小説

深読み・斜め読み/イーザウ文学解体マガジン

ドイツのベストセラーファンタジー作家ラルフ・イーザウ。



日本では『ネシャン・サーガ』(あすなろ書房)、『暁の円卓』(長崎出版)などが



有名ですが、彼の作品世界は、これからもはてしなく広がっていきます。



イーザウのはてしない宇宙を遊泳する道しるべとして、このメールマガジンをご愛読



ください。

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深読み・斜め読み/イーザウ文学解体マガジンvol.14

2008/09/05


イーザウは日本に来日した際、講演で「ファンタジーは現実逃避だと
言われるが、自分としては何かを新しく発見することだと考えている」
と語っていました。その発見のため、物語を創造するのに膨大な資料
を集めているのです。今回はそうしたイーザウの創作姿勢についてお話
しします。(ドイツ文学者・翻訳家 酒寄進一)
 
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ラルフ・イーザウ公認サイト
秘密の図書館〜イーザウのはてしない宇宙
http://isau.jp
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    1 イーザウの新たなキャラクターたち 『銀の感覚』1
      サラーフ・アルギュル
 
    2 おすすめコラム
      「共感力」と「記憶力」
      
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――── 1 ラルフ・イーザウ大解説  ───────────────
                                   
   イーザウの新たなキャラクターたち 『銀の感覚』1
   サラーフ・アルギュル
    
―───────────────────────────────―――
 
翻訳にあたっては、いつもイーザウから膨大な資料をテクストデータ
でもらっている。その中には編集者とのやりとりや、私立探偵、学術
機関などからの報告書などのデータまで含まれることも。だが翻訳に
もっとも役立つのは設定資料集だ。『銀の感覚』の設定資料集は64940
行、本に換算すると3000頁を軽く超える。ガイアナ調査団が移動に
使った定期便の発着時間、航空機、ヘリコプターの航続距離などのス
ペック、人民寺院のジム・ジョーンズとアルカイダのビンラディンの
言動が酷似していると指摘した新聞記事の全文引用などなど。作中に
でてくる人民寺院の信者の名は偽名だが、実在の人物との対照表もあ
り、年齢、家族関係、生存、死亡など歴史的事実とほぼ一致している。
ここではこの設定資料集から「サラーフ・アルギュル」の項を一部紹
介しよう。
サラーフはガイアナの熱帯雨林に住む未知の部族「銀の民」の男。白
い肌、金髪、青い瞳、髭面。生年は1518年。1526年、8歳でピサロに
よってスペインに連れていかれる。1534年、16歳でふたたび南米にも
どり、ピサロから逃れる。
調査団長イェレミ・ベルマンはサラーフの年齢を「40歳から45歳くら
い」と推定する。銀の民は月年が12回めぐる歳月を銀の年と呼ぶが、
これにあてはめると、年齢はたしかに41歳となる。
名前の語源。サラーフは熾天使セラフィムと関連するヘブライ語の動
詞サラーフ(燃える)から。アルギュルは「銀」を意味するギリシャ
語アルギュリオンから。したがって「燃える銀」という意味になる。
本文にはこうある。
「銀の町の地下深く、太陽の光が射さないところである日、ひとりの
少年が生まれ、その子の人生が一族の運命を左右すると予言された。
その子が誕生したとき、皿に灯した明りが壁面に走る銀鉱脈に反射し
て輝いた。その輝きに感動した母親は、その子をサラーフ・アルギュ
ルと名付けた。古の言葉で『燃える銀』という意味だ」(『銀の感覚』
上巻より)

●『銀の感覚』についてはこちら
http://isau.jp/new/silver.html



―──― 2 おすすめコラム ────────────────────
                                  
    「共感力」と「記憶力」

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サラーフの特技はなんといっても、人の心とつながる力だ。「共感力」
(エンパシー)に相当するが、銀の民は「銀の感覚」「感情の触覚」と
呼んでいる。
この感覚については本書を読んでほしいし、次回、取り上げるイェレミ・
ベルマンにも関わるので、ここではサラーフのもうひとつの力、「記憶
力(あるいは記憶術?)」に注目しておこう。これはサラーフの年齢の
二重性と深く関わっている。サラーフは肉体的には40代だが、精神的年
齢は485歳。記憶はこの精神的年齢に裏付けられている。スペイン宮廷で
の花火の記憶、スペイン語が流ちょうなこと。そしてイェレミの曾祖母
が遺した古い長持ちの二重底をあけようと四苦八苦していたとき、サ
ラーフはヒントを与えて、こういう。

 「そういう仕掛けに覚えがある」サラーフが口をはさんだ。
  みんな、驚いてサラーフを見た。
 「どこで?」イェレミがたずねた。
 「昔の話だ」サラーフはあいまいな返事しかしなかった。
 
この仕掛けをなぜサラーフが知っていたかは、のちにマチュピチュで判
明する。
さて、この記憶力をどう捉えたらいいのだろう。『銀の感覚』では「記
憶」という言葉が79回でてくる。よく目にするのは「免疫記憶」。免疫
機構に残る感染の記録をさすこの言葉から、遺伝子操作の問題まで視野
に入ってくる。遺伝子は種の記憶を乗せた乗り物という考え方があるが、
それに近い発想があるといえるだろう。
そしてもうひとつ重要なのが「銀の民の記憶」だ。銀の民には太古から
伝わる銀の民の記憶があるというのだが、これは物語の結末に密接に関
わるので、深入りはしないでおく。ただ、サラーフが、この銀の民の記
憶を引き継いでいるので、「私は銀の民の長と呼ばれた。精神的遺産を
記録したひもを守る役目を負っている」とイェレミに語っていることだ
け指摘しておこう。




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【ラルフ・イーザウ】
1956年ベルリン生まれ。コンピュータ・プログラミングの仕事のかた
わらファンタジー小説を書きはじめ、作品がミヒャエル・エンデの目
にとまり、作家デビュー。1997年、『盗まれた記憶の博物館』(あす
なろ書房)で、ドイツ児童書界で権威あるブックステフーダー雄牛賞
を受賞。
おもな著書に『ネシャン・サーガ』シリーズ(あすなろ書房)、
『暁の円卓』『ラルフ・イーザウの宇宙』(長崎出版)、
『ファンタージエン 秘密の図書館』(ソフトバンククリエイティ
ブ)などがある。
 
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ラルフ・イーザウの公式サイト(独・英・日)
http://www.isau.de/
ラルフ・イーザウ公認サイト「イーザウの宇宙」
http://members.jcom.home.ne.jp/grand-blue/
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【酒寄進一(さかより・しんいち)】
1958年生まれ。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新
潟大学講師を経て、現在、和光大学表現学部教授。児童文学を中心に、
現代ドイツ文学の研究紹介をおこなっている。おもな訳書にラルフ・
イーザウの諸作品、
『ベルリン』三部作(理論社)、『黒い兄弟』(あすなろ書房)、
『影の縫製機』『三文オペラ』(長崎出版)などがある。
 
●酒寄研究室
http://www.wako.ac.jp/~michael/wiki/index.php?FrontPage
 

◇◆◇編集後記
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イーザウは初期の作品からずっと「記憶」と「忘却」にこだわってき
ました。『ネシャン・サーガ』のコアハの力のひとつがそれですし、
『盗まれた記憶の博物館』はそのタイトルが雄弁にそのことを語って
います。サラーフもまた、そうした一連の主人公のひとりといえるで
しょう。イーザウはこの8月、『忘れることのできない男』というタイ
トルの新作を発表しました。まだ手元に届いていませんが、あらすじ
によると、自閉症の人のうち、特定の分野で創造を絶する能力を発揮
する人の症状、サヴァン症候群の男が主人公とのこと。そして『暁の
円卓』の最終巻に登場したコンピュータ技師ジェイ・ジェイも登場し、
人間の頭脳とコンピュータを駆使した新たな戦いが始まるようです。
(酒寄進一)

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創刊日:2008-06-04  
最終発行日:  
発行周期:しばらく休刊  
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