名言

(日刊)ラッセルの言葉366_カレンダー版

英国の哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872- 1970)の名言・警句を毎朝お届けするメルマガです。
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ラッセル『結婚論』第八章 性知識に関するタブー, n.11

2018/05/24

 第八章 性知識に関するタブー, n.11:ハヴロック・エリス(著)『性心理の
     研究』

 この法令(ロード・キャンベル法)に出てくる「猥褻(わいせつ)」という
単語は,法律上,精確に定義されてはいない。実際には,ある出版物は,治安
判事(注:magistrate 英国における治安判事)が猥褻だと考えるなら,法律上,
猥褻となる。また,他の点では猥褻と考えられるかもしれない文書(matter)の
出版が,この特殊なケースにおいては(in this particular case)ある有用な
目的に役立っているということを示す専門家の証言に耳を傾ける義務は,治安
判事にはない(のである)。このことは,つまり,小説や,社会科学の学術論
文や,性的な事柄に関係する法律の改正案(suggestion for reform)を書く
者は誰でも,たまたま,ある無知な年配の人間がその著作を読んで不快だと思
うならば,自分の著作を破棄される恐れがある,ということを意味している
(言っているのである)。この法律のもたらす結果は,はなはだ有害である。

 よく知られているように,ハヴロック・エリス(著)『性心理の研究』の第一
巻は,この法律により有罪とされた。ただし,幸いにも,この事例ではアメリ
カのほうが(英国より)よりリべラルであることがわかった(注:第一巻が起
訴されたため,続く巻は,英国では出版されなかった)。ハヴァロック・エリ
スの目的が不道徳なものであったと言うことは誰にもできない,と私は思って
いる(できるとは思はない)。また,あのように分量が多く,学問的で,まじ
めな著作が,単にみだらなスリルのみを欲求する人びとに読まれただろうとは
,とても考えられない。もちろん,そのような問題を扱うためには,普通の治
安判事が,妻や娘の前では口にしたくないような事柄をも論じないわけにいか
ない。しかし,このような書物の出版を禁止することは,まじめな研究者
(serious student)はこの領域(分野)の事実を知ることは許されない,と言
うことである(と言うことに等しい。
 因習的な見地からすれば,おそらく,ハヴロック・エリスの著作の最も異議
のある特徴の一つは,症例(case histories 病歴,事例史)の収集であり,
それらの症例は,現行の方法が,美徳や精神の健康を生み出す点で,いかに成
功していないかを明らかにしている。そのような文書は,既存の性教育の方法
を合理的に判断するデータを提供してくれる。(しかるに)法律は,我々がその
ようなデータを持つことは許されないし,この方面での我々の判断は,無知に
基づき続け無ければならない,と言明している(のである)。

Chapter VIII: The Taboo on sex knowledge, n.11

The word "obscene" which occurs in this Act has no precise legal 
definition. In practice a publication is legally obscene if the 
magistrate considers it to be so, and he is not obliged to listen to
 any evidence by experts to show that in this particular case the 
publication of matter which might otherwise be considered obscene 
serves some useful purpose. This means to say that any person who 
writes a novel, or a sociological treatise, or a suggestion for reform
in the law as it relates to sexual matters, is liable to have his work
destroyed if some ignorant elderly man happens to find it disagreeable
 reading. The consequences of this law are extraordinarily harmful. 
As is well known, the first volume of Havelock Ellis's Studies in the
 Psychology of Sex was condemned under this law, although fortunately 
America proved in this instance more liberal.(note: Owing to the 
prosecution of the first volume, the subsequent volumes were not 
published in England.) I do not think anybody could suggest that 
Havelock Ellis's purpose was an immoral one, and it seems 
extraordinarily unlikely that such a bulky and learned and serious 
work would have been read by persons who desired merely the thrill of
 indecency. It is, of course, impossible to treat of such a subject 
without discussing matters which the ordinary magistrate would not 
mention before his wife or daughters, but to prohibit the publication
 of such a book is to say that serious students are not to be allowed
 to know the facts in this domain. From a conventional standpoint 
I imagine that one of the most objectionable features of Havelock 
Ellis's work is his collection of case histories, which show how 
extraordinarily unsuccessful existing methods are in producing either
 virtue or mental health. Such documents provide data for a rational
 judgment upon existing methods of sex education; the law declares 
that we are not to be allowed to have such data, and that our 
judgments in this domain are to continue to be based upon ignorance.
 出典: Marriage and Morals, 1929.
 詳細情報:http://russell-j.com/beginner/MM08-130.HTM

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