国際情勢

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

航空自衛隊出身の軍事ジャーナリストが内外の軍事情勢を多角的に分析する。メルマ!ガ オブ ザイヤー2011受賞

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軍事ジャーナル【12月29日号】防衛省ヘリ談合事件と海上警備行動

2012/12/29

 9月、防衛省と川崎重工を東京地検特捜部が家宅捜索した。容疑は川崎重工が防衛省から受注して開発している軍用ヘリコプターを巡る談合である。12月20日、東京地検は陸上自衛隊員2名を略式起訴した。
 略式起訴すると裁判は開かれず、裁判所は略式命令を出して事件は終了する。つまり事件の真相は闇に葬られる訳だ。そもそも防衛省という巨大官庁と川崎重工という巨大企業を巡る疑獄事件として告発されながら、公務員がたった2名略式起訴されるだけである。「泰山鳴動して鼠一匹」と揶揄されても仕方があるまい。

 そこでいわゆる左翼マスコミなどは、「巨大な防衛疑獄を権力が握りつぶした」と批判する訳だが、この批判が成り立つとすれば「東京地検特捜部が正義の味方であり、その正義の味方である東京地検特捜部に国家権力が不当な圧力をかけた」という図式が成立しなければならない。
 ではその権力者とは誰なのか?役所を監督するのは大臣であり大臣は政権与党の一員だ。従って大臣に不当な圧力を行使できるのは政権与党の幹事長しかいない。
 自民党政権時代であれば左翼マスコミは「巨大資本と癒着した自民党幹事長が法務大臣を通じて東京地検特捜部に不当な圧力を加えた」と示唆したであろうが、このときの政権与党の幹事長は日教組出身の輿石東氏である。防衛省と防衛産業を救うために彼が奔走するとも思えない。どうみてもそのときの政権与党は防衛疑獄を糾弾する立場にいた筈である。
 しかも疑獄でありながら、会社員はだれも起訴されず、裁判も開けない。要するに裁判を開けば東京地検は敗訴の公算大ということだろう。冤罪といってもいい。
 「12月16日の総選挙で自民党政権成立が確実になったので東京地検が突然寝返った」という見方も成り立たないだろう。というのも9月以降の捜査の進展を見れば、疑獄は拡大の様相を示さず、民主党政権下でむしろ縮小していく様子が手に取る様にわかるからだ。
 つまり国家権力が東京地検の捜査を妨害したというより、政権与党が東京地検に不当な捜査を強行させたという方が真実に近いであろう。

 では民主党は何故冤罪を仕掛けたのか?今年に入り中国は尖閣への領海侵犯を公然と繰り返すようになった。しかも民主党には防衛大臣に適任な人材がいないため、6月に森本敏氏を初の民間人起用で防衛大臣に就任させた。
 実は民主党にも防衛に理解を持つ議員がいないわけではない。だが彼らは防衛大臣に就任したがらなかった。何故かと言えば民主党内部に異常なまでの防衛省反対勢力が宿っている事を彼らはよく知って恐れをなしていたのだ。この民主党の反防衛省体質こそ事件の背景である。
 8月15日に中国活動家たちが尖閣不法上陸を強行したが、その直前、中国の尖閣を巡る不穏な言動に鑑み、防衛省内部では尖閣への自衛隊の海上警備行動が検討されるに至った。そして9月4日、総理官邸で自衛隊、警察、海保の一元的運用を目指す有事演習が挙行された、まさにその日に東京地検特捜部は防衛省ヘリ談合疑惑で家宅捜索に乗り出したのである。
 つまりこの捜査は自衛隊の海上警備行動を封ずる狙いがあったとしか考えられない。現にこの疑惑発覚後、防衛省で海上警備行動への言及は消えた。そして9月の中旬から中国の尖閣接続水域航行は常態化し、領海侵犯の頻度は激増し極め付けは12月13日の領空侵犯である。自衛隊の海上警備行動という抑止力が失われたために、中国は尖閣侵略を激化させたのである。
 民主党のこうした反国防体質に対し国民は総選挙で鉄槌を下したが、だからといって一旦崩壊した防衛体制がただちに復活するわけでもない。安倍政権は尖閣への公務員常駐を当面見送り、「防衛計画の大綱」の見直しから始める意向を示した。崩壊した城壁の修復には時間がかかるという事だろう。

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  • 名無しさん2013/01/03

    ・拉致問題や南北融和等で、毎度のアメを並べ始めた北朝鮮。

     が、甘い顔の裏には、必ずムチがある。弾道ミサイルの次は、核実験だろう。それもウラン型か。どうせなら、平壌直下でやってもらいたいものだ。今、軍部粛清に乗り出した独裁者だけに、反独裁者一派の軍部隊を核戦争演習名目で誘き出し核爆発で部隊丸ごと抹殺か。核実験と軍部粛清、国内引締め、対外示威を兼ねてやるのだろうか。核兵器開発に邁進するイランとの共同実験になるのか。が、世界を刺激する暴挙はもうやめてもらいたい。また、度重なる核爆発は、白頭山の噴火を促すおそれもある。



     北朝鮮の核実験に対し、わが国は同盟国米国とともに対北朝鮮包囲網の国際協調体制の完成を。そして、拉致被害者(含特定失踪者・日本人妻)の完全救出を。抜かりなく成し遂げてほしい。

  • 名無しさん2012/12/30

    ニュースはウラを読まなければ真実が見えないという典型的な例だと思います。ありがとうございました。

  • 名無しさん2012/12/29

    「暴力装置の自衛隊」

     ぶっきらぼうに言い放つ人物が官房長官をやっていた民主党政権である。筆者ご指摘の通り、尖閣を巡る海上警備行動阻止を目論んで司法戦を仕掛けてきたのだろう。それを可能にする組織的な利敵勢力(北朝鮮や中国共産党からの指令で動く工作員等)が、日本国の権力中枢にずいぶんと巣食っているのか。メーカー内部にも、この時期を狙って内部告発を指揮する勢力が存在したのか。謎は深まる。



     思い出すのは、あのリヒャルト・ゾルゲのソ連スパイ団である。首相側近までもがメンバーであり、大日本帝国の最高機密、「御前における最高戦争指導会議」(御前会議)の内容(例.南進決定)までもがモスクワに筒抜けになっていた。国家機密法や憲兵隊、特高警察があっても防げなかった情報漏えい。ならば「スパイ天国」の現在、機密情報管理や防諜における惨状はいかばかりだろうか。想像に難くない。



     戦前のシーメンス事件や戦後のダグラス・グラマン事件のように、軍装備備を巡る汚職事件を仕掛け後に公表、マスコミに攻撃させ時の政権や軍組織を弱体化、有力政治家を失脚に追い込む謀略戦。今回は、散々煮え湯を飲まされてきた教訓を活かしての策応で、「略式起訴」で留めることができたのかもしれない。が、手垢のついた毎度の政治謀略は、今後も手を変え品を変え実行されるだろう。



     熱烈な愛国者や憂国のアジテーター等の姿で、また魅力的な異性(ハニー・トラップ)として、亡国の先導者とその一味はさりげなく接近してくる。国家権力の中枢や上層部の幹部にこそ、より一層の緊張感と自戒が求められるのだろう。試練の時、もし迷うなら、24時間365日、最前線で命を懸けて日本の主権を守り抜く自衛隊員や同盟国米国の兵士の顔を、姿を思い浮かべてほしい。間違った判断はできぬはずである。

  • 名無しさん2012/12/29

    何時もながら怜悧正確なる評論にエールを送ります。自己主張だけは超一人前ながら己の責任だけは徹底回避のエセ活動家集団やカビの生えた身勝手なイデオロギーでアジテートもはや時代遅れの左系の人々が何と多いことか。言論の自由を盾にしながら付随する責任認識ゼロレベルに矛盾を感じないのだろう。この国の国難時に、こうした集団の存在は有害であり徹底排除するべき! 如何?

  • 名無しさん2012/12/29

    左翼売国奴を収監出来る法整備が待たれる。