文学

短編あらかると・第三集

主人公を「私」とする短編小説集です。ただし、小説の中の「私」は、架空の存在であり、
作者を含めた、実在の人物とは無関係です。

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短編あるかると・第三集・第二話(3)

2007/02/08


(続きです)




                   エリーゼの為に
 



                      3




    今日は、娘の三歳の誕生日であった。私は、以前、娘にそのオルゴールの話をし
   た事が有った。すると、娘は、それを見たいと言った。そこで、私は、娘の誕生日
   に、そのオルゴールを見せる約束をしたのであった。そして、今日、その約束通り、
   私は、そのオルゴールを家の奥から取り出し、娘の前で開けたのであった。
    その私の娘の前で、小さなバレリーナの人形は、静かに、ゆっくりと回り続けた。
   −−そのオルゴールから流れる悲しげな旋律に合わせて。
    このバレリーナは、この箱の中で、永い間、この時を待ち続けて居たのである。
   この古い木の箱の中で、娘の前で踊る日を静かに待ち続けて居たのである。そして、
   今、永い時を経て、この悲しげな旋律に合わせて、ここで、再び踊り始めたのであ
   った。
    と、不意に、その旋律は止まった。同時に、その小さなバレリーナの踊りも、不
   意に止まった。まるで、時間が止まった様に、オルゴールは、止まったのであった。
   私と娘が居る部屋は、深い静寂に包まれた。
    娘は、何も言わなかった。静寂の中で、私は、その何も言わない娘の横顔を見つ
   めた。そして、娘が、何かを言うのを待った。だが、娘は、何も言おうとしなかっ
   た。やがて、その沈黙の後、娘は、私の顔は見ないまま、小さな声で、こう言った
   のだった。
   「もう一度。」
    私は、微笑んだ。そして、「いいよ。」と言って、オルゴールを手に取ると、も
   う一度、そのねじを巻き、娘の前に置いた。すると、その古いオルゴールは、再び
   その旋律を奏で始め、小さなバレリーナは、再び、踊り始めたのだった。
    娘は、その踊りを見つめ続けた。

                                    (続く)







   平成十四年十二月二十一日(土)
   (2002年)











                         西岡昌紀(にしおかまさのり)

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創刊日:2002-11-13  
最終発行日:  
発行周期:不定期  
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