トップ > アート&カルチャー > 読書 > 書評 > 辛口の本格書評批評紙「図書新聞」公式メールマガジン

辛口の本格書評批評紙「図書新聞」公式メールマガジン

RSS

図書新聞は本の批評専門紙です。●この本はどう読まれている?●専門家や一般読者はどんな読み方をしている?●店員さんの評判は?違った読み方を知れば、本の新しい面白さが分かってきます。メルマガでは最新の誌面から厳選した記事を配信します。



メルマガの登録・解除

登録した方には、メルマ!からオフィシャルメルマガ(無料)をお届けします。


最新の記事リスト

  1. このメルマガは最新記事のみ表示されています

メルマガ情報

最終発行日:
2009-09-07
発行部数:
46
総発行部数:
1363
創刊日:
2008-06-10
発行周期:
週刊
Score!:
-点

書評|『ゼロの王国』

発行日: 09/07


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

           ◆◇◆ 今週の紙面から ◆◇◆

------------------------------------------------------------------------

※今週の紙面から
 4面に掲載の『ゼロの王国』書評を転載いたします。

知の冒険なのか、知の遊戯なのか――ドストエフスキー『白痴』を150年後の
東京を舞台に再現
井出 彰

鹿島田真希 著
ゼロの王国
4・20刊 四六判612頁 本体2800円
講談社

 実に非現実で滑稽な主人公・吉田青年は、結婚式場などで招待客らの宛名書き
をしているフリーター。途轍もなく単純な作業を苦にすることなく、むしろ喜び
にさえしている。この病弱で貧乏、それゆえに、自分など見向きする人もいない
という、謙譲と美徳、無垢な心を持った主人公をめぐってエリとユキ、二人の女
性が関わってくる。その関わりが恋と呼べるのか、愛と呼べるのか、六〇〇頁に
及ぶ壮大な議論の輪や饒舌な会話で織りなされる物語である。
 エリは自分に欲望する多数の男たちに応えながら日々パーティーや酒盛りをや
っては派手な生活を繰り返している。男に騙され一億円の借金もある。ある日、
そんなパーティーの真っ最中に、青年実業家が同額の現金を持ってきてエリに結
婚を迫る。エリはもちろん、周りにいた者たちも、その不躾な態度に怒り、吉田
青年は彼から守るためにエリと唐突な結婚をする。
 一方、宛名書きのアルバイトに応募してきて知り合ったユキは、かねてからプ
ロポーズされていた医師・小森谷氏に、結婚の承諾の手紙の運搬を吉田青年に依
頼する。そして医師とユキはめでたく結婚ということになる。だが、その準備の
過程で、エリとユキの、吉田青年に対する、心のかたち、愛のかたちというもの
の輪郭がはっきりとしてくる。
 太陽の光のように満遍なく降り注がれ、誰にでもゆき渡る愛は、男と女、もっ
といえば雄と雌の対の中で育まれる愛とは違う。男を独占したい、あるいは独占
されてみたいとするエリやユキには、一見無知で愚鈍、私欲のない吉田青年は、
無垢でこの上もなく美しく映るときもあるが、心を充たしてくれるものがない。
やがて、エリは何の不満もなく律儀で単調な生活を放棄して藤原氏と再婚する。
吉田青年は、離婚したにもかかわらず藤原氏やエリと今まで通り、否、今まで以
上の親睦な関係を続けてゆく。そこに憎悪や嫉妬の一片も介在しない。
 ユキの方は、小森谷氏との結婚は、吉田青年の心を自分の方に向かわせる手段
だったのだが、彼の鈍感さゆえ結婚しなければならない羽目に陥ったのであり、
だんだん自閉、自虐の道に追い込まれてゆく。ついに晴れの結婚式の途中で出奔
することになる。行く先は、吉田青年がかつて育った北海道の施設。その後を吉
田青年が追って、二人は、これ以上ない幸せな生活を送る。しかし天使のような
子どもたちに満遍なく注いでいる吉田青年の愛と、自分への愛が同質のものと分
かったユキの心はやはり充たされず、虚しさと孤独のうちに去っていく。
 これはドストエフスキー『白痴』のパクリよね、とあっけらかんと言い放つ著
者の言葉に、圧倒されて読み始めた。十九世紀の古典を一五〇年後にどう再生す
るのか、農奴解放令は発布されたものの、貧困、詐欺、横領は日常。幼児虐待、
殺人、政府要人へのテロが横行した犯罪都市ペテスルブルグと、どう二一世紀の
平和ボケと飽食の階層と貧困と自殺の階層に二分され、格差社会と呼ばれる東京
を舞台に移し換えるのか興味深かった。神の似姿としてのムィシキンを、欲望渦
巻く人間世界に置いてみせたというドストエフスキーの壮大な実験を、東洋の果
ての国の気鋭の作家がどう再現してみせるのか。特に、登場人物たちは、労働な
ど縁のない貴族、有閑階級に属する者たちである。毎日毎日、宴を開き、そこで
の饒舌な議論や噂話で成り立っている。今日の我が国では、そんな風習はない。
 読み始めた当初、その無理、不自然さに戸惑った。だが、そんなことは百も承
知の上で、果敢に力ずくで進めていった物語に、なるほど、なるほどと引き込ま
れていった。特に小森谷氏の弟、自殺願望に憑かれた瞬の、イッポリートに対応
する場面は、避けられない死と生への渇望と、不条理への不服を展開する場面は
秀逸。ただ、この奇妙にして壮大な物語が、ゆき詰った現代文学の真の知の冒険
たりえたのか、単なる知の遊戯だったのか、私には分からない。(本紙編集)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

            ◆◇◆ 今週の1面 ◆◇◆

------------------------------------------------------------------------


今週の1面:大谷恭子氏(元早大ブント・弁護士)に聞く 60年代・70年代
を検証する
政治少女から人権派弁護士へ

大谷恭子(おおたに・きょうこ)氏=1950年生まれ。高校時代にベトナム反
戦運動を体験。69年、早稲田大学法学部に入学、すぐに学生運動を開始。78
年、弁護士登録。連合赤軍事件、永山則夫の弁護にあたった。三里塚反対同盟農
民の小泉よねさんの行政訴訟にかかわった。障害児の自主登校裁判、アイヌ肖像
権裁判などマイノリティーの人権を擁護する弁護士として活躍。地下鉄サリン事
件など困難な事件の裁判にも携わった。現在、元日本赤軍の重信房子氏の裁判の
弁護人であるとともに、沖縄大学の客員教授、日本女子大学の講師も務める。著
書に『死刑事件弁護人――永山則夫とともに』(悠々社)、『共生の法律学』
(ゆうひかく選書)など。

 約40年前の全共闘運動は、全国学園での学生の運動であったが、日本社会の
差別問題、マイノリティー問題をめぐる社会運動とも重なっていた。当時の運動
がやり残した課題を、その後の人生の中で引き継いで取り組んでいる人は少なく
ない。弁護士の大谷恭子氏は、障害児、HIV感染症者、精神障害者、アイヌ民
族、在日韓国・朝鮮人、被差別部落民、ホームレス、異なった宗教の人々、性的
マイノリティーの人々、そして女性たちと向き合いながら、粘り強く差別と偏見
と闘っている。また死刑判決、重刑判決のケースの弁護活動に携わってきた。大
谷氏に、若い時代の体験と現在の思いを語っていただいた。(インタビュー日は
7月4日。東京都北区十条にて。)……詳しくは本紙をご覧ください。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

            ◆◇◆ 今週の目次 ◆◇◆

------------------------------------------------------------------------


目次
主な書評4〜8面
吉川一義他編『フランス現代作家と絵画』(松浦寿夫)
大和岩雄『新版 古事記成立考』(吉田修作)
鹿島田真希『ゼロの王国』(井出彰)
R・A・ダール『政治的平等とは何か』(小田川大典)
J・R・ウォーコウィッツ『売春とヴィクトリア朝社会』(山口みどり)
D・コーエン『迷走する資本主義』(佐藤方宣)
菊池一隆『中国初期協同組合史論 1911−1928』(菅沼正久)
山内舜雄『続 道元禅師における仏性の問題』(吉津宜英)
宮尾益知監修『アスペルガー症候群 治療の現場から』(宮本信也)
山田宏一他『ヒッチコックに進路を取れ』(大久保清朗)
大熊信行『日本の虚妄〔増補版〕』(今井勇)
佐藤友哉『デンデラ』(藤田直哉)
H氏賞受賞者 中島悦子氏インタビュー4面
文芸時評(齋藤礎英)6面
連載(稲賀繁美、秋竜山、神山睦美、ベイベー関根)


…連載は、ホームページでもお読みいただけます。http://toshoshimbun.jp/


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

            ◆◇◆ 書籍の紹介 ◆◇◆

------------------------------------------------------------------------

■図書新聞 新刊案内■

★森山大道 写真集「NORTHERN」(DVD付)発売中

ブラキストン線の彼方に、ぼくを誘惑する北の大地が待っていた。
その風土は、まず写真の、そしてぼくの写真の、ルーツだった。 
森山大道

あこがれの大地=北海道の原風景を撮った
約2000枚から厳選した写真175枚、
DVDにもスライド写真220枚を収録。
09年4月の森山氏インタビューを写真集、DVDに所収

A4横判 192頁 定価3000円+税

★『シリーズ 六〇年代・七〇年代を検証する(1)柄谷行人 政治を語る
(聞き手 小嵐九八郎)』発売中です

目次

第一章 六〇年安保闘争と全共闘運動
第二章 思想家として歩む
第三章 現状分析
第四章文学の話

柄谷行人氏の情熱に降参―インタビュー後記 小嵐九八郎

ブックマークに登録する

TwitterでつぶやくLismeトピックスに追加するはてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録
My Yahoo!に追加Add to Google

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

登録/解除

メルマ!のおすすめメルマガ

  1. ザツガクヒロッチャタ!

    最終発行日:
    2010/12/20
    読者数:
    53人

    吾輩が、読んだり聞いたりした雑学を、皆々様方にも知って貰いたいのです それは、きっとどこかで役に立つはず…はっきり言って無駄知識ですが 知っていると自慢できるかも?

  2. 面白真面目好奇心

    最終発行日:
    2013/10/22
    読者数:
    51人

    好奇心旺盛なテニス、スキー現役コーチ月さんが、面白いと感じた情報を、どんどん紹介。ウィット、親父ギャグ、川柳、なんでもありのブログタッチのメールマガジン。

  3. 世界文学リミックス by 池澤夏樹

    最終発行日:
    2015/09/15
    読者数:
    532人

    池澤夏樹が夕刊フジにて毎週連載している「世界文学リミックス」の再録。池澤夏樹個人編集による「世界文学全集」(河出書房新社刊)がより楽しめる、作品にまつわるエピソードや裏話などを綴ったショート・エッセイ。

  4. 藤原雄一郎のすてきにエイジング

    最終発行日:
    2010/03/19
    読者数:
    102人

    人生は長い!定年と同時に、今までの人生をリセットして全く新しい人生をスタートしましょう。そして、すてきに年を重ね、すてきに人生をおくりましょう。 豊かですてきな人生を送るヒントの数々がちりばめられています。皆さんと共に前進しましょう。 定年後の過ごし方、定年後の楽しみ方、定年後の悠々たる過ごし方などを一緒になって考えましょう。

  5. ☆★☆ 魔法の法則 ☆★☆

    最終発行日:
    2009/08/28
    読者数:
    33人

    女性向けの製品情報を掲載させて頂いております。

発行者プロフィール