文学

短編あらかると・第三集

主人公を「私」とする短編小説集です。ただし、小説の中の「私」は、架空の存在であり、
作者を含めた、実在の人物とは無関係です。

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短編あらかると・第三集・第二話(5)

2007/02/08


(続きです)




                   エリーゼの為に




                      5




    そのオルゴールの調べは、余りに美しかった。そして、その調べが流れる時間は、
   余りに美しかった。初めて、このオルゴールの調べを聴いたその日、私は、その美
   しい時間がやがて失われる事を思って、ひどく悲しく思ったのだった。子供ではあ
   ったが、私は、時が流れる事の悲しさを、その旋律が流れる中で、感じ、知ったの
   であった。それが、私が、初めてこのオルゴールを見た日の記憶であった。その日
   から、もう、二十年以上の時が経っていた。
    今日、このオルゴールを開ける時、私は、あの日、自分が感じたその悲しい感情
   を思い出していた。そして、あの日、自分が、どうして、そんなに悲しい気持ちに
   成ったのかと、考えずには居られなかった。私には、その遠い日の自分の感情が、
   一つの謎の様に思われたのである。あの時、何故、私は、この調べに、そんな深い
   悲しみの気持ちを抱いたのだろうか?
    そう考える私の前で、娘は、オルゴールを見つめて居た。

                                    (続く)






   平成十四年十二月二十四日(火)
   (西暦2002年)













                         西岡昌紀(にしおかまさのり)

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創刊日:2002-11-13  
最終発行日:  
発行周期:不定期  
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