小説

深読み・斜め読み/イーザウ文学解体マガジン

ドイツのベストセラーファンタジー作家ラルフ・イーザウ。



日本では『ネシャン・サーガ』(あすなろ書房)、『暁の円卓』(長崎出版)などが



有名ですが、彼の作品世界は、これからもはてしなく広がっていきます。



イーザウのはてしない宇宙を遊泳する道しるべとして、このメールマガジンをご愛読



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深読み・斜め読み/イーザウ文学解体マガジンvol.15

2008/09/12


炭疽菌テロ事件の捜査がこの8月に打ち切られましたね。今年の7月29日、
陸軍感染症医学研究所に勤務していた容疑者の研究者が「自殺」したため
です。炭疽菌テロを調べていたイェレミが、事件の真相を闇に葬るために
よくやる手法として話題にした別の事件と同じような結論にあぜんとさせ
られます。(ドイツ文学者・翻訳家 酒寄進一)
 
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ラルフ・イーザウ公認サイト
秘密の図書館〜イーザウのはてしない宇宙
http://isau.jp
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  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
    
    1 イーザウの新たなキャラクターたち 『銀の感覚』2
      イェレミ
 
    2 おすすめコラム
      ベルマン家の人々
      
  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 

――── 1 ラルフ・イーザウ大解説  ───────────────
                                   
   イーザウの新たなキャラクターたち 『銀の感覚』2
   イェレミ
    
―───────────────────────────────―――
 
『銀の感覚』の主人公イェレミが、旧約聖書中のエレミアにつながるこ
とは、本書あとがきでも書いたとおりだ。ここでは前回と同じ設定資料
集からイェレミの項を一部引用しよう。
「本名イェレミ・ローズ・ベルマン。愛称ジェリー。1972年12月31日生
まれ。カリフォルニア大学バークレー校人類学部准教授。金髪はスウェー
デン人の祖母ゆずり、褐色の瞳は母ゆずり。セカンドネームは父方の曾
祖母にちなむ。身長1メートル78センチ、きれいな顔立ちだが、少々強面
(ほとんど笑わない)。左の眉毛(おそらく「首筋」のまちがい−酒寄注)
に小さな傷跡がある。運動神経が抜群で、マラソンランナーでもある。
だが精神的に病んでいるときは、引きこもることが多い。緊張すると上
唇を歯でかむのが癖。ジョーンズタウンの集団自殺事件とアル・レアリー
との一件、このふたつのトラウマに苦しみ心を閉ざしている。イェレミ
は共感力をもっているが、自覚もしていないし、なかなかそれを認めよ
うとしない。だがサラーフとの出会いを通してしだいに覚醒していく」
共感力は両刃の剣だ。相手の心がわかれば、相手を深く理解することに
つながるが、もし相手が悪意を持ち、その心に染まるとしたら、それは
とても危険なことでもある。『銀の感覚』はこの共感力の負の部分を利
用しようとする者たちとの戦いの物語だが、同時に幼いときのトラウマ
がもとで負のスパイラルに陥っているイェレミの魂の物語でもある。
5歳のジェリーが感じとったものをいくつか本文から引用してみよう。
「恐怖と不安が気持ち悪い臭気となってコテージから流れだしている」
「教祖が発散する不安が、しだいに集会所の人々をおおいつくしていく」
「ジェリーは耳をふさいだが、死の恐怖におびえた人々の悲鳴を遮断す
ることはできなかった。燃えさかる石炭が頭の中を転がるような感覚」
第1部は人民寺院の集団自殺事件へ向けて緊迫した状況が描かれている
ので、ついそちらに目が向いてしまうが、それをかいま見るジェリーの
まなざしが五感を超えた感性で捉えられていることにも注意を向けたい。
これはただの言葉の綾ではないのだ。こうした描写はほかにいくつもあ
る。彼女の苦悩が、五感による体験を超えた、より深いものあったこと
を踏まえて、ぜひ第1部の伏線を読み解いてみてほしい。

●『銀の感覚』についてはこちら
http://isau.jp/new/silver.html



―──― 2 おすすめコラム ────────────────────
                                  
    ベルマン家の人々

――───────────────────────────────――
 
イェレミの性格、そして遺伝的特質を決定づけているのはベルマン家の
人々だ。設定資料集からベルマン家の人々を紹介しよう。
カール:祖父、1924年ミネソタ生まれ。父は魔術師ハヌッセンだが、そ
の父の権力欲を嫌い、聖書に深く帰依している。ベルマン興業の創始者。
フレドリカ:祖母(旧姓オルストルップ)。1928年生まれ。スウェーデ
ン人の母とドイツ人の父のあいだに生まれる。カールとは合衆国で出会
い、結婚した。

ラース:父。1948年6月21日生まれ。
レイチェル・クリスティーヌ:母(旧姓スアレス)。父方はメキシコの
アグアスカリエンテスの旧家で、レイチェルの父は金髪。
ニルス:ラースの弟、イェレミの義理の父。物語の時点では亡くなって
いる。
モリー:ニルスの妻、イェレミの義理の母。1954年6月17日生まれ。身長
1メートル65センチ。髪はブルーネット。華奢な体格。夫を早く失い、鬱
病にかかっている。結婚前、フランス語とスペイン語の通訳をしていた。

誕生日であるとか、本文にはでてこない旧姓とか、作品に直接関係しない
情報が登場人物を肉付けしていることがわかるだろう。こうした言外のイ
メージが登場人物にさらなるリアリティを与えているのかもしれない。
またトラウマによって心の殻に閉じこもっていたイェレミが、やがて「あ
るがままの自分」を再発見するときの重要なヒントがここには潜んでいる。
それを発見する楽しみを、『銀の感覚』の読書体験につけ加えてみてはど
うだろう。


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【ラルフ・イーザウ】
1956年ベルリン生まれ。コンピュータ・プログラミングの仕事のかた
わらファンタジー小説を書きはじめ、作品がミヒャエル・エンデの目
にとまり、作家デビュー。1997年、『盗まれた記憶の博物館』(あす
なろ書房)で、ドイツ児童書界で権威あるブックステフーダー雄牛賞
を受賞。
おもな著書に『ネシャン・サーガ』シリーズ(あすなろ書房)、
『暁の円卓』『ラルフ・イーザウの宇宙』(長崎出版)、
『ファンタージエン 秘密の図書館』(ソフトバンククリエイティ
ブ)などがある。
 
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ラルフ・イーザウの公式サイト(独・英・日)
http://www.isau.de/
ラルフ・イーザウ公認サイト「イーザウの宇宙」
http://members.jcom.home.ne.jp/grand-blue/
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【酒寄進一(さかより・しんいち)】
1958年生まれ。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新
潟大学講師を経て、現在、和光大学表現学部教授。児童文学を中心に、
現代ドイツ文学の研究紹介をおこなっている。おもな訳書にラルフ・
イーザウの諸作品、
『ベルリン』三部作(理論社)、『黒い兄弟』(あすなろ書房)、
『影の縫製機』『三文オペラ』(長崎出版)などがある。
 
●酒寄研究室
http://www.wako.ac.jp/~michael/wiki/index.php?FrontPage
 

◇◆◇編集後記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イェレミの「自分探し」は大きな遠回りをするわけですが、迷い、悩
む、苦しむ過程で、彼女を突き動かすものが、またとんでもないもの
の連続ですね。ナチ時代からCIAにいたる洗脳実験、さらには2001
年の同時多発テロやその直後に起こった炭疽菌テロ事件などもこの物
語と無縁ではありません。
(酒寄進一)

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創刊日:2008-06-04  
最終発行日:  
発行周期:しばらく休刊  
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