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「誰の心の中にもその人だけの物語がある。」
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文芸同人「主婦と創作」2009年12月19日発行 通巻 たぶん348号

発行日:12/19

 初めましてのかたは、初めまして。
 そうでない方は、お待たせいたしました。
【「自称・文芸同人誌」主婦と創作】発行人の銀凰です。

 一年が過ぎるのは早い物で、本日が今年最後の発行となります。
 今年一年、小誌にご厚情を賜り、ありがとうございました。
 来る2010年もよろしくお付き合い下さいますよう、お願い申し上げます。
  

 2009年12月26日(土)/2010年1月2日(土)は休刊の予定です。

 年明けまして、最初の発行は1月9日を予定しております。
 この号に掲載する作品の投稿締め切りは7日となります。

 以上、予定は未定ではございますが、あらかじめご承知おき下さいませ。

 それでは本日の会報をお楽しみ下さい。
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◇本日の目次…
 ◆連載……風天マン  実録国際線乗務員の飛行(非行)日誌 47
 ◆連載……高野聖  Neo horror Fantasy  黄龍(ウォン・ロン) 27
 ◆連載……湖東わたる  『きっと帰るから』 7
 ◆連載……神光寺かをり  フレキ=ゲー編によるガップ民話集 3-38
@━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━@
★文芸同人「主婦と創作」ではあなたの作品のご投稿をお待ちしています。
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作品投稿に際しては投稿規約(http://mm.9no1.gozaru.jp/03.html)必読です。
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◇連載  実録国際線乗務員の飛行(非行)日誌       作:風天マン
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☆☆ 実録! 国際線チーフパーサーの飛行(非行?)記録 ☆☆     
                                   
  「エッ、ウソ、ホント?」笑いと感動、痛快、恐怖の裏側を覗いてみる?
  
  航空会社志望の学生、外国事情やスッチーに興味あるヒト、飛行機を利用
  するヒトは必読!
   国際線2万時間のハチャメチャ乗務員が仕掛けた、笑いと涙、恐怖と珍事
  の打ち上げ花火。  

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  VOL 47. ハイジャックに遭遇( その6 )

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「方法が間違ってると思います!」と強気の発言で切り込んだのですが、
果たしてこの結果は・・・・?

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「いいですか!今の段階では、貴方は何もしていません。パスポートに落書き
をしただけです」

「でも・・・・ただ、100万ドルが・・・」

「本当に100万ドルを手配したら、その時点で、貴方は完全な犯罪者となっ
てしまいますよ!」

「それ以前に、本当にそのバッグの中に爆弾を持っているのなら、直ぐに捨て
ましょう! でないと、大変なことになるのですよ!いいですか!」

「貴方はまだ若い!私に今それを渡してくれたら、私が処分します!

 そうすれば何も無かったことと同じです!・・・わかりますか?」

実際の場面では、私はある一定の間隔を置いて、彼の反応を見ながら、言葉を
たたみかけていったのです。

彼は私の言葉を、やや前のめりの姿勢で足元を見つめる感じで、じっと静かに
聞いていました。

私は彼の決断を待つことにしました。
      
やがて、彼の肩が大きく揺れて「ハーッ」と長いため息を発して、座席の背も
たれに身体をあずけるようにしたのです。

「本当に僕を助けてくれるのですね?」彼は視線を直前の壁に向けてつぶやく
ように言った。

「大丈夫です! 安心して下さい。いいですね」

「はい・・・」

ここが、トドメを刺すタイミングだった。

「貴方の左手に握っているコードは、単なるコード線だということはわかって
います。 バッグの中身を見せてくれますね?」

「エッ・・・絶対に大丈夫だよね・・・ 裏切らないよね?」

彼が開けたバッグの中には、コードの束と幾つかの包装紙に包まれた菓子類4
個と新聞紙にくるんだ土産物、分厚い手帳、それと書籍が3冊あっただけで、
爆発物とおぼしきモノはなかった!

私は、それまで張り詰めていた緊張感と、心の奥で凍りついていた恐怖の塊が
氷解するのを感じながら、ため息にも似た感じで、思わず「良かったー」と
つぶやくように言った。

ハイジャックの恐怖が消滅したことと、彼が犯罪者にならなくて済んだという
ことで「良かったー」という言葉が出たのだ。

そして、彼の表情と助けを求めてすがるような目付きに、彼の精神状態の異常
を確信したのでした!

彼に「ありがとう!」と言ってバッグを返すと、私はタバコに火を点けた。

A子のくれた、折りたたみ式のマッチのカバーに「 PIC NEED INFO 」と
書かれていた。
つまり、機長がその後の状況を知らせて欲しいという意味である。

私は一息で、タバコの煙を肺のすみずみに充満させるように吸い込んで、1時
間近くの極限の緊張感を煙と一緒に思いっきり吐き出した。

「矢島君、チョットすみませんが、トイレに行ってきます。直ぐに戻ります」

「はい、わかりました」

私は、ファースト・クラスのトイレに行く振りをして、そのまま2階の操縦室
に向かった。
M機長にポイントだけを話し、私は本物のハイジャクではない、単なる精神異
常だと判断したことを伝えた。

これに対し、機長も、アムステルダムからの矢島氏の情報は、預託手荷物が
1個あること。
日本食の店で働いていたということだけで、特別な情報はないとのことだった。

彼は2,3質問をして、最後に日本入国の際にパスポートに書かれた脅迫文が
あるとマズイだろうとアドバイスをしてくれた。

結局、このまま通常の飛行プランでアンカレッジに向かうということで、
矢島氏は若干精神異常の兆候があるお客ということで対応するということになった。

パスポートについては、私がその部分だけを廃棄処分にすることにした。

機長と私の結論は、例の脅迫文はなかったことにするということで、どこにも
連絡していないので、キャプテン・レポート(機長が書く報告書)も、キャビン
・レポート(客室乗務員が書く報告書)も提出しないことになった。

つまり、精神的に少し異常のあるお客がふざけただけで、実害が何も無いので、
運行責任者の機長と客室責任者の私で合意したことになったのである。

日本人の副操縦士と航空機関士が「本当に大変でしたね!彼も高校生で家出して、
きっといろんなきつい体験をしたんでしょうね。でも本当に良かったですね!」
とねぎらいの言葉をかけてくれた。

私は今回の操縦席のメンバーがやさしい人達で良かったと思った。

私は、2階から下りると、そのまま彼の座席の反対の通路を通って、ビジネス
・クラスのギャレイ(調理室)に行き、A子にこれまでの経緯を説明した。

彼女もホッと安堵した様子だった。

しかし、まだ完全にリスクが消滅したわけではないので、これからの彼に対す
る対応を相談しようとしていた時に、彼女の表情が変わった!

私は彼女の視線の方向を見た。

そこに、いつの間に来たのか、ギャレイのカーテンを少し開けて、怒りの目つ
きで我々を見ている彼がいたのです。

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バッグの中身を見せてくれて、一件落着に見えたのですが、実はこれから思い
もかけない事実が発覚したのです。

いよいよ、次回がこのシリーズの最終回になります。

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◇まぶりか流:Google日本語入力、取り扱いマニュアル。
                   特典・顔文字、カタカナ語英語辞書
  Google日本語入力を使い方をインストールから設定まで、
  図解で分かりやすく説明しました。
  特典として顔文字辞書、カタカナ語英語辞書を付けました。
>>http://www.sugowaza.jp/r/YkdfN0pK.html
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■Neo horror Fantasy  黄龍(ウォンロン)連載 第27回 by 高野聖■

part2、〜白虎(びゃっこ)西の守護獣〜
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 (作者から読者のみなさまへ)
 「 黄龍(ウォンロン)」part2、〜白虎(びゃっこ)西の守護獣〜」
は今回、今年度最後の号で終了します。
 来年度から 「 黄龍(ウォンロン)part3、〜玄武(げんぶ)北の守護獣〜」
がスタートします。 2010年もよろしくお願いします
________________________________

 夜が明けようとしていた。澄んだ藍色の空気の中、西に向かってカーブする
海岸線が見えてきた。対岸には山と町並みが黒く沈んでいる。
 波の音以外に音もなかった。風は沖合の小島から、森の匂いをのせて
微かに髪を撫でた。

 人影のない砂浜を、銀鈴(インリン)が静かに砂を踏んで歩いていた。
 波打ち際まで行き、少し指先を濡らす。新鮮な海水の冷たさに、忘れ
かけていた平穏な日常が目を覚ます。
 水面が、明け方のオレンジ色に染まり始めた。
 柏木は波がつま先を洗う位置から、銀鈴をみつめていた。
 言葉にしきれない、持てあますほどの思い。
 銀鈴は何も気づかずに、波頭の白い泡をすくいあげた。
 水の一滴一滴が銀のかけらのように、きらめいた。
(君が好きだから................なんてシンプルな言葉なんだろう。
 もし銀鈴がぼくの真実を知ったとしたら.....................
 芦屋道満(あしやどうまん)の子孫として、いつの時代でも安部の一族に
追われる身だと知ったら、どう思うだろうか。今この瞬間も..........)

 朱雀は 1人、水平線に視線を漂わせていた。その視線の先で、小さな
焚き火の煙が藍色の空へと消えていった。
  黄龍はうずくまって、手元の焚き火で紙幣を燃やしていた。
 香港ドル札が一枚、二枚...............炎に焙られてチリチリと黒い炭になっていく。
  死者があの世で幸せになるよう燃やす、作り物の紙幣・冥幣(ミンビ)。
 冥幣(ミンビ)が手元にないので、本物の10ドル札を燃やしている。
(銀鈴の家族と、殺されて式神となった月季紅と小梅にために)
 朱雀も 黄龍を真似て、自分の10ドル札を火にかざした。
 黄龍の瞳が金色の炎が照り返した。最後の紙幣を燃やすと、挑むように
水平線を見つめた。
「供養は、これで最後だ。もう二度と、犠牲者は出さない」
「ああ、俺もそう思う」
 朱雀には今までにはなかった感情が芽生えていた。
 黄龍を守りたいという思いと、守られたいという、対照的な思い。
 朱雀は今の感情に、現実とのコミットと自分らしさを感じている。
「現実」.........それこそが今まで実感したくても指一本の僅差で届かない
感覚だった。借り物だった思い、架空のような自我。、それが今、自分の
肌に感じるものとして育ちつつある。
 
 太陽はすでに水平線の上にあり、あふれ出た金色の光がガラスの破片のように
波打ち際に散っていた。生まれたばかりの光が、死を見た4人を明るく照らし出した。
(銀鈴、君が好きだ)
 柏木は声を出すかわりに、心の中で強く念じた。
 生きることと戦うための意味として。
 もし自分が正気を失っても、銀鈴が闇の中篝火(かがりび)のように導いてくれるだろう。

「そろそろ行こう」
 朱雀は 黄龍に微笑みかけた。 黄龍は黙ってうなずき、柏木たちを促すように
ふりかえった。

part2、〜白虎(びゃっこ)西の守護獣〜(終)
part3につづく
(To be continued)
_________________________________
よかったら、こちらのサイトも覗いてみてくださいね

「英国歴史散歩〜薔薇の王国〜」
 http://www.kingdom-rose.net/
フランス革命 サン・ジュスト
 http://www.kingdom-rose.net/france.html
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◇大好きだった!おじいちゃん おばあちゃんの気持ち
                       〜高齢者疑似体験とは?〜
  大仁さんが毎日配信している介護や福祉に関するメールマガジン
    「将来のために知りたい! 介護業界・現場のホンネ」
  そのメルマガは、介護や病院でのナースのみなさんのお仕事に役立つもの、
  素人にも役立つものを前提にしています。
  しかし、発行人の大仁さんはある日、ふと考えました。
  介護をされる「高齢者の気持ち」はどうなのか?
  その時に発見したのが「高齢者疑似体験」いう衝撃的なものでした。
  興味のある方は、是非ご参考にしてください! 
>>http://tinyurl.com/y9ynbhk
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◇連載  『きっと帰るから』 (七)            湖東わたる
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『きっと帰るから』(7) 『ニューホープ』での生活の始まり
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ここまでのあらすじ=死を避けられない病HDMOを抱えるのぞみ。延命でき
る場として、衛星軌道上病院船『ニューホープ』に移住し生活が始まった。
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  4章


「ハァ、ハァ……」
 のぞみは、ランニングマシンのスイッチを止めた。汗だくだ。ジムには毎日
欠かさず通っていた。
『きょうはもう充分よ』ケイトが英語で話しかけてきた。
「Pardon?」のぞみは聞き返した。
 『ニューホープ』での生活も半年が過ぎ、のぞみはすっかり新しい環境に慣
れた。英語も、ゆっくり話してもらえば少しずつ聴き取れるようになってきた。
『きょうはもう充分よ』ケイトはゆっくり言い直して、笑顔で親指を立てて見
せた。
 のぞみも同じポーズを返して笑った。ケイトとも親しくなった。陽気なケイ
トは、いつものぞみに元気をくれる。


 週に一度、江上美知留の診察室に行き、検査を受ける以外は、地球からの通
信教育で中学校の授業を受ける毎日だった。
 三日に一度は、日本の自宅にあるコンピュータを通じて、映像通信で両親と
話していた。
「のぞみ、何か困っていることはない?」葉子は口癖のようにのぞみに問いか
けた。
「大丈夫。みんな親切だし」と答えるのが常だった。
 最初のうちは、葉子がきまって泣いてしまうので、困ってしまった。しかし、
ようやく葉子も現実を受け入れることが出来たのか、やがて冷静に話をできる
ように変わった。


 ある日、休憩中の作田登美子に尋ねてみた。
「作田さん、HDMOの患者さんって、いま何人くらいいるんですか」
 登美子は少し考えて答えた。
「ここに七人t……、確か、地球には……去年三人亡くなったから、十五人。
合わせて二十二人ね」
「地球にいるひとたちは、どうして『ニューホープ』に来ないんですか」
「まず、十三歳になっていない子が三人。それと、十三歳で発症してしまった
子が二人。あとは宗教上の理由で延命を拒否している子が六人。政治的理由で
国が出国を認めていない子が四人」
 あたしは恵まれているんだ ……。のぞみは初めて知った。
「治療法の研究はどこまで進んでいるんですか」
「最新のことは江上先生が詳しいと思うけど、おそらく今も五年前も変わりが
ないと思うわ。つまり残念ながら進んでいないということよ。のぞみちゃん、
自分で資料を読んでみるといいわ。英語の勉強にもなるし。わたしがやり方を
教えてあげる」
 二人はポッドでのぞみの部屋に行った。登美子は、『ニューホープ』各室に
備えられたコンピュータで研究資料の調べ方を教えてくれた。
 それからというもの、のぞみは、医学の基礎知識やHDMOに関する資料を
集めて、調べ始めた。まだ中学生ののぞみには、難しいことばかりだったが、
辞書と格闘し、何度も何度も読みかえし、少しずつ理解していった。


 のぞみの資料調べもだんだん巧みになってきた。ついでに英語の実力も付い
てきて、ケイトと普通に話せるまで上達した。医学についても、HDMOに関
係する極々狭い分野に限るが、大学生に追いつくくらい、博識になっていた。
 作田登美子の言葉は本当だった。この五年間、症例の報告はあるが、新しい
治療法に関する報告はほとんどない。いや、そもそも、HDMOに関する研究
例があまりにも少ない。
 のぞみは、焦りを感じた。自分には時間はそれほどない。なぜ、科学者たち
はもっと一生懸命研究してくれないのだろう。


 のぞみは、江上美知留に尋ねた。
「先生、どうしてHDMOの資料はこんなに少ないんですか?ガンやAIDS
の資料は山のようにあるのに」
 美知留は言葉に詰まった。言いにくそうに教えてくれた。
「実はね、HDMOを研究する科学者はとても少ないのよ。
 たとえばAIDSの新薬を開発したら、世界中から注目されるわ。何百万人
の人がそれによって救われるもの。
 でもHDMOは三千万人にひとりの病気でしょう? 治療法を見つけても、
誰も興味を持ってくれないのよ。
 つまり、やり甲斐がない研究テーマなの。
 中には、真剣に取り組みたいと思っている人も、いることはいるわ。でもね、
研究というのはとてもお金がかかるのよ。
 国や企業は、同じお金を払うなら、HDMOよりAIDSの方にたくさんお
金をくれるのよ。ひとの命をお金で比べたりしてはいけないかも知れないけど、
現実問題、払う価値があるのは患者の数から言って、圧倒的に、HDMOより
AIDSよ。だから、HDMOを研究したいと思っても、研究費がもらえない
のよ。
 注目もされない、お金ももらえない。だからHDMOの研究者は少ないのよ」
 美知留の説明は、実に分かりやすかった。そして、その分、のぞみには
ショッキングだった。現実の厳しさを思い知らされた。


 あたしは帰るんだ。約束したんだ。ここは仮の宿。きっと帰るんだ。誰も研
究してくれないのなら、自分で考えればいい。
 何とかやってみよう。自分で突き止めてみよう。そして、両親のもとへ帰る
のだ。
 専門家が解きあぐねている問題に、ひとりの少女が取り組む――のぞみは、
途方もない道へ歩み出していた。


「ここ座って良い?」
 のぞみがレストランで昼食を取っていると、黒人と白人の男の子が英語で話
しかけてきた。『ニューホープ』の暮らしも六ヶ月を過ぎ、すっかり英語が上
手くなったのぞみは、
「いいわよ」と微笑んだ。
「ぼくはアンソニー・マッコイ」と黒人の少年。
「ジミー・パーカー」と白人の少年。
「ノゾミ・カワウチよ」のぞみはそれぞれと握手した。
「ぼくらもHDMOなんだ」アンソニーが言った。
「そうなの? 江上美知留先生から他に二人キャリアがいるって聞いてたけど、
あなたたちだったんだ。
 ごめんね、何度かここで見かけて、ああ、あたしと同じくらいの歳の人たち
だな、って思ってたんだけど、英語がまだ自信なくて、話しかけられなかった
のよ」
 のぞみはHDMOキャリアと聞いて嬉しくなった。同じ苦しみを持つ者同士
の、連帯感のようなものを感じた。
「アンソニー、ノゾミにも、あれ、見せてあげたら」ジミーがアンソニーに
言った。
「え、なになに?」
 アンソニーはポケットを探った。
「きれいだろ」
 アンソニーが手にしたものは、細かな細工を施された、金のネックレスだった。
「うわ、きれい!」
「いや、ぼくの父は、純金細工の職人なんだ。母にプロポーズする時に、手作
りのこのネックレスをプレゼントしたんだってさ。うっとりしている母に『結
婚してくれる?』って父が言ったら、母はネックレスに見とれながら上の空で
『ええ』って空返事をしたんだって。母はいつも、父は策士だったって言うし、
父は、母は金に眼がくらんだって、お互い悪口を言い合ってたよ。ぼくが
『ニューホープ』に来る時に、母がこれをくれたんだ。結婚してから片時も外
したことのないこのネックレスをね」
「素敵な話ね」のぞみは微笑んだ。
「ところで……」とジミーが言った。「ぼくは十四歳で、アンソニーは十五歳
なんだ。ノゾミは十三歳だってね」
「そうよ」
 ジミーは、アンソニーと顔を見合わせて、互いに表情を曇らせた。
「ノゾミ、怖くない?」
 二人の顔を見て、のぞみはすぐにピンと来た。
「発症?」
「そう。アンソニーは、もうボーダーを超えたから、辛くて気が狂いそうだっ
て。ぼくら二人とも、睡眠薬を飲まないと夜眠れないんだよ」
「あたしは考えないようにしてる。考えると怖くなるから。ボーダーって言っ
ても、あたしと同じ歳で発症してるひとも何人もいたのよ。みんな、いつ来て
もおかしくないわ」
 アンソニーが言った。
「ぼくだって考えたくないさ。だけど、毎日、頭の中がそればっかりなんだよ」
 のぞみは、しばらく二人と会話を交わした。二人とも、怯えきっていた。
 HDMOを持って生まれた不運はそれぞれの考え方で受け入れているようだ
が、それでもやはり、恐怖からは逃れられないのだ。
 また会おうと言って、三人は席を立った。
 のぞみは部屋に戻ると、力を抜いて宙を漂った。HDMOを持つ人たちに初
めて会った。そのことで、改めて自分も怖くなった。
 いつ爆発するか分からない時限爆弾。あたしたち、それをひとつずつ体の中
に持ってるんだ……。
 のぞみは唇を噛んだ。ここは仮の宿。あたしは帰るんだ。約束したから。
 あたしは運命に屈したりしない。
 のぞみは天井を軽く蹴って、端末の前に舞い降りた。帰ってみせるわ。そう
心の中で呟いて、資料を再び調べ始めた。

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◆3年で12冊出版できたノウハウ 「非常識な出版成功法則」
ただのマッサージ師が3年で12冊出版できたノウハウです。
私が実践してきた方法の一部をお知らせします。夢の出版に向けての
足がかりにしてください。
出版できる人生と出版できない人生とでは、大きく変わります。
 
>>http://www.sugowaza.jp/reports/get/724/28668/
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◇連載小説  フレキ=ゲー編によるガップ民話集3-38  作:神光寺かをり
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※この小話はフィクションであり実在の人物・団体・思想とは関係ありません。
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 地上に巨人が生まれて、そのあと絶えた訳 38

 大地は削れて深い谷となり、亡骸の上に盛られた土は高い山となりました。
 たくさんの谷とたくさんの山ができた後、ペネムエルとミーミルは清い川へ
行きました。そこで顔を洗い、口をすすぎ、手足を洗いました。すると見る間
に川の水は茶色く濁りました。
 その川の水はそれから後もずっと茶色く濁っておりましたので、川の名前は
トルーブル(濁り)と言うのです。
 身を清めたペネムエルとミーミルはすぐにムスペルの山に向かいました。
 ミーミルは彼の両親に言ったとおりに山も谷も一足で跨ぎました。平らな地
面は風のような速さで駆け抜けます。大きな川も飛び越えました。ペネムエル
は振り落とされないために、彼の息子の髪を体に縛り付け、彼の妻の杖をしっ
かりと握りました。
 ミーミルは食べもせず、飲みもせずにかけ続けました。ペネムエルも食べも
せず、飲みもしませんでした。
 二日と二晩駆けますと、地平の果てに白い輝きが見えて参りました。
 ミーミルが訊ねました。
「お父さん、あれに見えるのはムスペルの山でしょうか?」
 ペネムエルは答えます。
「息子よ、あれがムスペルの山だ」
 ミーミルはすっかりお腹が空いて、すっかり疲れておりましたが、山が近い
と知ると勇気を得て、さらに一日駆け続けることができました。
 一日駆けて近付きますと、それは大変高い山であるのがわかりました。山肌
は赤く、火のように輝いておりました。
 さらに一晩駆けますと、ようやくその麓にたどり着くことができました。
 赤い山肌はギザギザに尖っておりました。
 地面は硬いギザギザの石に覆われ、僅かばかり生えている草もギザギザの棘
で覆われておりました。山を登る道は、獣のそれすらも見えません。
 ミーミルがギザギザに尖った岩の先に手を差し延べますと、その一つ一つが
熱を帯びておりました。
 ミーミルが訊ねました。
「お父さん、この山は岩も木々もまるで炎のようです。私たちは登ることがで
きるでしょうか?」
 ペネムエルはミーミルの髪から簪に挿していた杖を引き抜き、髪の毛の一筋
を綱のようにして息子の肩まで伝い降り、掌に乗り移りました。
 そうして赤い山をじっと見て、言いました。
「息子よ、私は登らなければならない」
 ペネムエルは妻の杖をしっかりと抱きかかえて、真っ赤な山肌に飛び降りま
した。
 サンダルの底からジュウジュウと皮が火に焼けて焦げる音と匂いがしました。
杖を突きますと、石突きの先からパチパチと木が火に焼けて焦げる音と匂いが
しました。
 音は次第に大きくなりました。匂いは煙になり、煙は炎になりました。
 ミーミルが驚いて言いました。
「お父さん、この山を登ればあなたの体が燃えてしまいます。どうか登るのを
止めてください」
 しかしペネムエルは笑って言いました。
「息子よ、私は登ることができる。善き者のためには、良き道が備えられるのだ」
 ペネムエルは炎の靴を履き、炎の杖を突いて、ギザギザの山肌を上ってゆき
ました。
 するとどうでしょう。炎の靴に踏まれたギザギザの石は融け、炎の杖に払わ
れたギザギザの草木は分かれてゆきました。ペネムエルの歩いた跡は、まぶし
く輝く平らな道になったのです。
 ミーミルは更に驚いて言いました。
「お父さん、どうか私もご一緒させてください」
 そうして、ペネムエルが返事をするよりも先に、山に登り始めました。
 ミーミルの大きな足の裏の皮はパチパチと音を立て、モクモクと煙を出しま
した。煙はやはり炎となって、爪の先からくるぶしまでを覆い尽くしました。
 炎は大変熱く、ミーミルはたくさんの汗を流しました。ところが、不思議な
ことに、足が燃えて炭になるようなことはありませんでした。
 親子は炎の靴で炎の山を登り、やがてその頂上にたどり着きました。
 ペネムエルは白くて美しいギザギザの石を集めて、幾つも積み上げました。
「お父さん、お父さん、いったい何をなさるのですか?」
 ミーミルは驚いて訊ねました。ギザギザの石のギザギザがペネムエルの手に
刺さり、傷口からは血潮が溢れ出して、白いギザギザの石を真っ赤に染めたか
らです。
「息子よ。ここに祭壇を作るのだよ。天のいと高きところにいる兄弟と、最も
尊い御方の元に、地に住まう私たちの声を届けるために」
 ペネムエルはやはり笑って言いました。
「お父さん、お父さん」
 ミーミルが言いかけますと、ペネムエルは言葉を遮って、
「息子よ、私は止めることはない。私の流す血のことも、私の体が焼けること
も、私にとっては苦痛ではないのだから」
 すると、ミーミルは首を振って言いました。
「いいえお父さん。どうか私にも手伝わせてください。私の腕はあなたより長
く、私の力はあなたより強いので、すぐに大きな石を積み上げることができる
でしょう」
 ペネムエルは大変喜びましたが、同時に大変心配になりました。
「息子よ、お前の腕は私よりも長く、お前の力は私よりも強い。お前は私より
も早く石を積むことができるだろう。しかしこの岩は硬く尖っている。私の手
に棘が刺さったように、お前の手も傷つくだろう。私は親であるから、息子が
苦しむところは見たくない。そして人として、お前が自分の苦しみのために、
地上の人々の為を見放すところを見たくはない」
                                 続く
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