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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第023号

2011/02/14


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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 23
                             2011/02/14
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎今日が誕生日

アラン・パーカー(Alan Parker)

 1944年、イギリス・ロンドン生まれ。映画界入りする前は広告業界でコピ
ーライターとして働いていたが、1971年に映画『小さな恋のメロディ』の原
作・脚本家として映画界入り。何本かの映画や短編映画とテレビ映画を経て、
1976年に『ダウンタウン物語』で監督デビュー。『ミッドナイト・エクスプ
レス』(1978)や『フェーム』(1980)で監督としての地位を確立した。
音楽映画やミュージカルが得意で、脚本作『小さな恋のメロディ』ではビージ
ーズの曲をたっぷり使い、デビュー作『ダウンタウン物語』はギャング映画の
パロディ・ミュージカル。音楽学校を舞台にした青春ミュージカル『フェー
ム』以降も、『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』(1982)、『ザ・コミッ
トメンツ』(1991)、『エビータ』(1996)などの作品を撮っている。
『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』(2003)以降作品がないのが残念。

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◎映画コラム:映画の履歴書

映画賞シーズンとアカデミー賞

 毎年この時期になると、前年度に公開された映画に対する賞の話題が出てく
る。日本国内では日本アカデミー賞や報知映画賞のように年末に発表されてし
まう賞もあるのだが、毎日映画コンクール、キネマ旬報ベストテン、ブルーリ
ボン賞などは年明けの1月に発表される。アメリカの映画賞も年明けからが本
番で、1月にはゴールデン・グローブ賞、2月にアカデミー賞の授賞式がある。
これらの映画賞のうち、日本の映画興行成績にダイレクトに反映するのは米ア
カデミー賞のみ。世界三大映画祭と言われる、カンヌ・ベネチア・ベルリンで
大賞を取っても、日本ではごく小規模な公開しか行われなかったり、場合によ
っては作品そのものが日本で公開されないことすらあるが、アカデミー賞受賞
作については「オスカー○冠!」などと大々的に宣伝材料にする。それだけ一
般に知られている映画賞であり、権威ある映画賞ということでもあるのだ。

 アカデミー賞の授賞式は2月の最終日曜か3月の第1日曜に開催して、全米
ネットワークのABCから世界中に生中継される。今年の授賞式は2月27日
(日本時間の28日)だ。ノミネート作品の情報は、アカデミー賞の公式ペー
ジから見ることができる。今年は『英国王のスピーチ』が12部門ノミネート。
『トゥルー・グリット』の10部門、『インセプション』と『ソーシャル・ネ
ットワーク』の8部門、『ザ・ファイター』の7部門がこれに続くという展開
になっている。

 http://oscar.go.com/

 なお昨年の名誉賞は既に11月に授賞式が行われており、フランシス・F・コ
ッポラ監督がアーヴィング・G・タルバーグ記念賞を受賞したほか、ジャン=
リュック・ゴダール(監督)、ケビン・ブラウンロー(映画史家)、イーライ
・ウォラック(俳優)などが名誉賞を受賞している。

 アカデミー賞はハリウッドの業界人が選ぶ内輪向きの賞であって、アメリカ、
それもハリウッドのメジャースタジオがからんだ映画以外はなかなか受賞でき
ない。最終的な投票人数が多いので、個性的な作品が選出されにくいという傾
向は確かにあるし、業界内の人気投票的な要素が多分にあって、その時々のム
ードで受賞結果が左右されてしまったりもする。そんなこともあってすれから
しの映画ファンから、「アカデミー作品賞を受賞したなら、つまらない映画に
決まっている」などと憎まれ口を叩かれたりする対象にすらなっている。しか
し人間が選んでいる限り、どんな賞にも「結果としてどうなの?」という授与
はある。ノーベル賞だって後から「あれは失敗だった」と言われる授与が何度
もあるのだから、こうした栄誉栄典の授与は何事も完全ではないという、ひと
つのわかりやすい例がアカデミー賞なのかもしれない。

 ともあれアカデミー賞に人気と権威があるのは、その歴史の長さに由来する
ところが大きい。主催団体である映画芸術科学アカデミー協会が設立されたのは
1929年。もともとは当時力を付け始めていた労働組合に対抗するため、映画
会社主導で業界内の親睦団体を作ろうとしたのがことの始まりだという。この
団体のパーティーで、優秀作品や優秀俳優を表彰したのがアカデミー賞の始ま
り。こんなものはいわば、会社の中で永年勤続表彰や社長賞を発表するような
もので、あくまでも仲間内のお戯れであり座興でしかなかった。

 この第1回アカデミー賞において、会員たちから圧倒的な支持を受けた作品
がチャップリンの『サーカス』だった。ところがチャップリンの映画は、チャ
ップリンひとりが監督し、脚本を書き、主演し、製作している。今ならひとつ
の作品が主要部門を独占しても誰も不思議に思わないが、当時のアカデミー賞
は会員相互の顕彰が目的なので、この時チャップリンと『サーカス』には特別
賞が贈られるのと引き替えに、他部門の受賞からは外されることになった。こ
のことについては事前にチャプリンに説明がされたそうだが、そのことを当時
のチャプリンは不公平だとも何とも感じなかっただろう。海の物とも山の物と
も付かないアカデミー賞なるものに、現在と同じような価値があるわけではな
かったし、あくまでも身内のパーティーの座興なのだから、壇上で栄誉を受け
るのは大勢の方がいいに決まっているからだ。ところがこのアカデミー賞は第
3回から選考方式が改められたり、授賞式にラジオ中継が入ってショーアップ
されたりした結果、ハリウッド映画業界人の内輪の親睦パーティーから、全米
の映画ファンを巻き込んだ祭典へと変化して行く。この第3回アカデミー賞で
は『西部戦線異状なし』が作品賞・監督賞の2部門を受賞、続く第3回アカデ
ミー賞では『シマロン』が3部門を受賞するなど、複数部門同時受賞が当たり
前のようになっていく。アカデミー賞が海外で注目されるようになったのは第
二次大戦後のこと。アメリカ映画の世界市場寡占化が進むと同時に、アカデミ
ー賞に対する関心も大きくなってきたということだろう。

 コンクール形式の映画の祭典にはアカデミー賞以外にも、ベネチア国際映画
祭(1932年開始)、カンヌ国際映画祭(1946年開始)、ベルリン国際映画
祭(1951年開始)など、映画ファンによく知られている世界規模の映画祭が
あるのだが、アカデミー賞はこのどれよりも歴史が長い。ヨーロッパやアジア
など世界中の映画が対象になる国際映画祭に対し、アカデミー賞はハリウッド
・ローカルの映画賞であり、しかも受賞作がハリウッド・メジャーの作品に偏
っている。ところが世界の映画市場は事実上ハリウッド映画に支配されている
ようなものだから、映画ファンの視線も自然とハリウッド映画に集まり、アカ
デミー賞だけが大きな意味を持つようになる。こうなると後発のゴールデン・
グローブ賞(1944年開始)などは賞の選考方式や受賞部門などで独自性を持
ちながらも、後塵を拝して「アカデミー賞の前哨戦」に位置づけられてしまう。
今後もアカデミー賞の権威が衰えることはないだろうし、仮にアカデミー賞の
権威が大きく衰退していくようなことがあれば、それは映画というメディアが
衰退して誰にも見向きもされなくなるときだと思う。

 ところでアカデミー賞については受賞作だけが取りざたされがちだが、じつ
はノミネートされること自体が大きな名誉だと僕は考えている。最終的な受賞
作を決めるのはアカデミー会員全員による投票だが、それ以前のノミネートは、
各部門の関係者による投票で絞り込まれる。俳優部門のノミネート者は俳優同
士の投票で決めるし、脚本賞は脚本家の投票で決める。カメラや編集など技術
関連の賞についても、それぞれその世界の専門家たちがプロの目で見て判断し
てノミネート作を決めている。プロフェッショナルにとって、最も厳しいのは
批評家や観客より同業者の目ではないだろうか。プロがプロの目で見て「あい
つはスゴイ」「あいつは出来るやつだ」と認めた者が、ノミネートのリストに
ずらりと顔を揃えることになるわけだ。この後の決選投票は作品の出来や人気
に左右される面が多々あるのだが、このノミネート段階までは純粋に実力主義
に近い。例えば俳優の渡辺謙が2003年のアカデミー賞で助演男優賞にノミネ
ートされ、菊地凛子が2006年に『バベル』で助演女優賞にノミネートされた
のは、ハリウッドの俳優たちが「ケン・ワタナベはすごい!」「リンコ・キク
チはグレートだぜ!」と認めたわけだ。その後の本選で受賞を逃したとしても、
それがいかに大きな栄誉であることかがわかる。

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◎今週公開の映画

『MAD探偵 7人の容疑者』 http://bit.ly/fuKi9p http://bit.ly/fgIFhy
『サラエボ,希望の街角』 http://bit.ly/hTChoz

 『MAD探偵』は映画祭と試写で2回観たため、今回はリンクが2つになっ
ている。今週の他の映画としては、イーストウッドの新作『ヒア アフター』
が気になるし、ドニー・イェン主演の『イップ・マン 序章』が公開されるこ
とになったのはめでたいことだと思う。『サラエボ,希望の街角』はいい映画
でした。これはお勧めです。

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◎編集後記

 4月頃にメルマガをリニューアルして、連載コラムのテーマを変えようと思
っている。現在は「新作映画」「映画史」「DVD」「書籍」「名画座」とい
う5つのテーマをぐるぐる回しているのだが、これを「映画用語事典」のよう
なものにしようと思案中。1回ごとに1つの用語を取り上げて、それについて
の解説と雑感のようなものを書いていけないだろうか……。

 というわけで、今回はそのひな形として「アカデミー賞」を取り上げてみた。
実際に毎週のコラムとなれば、もう少し構成や分量を考えねばならないのだが、
あと何週間かかけて準備をしていこうと思う。

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 映画評サイト「映画瓦版」では試写室や劇場で観た映画1本ずつの感想を掲
載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
まざまなコラムを掲載していこうと考えています。5つのテーマを週替わりで
連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
ついては年4回の掲載となります。)

  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

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