小説

【 in some cases 】真実の物語

コールドスリープで目覚めた世界は、思ったほどは変わっていないように思えたが、恋人はその異変のためか自殺を繰り返すようになってしまった。主人公はその世界の綻びにある日気づき・・・。

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創刊日:2009-12-21  
最終発行日:2010-03-29  
発行周期:週刊  
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サンプル記事

2000/01/01

【 in some cases : case A 】=============================



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 ナオミがまた手首を切った。
 この前切ったのはいつの事だったっけ? 二週間前?
 けたたましいサイレンの音が部屋の前にやってきた。いつものように手際がいい。
 体格のいい救急隊員がドアを開け、素早く入ってくる。そして彼らはすぐに彼女
を部屋から運び出し、病院へ連れて行ってしまった。
 毎度の事だけど、やはりさすがにこたえる。
 ボクはまず最初に、睡眠薬の瓶をバスルームの棚から取り出し、蓋を開け、錠剤
を二粒口に含んだ。
 次に、洗面台の蛇口をひねる。すると水が勢いよく流れだす。そこにグラスを突
き出し水を酌む。そしてその水で口の中の錠剤を流し込むようにして飲む。
 最後に、寝室のベッドに横になり、薬が効いてくるのを待つ。
 これが、こういう場合のいつものルーチンワークだ。“決まり事”をこなして横
になったボクだったけど、今日はなかなか眠りにつく事ができない。嫌な思いにま
とわりつかれたまま朝を迎えるのだけは願い下げだ。でも、もしかすると今夜はそ
うなるかも知れない。
 ナオミが初めて手首を切った日の事が意識の視野に再生され始めた。いや手首を
切ったんじゃなくて、睡眠薬を一瓶空けてしまったのだったかもしれない。どっち
にしろ彼女が死にたくなったってのには変わりがない。
 あの時は、救急車を呼んだのはボクだった。本当に気が動転してて、ちゃんとこ
の場所を相手に伝えられたか、電話を切ってから自分でも自信がなかったけど、救
急車は今日のようにやってきた。
 彼女が病院に運ばれるとき、ボクも救急車に同乗してついて行った。病院に着く
までずっと彼女の手を握っていたっけ。
 病院に着くと彼女は救急治療室に運び込まれて、ボクはそこのドアの外に待たさ
れる格好になった。心配で心配で一緒に付き添って居たかったけど、担当の医師と
看護婦にのけ者にされてしまったんだ。
 治療室のドアの外の堅いベンチの上で、朝までずっと彼女の安否を心配して起き
ていた。誓ってもいい居眠りさえあの時はしなかった。
 長い間ずっと閉ざされていたドアが開いた。するとまずそこから出てきたのは、
医師でも看護婦でもなく、ナオミだった。
 彼女はピンピンしていて、前の晩自殺を謀ったなんて風には全然見えなかった。
 鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしているボクに、ナオミはその情熱的な唇を開
いて言った。
「どうかしたの?」
 彼女の後ろから出てきた医師に説明を求めるような眼差しを向けた。けど彼はそ
れに気づいているのに知らん顔して歩み去ってしまった。
 呆然としてるボクにナオミは何事もなかったかのように
「さ、帰ろう」
 とか何とか言ったと思う。
 あの頃のボクにはまだ何が何だか分からなかった。
 それからしばらくして、ボクにも段々ここの物事が分かり始め、彼女の二回目の
自殺未遂の時には、最初の時ほどは慌てる事はなかった。でも今日ほどは落ちつい
てはいなかったと思う。
 駄目だ。もう三粒ぐらい飲まなきゃ。

「朝よ、デイヴ」
 ナオミの声で目を覚ます。良かった、どうやら最後の一粒が眠りに誘ってくれた
らしい。
 ナオミは何週間か前の彼女のように撥刺とした状態に戻っていた。笑顔に薔薇の
花束ような華やかさが戻ってきている。
 良い事だ。最近ボクはそう思う事にしている。
 ベッドから体を起こし、彼女に朝の挨拶をする。
「お早う、ナオミ」
 彼女の頬に軽く唇を触れてからそう言った。
「お早う、デイヴ」
 彼女も同じように朝の挨拶をボクにした。
 それからいつものように、カフェオレにフレンチ・トースト、そしてカット・オ
レンジという朝食を二人で食べる事にした。
 朝食の間、彼女の幸福そうな笑顔を優しく見守る。
 彼女が元気になったからいいのか? そう心の中でもう一人の自分が反問する。
 だけど最近は、その声も心なしか小さく聞こえる。
 朝食が終わり、仕事に出かける時間になった。
 まだ彼女の事が少し不安だったけど、その決められたスケジュールに従う事にし
た。
 部屋の戸口で、いつものように彼女と軽く口付けを交わすと、
「じゃ、行ってくるよ」
と言った。
 ナオミも
「行ってらっしゃい」
と言った。
 しかし今日は仕事にならないだろうと思う。いつも彼女がこんな風になった晩の
翌朝はそうだ。
 でも、このスケジュールは決まっている事だ。ボクやナオミにはどうする事も出
来ない。
 そう思いながら、アパートメントの階段をゆっくりと降りていった。


                                 つづく
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■次回予告:地下鉄に乗るデイヴ。その行く先は、いったい?
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【 in some cases】

発 行 日:毎週月曜日
発 行 元:1999年とショートショートワンダーランド(1999+SSWL)
http://fax.mods.jp/
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