文学

広島のメリー・クリスマス

広島を舞台にした小説です。原爆投下は正しかったと言うイギリス人が、クリスマス・イヴの日、広島で、奇妙な老人に出会ひ、百物語と呼ばれる降霊術に招かれると言ふ物語です。

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広島のメリー・クリスマス(2)

2006/05/07


(続きです)



                              広島のメリー・クリスマス




                                        2




         「こんにちは。」と老人は言った。「こんにちは。」と男はそれに答えた。
       「ここに座っても宜しいでしょうか?」と老人は尋ね、男の隣りを指した。
        男は、うなずき、「どうぞ。」と日本語で答えた。老人は微笑を浮かべてい
        た。そして、男の同意を得ると、その川に面したベンチに腰をおろし、男の
        隣りに座って、手に持っていた杖を自分の前に立て、その杖の柄に両手を置
        いた。いかにも、それは、日本の老人らしい仕草であった。
         (またか。)と男は、心の中で思った。
       (また、外国人としゃべりたくて近ずいて来る日本人が現れたな。日本は初
        めてですか?日本は好きですか?そして、日本食は好きですか?とか、愚に
        も付かない会話をしようと言うのだろう。そして、ああ、そうだ、ここは、
        奴らの聖地ヒロシマだ!俺が今出て来た、あの恥知らずな博物館の感想でも
        聞く気なのだろう。全く、愚劣な民族だ。)男は、そう思って、自分の隣り
        に座ったその老人の横顔を見つめた。日本人の年齢は、良く分からないが、
        この老人は、相当高齢に見える。七十台か、いや或いは八十台か?そんな事
        を考えながら、男は、老人の出方を見守った。すると、男の予想通り、老人
        は、男の方を向いて、話し掛けて来たのであった。
       「どちらの国からおいでですかな?」老人は、日本語で尋ねた。
       「イギリスです。」男は、歯切れの良い日本語でそう答えた。
       「ほう、日本語がお上手ですな。」老人は、そう言って微笑んだ。
       (全く、いつも同じ事しか言わない民族だ。次は、スシは食べられますか?だ   
        ろう?)男は、そう思いながら、老人の次の言葉を待った。すると、老人は、
        川の方を見ながら、男に尋ねた。
       「いかがですかな、広島は?」
        男は、(来た!)と思った。
       「バカバカしいですね、この町は。」男は、日本語で答えた。
       「私は、今、あの博物館から出て来ました。えーと。何と言いましたっけ、
        あの博物館は?・・・」男は、公園の向こう側を指さして言った。
       「平和記念資料館。」
       「それです!」男は、人差し指を立てて、答えた。
       「あの博物館を見て、気分が悪く成りました。」
        老人は、男の顔を見つめた。
       「本当に、ひどい。ひどい博物館です。」男は、高い声で言った。
       「まるで、日本が被害者の様です。あんな恥知らずな博物館は、見た事が有り
        ません!」男は、自分の日本語が、いつの間にか上達している事に気付き、
        少し気分が良く成った。


                                                                  (続く)





        核時代57年(2002年)8月6日(火)




        





 

                                              西岡昌紀(にしおかまさのり)

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創刊日:2002-07-17  
最終発行日:  
発行周期:不定期  
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