名言

(日刊)ラッセルの言葉366_カレンダー版

英国の哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872- 1970)の名言・警句を毎朝お届けするメルマガです。
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ギボン(の歴史書)が優れている理由の一つ

2018/01/17

 芸術としての歴史(書)の範囲内には,多様な歴史(書)が存在しており,それ
ぞれ特有の長所を持っています。その長所の種類一つは,特にギボン(の歴史
書)によって例証されており,彼は,(彼の著作において)(登場人物)全員が
宮廷衣裳をつけてはいても(and yet) 個性的に,時代から時代へと行進する
人物の堂々とした行列を我々に提供しています。それほど昔のことではないで
すが,私は『ケンブリッジ(大学版)古代史』でゼノビア(注:3世紀にパル
ミラ王国の「女王」と呼ばれた人物。美貌で文学を愛好し,パルミラを東方に
おける文化の一中心としたが,ローマに討伐され,捕虜となった。) につい
て読んでいました。しかし,残念ながら,この本に描かれた彼女はまったく興
味をもてない人物に思えました。私は,ややぼんやりとですが,ギボンが描い
たもっとずっと活き活きとした説明を思い出しました。それについて調べると
,直ちにその専横な女性(の姿)が生き返ってきました。ギボンは,彼女に対
する自分の感情を抱いており,彼女の宮廷はどのようなものだっただろうかと
想像していました。彼は,活き活きとした空想をもって書いており,既知の事
実をただ単に(年代記に)記録するという冷ややかな欲求で書いているのでは
ありませんでした。人(=読者)が彼の描いたいろいろな人物が十八世紀の鋳
型にピッタリ合っていなければならないという事実に,もっと怒らないのは奇
妙なことです。ガイセリック(注:ラテン文字表記:Gaiseric。ヴアンダル族
の王で,アフリカ北部を征服,Carthage にヴァンダル王国を建設。また455年
ローマ市を攻略)の時代以後で,ヴアンダル族のことを取り扱ったどこかで,
彼は「アフリカの洗練された暴君」について語っています。私はこれらの人た
ちが暴君であることを信ずるのに何の困難も感じませんが,彼らが洗練されて
いたと信ずることはとてもできません。しかし,そのような限界があるにもか
かわらず,とにかく,ギボンは,彼が扱っている何世紀もの事件の進行を,驚
くほど活き活きと我々に伝えてくれます。彼の本(歴史書)は,私が堅く信じ
ていることが真理であること,(即ち)偉大な歴史(書)は一人の人間の仕事
であるべきであり,各分担執筆者が自分の専門を扱う概論的な著作(要約本)
によって成し遂げられることはどうしてもできない(cannot possibly),とい
うことを例証しています。学問は,非常に多彩かつ複雑なものに成長してきた
ので,いかなる一人の精神(知性)も広大な領域全体を包むことは不可能と考
えられるようになりました。私はこれをきわめて不幸な間違いだとと確信して
います。ある本が参考書以外の価値を持つべきだとすれば,それは一人の人間
精神の著作でなければなりません。それは,大なる多様性を一つの気質(一人
の人間の気質)の統一の中に併せもつ結果でなければなりません。私は,その
ようなことは次第次第に困難になりつつあることは認めますが,まだそれが可
能になるような方法を考え出せると思いますし,また,偉大な歴史(書)が過
去のものであってはならないのであるなら,そのような方法は考えだされなけ
ればならない,と考えます。

Within the compass of history as an art there are various kinds of 
history, each of which has its own peculiar kind of merit. One of 
these kinds of merit is especially exemplified by Gibbon, who offers
 us a stately procession of characters marching through the ages, all
 in court dress and yet all individual. Not long ago I was reading 
about Zenobia in the Cambridge Ancient History, but I regret to say 
that she appeared completely uninteresting. I remembered somewhat 
dimly a much more lively account in Gibbon. I looked it up, and at 
once the masterful lady came alive. Gibbon had had his feelings about
 her, and had imagined what it would be like to be at her court. He 
had written with lively fancy, and not merely with cold desire to 
chronicle known facts. It is odd that one does not more resent the 
fact that his characters all have to be fitted into an eighteenth-
century mold. I remember that somewhere in dealing with the Vandals 
after the time of Genseric he speaks of "the polished tyrants of 
Africa." I am quite unable to believe that these men were polished, 
though I have no difficulty in believing that they were tyrants.
 But somehow, in spite of such limitations, Gibbon conveys an 
extraordinarily vivid sense of the march of events throughout the 
centuries with which he deals. His book illustrates what I am firmly
 persuaded is true, that great history must be the work of a single 
man and cannot possibly be achieved by a compendium in which each 
contributor deals with his own specialty. Learning has grown so 
multifarious and complex that it has been thought impossible for any
 one mind to embrace a large field. I am sure that this is a most 
unfortunate mistake. If a book is to have value except as a work of
 reference it must be the work of one mind. It must be the result of
 holding together a great multiplicity within the unity of a single
 temperament. I will admit at once that this is growing more and more
 difficult, but I think means can be devised by which it will still be
 possible, and I think they must be devised if great histories are not
 to be a thing of the past.
 出典:History as an art  (1954)
 詳細情報:http://russell-j.com/beginner/1057_HasA-130.HTM

 <寸言>
 学校で使われる歴史の教科書はとても正確に書かれているが、簡潔すぎて無
味乾燥。多少の正確性を犠牲にしても副読本で補わないと歴史嫌い(歴史の勉
強嫌い)を増やしてしまい、テレビなどの(史実をまげることもある)娯楽的
な歴史物しか興味を抱かなく成る危険性がある。

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創刊日:2014-12-19  
最終発行日:  
発行周期:日刊  
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