名言

(日刊)ラッセルの言葉366_カレンダー版

英国の哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872- 1970)の名言・警句を毎朝お届けするメルマガです。
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孤独及び見慣れないものへの恐怖心

2017/09/13

 コンラッドの想像力の大部分を専有していると思われる二つのものは,孤独
及び見慣れないものへの恐怖心である。『文化果つるところ』は『闇の奥』と
同様に,見慣れない事物への恐怖心に係るもの(物語)である。両方(孤独と
見慣れないものへの恐怖心)とも『(小説)エイミー・フォスター』という感動
的な短編小説(物語)のなかに,一体となって出てきている。この短編小説
(物語)のなかで,ある南スラブの小作人がアメリカに渡る中,船の遭難にあ
い,ただ一人生き残り,(英国の)ケント州のある村に放り出される。エイミ
ー・フォスターを除く村中の人々が彼を恐れ,足蹴に取り扱う。彼女は,鈍感
で飾りのない少女であり,彼が飢えている時にパンを持ってきて与え,ついに
は彼と結婚する。しかし,夫が熱病にうかされて母国語を口走った(母国語に
もどった)時,彼女もまた彼に対する恐怖心(注:見慣れないものに対する恐
怖心)にとらわれ,子供を奪いとって(ひっつかんで)彼のもとを去り,彼を
棄てる。彼は,一人になり希望を失って,亡くなる。私は,作者であるコンラ
ッドが,この男の寂蓼をどれほど英国人の中で感じ,強い意志のカ(努力)で
抑圧したのだろうかと,時々,思案した。

 コンラッドの物の見方は,現代的な物の見方からはずっと離れたものであっ
た。近代世界には二つの哲学がある。一つはルソーから出ているものであり,
規律を不要なものとして払いのける(一蹴する)。もう一つはその完璧な表現
を全体主義の中に見いだすことができ,規律を本質的には(本質上)外部から
課せられる(課せられるべき)ものとして見なす。コンラッドは,規律は内部
から生ずるべきであるという従来の伝統に固執する。彼は規律の無さを軽蔑し
,また,単なる外的な(外部からの)規律を嫌った。

 これら全ての点で,私は彼と非常に意見が一致していることがわかった。我
々は,まさに最初の出会いにおいて,絶えず親しみが増し続ける状態で話し合
った。皮相な面を一つひとつ通り抜けて深く沈んで行き,ついには二人とも心
の奥底(central fire 心の中心の火炎)に到達したように思われた。それは
,私がそれまでに経験したいかなるものとも異なった経験であった。我々はお
互い目を見つめ合い,二人ともそのような領域にいるのを発見して,半ばぎょ
っとし,半ば陶酔した。それは情熱的な恋愛と同じように強烈であり,同時に
,あらゆるものを包含するような感情であった。私は困惑しながら(彼のもと
を)立ち去り,平常の仕事にほとんど手がつかなかった。

The two things that seem most to occupy Conrad's imagination are 
loneliness and fear of what is strange. An Outcast of the Islands like
 The Heart of Darkness is concerned with fear of what is strange. Both
 come together in the extraordinarily moving story called Amy Foster. 
In this story a South Slav peasant, on his way to America, is the sole 
survivor of the wreck of his ship, and is cast away in a Kentish 
village. All the village fears and ill treats him, except Amy Foster, 
a dull, plain girl who brings him bread when he is starving and 
finally marries him. But she, too, when, in fever, her husband reverts
 to his native language, is seized with a fear of his strangeness, 
snatches up their child and abandons him. He dies alone and hopeless.
 I have wondered at times how much of this man's loneliness Conrad had
 felt among the English and had suppressed by a stern effort of will. 

Conrad's point of view was far from modern. In the modern world there 
are two philosophies: the one, which stems from Rousseau, and sweeps 
aside discipline as unnecessary; the other, which finds its fullest 
expression in totalitarianism, which thinks of discipline as 
essentially imposed from without. Conrad adhered to the older 
tradition, that discipline should come from within. He despised 
indiscipline, and hated discipline that was merely external. 
In all this I found myself closely in agreement with him. At our very
 first meeting, we talked with continually increasing intimacy. We 
seemed to sink through layer after layer of what was superficial, till
 gradually both reached the central fire. It was an experience unlike
 any other that I have known. We looked into each other's eyes, half
 appalled and half intoxicated to find ourselves together in such a 
region. The emotion was as intense as passionate love, and at the same
 time all-embracing. I came away bewildered, and hardly able to find 
my way among ordinary affairs. 
 出典: Joseph Conrad, 1953.
 詳細情報:http://russell-j.com/beginner/1040_CONRAD-040.HTM

 <寸言>
 ラッセルも大正時代に来日した時にコンラッドと同様な「見慣れないものへ
の恐怖心」を経験している。「ラッセル自伝」から以下、引用しておこう。


「私たちは,猛暑のなか京都から横浜まで(東海道線で) 10時間の旅 をした。
暗くなってまもなくの頃,横浜に到着した。そうして,私たちはカメラマンたち
が連続的にたくマグネシウムの爆発音で迎えられた。マグネシウムが一回爆発
するごとにドーラはとび上がったので,流産するのではないかという心配が増
した。私は'怒り'で我を失った。私がそんなふうになったのは,かつてフィッ
ツジェラルドの首を絞めて殺しそうになった時以来,この時だけであった。私
は,フラッシュライト(閃光灯)をもっている男性カメラマンたちを追いかけた
が,'びっこ'をひいていたためにつかまえることができなかった。私は間違い
なく殺人をおかしたであろうから,そのことは幸いであった。一人の冒険心の
あるカメラマンが,怒りで眼が爛々としている私の写真を撮ることに成功した
。私がそのように完璧に狂気じみて見えるようになるなどとは,この写真がな
ければついぞ知らなかったことである。この写真で私は東京に紹介された。
 あの時の私の感情は,インド暴動(注:Mutiny 1857年のインドのベンガル地
方のインド人傭兵が英国支配に対して起こした反乱)に際して,インド在住の
英国人(Anglo-Indian)がもったにちがいない感情 −すなわち 有色人種の
叛徒にとり囲まれた時の白人の感情− と同じ種類のものであった。・・・」

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創刊日:2014-12-19  
最終発行日:  
発行周期:日刊  
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