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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第025号

2011/02/28

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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 25
                             2011/02/28
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎今日が誕生日

ジョン・タトゥーロ(John Turturro)

 1958年2月28日、ニューヨーク、ブルックリン出身。イタリア系。ニュー
ヨーク州立大学で学んだ後、イエール演劇学校で演技を学ぶ。正式な映画デビ
ューは1984年の『エクスターミネーター2』だが、それ以前にも『レイジン
グ・ブル』にノークレジットで出演しているらしい。映画ファンに注目され始
めたのは、スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)や、
コーエン兄弟の『ミラーズ・クロッシング』(90)に出演した頃から。決し
てハンサムとは言えない風貌だが、その個性がたっぷり生かされたのがコーエ
ン兄弟の『バートン・フィンク』(91)。この作品はカンヌ映画祭でパルム
ドールを受賞し、タトゥーロも主演男優賞を受賞した。ロバート・レッドフォ
ードの『クイズ・ショウ』(94)で演じたクイズ・マニア役も忘れがたい。
最近はハリウッド映画に欠かせない名脇役としての地位を確立し、刑事役など
硬派な役柄でも、貫禄たっぷりの確かな存在感を見せている。

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◎映画コラム:本棚の映画館

映画『スティング』のネタもとになった信用詐欺の解説書
「詐欺師入門 騙しの天才たち:その華麗なる手口』

 詐欺師を主人公にした映画は多い。映画ファンなら詐欺師を主役にした映画
を即座に2〜3本はあげられると思う。リチャード・ギアが大物実業家の偽自
伝を売りつけた実在の男を演じた『ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売っ
た男』が間もなく公開されるし、レオナルド・ディカプリオ主演の『キャッチ
・ミー・イフ・ユー・キャン』もモデルになった実在の詐欺師がいる。堺雅人
主演の『クヒオ大佐』も実在の結婚詐欺師がモデル。他にも映画瓦版で「詐欺
師」を検索したら、出てくる出てくる、『スパニッシュ・プリズナー』、『平
成無責任一家・東京デラックス』、『コンフィデンス』、『Lie lie Lie』、
『シューティング・フィッシュ』、『熱帯楽園倶楽部』、『マッチスティック
・メン』などきりがない。しかしこの手のジャンルの古典中の古典、最高傑作
と言えば、誰もがジョージ・ロイ・ヒルの『スティング』をあげるはずだ。

 映画が製作されたのは1973年。翌年の日本公開に合わせて同名の小説版が
早川書房から発売されているが、これは映画のノベライゼーション。今回紹介
するのはこのノベライズ版ではなく、映画の本当の「原作」と言えるノンフィ
クション「The Big Con: The Story of the Confidence Man」だ。著者の
デヴィッド・W・モラーはアメリカの言語学者で、犯罪者や売春婦といった裏
社会の人間たちが使う隠語を研究対象にしていた。1940年に発行された「The 
Big Con」は信用詐欺の世界を丁寧に取材した本で、この中には1930年代に
アメリカの詐欺師たちが使っていた隠語や専門用語が山のように紹介されてい
る。こうした詐欺師たちの業界用語を解説するには、その言葉がどのような状
況で使われるものなのかを説明しなければならない。結果としてこの本には、
詐欺師たちのありとあらゆる詐欺の手口や、そうした詐欺を行う個性豊かな詐
欺師たちの姿がたっぷり紹介されることになった。『スティング』はこうした
エピソードを巧みにつなぎ合わせて、1本の映画にしているのだ。

 映画『スティング』は1974年のアカデミー賞で10部門にノミネートされ、
作品賞、監督賞、脚本賞など7部門を受賞。デビューしたての脚本家デヴィッ
ド・S・ウォードはいきなりオスカー像を手にすることになった。しかし「The 
Big Con」を読むと、映画『スティング』に登場するエピソードの6〜7割
(あるいはもっと多いかもしれない)はそのまま本から取られていることに気
づく。映画の脚本というのは原作小説がある場合でも、関連する資料や本を何
十冊も読んで作るものなのだが、『スティング』はまがりなりにもオリジナル
脚本でありながら、「The Big Con」というたった1冊の本に依拠している
分量があまりにも多いのだ。「The Big Con」は映画の原作としてはクレジ
ットされていないが、インターネット百科事典のWikipediaでは、この映画が
「The Big Con」を下敷きにしていることが明記されている。

 「The Big Con」はアメリカでも長らく絶版になっていたのだが、1999年
に復刊されて現在でも手に入れることができる。

・The Big Con: The Story of the Confidence Man
 http://amzn.to/ecbvW3

 この本は同じ年に「詐欺師入門 騙しの天才たち:その華麗なる手口」とい
う題名で日本語訳されたのだが、現在は残念ながら絶版になっている。ただし
アマゾンのマーケットプレイスを使えば簡単に手に入れられるので、興味のあ
る方はぜひどうぞ。

・詐欺師入門 騙しの天才たち:その華麗なる手口
 http://amzn.to/g4EnxF

 この本を読んだ上で『スティング』を見ると、映画の脚本家が「素材」をど
のように料理しているのかがよくわかるはず。エピソードの羅列であった本に、
ジョニー・フッカーやヘンリー・ゴンドルフという魅力的なキャラクターを放
り込み、全体として多きな起承転結を持ったドラマに仕立てたのはやはり見事。
1930年代の時代色を醸し出す美術や衣装(どちらもアカデミー賞受賞)、ス
コット・ジョプリンのラグタイム音楽を編曲した楽曲(これもアカデミー賞を
受賞)など、映画というものは総合芸術なのだと痛感させられるのだ。

・スティング
 http://amzn.to/gPJ59Y

 ちなみに一流の詐欺師というのは、相手に決して「騙された」と気づかれな
いものなのだとか。それどころかカモになった相手は大金を巻き上げた詐欺師
のことを、「危ないところを助けてくれた親切な人」だと思って感謝すること
すらあるという。1930年代という古き良き時代の話だ。

 より現代的な詐欺の実話なら、映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャ
ン』のモデルになった詐欺師フランク・W・アバグネイル の著書「世界No.1
の詐欺師が教える 華麗なる騙しのテクニック」も面白い。しかし読み物とし
ての面白さ、痛快さという点では、「詐欺師入門」の方が一枚も二枚も上手だ。
おそらくこの本は今でも、ハリウッドの脚本家たちに新たなインスピレーショ
ンを与え続けているはずだ。

・世界No.1の詐欺師が教える 華麗なる騙しのテクニック
 http://amzn.to/hlLnQ2

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◎今週公開の映画

『アメイジング・グレイス』 http://bit.ly/eLwrBK
『神々と男たち』 http://bit.ly/fajQmw
『再生の朝に ある裁判官の選択』 http://bit.ly/hs1QQD
『コリン LOVE OF THE DEAD』 http://bit.ly/e7KPPg
『大韓民国1%』 http://bit.ly/gmhIb4

 『ツーリスト』は最後の試写を観る予定でいますが、現時点では映画瓦版に
それが反映されていません。他の映画で気になるのは『アレクサンドリア』と
『ブンミおじさんの森』でしょうか。後者はカンヌ映画祭パルムドール受賞作。
同じ年のグランプリを『神々と男たち』が取っているので、今週は昨年のカン
ヌ映画祭のナンバー1とナンバー2の作品が同日公開になるわけです。

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◎編集後記

 書籍を紹介する週は、自分の書棚の前に立って「今度は何を紹介しようか」
と考えます。本当なら新刊を紹介すればいいのでしょうが、僕自身、必ずしも
新刊中心に本を読んでいるわけではないので、今回も10年以上前に出た本を
紹介することになりました。

 それにしても本というのは、あまりにも簡単に絶版品切れになってしまうも
のです。本は再販商品で全国どこに行っても必ず定価で販売することが義務づ
けられているのですが、本がこうした特殊な位置づけにあるのは、本が文化財
だからだという説明が以前からしばしばなされてきました。本というのは一度
出された後、書店や問屋や出版社の倉庫をぐるぐる回りながら、何年も何十年
もかけて売っていくもの……。しかし今やそんな前提は、完全に崩れています。
今やほとんどの本は初版で売り切り。返本された本は保管せず、すぐに裁断し
てしまいます。だから出版された本はその時買っておかないと、すぐに絶版品
切れになって後悔することになります。

 今回紹介した「詐欺師入門」は、僕が持っているもので初版の第3刷。出版
当時は書評などにも取り上げられて、それなりに売れた本です。そのためアマ
ゾン・マーケットプレイスのような古書市場にもふんだんに流通していますし、
公共図書館などで蔵書しているところも多いと思います。

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【メルマガのご案内】

 映画評サイト「映画瓦版」では試写室や劇場で観た映画1本ずつの感想を掲
載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
まざまなコラムを掲載していこうと考えています。5つのテーマを週替わりで
連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
ついては年4回の掲載となります。)

  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

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