映画

週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

全て表示する >

映画コラム瓦版 第030号

2011/04/25

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
          週刊・映画コラム瓦版 vol. 30
                             2011/04/25
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【目次】
・Happy Birthday
・今週のコラム:ザ・タイムマシン 1966年
・編集後記 その他
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆Happy Birthday

アル・パチーノ
1940年4月25日生まれ、ニューヨーク州ニューヨーク市出身

 シチリア移民の両親が離婚したこともあって貧しい少年時代を過ごし、様々
なアルバイトを転々とする。俳優を志して1966年に有名なアクターズ・スタ
ジオに入学。舞台で評価を受けた後、68年に『ナタリーの朝』で映画デビュ
ーし、71年『哀しみの街角』で初主演。『ゴッドファーザー』で大ブレイク
すると、『スケアクロウ』『セルピコ』『狼たちの午後』『スカーフェイス』
などの作品に次々主演。92年の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』でア
カデミー主演男優賞を受賞。96年には『リチャードを探して』を初監督した。

 アル・パチーノは『ゴッドファーザー』シリーズのマイケル・コルレオーネ
が当たり役で、この役がなければ現在の彼は存在しなかったはずだ。当時まっ
たく無名の俳優だった彼はスタジオ幹部にまったく信頼されておらず、撮影途
中に彼を降板させる話も持ち上がっていたという。(監督のコッポラも首にな
りかけていた。)この映画でアカデミー賞候補になったパチーノはその後も4
年連続でオスカー候補になるが、1970年代後半からは低迷して行く。僕が映
画を観始めた頃は、パチーノは「過去の大スター」だった。それが『セント・
オブ・ウーマン/夢の香り』で一躍第一線に返り咲く。この映画は僕もいい作
品だと思うのだが、パチーノの主演作として僕が個人的に好きなのは、東映任
侠映画の翻案みたいな『カリートの道』や、『フェイク』で潜入捜査官に騙さ
れて破滅するチンピラ役なのだ。『カリートの道』は泣けましたなぁ……。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◎映画コラム:ザ・タイムマシン

1966年(昭和41年)の映画事情

 このコラムでは毎回特定の1年を取り上げて、その年の映画業界の出来事を
振り返っていきたいと思う。その年のヒット作、映画賞、映画業界のニュース
などの他に、日本や世界で起きた社会的な出来事を紹介するつもり。第1回目は
1966年を取り上げるが、これは自分が生まれた年だという理由。

 1966年は自民党を巡る「黒い霧」事件で国民の政治不信が高まった年。総
理大臣は後にノーベル平和賞受賞者となる佐藤栄作(第一次佐藤内閣)、アメ
リカ大統領はジョンソン。アメリカは前年から北爆を開始してベトナム戦争は
本格化。中国は前年に始まった文化大革命が大いに盛り上がって、北京で紅衛兵
100万人の大集会。日本の総人口は1億人を突破し、国民生活では3C(カラ
ーテレビ、カー、クーラー)が新三種の神器と呼ばれるようになる。テレビで
は「おはなはん」が大人気。6月末にビートルズが来日して3日間5回の公演
を行って大評判になった。この年は干支が丙午(ひのえうま)だったこともあ
り、同世代の中では子供の数が極端に少ない年。その分競争が少なくて、子供
たちがマイペースに伸び伸び育っているという(甘やかされている)という評
価もある。僕もそうやって甘やかされたクチなのだけれど……。

 では以下に、映画業界の大まかな数値データを紹介する。

▽映連による産業統計データ
スクリーン数 4,296
邦画公開本数 442本
洋画公開本数 250本
合計公開本数 692本
映画入場者数 3億4,581万1千人
興行収入   757億5千万円
平均料金   219円
邦画配給収入 202億2,100万円
洋画配給収入 117億7,100万円
合計配給収入 319億9,200万円
シェア    邦画63.2% 洋画36.8%

 映画入場者数というのがいわゆる「映画人口」で、これは昨年(2010年)が
1億7,435万8千人だったので、1966年はおよそその倍の人数が映画館に足を
運んだことになる。平均入場料は昨年が1,266円で、およそ6倍に値上がり。
これが高いのか安いのかは、当時の物価全体と比較する必要がある。

 1966年には駅売りの幕の内弁当が200円、寿司屋の並1人前が180円、ガ
ソリンが1リットル50円、キャラメルが1箱20円、タイ焼きが1個10円、タク
シー初乗り100円、地下鉄の初乗り30円、上野動物園の入園料が100円、都
バスが20円、山手線の初乗りが20円、郵便料金は手紙が15円でハガキが7円。
これらはすべて朝日文庫の「戦後値段史年表」で調べているのだが、時代によ
って高くなるものもあれば、そうでないものもあるなぁ……という感じ。でも
こうやって比較すると、映画料金だけが突出して高くなっているわけではない
ことがわかる。(ところでガソリンの現在の価格は安すぎないか?)

 映画料金が高いか安いかは常に映画ファンの中で議論されているのだが、僕
自身はそれほど高いと思っていない。映連のデータに載っているのは全映画館
の平均で、大人も子供も、前売り券も当日窓口売りも、都心の大劇場も場末の
名画座も、すべてひっくるめての平均になっている。新作封切りの当日窓口料
金だけを比較すると、現在大人が1,800円なのに対し、1966年の料金は500
円だった。これだと値段の差は3.6倍で、他の物価に比べて控えめな価格にな
っているような気もするのだがどうだろうか。

 封切館の料金が500円だったのに平均入場料が219円に抑えられているのは、
当時の日本では少数の封切館で一定期間映画を上映した後、入場料の安い二番
館・三番館で、2本立て・3本立ての映画を上映していたからだ。映画好きの
学生などは、ほとんどがこうした廉価な映画館で映画を観ていた。ところが
1970年代後半からこうした映画興業形態が変化して、全国一斉ロードショー
方式になった。これは場末の小さな映画館でも都心の封切館と同じ料金を取る
わけで、要するに映画料金はこの頃に一斉に値上げされたのだ。映連のデータ
を見ると、1973年の平均入場料が500円なのに対し、5年後の1980年には倍の
1,009円になっていて、この頃に映画入場料が一斉値上げされたことがわかる。

 なお平均入場料が1,200円を超えたのは1992年。それからほぼ20年、映画
の平均入場料は1,200円台を維持している。最近の映画料金は物価の優等生だ。

▽日本映画興行ベスト・テン
1.網走番外地・大雪原の対決
2.絶唱
3.網走番外地・南国の対決
4.レッツゴー! 若大将
5.アルプスの若大将
6.クレージーだよ・天下無敵
7.愛と死の記録
8.クレージーだよ・奇想天外
9.網走番外地・荒野の対決
10.クレージー大作戦

▽外国映画ベスト・テン
1.007/サンダーボール作戦
2.メリー・ポピンズ
3.バルジ大作戦
4.グレート・レース
5.戦争と平和
6.ネバダ・スミス
7.デンマークの要塞
8.ドクトル・ジバゴ
9.巨大なる戦場
10.砦の29人

 日本映画の興行ベスト・テンを見ると、シリーズ映画が10本中8本を占め
ている。東映の『網走番外地』シリーズが3本、東宝の『クレージー』シリー
ズが3本と、同じ東宝の『若大将』シリーズ2本。「最近の日本映画はシリー
ズものばかりでつまらない!」と言う声があるが、それは昔からずっとそうだ
ったのだ。ちなみに興行2位の『絶唱』は1958年に小林旭と浅丘ルリ子主演
で映画化されたヒット作を、舟木一夫と和泉雅子主演でリメイクしたもので、
主題歌も舟木一夫が歌っていた。要するに二番煎じの企画だ。(この映画は
1975年にも山口百恵と三浦友和主演でリメイクされている。テレビドラマ化
も5回という人気企画なのだ。)映画興行の中心はいつだってシリーズ映画と
リメイク映画。洋画も1位はシリーズものの「007」(主演はショーン・コ
ネリーの時代)だった。

 『愛と死の記録』は渡哲也と吉永小百合主演のメロドラマで、原爆症の青年
と彼を愛した女性の悲恋を描く。1966年は戦後21年目の年。この映画の主人
公は4歳で被曝したという設定。自分が年を取って気づいたことだが、20年
は長いようで短い。1945年から1966年までの距離は、1990年から2011年
までの距離に等しい。「おどるポンポコリン」が流行っていたのは、つい昨日
のことのようではないか? 要するにその程度の距離感なのだ。そう考えると、
洋画のベスト・テンに戦争映画が入っているのも感慨深いものがある。第二次
大戦を描く映画というのは、その時代の人たちにとって「つい昨日」のような、
リアルタイムの現代史であったのだ。

 この年を対象にした第39回アカデミー賞は、翌年1967年3月に発表された。

▽第39回アカデミー賞
作品賞:わが命つきるとも
監督賞:フレッド・ジンネマン(わが命つきるとも)
主演男優賞:ポール・スコフィールド(わが命つきるとも)
主演女優賞:エリザベス・テイラー(バージニア・ウルフなんかこわくない)
助演男優賞:ウォルター・マッソー(恋人よ帰れ!わが胸に)
助演女優賞:サンディ・デニス(バージニア・ウルフなんかこわくない)
脚本賞:クロード・ルルーシュ、ピエール・ユイッティルーヘーベン(男と女)
脚色賞:ロバート・ボルト(わが命つきるとも)
外国語映画賞:男と女

 ポール・スコフィールドは舞台で演じたのと同じ役でアカデミー賞受賞。主
に舞台で活躍していた彼のアカデミー受賞は、結局この1回限りだった。先日
亡くなったエリザベス・テイラーは、この年に2度目のアカデミー主演女優賞
を受賞。編集賞と録音賞を受賞した「グラン・プリ」には三船敏郎が出演し、
世界のミフネのハリウッド・デビューとなった。作曲賞と歌曲賞は「野生のエ
ルザ」。視覚効果賞は「ミクロの決死圏」。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◎編集後記

 今週から「ザ・タイムマシン」と題して、特定の年の映画事情を調べること
にしました。初回はなんだか表面的なデータをなぞっただけのような気もしま
すが、どこかでパチンとスイッチが入るかもしれません。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【メルマガのご案内】

 映画評サイト「映画瓦版」では試写室や劇場で観た映画1本ずつの感想を掲
載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
まざまなコラムを掲載していこうと考えています。4つのテーマを週替わりで
連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式。5週目は休刊日です。

  ・第1週 映画の風景   (時事的な映画雑談)
  ・第2週 映辞林     (映画用語の紹介)
  ・第3週 ぼくの三つ星映画(むかし観た映画の話)
  ・第4週 ザ・タイムマシン(映画史探訪)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行者からのお願い】

・このメールマガジンに対する質問・要望・問合せは、次のメールアドレスま
 で直接お願いします。 eigakawaraban@gmail.com

・記事を読んだら、あなたの評価をつけてください。評価は3段階で簡単にで
 きますので、本メールの一番下からご参加ください!

・同じ著者による新メルマガ「聖書&キリスト教ナビ」もヨロシク!
 http://archive.mag2.com/0001189995/index.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2000-08-28  
最終発行日:  
発行周期:週刊  
Score!: 91 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。