自転車

疋田智の「週刊 自転車ツーキニスト」

環境、ダイエットに効果抜群。どなたにもオススメの「自転車通勤」ですが、そのノウハウやポリシーを色々な人にお伝えするメルマガです。
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「やまなみ」と「セカンドウィンド」についての(週刊 自転車ツーキニスト391)

2010/05/24

 
 
 
 
 
 
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    「やまなみ」と「セカンドウィンド」についての391号

■やまなみで風雨にやられた

 いやどもども、熊本空港から別府まで、九州横断を果たしてきたばかり(途中の峠は1400m)の、ヒキタでありますよ。
 いやー、名高い「やまなみハイウェイ」である。
 適度な険しさ、適度な距離で、自転車ツーリングには最適だったんだろうけど……、というか、晴れていたら、さぞや風光明媚、かつ、気持ちのいいアップダウンで素晴らしかったんだろうけど、先週末はね。なんつっても、雨がキツすぎて……。
 後で聞けば、現地「大雨洪水警報」が出てたんだって? 参ったもんだ。
 土砂降りの雨の中、上下カッパを着込み、レジ袋を靴の上に履き(靴が濡れないように)、バイザーを目深にかぶり(メガネが水滴をかぶらないように)、一路しまなみハイウェイを走った。

 雨もまあツラいが、風がキツいのが参った。
 横殴りの風が、瞬間的に風向を変えながら(山だからね)、がんがん吹き付けてくる。右風だなぁ、右、右、右、と思っていると、突然、左っ! と吹いてくる。気を抜いてるとハンドルを取られる。時速40km以上になってくると状態が不安定になって危険を感じる。
 もちろん例によって「BiCYCLE CLUB」誌連載の「歴史ツーリング」である。
 今回のテーマは油屋熊八。この「やまなみハイウェイ」や、別府温泉、湯布院温泉などを開発した、知る人ぞ知る、明治・大正・昭和の快男児なんだが、いやー、熊八はいいとして、それにしてもキツい道のりだった。
 上りは汗だく&雨ぐしょになりながら、下りは雨ぐしょ&肌ざむで、その上、風が強すぎるんで、そろそろと注意を払いながら、長い時間をかけて走った。
 この状況、確かにツーリングには最悪最低である。
 しかし。
 しかし、だ。私は言い切るぞ。
 こんな状況であっても、それでも、自転車ツーリングは楽しい、と。
 今回特に思ったのは、最初から「今回は雨だな、豪雨だな」と開き直ると、雨にしても、これまた楽し、ということだ。
「カッパに守られているよん」という、かりそめの“密着型シェルター感”もそれなりに楽しいし(まだまだ内部は濡れてないぞ♪)、それを突破された後(うぎゃー、カッパの中身もグジョグジョになっちゃったぞぅ♪)の、どうせ濡れるんなら濡れやがれ♪ の開き直り感も、これまた楽しい♪
「♪」がたくさん出てくるところが、なんとも、負け惜しみ、というか、開き直り、という感じがしないでもないが、ま、要は覚悟の問題であって「雨を楽しもう!」という覚悟があれば、雨の日ツーリングもそんなに悪くはない。白い霧に彩られたやまなみハイウェイも、そう思えば、それなりに美しいぞ。

■口蹄疫

 宮崎の口蹄疫については、本当に日々、悲しく、現地の方々にはお見舞い申し上げるしかない。
 宮崎出身の私にとっては、あの懐かしい宮崎弁で、涙声になりながら訴える、畜産業者の方々に、ニュースを見るたびに、胸が詰まる思いだ。
 話が、今回の「最優秀種牛の殺処分」などに至ると、なんとか完全隔離、完全治癒を目指すコトはできないのかと思う。口蹄疫というのは、聞けば「不治の病」ではないというではないか。
 感染力があまりに強い伝染病だから、特例を認めるわけにいかないから、という理屈もワカランではないが(ホントのことを言うと「法律に基づいて殺さないと示しがつきませんよね」と人ごとのようにいうあの表情にはムカムカきている)「根絶やしに」という道だけは避けていただきたいと思う。
 この間、私の友人の宮崎出身者たちは東京で「宮崎の牛を考える会」を開いた。東京の宮崎料理店でもコトは大打撃だ。
 とりあえず、我々としては何をすればいいのだろうか。

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【ヒキタ解釈のオススメ本(たまに非オススメあり)】

「セカンドウィンド」1 川西蘭著 小学館文庫

 *以前から名作の誉れが高かった、自転車青春大河小説「セカンドウィンド」。
 その第1巻と2巻が、小学館文庫からリニューアル文庫化されまして、私が第1巻の巻末解説を書きました。
 以下は、その解説の再録であります。ちょっと長いんだけど、読んでみておくんなまし。
「セカンドウィンド」、いい感じに発展しそうで、まじ面白いっすよ。

 2010年の日本、期せずして「自転車ブーム」というヤツがやってきている。
 都心の風景を眺めてみても、自転車の数が本当に増えたのが誰の目にも分かる。しかも、増えたのは従来の「ママチャリ」タイプではなく、ロードバイク(ドロップハンドルの例のヤツ)や、クロスバイク(フラットバーの街乗り用自転車)など、スポーツバイクばかりだ。
 ある人は健康のために。またある人は大いにエコを意識して。さらに別の人は交通費を浮かすために、と自転車に乗る。また「もう満員電車はイヤだ」とばかり通勤を自転車に切り替えた、という人もいる(これは私)。
 私など、この10年「いつかは自転車の時代がやってくる」「自転車のブームがくる」と言い続けた口なんだが、まさか本当に来るとは思わなかった。
 って、本当の本当は思っていたんだけど(笑)。
 というのも、この数年、その兆候だけは書店にすでに顕れていたからだ。
 ヒット作「サクリファイス」(近藤史恵)をはじめ「ヒルクライマー」(高千穂遥)「丘の上の小さな街で」(白鳥和也)など、このところ自転車小説が、矢継ぎ早に出版されている。小説に限らず、エッセイ、実用書などを含めると、自転車関連の出版物はちょっとしたラッシュに近い。少し大きな書店にいくと、従来なかったはずの「自転車の棚」が用意されていたりする。
 確かに、以前から自転車小説には傑作が多かった。
「男たちは北へ」(風間一輝)「自転車少年記」(竹内真)「銀輪の覇者」(斎藤純)などが有名どころだが、それらの中に本書「セカンドウィンド」が入ってくることに異を唱える人はいないだろう。
     ◆
「セカンドウィンド」は青春スポーツ小説の王道を往くような物語である。
 主人公の溝口洋は中学3年生。自転車が好きで郵便配達用の自転車にずうっと乗ってきた。その彼がある日、ロードバイクと出会い、実業団のジュニアチーム練習生としてスカウトされる。そこで出会う個性的な面々。ある者とは良きライバルとして切磋琢磨し合い、またある者とは分かり合えないながらに気遣ったり、反目したりする。
 そして、やがて洋少年は「自転車好きとしての自分」に目覚め、ロードバイク選手として、日々、トレーニングに邁進していくわけだが、本書の優れたところのひとつは、そうした登場人物のエッジがきいていて、それぞれが実に生き生きと書き分けられていることだ。
 冒頭から登場する、マッチョな悪役、今泉(猪突猛進型の単純野郎だ)にしても、クールな御曹司、南雲(とらえどころがないお坊ちゃん)にしても、おのおのの台詞の中「この人物ならこう言うだろうな」というフレーズをビシッとかましてくれる。こういうのは嬉しい。「そうこなくっちゃ」というヤツだ。そして、読者に「そうこなくっちゃ」と思わせるのは、相当に腕がなくてはできない仕事なのだ。その辺、川西蘭はかなりの手練れなのである。
 洋少年は中3、すなわち高校入試目前だ。どうやら勉強はできるらしい。女教師山田は「あなたならちょっと勉強すれば地元トップ高なんて楽に通る」と発破をかける。頑固者で自転車嫌いな祖父・徹平と二人暮らし。両親は何か自転車に関する謎を持っている。同い年の幼なじみ、多恵が、ことあるごとに登場し、淡い恋になるのか、ならないのか、毎度、匂いだけを振りまいて帰っていく。
     ◆
 およそ誰にとっても黄金時代だった中学の3年間。その真ん中に自転車というものがある。
 自転車とともに過ごした日々、幼なじみの少女、峠で出会った親友、夏の日のスイカ、蚊取り線香、手持ちの線香花火……。これらは恐らく60年生まれの川西氏にとっても、そのままリアルな少年時代であろう。あの頃流行ったランドナー(「ロードマン」などの、いわゆるサイクリング自転車ですね)は消え、携帯電話などという文明の利器が現れたりはしているけれど。
 少年時代、誰もが自転車を選び、誰もが自転車とともにその時代を過ごす。でも、なぜ自転車なのだろうか。少年時代は、クルマやオートバイを買うお金もないし、そもそも免許が取れないから? それはそうだろう。だがそれだけじゃない。私は次のようなフレーズの中にヒントを見る。洋と今泉との一騎打ち、第一部のクライマックス、タイムトライアルの場面だ。

 徳さんの整備は完璧だった。自転車が自分の一部になった気がする。いや、自分と自転車が合体して、別の機械生物になった気がする。

 見るべきは、この「機械生物」の部分。自転車と人間が一体化して、別の生き物になってしまうかのような感覚。これはある程度の自転車マニアならば誰もが納得できる「理想的な感覚」だろう。
     ◆
 こんな話を聞いたことがあるだろうか。実は、あらゆる哺乳類の中で、人類というのは最も進化の遅れた種だということを。その証拠に、人間の手足にはいまだに同じような長さの指が5本も残っている。
 その逆に、最も進化した動物、たとえば馬は、より速く、より効率的に走るために、指はすでに一本しか残っていない。さらにいうなら、鯨やイルカなどにいたっては、より効率的に泳ぐために、指どころか腕から下がついにヒレになってしまった。
 こういうのがいわゆる「定向進化」というやつで、進化を繰り返せば繰り返すほど、動物は「機能美」に近づいていく。
 人間はその逆だ。我々の種は、たまたま大脳ばかりが肥大した。その逆に、身体は進化を経ない垢抜けないものしか手にし得なかった。
 我々が、自転車という機能美の極のようなものを愛するのは、ある種の必然であるような気がしてならない。その必然とは、もしかしたら「進化への憧憬」なのだ。
 それが少年時代に出る。回すという、実に人間らしい動きを、自転車運動というものに純化し、その結果、自らの脚力のみでここまでのスピードを得たのだ。
 本書の中に出てくる登場人物たちは、皆、なんの報酬もなく、ただ「好きだから」という思いだけで、自転車にのめり込むことができる。だからこそ、少年たちの物語は人を惹きつける。
     ◆
 とにかく描写が非常にリアルなのは、本作の大きな美点である。たとえば細かい話だが「大天狗」が住む激坂、清姫峠の路面だ。地面がコンクリートになり、二重丸が幾何学模様のように続く。
 こういう部分に自転車好きは膝を叩く。
 その通り、勾配が12%程度を超えると、日本の道路は、アスファルトから、丸い溝の滑り止め(これが二重丸部分)付きのコンクリートに姿を変えるのだ。だから、この幾何学模様が現れると、我々サイクリストたちは「こ、これは、激坂サイン……!」と、気合いを新たにするわけだ。
 たとえば、有名な暗峠(大阪・奈良)、乗鞍のヒルクライムコース(長野)など、その幾何学模様が現れるたびに「ぐぐ、やはり激坂……」と、歯を食いしばって登らなくてはならない。
 頼るのは自分の脚力だけ。自転車は常に孤独だ。
 ただし、そうしたヒルクライムの際、自転車乗りは孤独なだけじゃない、ということもある。本書にはこういう描写も出てくる。

 坂を上るのはひとりだ。頼りになるのは自分の力だけだ。誰かに手助けをしてもらえば、その時点でヒルクライムは終了する。(中略)でも、ひとりで戦う時にも相棒はいた方がいい。相棒がいてくれるから、ひとりで戦えるのだ。

 こういうのがグッとくる。一人一人は孤独でありながらも、あくまでチームプレイ。自転車競技のすばらしい特質が、こうしたところに伏線として引っ張ってある。ちなみに相棒とは、途中から登場する親友・田村岳のことを指している。
 物語はまだ始まったばかりだ。
 洋の父母がいったいどう自転車に関わり、今どうしているのか、そのことをなぜ祖父はそんなに嫌うのか、幼なじみの多恵は、この先、洋の人生にどう関わってくるのか、まだ何も分からない。
「フォルツァ!」の声の主の謎もまだ解けてない。だいいちタイトルの「セカンドウィンド」(激しい運動時、最初の苦しい時間を終え、割合、楽に運動を持続できる安定した状態のこと)が、何を表し、どうしてタイトルになっているのかすら、明らかでないのだ。
 主人公、洋に十分思い入れが生まれ、個性的な登場人物がメンツを揃え、魅力的な謎がちりばめられ、今から物語が始まる、そのスタートの旗が振り下ろされたところで、まさに本書、つまり「セカンドウィンド!)」は終わる。
 この後、洋は、南雲学院に進学し、いよいよロードバイクにのめり込み、突出した得意分野を持たない(ヒルクライムに強い、などの)ことに悩み、またまた様々なクラスメートなどと出会っていくわけだが、そのプロローグにして、十分面白い。おそらく本書を読み終えただけで次を読むことを止めることができる人は皆無だろう。
 本書は、なにかスペシャルな青春スポーツ小説・大長編の幕開けを感じさせる。第二巻、そして次へと続く続刊が、長年、心待ちにされてきたのは、伊達ではないのである。

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