歴史・地理

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差別と歴史上の人物

歴史の人物エッセイ集です。上から目線でなく、一般民衆の立場から、自由・平等を中心とする基本的人権の獲得を中心テーマにしました。歴史を見る視点を変えることによって、自由で心豊かに生き、差別意識から解放される人が一人でも増えることを願って書きました。

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第6章 江戸時代前期 2 徳川忠長

2017/11/18

2 徳川忠長 (1606 〜 1633)






〜兄弟差別をして自ら不幸を招いた将軍の弟〜






 鎖国で有名な、3代将軍徳川家光の弟です。




 少年時代から聡明で、元服後は駿河の国を与えられ、遠江、甲斐、信濃も支配する55万石の大大名になりました。




 朝廷からも大納言の地位に任じられ、「駿河大納言」とまで呼ばれるようになりました。




 しかし、御三家をもしのぐこの大城主は、わずか27歳の若さで自殺に追い込まれる悲劇で一生を終えています。




 この優秀な弟に、いったい何があったのでしょうか。




 1603年、忠長は2代将軍徳川秀忠の三男として生まれました。

 少年時代の名は、国松といいます。




 母親は江(ごう)で、2歳年上の兄家光と同母でした。




 両親から見ても、国松は明らかに家光よりも利発で、次の将軍にふさわしいと考えられていました。




 家臣たちも同じ考えで、事あるごとにこのことを口にしたのでしょう。

 しだいに3代将軍は忠長だという風潮が、江戸城に広く行き渡るようになったのです。




 だから、国松も自分は当然兄より上、と考えました。

 兄弟差別ですね。




 家光は乳母の春日局(かすがのつぼね)がつきっきりで、実母の江には育児をすることが許されていませんでした。




 それに比べて国松は、母親が直接育てているので、愛情は比較にならないほど深いものになっていきました。




 実母と乳母の仲は良くなく、両者の権力争いが背景にあったと考えられます。

 しかし、この争いは祖父の鶴の一声で決着がつきました。




 大御所、徳川家康です。




 静岡の駿府城に引退していた家康に、春日局が直訴したのです。

 家康の決定となれば、だれも逆らうことはできませんね。




 その言葉通り、3代将軍には家光が就任することになります。

 それでも、元服して忠長と名のった国松には、駿河という重要な領地を与えられました。




 江戸からも近い交通の要地です。

 領地も広大で、家康が最後に居住していた城でもあります。




 破格の待遇といえるでしょう。




 しかし、「自分の方が兄より優れている」という上から目線の意識は、なかなかぬけませんでした。




 不満がうっ積していったのです。

 権力にこだわり、権力への欲望が十分に満たされません。




 異常な行動が目につくようになっていきました。

 少しでも気に入らないことがあると、周囲の人々にあたり散らすことが多くなりました。




 殺生禁止の御領地で、狩もやりました。

 まるで、自分は特別な権力をもっているからいいのだ、と言わんばかりですね。




 この行動を諌めた家臣は、忠長から斬りつけられてしまいました。

 これでは、ほかの家臣まで萎縮してしまいます。




 正しい言動が通らなくなりました。




 理不尽な仕打ちが繰り返されたので、家臣たちは慎重に行動するようになりましたが、やがて幕府の耳に届くことになりました。




 いくら将軍の弟といっても、これでは兄も黙ってはいないでしょう。

 忠長は、甲斐に蟄居を命じられました。




 その後は、高崎城に幽閉の身となりました。

 最後は家光打倒の怪文書を回したという罪で、自害に追い込まれたのでした。




 まるで坂を転げ落ちるような、あまりにも悲しい結末です。

 この悲劇の背景に横たわっているものがあります。




 まず、忠長は生涯にわたって兄の家光を見下し続けました。

 差別意識から、最後まで解放されなかったと考えられます。




 次に、嫡男を乳母が育て、実母がないがしろにされるという制度です。 

 差別者同士の権力争いが招いた悲劇でもあります。




 結局、差別は「する側が不幸になる」という典型的な事例になってしまったのではないでしょうか。




 そして、家臣の言うことに耳を貸さなかったことも、火に油を注ぎました。




 忠長の人生のどこかで方針転換をして、この悲劇を防ぐ方法を見つけることはできなかったのでしょうか。









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