名言

(日刊)ラッセルの言葉366_カレンダー版

英国の哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872- 1970)の名言・警句を毎朝お届けするメルマガです。
読者と一緒に育てていきたいと思っています.


全て表示する >

歴史(上)における個人の役割に関する記述

2018/01/19

 プルタークの名は,歴史のもう一つの分野を想い起させます。歴史(書)は大
規模な見世物にのみ関心を持つのでも,異なった種類の社会の描写にのみ関心
を持つものでもありません。歴史(書)は,それ自身で注目に価する個人にもま
た同等に関心をもっています。プルタークの『高貴なギリシア人とローマ人の
生涯』は,多くの野心ある若者たちに,その本がなければあえてしなかったよ
うな,勇敢な生涯を鼓吹しました。現代には,個人にはほんのわずかしか関心
を払わず,集団に余りにも多く関心を持つような傾向がある,と私は思います
。我々は「普通人(凡人)の時代」に住んでいると確信していますので,そう
でなくてもよい場合にも,人(現代人)は平凡な人間(普通の市民)になりま
す。特に,青少年に歴史を教える場合には,個々の英雄の行為に対立するもの
としての文化の諸形態を強調する動きが見られました。ある点までは,これは
全く称賛に値することです。クロマニオン人やネアンデルタール人の生活様式
について何か教えられると,出来事の進展についてよく理解ができます(よい
理解を得る)し,プルタークが言及していないローマ人が住んでいたローマの
借家について知ることは,ためになります。ハモンド(J. L. B. Hammond, 
1872-1949, 英国の経済史家)の『農村の労働者』ような本(歴史書)は,従
来の歴史書にはないような観点から,全期間を描いています。このようなこと
はすべて正しく重要です。

 しかし,重要だが正しくはないことは,また,最も致命的な誤りであること
は,歴史がこのような方法でのみ研究される時に容易に成長する暗示(示唆)
は,個々人は重要ではなく,英雄とみなされる人たちは社会勢力が具現化され
ただけであり、彼らによってもしなされなかったのであれば,他の誰かによっ
てなされたであろうというものであり,また,おおざっぱに言って,個人は彼
の時代の流れにそって耐える以上のことはできないというものです。この見方
に関して最悪なことは,そのような見方が抱かれれば,それは事実となりやす
いということです。英雄の生涯は,英雄的な野心によって鼓舞され,またなす
べき重要なことは何もないと考える若者は,ほとんど重要なことはなにもなし
えないでしょう。そういった理由で,私は,プルターク英雄伝がその例である
ような種類の歴史書は,より一般的な歴史書とまったく同様になくてはならな
いものだと考えます。

 新しい社会を創ることができる人はごくわずかです。(即ち)レーニンやス
ターリンは,現代においてこれを成し遂げた唯一の人たちです(注:早とちり
な人が少なくないですが、ラッセルは「影響を与えた人物」と言っているだけ
で、評価しているわけではないことに注意が必要です)。しかし,ずっと多く
の人たちが,有意義な個人生活を送ることができます。これは,我々が模倣す
べきモデル(模範的人物像)とみなしてよい人たちに当てはまるだけでなく,
想像のための新しい材料を与えるすべての人についてあてはまります。例えば
,皇帝フリードリッヒ二世(注:神聖ローマ皇帝/中世で最も進歩的な君主と
評され,同時代に書かれた年代記では「世界の驚異」と称賛された。)は,彼
の大部分のことは模倣するに価しないことは確かですが,彼は人間精神の備品
に素晴らしい一品を加えています。「世界の驚異」(と呼ばれたフレデリック
二世)は −自分の見世物動物園とともにあちこちと徒歩で歩きまわり,最後
には家臣の宰相(総理大臣)によって獄舎につながれて終わりましたが,回教
の聖人たちと論争し,破門されたにもかかわらず十字軍に打ち勝ちました− 
私が(直接)知らないのを残念に思う人物です。
 我々はみな、悲劇の偉大な英雄たち −アガメムノン,エディプス,ハムレッ
トやその他− について知るだけの価値があると考えますが,その生涯がこれ
らの偉大な悲劇の英雄と同等の質のものであり,その上,実際に生存(実存)
したという(架空の悲劇の英雄にない)余分の長所をもっていたのです(注:
皇帝フリードリッヒ二世のこと)。

 神的であろうと悪魔的であろうと,あらゆる形の偉大さは,ある共通の性質
をもっており,中庸を崇拝するあまりこのような性質が締め出される(注:
ironed out アイロンをかけて消してしまう)のを見ることは,私は望みませ
ん。約60年前にアメリカを最初に訪問した時,私は息子が生まれたばかりのあ
る婦人と知合いになりました。誰かが気軽に「多分息子さんは天才になるでし
ょう」と言ったところ,その女性は心から恐れるような調子で 「いえ,私は
そんなことは望みません」と応えました。彼女の望みは悲しいことにかなえら
れました。(注:つまりその息子は凡人になった。)

The name of Plutarch brings to mind another department of history. 
History is not concerned only with large-scale pageants, nor with the
 delineation of different kinds of societies. It is concerned also, 
and equally, with individuals who are noteworthy on their own account.
 Plutarch's Lives of the Noble Grecians and Romans have inspired in 
many ambitious young men valiant careers upon which they might not 
otherwise have ventured. I think there is a tendency in our time to 
pay too little attention to the individual and too much to the mass. 
We are so persuaded that we live in the Age of the Common Man that men
 become common even when they might be otherwise. There has been a 
movement, especially in teaching history to the young, toward emphasis
 on types of culture as opposed to the doings of individual heroes. 
Up to a point, this is entirely praiseworthy. We get a better sense of
 the march of events if we are told something about the manner of life
of Cromagnon man or Neanderthal man, and it is wholesome to know about
 the tenement houses in Rome where the Romans lived whom Plutarch does
 not mention. A book like the Hammonds' Village Labourer presents a 
whole period from a point of view of which there is nothing in the 
older conventional histories. All this is true and important. But 
what, though important, is not true, but most perniciously false, is
 the suggestion, which easily grows up when history is studied only 
in this way, that individuals do not count and that those who have 
been regarded as heroes are only embodiments of social forces, whose
 work would have been done by someone else if it had not been done by
 them, and that, broadly speaking, no individual can do better than 
let himself be borne along by the current of his time. What is worst
 about this view is that, if it is held, it tends to become true. 
Heroic lives are inspired by heroic ambitions, and the young man who
 thinks that there is nothing important to be done is pretty sure to
 do nothing important. For such reasons I think the kind of history 
that is exemplified by Plutarch's Lives is quite as necessary as the
 more generalized kind. Very few people can make a community: Lenin
 and Stalin are the only ones who have achieved it in modern times. 
But a very much larger number of men can achieve an individual life
 which is significant. This applies not only to men whom we may 
regard as models to be imitated, but to all those who afford new 
material for imagination. The Emperor Frederick II, for example, 
most certainly does not deserve to be imitated, but he makes a 
splendid piece in one's mental furniture. The Wonder of the World,
 tramping hither and thither with his menagerie, completed at last
 by his Prime Minister in a cage, debating with Moslem sages, 
winning crusades in spite of being excommunicate, is a figure that
 I should be sorry not to know about. We all think it worth while
 to know about the great heroes of tragedy --Agamemnon, Oedipus, 
Hamlet and the rest-- but there have been real men whose lives had
 the same quality as that of the great tragic heroes, and had the 
additional merit of having actually existed. All forms of greatness,
 whether divine or diabolic, share a certain quality, and I do not 
wish to see this quality ironed out by the worship of mediocrity. 
When I first visited America nearly sixty years ago, I made the 
acquaintance of a lady who had lately had a son. Somebody remarked
 lightly, "perhaps he will be a genius." The lady, in tones of 
heartfelt horror, replied, "Oh, I hope not!" Her wish, alas, was
 granted. 
 詳細情報:http://russell-j.com/beginner/1057_HasA-150.

 <寸言>
 一般庶民を軽視して英雄を強調しすぎることはよくないが、だからといって
、傑出した個人に焦点があたらない歴史書もつまらない。大きな歴史の流れや
時代精神は(傑出した)個人に大きな影響を与えるが、偉大な、傑出した人間
も歴史に影響を与える。従って、歴史書の記述においては、英雄に庶民の、両
方の視点が必要である。

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2014-12-19  
最終発行日:  
発行周期:日刊  
Score!: 97 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。