小説

深読み・斜め読み/イーザウ文学解体マガジン

ドイツのベストセラーファンタジー作家ラルフ・イーザウ。



日本では『ネシャン・サーガ』(あすなろ書房)、『暁の円卓』(長崎出版)などが



有名ですが、彼の作品世界は、これからもはてしなく広がっていきます。



イーザウのはてしない宇宙を遊泳する道しるべとして、このメールマガジンをご愛読



ください。

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深読み・斜め読み/イーザウ文学解体マガジンvol.6

2008/07/11



今回は『暁の円卓』と『盗まれた記憶の博物館』の両方に登場する、
あるユダヤ人について触れて、ドイツ人であるイーザウが、かつてナ
チ時代に迫害されたユダヤ人にどういうスタンスをとっているか考え
ようと思っていました。ちょうどそんなとき、イーザウから一通の
メール(7月7日付)がとどいたのです。そこには「『盗まれた記憶
の博物館』で話題になる実在の人物マックス・リープスターが亡くな
りました」という一文が。(ドイツ文学者・翻訳家 酒寄進一)
 
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ラルフ・イーザウ公認サイト
秘密の図書館〜イーザウのはてしない宇宙
http://isau.jp
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    1 ラルフ・イーザウ大解説
     ファクト・ファンタジーへの道のり その3
               〜ナチスと対峙するイーザウ〜
 
    2 おすすめコラム
      強制収容所の実像
      
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――── 1 ラルフ・イーザウ大解説  ───────────────
                                   
   ファクト・ファンタジーへの道のり その3           
    〜ナチスと対峙するイーザウ〜        
    
―───────────────────────────────―――
 
マックス・リープスター? その名にまったく記憶がなかった。さっそ
くどういう人物かネットで検索してみる。そして「あっ!」となった。
リープスターは1915年、ドイツのライヒェンバッハ生。ナチ時代にザク
センハウゼン、アウシュヴィッツ、ブーヘンヴァルト、ノイエンガンメ
と四箇所の強制収容所を生きのびたユダヤ人。
興味深いのは、ユダヤ人でありつつ、同じく迫害されていた聖書研究者
(のちのエホバの証人)たちに生きる力を与えられ、聖書研究者への迫
害の実態を後世、証言した人物であること。2008年5月28日フランスの自
宅で死去。享年93歳。
マックス・リープスターの名は、ある強制収容所体験者の思い出話の中
で、人間の偉大さの一例とあげられる。
「こんなことを話すのも、人間がいかに偉大か理解してほしいからだ。
そうでないと、マックスのことをわかってもらえないからな。1940年の
あの恐ろしい夜のことは、今でも忘れられない。マックスはその日、父
親の遺体を自分の手で火葬場に運んだ。火葬場といっても、死体が山と
積まれ、火葬にされるのを待っているような場所だ。彼はそのあと、暗
闇の中でわしのとなりに横たわった。わしは声をひそめてたずねた。ど
うやって憎しみをこらえているのか、とな。すると彼はいった。『あの
人たちも、わたしと同じで、愛を必要としているのです』」(『盗まれた
記憶の博物館』下巻、第七章より)
これもまた「全き愛」の一例といえそうだ。  
 
●『盗まれた記憶の博物館』についてはこちら
http://isau.jp/asunaro/no2.html

 

―──― 2 おすすめコラム ────────────────────
                                  
    強制収容所の実像
      
――───────────────────────────────――
 
ナチ・ドイツは1933年に政権を掌握した直後から強制収容所とそれに類し
た施設を作り、1934年から親衛隊の管理下で本格的に強制収容所建設をす
すめ、第2次世界大戦中の1941年からアウシュヴィッツ強制収容所など大量
殺戮を目的とした悪名高い絶滅収容所を建設した。
迫害の対象は、ナチ体制に都合の悪いさまざまな人々。ユダヤ人の他にも
知的障害者、共産主義者、社会主義者、同性愛者、エホバの証人など。
強制収容所(ダッハウ強制収容所の場合)では、ユダヤ人が「黄色い三角
章」をつけさせられたように、知的障害者は「黒の三角章」、共産主義者
や社会主義者は「赤の三角章」、同性愛者は「ピンクの三角章」、エホバ
の証人は「紫の三角章」と決められていた。人を色でわける、この残酷さ。
 


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【ラルフ・イーザウ】
1956年ベルリン生まれ。コンピュータ・プログラミングの仕事のかた
わらファンタジー小説を書きはじめ、作品がミヒャエル・エンデの目
にとまり、作家デビュー。1997年、『盗まれた記憶の博物館』(あす
なろ書房)で、ドイツ児童書界で権威あるブックステフーダー雄牛賞
を受賞。
おもな著書に『ネシャン・サーガ』シリーズ(あすなろ書房)、
『暁の円卓』『ラルフ・イーザウの宇宙』(長崎出版)、
『ファンタージエン 秘密の図書館』(ソフトバンククリエイティ
ブ)などがある。
 
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ラルフ・イーザウの公式サイト(独・英・日)
http://www.isau.de/
ラルフ・イーザウ公認サイト「イーザウの宇宙」
http://members.jcom.home.ne.jp/grand-blue/
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【酒寄進一(さかより・しんいち)】
1958年生まれ。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新
潟大学講師を経て、現在、和光大学表現学部教授。児童文学を中心に、
現代ドイツ文学の研究紹介をおこなっている。おもな訳書にラルフ・
イーザウの諸作品、
『ベルリン』三部作(理論社)、『黒い兄弟』(あすなろ書房)、
『影の縫製機』『三文オペラ』(長崎出版)などがある。
 
●酒寄研究室
http://www.wako.ac.jp/~michael/wiki/index.php?FrontPage
 

◇◆◇編集後記
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先回取り上げたレベッカはユダヤ人で、ナチ体制下のドイツで消息を絶
ちます(『暁の円卓』第五巻)。その関連でナチ時代のユダヤ人につい
て触れるつもりでしたが、そのときとどいたイーザウからのメールは以
心伝心のようでした。そして言外に、ナチに迫害されたのはユダヤ人だ
けじゃないのだよ。迫害の記憶を忘れないことが、次の迫害を起こさな
いための最良の方策だ、といわれたような気がしました。(酒寄進一)



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創刊日:2008-06-04  
最終発行日:  
発行周期:しばらく休刊  
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