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今週、いちばん癒せる映画!

毎週金曜日発行。「今週、いちばん癒せる映画」を選んで紹介します。発行者はいくつかの雑誌で映画評や自己啓発の記事を執筆しています。

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今週、いちばん癒せる映画! vol.57 『シネマ歌舞伎ふるあめりかに袖はぬらさじ』

2008/05/31

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 今週も無事に配信できそうです(笑)

 5月30日公開の映画として紹介するのは、昨年、歌舞伎座で大評判になった舞台を、松竹が誇るHD高機能カメラで撮影した舞台記録(「映画」ではない、と、松竹はいっている)「シネマ歌舞伎」の第五作目、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」です。
 映画じゃないから本当はここで紹介できない? と思いますが、非常にすぐれた映像として、ご紹介したいと思います。

http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/about/index.html

 歌舞伎の舞台って、もう何十年も見ていないのですが、舞台にカメラがガンガン迫るこの作品、本物の歌舞伎よりいいんじゃないかって気がします。また、実際に舞台を見た方でも、もう一度この映像を見られるのもいいと思います。
 ひとりひとりの「芝居」(「演技」、ではない)、その様式が、思う存分楽しめます。

 同時に、有吉佐和子原作で、昭和47年の初演以来、杉村春子主演で演じ続けられてきたこの作品は(昭和63年に初めて玉三郎が後をついだ)、「排他的世界観」が作る悲劇を、するどく風刺した作品ともなっています。

 舞台は幕末。開国したばかりの横浜には、唐人相手の娼館が立ち並ぶ一方で、「攘夷派」が「攘夷か、成敗か」をまき散らしていました。開国派におもねった、(と、自分たちが判断した)人々に、暴力をふるうわけです。

 そのころ、「唐人相手の遊女になる(唐人口とうじんくち、といいます。くち、っていうのがひどいなあ)」というのは、遊女の中でも最低ランクの女がなること、つまり、借金がふくれあがってるとか、日本人相手ではもう客がとれないとか、そういう事情のある女がなることでした。
 作品の中で、自分の運命を呪って自殺してしまう遊女・亀遊(きゆう)と対比させるために、醜女の遊女たち(マリア、とかピーチとか源氏名がついてる)がたくさん登場するのですが(トロカデロ・モンテカルロみたいなコミカルな役どころとして出てきます)、当時はあのように、そのつらさに本当に気がくるってしまった女がたくさんいたのではないかと思うと、笑うというより、痛々しさを感じたものです。

 七之助が演じる遊女・亀遊は、恋人との仲を裂かれて唐人と寝る運命をはかなみ、自殺してしまうのですが、これが、まんまと攘夷派に利用されてしまうのです。「蛮人に肌を許すことをよしとせず、自ら命をたった国の宝、烈婦、」と、かわら版に書かれてしまいます。
 読み書きのできない亀遊が、辞世の歌まで詠んだことにされて。

 つゆをだに厭うやまとの女郎花
 ふるあめりかに袖はぬらさじ

(日本の女であるこの女郎は、唐人に少しでも触れることを許さない、という意を、つゆ、ふる、あめ、などの縁語を使って表現している)

 さてさて、本当に悲しいんですよ、このお話。
 というのは、この亀遊が自殺して、どんどん尾ひれがついてくると、深川の町医者の娘で借金のかたに売られた亀遊が、「武士の娘」ということになっている。国のために死ぬような烈婦が「庶民なんかで【あるはずがない】」という話になっていく。そこらにあった剃刀で喉を切ったのに、「伝家の懐剣」で喉をついたことになっている。彼女は病気で寝ていたので、廓の主人に追い込まれて北向きの薄暗い寝室で死んだのだが、もっとも広く豪華な顔見せの場で死んだことになる。

 彼女の死に尾ひれがつけばつくほど、「亀遊(本名は「ちえ」という)」という、ひとりの個人の悲しみは死の理由とは切り離されてしまって、「大義名分」がどんどんふくらんでいく。彼女の死に、「遊女にしておくには惜しい女」とか、どんどん差別感情がはいっていく。

 そのむなしさをずーっと見ているのが、この話の狂言回しである芸者、玉三郎が演じるお園なんです。

 お園は、同じように花町の女なんですが、「芸者」なので、遊女と違って、身体を売らない職分、ということになっています。吉原から横浜に流れてきたけれど、なんとか、サバイバルしています、自分の矜持を保つ、という意味で。

 お園は、亀遊の「とむらい役」なんですね。それと同時に、社会の欺瞞を暴く役でもあります。
 杉村春子がさぞぴったりだったんだろうなあと思いますが、玉三郎も、ふだんは「色っぽい」というイメージでしたが、ちゃきちゃきの鼻っ柱の強い芸者を大熱演。

 また、この歌舞伎は現代劇をもとに作られているので、「では、その瓦版を作ったのは誰か?」というサスペンス仕立てにもなっていて、単調な古典歌舞伎とは違う、現代の味があります。




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創刊日:2006-12-01  
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