名言

(日刊)ラッセルの言葉366_カレンダー版

英国の哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872- 1970)の名言・警句を毎朝お届けするメルマガです。
読者と一緒に育てていきたいと思っています.


全て表示する >

ラッセル『結婚論』第三章「家父長制度」n4:多数の子孫を持つことよりも

2018/03/12

 第三章 家父長制度 n.4  

 しかし,文明が進むにつれて,経済的な事情(暮らし向き)も変化した。そ
のため,かつては私利(私欲)を勧めるものであった宗教の教えも退屈なもの
になりはじめた。ローマが繁栄するようになってからは,金持ち(富裕層)は
,もはや大家族をもたなかった。偉大なる古代ローマ時代の後半の数世紀を通
して,(古代ローマの)古い貴族の家系は,道学者(moralist)による(家族
を増やすようにとの)熱心な勧め −それは,今日と同様,当時も効き目はなか
った− にもかかわらず,絶えず滅びつつあった。離婚は,容易かつ日常的な
ものとなった。上流階級の女性は,男性とほぼ同等の地位を獲得し,家長権
(patria potestas)はますます小さくなっていった。こうした展開は,多く
の点で,今日の状況と非常によく似たところがあったが,それは上流階級に限
定されていたので,そのことによって利益を受けるほど富んでいない人びとを
ぎょっとさせた。

 古代文明は,現代の文明とは対照的に,(文明が)ほんの一握りの人々に限ら
れているということを通して苦しんだ。まさにこの欠点のために,古代ローマ
文明が続いている間は文明は不安定なものになり,結局は,下(下層階級)か
ら急激に盛り上がってきた迷信に屈することとなった。

 キリスト教と未開のゲルマン人(蛮族)の侵入によって,ギリシア・ローマ
の思想体系は,破壊されてしまった。家父長制度は生き残り,また,少なくと
も貴族政治のローマの制度と比べれば,初めのうち家父長制度は強化されすら
したけれども,それにもかかわらず,新しい要素,すなわち,キリスト教の性
観念とキリスト教の霊魂と救済に関する教義から導き出された個人主義に順応
しなければならなかった。キリスト教社会はどこも,古代の文明や極東の文明
ほど,つつみかくさず生物学的になることができない。さらに,キリスト教社
会の個人主義が,徐々に,キリスト教諸国の政治形態に影響を及ぼす一方,個
人の霊魂不滅の約束によって,人びとが子孫(progeny)の生き残り −それ以前
は,子孫を残すことこそ,不滅にいたる一番の近道であると思われていた− 
に抱いていた関心は,減少してしまった。

 現代社会は,いまだに家父長制社会であり,家族はいまだに存続しているけ
れども,古代社会よりも,はるかに父性を重視していない。また(しかも),
家族の力も,かつての時代よりも,はるかに弱まっている。

 今日の男たちの希望や野心は,(キリスト教の)創世記に見られる族長(大
家族の家長)のものとはまったく異なるものになっている。現代の男たちは,
多数の子孫を持つことよりも,むしろ,国家に地位を占めることによって,
偉大さを達成したいと願っている。この変化が,伝統的な道徳や神学がかつ
てのような力を失っている理由のひとつである。それにもかかわらず,変化
自体は,事実,キリスト教神学の一部である。どうして,こういうことにな
ったのかを知るためには,次には,宗教がどのように人びとの結婚観や家族
観に影響したかを究明しなければならない。

Chapter III Patriarchal Systems, n.4

But as civilization advanced the economic circumstances changed, so 
that the religious precepts which had at one time been exhortations to
self-interest began to grow irksome. After Rome became prosperous, the
 rich no longer had large families. Throughout the later centuries of
 Roman greatness the old patrician stocks were continually dying out 
in spite of the exhortations of moralists, which were as ineffective 
then as they are now. Divorce became easy and common; women in the 
upper classes achieved a position almost equal to that of men, and 
the patria potestas grew less and less. This development was in many
 ways very much like that of our own day, but it was confined to the
 upper classes, and shocked those who were not rich enough to profit
 by it. The civilization of antiquity, in contrast to our own, 
suffered through being confined to a very small percentage of the 
population. It was this that made it precarious while it lasted, and
 caused it ultimately to succumb to a great uprush of superstition 
from below. Christianity and the barbarian invasion destroyed the 
Greco-Roman system of ideas. While the patriarchal system remained,
 and was even at first strengthened, as compared at any rate to the 
system of aristocratic Rome, it had nevertheless to accommodate 
itself to a new element, namely the Christian view of sex and the 
individualism derived from the Christian doctrine of the soul and 
salvation. No Christian community can be so frankly biological as 
the civilizations of antiquity and of the Far East. Moreover, the 
individualism of Christian communities gradually affected the polity
 of Christian countries, while the promise of personal immortality
 diminished the interest which men took in the survival of their 
progeny, which had formerly seemed to them the nearest approach to
 immortality that was possible. Modern society, although it is still
 patrilineal and although the family still survives, attaches 
infinitely less importance to paternity than ancient societies did.
 And the strength of the family is enormously less than it used to be.
 Men's hopes and ambitions nowadays are utterly different from those
 of the patriarchs in Genesis. They wish to achieve greatness rather
 through their position in the State than through the possession of a
 numerous posterity. This change is one of the reasons why traditional
 morals and theology have less force than they used to have.
 Nevertheless, the change itself is in fact a part of Christian 
theology. To see how this has come about, the way in which religion
 has affected men's views of marriage and the family must next be 
examined. 
 出典: Marriage and Morals, 1929.
 詳細情報:http://russell-j.com/beginner/MM03-040.HTM

 <寸言>
 時代が進むにつて、「産めよ増やせよ」の聖書の教えはしだいに影響力が減
っていく。子どもをたくさんもうけようという運動が近代になってまた復活す
るが、それは宗教の影響ではなく、富国強兵政策に促されてのことであった。

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2014-12-19  
最終発行日:  
発行周期:日刊  
Score!: 97 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。