国際情勢

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

航空自衛隊出身の軍事ジャーナリストが内外の軍事情勢を多角的に分析する。メルマ!ガ オブ ザイヤー2011受賞

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軍事ジャーナル【2月27日号】金正恩はドラマがお好き?

2018/02/27

 2日に米国が公表した新核戦略が「北朝鮮を標的にしたものだ」と2月9日号で述べたが、北朝鮮は「米国は本当に北朝鮮を核攻撃するかどうか?」頻りに調査している。そして、その上で北朝鮮軍の最強硬派の金英哲を五輪閉会式に送り、米朝対話に前向きな姿勢を示した。
 これは米国の向けた銃口の前で両手を挙げて見せたに等しい行為である。なぜなら銃口の前で両手を挙げるのは、両手を挙げて見せれば相手は銃を撃たないとの期待に基づいているからである。
 もとより北朝鮮は、米国の要求する非核化に応ずるつもりはない。従って交渉の前提が成立しないので、米朝対話は不可能だ。トランプ政権はそう明言しているにも関わらず、北朝鮮が交渉に前向きな姿勢を示すのは、単なる時間稼ぎに過ぎまい。

 金正恩は恐らく米国のアクションドラマがお好きに違いなく、そこでは、しばしば銃を向けられた主人公が両手を挙げて見せて時間を稼ぎ、相手の隙を伺って危機を逃れる。だがドラマとしては面白いが、危機管理の手法としては殆ど最悪だ。
 危機管理の教科書では、こうした状況では誠実に交渉に応ずるしかない。どうせ相手は撃たないだろうなどという甘い期待は死に直結すると言っていい。銃が玩具ではなく銃口を向けている以上、相手の意思は強固なものと見なければならないからだ。
 米国は12月に国家安全保障戦略、1月に国防戦略そして今月、新核戦略を公表した。これらは国防総省の綿密な分析と検討の上に構築されており、実行可能な戦略である事は論を待たない。

 日本における報道では、トランプ政権は米国民の支持を得ていない脆弱なイメージだが、実際には強固な支持基盤を持った強力な政権である。また国家安全保障については日本とは違い与党と野党の間に根本的な対立がない。
 イラク戦争を思い起こして貰いたい。当時の共和党のブッシュ大統領も左派系メディアからバカ呼ばわりされていたが、ひとたび大統領が戦争を決断すれば、与党と野党はそれまでの内政上の対立を差し置いて、一致して大統領を支持するのが通例なのである。
 金正恩が時間稼ぎをしているのをトランプはよく知っている。自分の息子たちと同じ年頃の甘やかされた坊やの真意を見抜くのは容易だろう。金正恩が美人の妹を開会式に送れば、トランプは長女イバンカを閉会式に送る。心憎い演出である。

 実は米国にとっても時間稼ぎは必要なのだ。どのみちパラリンピック終了までは米軍は動けない。パラリンピック終了の3月18日はロシアの大統領選である。ここでプーチンが再選されれば、強力な権力基盤に支えられた米露の大統領が会談に臨む。
 ウクライナ、中近東、中央アジア、南シナ海、北朝鮮。ユーラシア大陸のかつて「不安定の弧」と呼ばれた諸地域は今や世界大戦の様相を示している。第2次世界大戦末期、ヤルタに米英ソ3首脳、ルーズベルト、チャーチル、スターリンが集まり会談した。
 いわゆるヤルタ会談であるが、戦後秩序がここで決定された。今また米露首脳により戦後秩序が決まる事になるが、任期延長に成功して権力基盤を固めた中国の習近平も参加するかもしれない。
 いずれにしても、かつてヤルタ会談で日本とドイツの運命が決まったように、北朝鮮の運命もここで決まる事になろう。

 チャンネル桜の「金曜日は眠らナイト」に主演する。3月2日(金)21時から26時まで。
www.ch-sakura.jp/


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