切れ味の良いナイフを創った。看守にバレれば重営倉10日間は確実で、収容所の仲間内でこのナイフは隠語「重営倉10日間」と呼ばれていた。

ソ連は独裁国家だから、共産党に敵対する者はおろか沈黙する者まで、つまり熱烈に支持する者以外は収容所に送り込んだ。囚人の家族は食品などの差し入れは許されていたのだが、届くのは家族が送った量の1/4だったろう。3/4は収容所の幹部や看守などがピンハネしていたはずだ。

(これを汚職と見るか、役得と見るか。政治体制がどう変わろうが民族性は不変で、ロシア人だろうが支那人だろうがピンハネやリベートは今でも役得なのだろう。ロシアは今なおGDPの1/4に当たる規模の地下経済が存在すると言われている。それがあるからロシア人は生活できるのだそうだ)

さて、実家が裕福な囚人が太いハムを1本受け取る(実家が4本送ったうち囚人に届くのは1本。これは実家も囚人も承知の上だ。仕送りOKは、囚人のためではなく支配する側のためなのだ)。

太いハムを受け取るような囚人は元貴族や金持であり、インテリでマナーも良いからかじったりしない。で、シューホフに「デニーソヴィチ、すまないが“重営倉10日間”を貸してください」と借りるのだ。お礼は直径10センチ、厚さ2センチのハムだったろう。

シューホフはその半分を班長(牢名主)に上納し、班長は他の班員に分けただろう。シューホフは、自分だけいい思いをすれば密告でナイフがばれてしまうこともあるだろうし、班長を立てることが自分と班を守ることにもなると承知していたのである。互助会というか支那でいう「幣」だ。

シューホフは知恵を働かせ、リスクをとりながら過酷なサバイバルの10年を乗り切った。一方、わが同胞は大丈夫なのか。

現在治療を受けている我が国の精神病患者は300万人。別に、治療を終えたのに引き取り手のない人が30万人おり、病院に滞留、流連している。300万人中50万人は精神障害者手帳(=生活保護受給特権)を持っている。

作業療法では各種病棟から患者が集まるのだが、「完全に壊れちゃって、どうにも社会で使えない人」は結構いる。彼らは生活保護(我々の税金)で守るしかないのだが、病院にとっては「ベッドが空かないから早く引き取ってくれないかな、でも取りっぱぐれはないし経営上は歓迎だけれど・・・」と、何とも言えない思いをしているそうだ。(つづく)2017/3/2






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