太田章の【格闘技の源流】vol.7
発行日:6/30
格闘技大好きな皆さん!こんにちは、太田章です。
ご無沙汰していたら、もう半年も発行していないというので、廃刊命令が。
今日が締め切り、ということで、またまたかつて書いた原稿に手を入れて
今風にアレンジしてみました。
私にとっては永遠のテーマなのです。
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第七話 プロレスと総合格闘技 〜石澤とケンドー・カシン〜
もう2年前以上になるだろうか?石澤常光が秋山成勲に敗れた知らせ
に様々な思いが輻輳した。石澤のアマレス時代を共に生きた一人として、
HERO’Sに石澤が突然の参戦を発表した時から、胸騒ぎがしていた。私
にとって、石澤は「プロレス」を突きつける男でもあった。
石澤が早稲田大学レスリング部に入部してきたのは、ソウル五輪の前
年、1987年のことで、私はコーチとして彼を迎え入れた。レスリングの名
門、光星学院高校からやってきたとは思えない優しそうで華奢な男だった
が、82kg級を目指して頑張るという健気な練習振りに好感を持った。
石澤の指導をする内に、私自身も現役復帰の希望を持つようになった
ほどだ。ソウル五輪の銀メダルは石澤のおかげかもしれない。次第に身
体も大きくなり、日々のスパーリングにも手応えを感じられるようになった。
いつしか、私は90kg級で、石澤は82kg級で一緒に五輪に出場できない
かと本気で考え始めていた。
石澤の生まれたのは青森県常盤村。村長の三男として何不自由なく育
ったはずだ。スポーツもほとんどしなかった良家の子息が、突然、名門高
校レスリング部に入門したのは、ただ、ただ「プロレスラー」になる夢を実
現するためだった。
インターハイ全国優勝常連のレスリング部はその練習の厳しさでも有名
だった。何しろ、コーチは「日本根性会」なるものを作った男。朝から晩ま
で練習付けで、竹刀の音がなりやまない。しかし、石澤は、赤石光生をは
じめとするチャンピオンを数多く輩出している名門にありながら、青森にプ
ロレス興行があると、決まって練習を休んだ。
大学レスリングの先にも、プロレスのリングがあった。「五輪代表になっ
て、プロレス入りを果たす」それがいつしか石澤の暗黙の道程となってい
た。ソウル五輪が終わり、次のバルセロナ五輪まで、彼の成長ぶりには目
を見張った。
私はレスラー石澤を鍛え続けた。名門高校から大学レスリング部にやっ
てきた多くの有望選手が、「燃え尽き」症候群に沈んでいく中、’89、’90、
’91と三年連続で学生チャンピオンとなった。それも目指してきた82kg級で。
’90には、全日本チャンピオンにも輝いている。私とのスパーリングをすれ
ばするほど、彼は強くなった。
この成長がまた私に五輪への挑戦を奮い立たせ、二人でバルセロナ五
輪出場に挑んだ。 ‘91には私が短期留学していた米国オクラホマにまで、
石澤はやってきて、丸一ヶ月、私の家族とも同じ「釜の飯」を食った。
しかし、’92の五輪選考会を兼ねた全日本選手権で石澤は敗れた。私は
かろうじて90kg級のチャンプとなり五輪出場を果したのだが、このショックは
大きかった。私にとっては石澤との五輪出場を逃した落胆だったが、石澤
にとって、それは、プロレスへの道を閉ざされた嘆きであった。
彼はプロレスに行くには五輪代表にならなければならないと本気で思って
いたのである。私はその後の石澤を遠くから見守るしかなかった。迷いなが
らも新日本プロレスの門を叩いた彼にアマレス出身の先輩レスラーは「迷っ
て入ってプロのレスラーになどなれん!」と平手を放った。彼をプロレスラー
へ目覚めさせた一撃だった。
以来、石澤はプロレスを研鑽し、ケンドー・カシンとしてステータスを築いた。
私のレスリングの延長線上にプロレスがあったことはなかったが、石澤の目
指すものは、幼き頃に憧れたアントニオ猪木のプロレスであったことを思い
知った。その猪木氏の薦めで2000年にプライドに初参戦した石澤の思いに、
猪木「異種格闘技戦」の再現があったことは想像に難くない。
その猪木プロレスの源流は、力道山のプロレスである。敗戦に消沈する日
本人に米国人レスラーを手刀一本で仕留める力道山は熱狂的に受け入れら
れた。その一方で柔道王木村正彦との日本一決定戦も求めた。強さを見せる
エンタテイメントと強さを競うリアルファイト。この二律背反が既に日本プロレス
の源流に存在していたのである。
その流れが石澤とケンドー・カシンにそれぞれ受け継がれているとしたら、
彼のこれからに注視せざるを得ない。秋山に敗れた夜、彼は私に言った。
「突然決まった試合でしたから、準備不足は仕方がありませんが、総合でも
プロレスでもリングがある以上全力で闘います」
秋山の卓越した防御に切られても、切られても、アマレスのタックルを仕掛
け続けた石澤の姿は、青森から上京したばかりの初々しさを想起させるもの
だった。
その後、秋山は桜庭との試合、三崎との試合でストーリーを作り出した。石
澤から「プロレス」を学んだかのようだ。一方、石澤は知らぬ間に早稲田に戻
り、スポーツマーケティングを研究しているらしい。聞けば、IGFの経営が理論
にかなっているかどうか発表するらしい。
かつてはプロレス批判家と言われた私も、いつしか愛弟子をプロレスに送り
込んでいる。誠に格闘技の世界は摩訶不思議と思うのである。
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