名言

(日刊)ラッセルの言葉366_カレンダー版

英国の哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872- 1970)の名言・警句を毎朝お届けするメルマガです。
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ラッセル『結婚論』第二章「母系社会」n.4: 「父性」の事実の発見

2018/03/03

 第二章 母系社会 n.4   

 トロブリアンド諸島民(当時)の間では,人間には父親がいる(父親がい
なければ子どもは生まれない)ことが知られていないという事実は,マリノ
フスキーによって,疑問の余地のないまでに立証された(立証されている)。
彼はたとえば,次のような発見をしている。即ち,ある男が一年あるいはそれ
以上航海に出かけていて,帰ってきて妻に生まれたばかりの赤ん坊がいるのを
知ると,大喜びし,ヨーロッパ人たちが,彼の妻の貞節に関する疑問を示唆す
るようなほのめかしをしてもまったく理解できない,といったことである。
(父性の存在についての無知の)恐らくそれ以上にもっと説得力のある話とし
て,マリノフスキーは,優良種の豚を所有している男がオス豚を全部去勢する
習慣があり,そういうことをすれば品種の低下を伴う(もたらす)ということ
をその男が理解しなかった,ということを発見している。

 子供は霊(spirits)が連れてきて,その霊が子供の母親に(子供を)挿入
する,と信じられている(考えられている)。処女が妊娠できないことは認識
されているが,それは処女膜が霊の活動に対して物理的な障害(物)になるか
らである,と考えられている。未婚の男や娘は,完全な自由恋愛の生活をして
いるが,理由はさだかではないけれども,未婚の娘はめったに妊娠しない。土
着の人々の哲学によれば,彼らがどんなことをしようとも,妊娠の原因にはな
らない(ということになっている)にもかかわらず,まことに奇妙なことに,
未婚の娘が妊娠すると,不名誉なことだと考えられる。早晩,娘は変化(いろ
いろなこと)にあきて結婚する。彼女は,夫の村へ行って生活するが,彼女と
その子供は,相変らず彼女(妻)の出身の村に所属するとみなされる。彼女の
夫は子供との血縁関係がまったくないと考えられており,血統はもっばら女性
側の家系でたどられる。ほかの場所では父親によって行使されている子供を支
配する権限(権力)は,トロブリアンド諸島民の間では,母方のおじに付与され
ている。

 ところが,ここで,非常に奇妙で込み入った問題が持ちあがってくる。男女
の兄弟姉妹間の(性に関する)タブーは,きわめて厳しく,そのため,兄弟姉
妹が成人した後では,どんなに遠回しなものであっても,性に関する事柄を話
題にすることは絶対に許されない。その結果,母方のおじは,子供を支配する
権限は持っているけれども,子供が母親と家を離れてやってくるとき以外は,
子供たちと会うことはほとんどない。この素晴らしい制度によって,子供たち
は,他のところでは見られない,一定の躾抜きの愛情を保障されている。子供
の父親は,いっしょに遊んでくれるし,好意的であるけれども,子供にあれこ
れ命令する権限はない。一方,母方のおじは,あれこれ命令する権限はあって
も,その場に居合わせる権限はないのである。


Chapter II Matrilineal Societies,n.4

The fact that among the Trobriand Islanders people are not known to
 have fathers has been established by Malinowski beyond question. He 
found, for example, that when a man has been away on a voyage for a 
year or more and finds on his return that his wife has a new-born 
child, he is delighted, and quite unable to understand the hints of 
Europeans suggesting doubts as to his wife's virtue. What is perhaps 
still more convincing, he found that a man who possessed a superior 
breed of pigs would castrate all the males, and be unable to 
understand that this involved a deterioration of the breed. It is 
thought that spirits bring children and insert them into their 
mothers. It is recognized that virgins cannot conceive, but this is
 supposed to be because the hymen presents a physical barrier to the
 activities of the spirits. Unmarried men and girls live a life of 
complete free love, but, for some unknown reason, unmarried girls very
 seldom conceive. Oddly enough, it is considered disgraceful when they
 do so, in spite of the fact that, according to native philosophy, 
nothing they have done is responsible for their becoming pregnant. 
Sooner or later a girl grows tired of variety and marries. She goes to
 live in her husband's village, but she and her children are still 
reckoned as belonging to the village from which she has come. Her 
husband is not regarded as having any blood relationship to the 
children, and descent is traced solely through the female line. 
The kind of authority over children which is elsewhere exercised by
 fathers is, among the Trobriand Islanders, vested in the maternal 
uncle. Here , however, a very curious complication comes in. 
The brother-and-sister taboo is exceedingly severe, so that after 
they are grown up brother and sister can never talk together on any
 subject connected, however remotely, with sex. Consequently, 
although the maternal uncle has authority over the children, he sees
 little of them except when they are away from their mother and from
 home. This admirable system secures for the children a measure of 
affection without discipline which is unknown elsewhere. Their father
 plays with them and is nice to them but has not the right to order 
them about, whereas their maternal uncle, who has the right to order
 them about, has not the right to be on the spot.
 出典: Marriage and Morals, 1929.
 詳細情報:http://russell-j.com/beginner/MM02-040.HTM

 <寸言>
 添付写真は、トロブリアンド島民と一緒のマリノウスキー(1918年)。
  http://russell-j.com/beginner/MM02-040.HTM

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創刊日:2014-12-19  
最終発行日:  
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