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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第017号

2010/12/27

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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 17
                             2010/12/27
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎映画コラム:本棚の映画館

物語の中心には何があるのか?

「物語の命題/6つのテーマでつくるストーリー講座」 大塚英志

 映画とは「映像の芸術」である前に、まず「物語を伝える技術」だ。新作映
画の紹介で評論家やライターがどれほど詳細に映画作品の映像美について語っ
ても、それについて読者から文句や苦情を言われることはないだろう。しかし
それと同じ詳細さで物語について語り始めれば、読者は「ネタバレを読まされ
るのは迷惑だ」と感じるに違いない。映画の楽しさや面白さの大半は、「面白
い物語」に出会うことで得られるものであって、それ以外のものは二の次三の
次。監督の演出術、キャスティング、脚本構成や台詞の妙味、カメラマンの技
量、視覚効果、サウンドや音楽の生み出す世界などは、映画の作り手や映画マ
ニアにとっては大事なことかもしれない。だが映画館に100人の観客がいれば、
まず90人以上はそんなものに興味を持っていないのだ。

 映画はまず「面白い話」でなければならない。ならば「面白い話」とは何か
を知ることで、映画についても知ることができるはずだ。そんなわけで、僕は
だいぶ前から文学理論に興味を持っている。民話や小説やアニメやコミックに
も共通する物語についての理論は、映画を理解する上でも役に立つからだ。そ
うした物語の理論の分野でここ最近めざましい活動をしているのが、マンガ雑
誌の元編集者であり、現役のマンガ原作者であり、批評家でもある大塚英志だ。

 彼は専門学校や大学で学生たちにマンガやライトノベルの書き方を教えるこ
とを通して、物語の理論を整理しつつ、それを実制作に応用していくことを試
みている。彼の物語論は「批評」が目的ではなく、あくまでも「創作」を目的
とするもの。しかし創作のためのハウツーではなく、前段階として古典的な物
語論の引用や、既存作品の分析的な批評があり、そこから導き出された理論に
従って、新しい作品を作り出そうという点が面白い。ここで用いられている物
語論や分析手法は、ライトノベルやマンガに限らず、物語の形式を持つありと
あらゆるメディアに共通して用いることができるものになっている。もちろん
映画やアニメにもだ。大塚英志は著書の中でしばしば映画やアニメにも言及し
ていくし、ハリウッド映画の脚本術からも方法論を引き出してみせる。物語と
いう次元において映画とマンガは、まったくのボーダーレス。しかも映像によ
って語るという点では、マンガは映画ととても親和性が高いのだ。(映画とマ
ンガの親和力については、山本おさむの「マンガの創り方」という名著がある。
山本おさむはこの本の中で、マンガの書き方についてハウツー的な本はまるで
役に立たず、むしろ映画脚本の解説書がとても役に立ったと書いている。)

 大塚英志の創作のための物語論は、10年前に「物語の体操―みるみる小説
が書ける6つのレッスン」(現在は絶版)という本が出たのがおそらくは最初
で、その後「キャラクター小説の作り方」という本も書いている。これらを踏
み台にして、2008年にアスキー新書から刊行されたのが「キャラクターメー
カー/6つの理論とワークショップで学ぶ『つくり方』」と「ストーリーメー
カー/創作のための物語論」。そこではキャラクターの個性を小さなパーツに
分解し、その取捨選択をサイコロを振って選ぶとか、30個の質問に答えて穴
埋め式にオリジナルの物語を作ってしまう方法などが提案されているのだが、
映画を観る上で役立ちそうなのは、ここで取り上げられている物語についての
理論だ。この2冊を読めば、古典的な物語論の概略が理解できる。

 このシリーズはその後、古典的な映画理論に踏み込みながらマンガ表現のル
ーツを探る「映画式まんが家入門」を経て、今回の「物語の命題/6つのテー
マでつくるストーリー講座」に至る。今回の本で取り上げられているのは、古
典的な名作マンガの中心にある「テーマ」を使い回すことで、新しい作品を生
み出す技術だ。前作「映画式まんが家入門」に比べると、今回の本は「キャラ
クターメーカー」や「ストーリーメーカー」に近いテイストで、古典的な作品
の批評や分析と、学生に対する課題実習がうまく結びついていると思う。

 物語にはある程度パターン化された要素や規則があって、それに従って物語
を作れば誰にでも何となく物語ぽいものを作ることができる。それが大塚英志
流創作論のこれまでの主張だった。今回はそれからさらに物語の中心に迫って、
物語の中心にあるテーマにまで話が及んでいく。物語の中心にある抽象的なテ
ーマ(友情だの愛だの)を、物語として成立させるための最小限の物語要素が
この本の中で「命題」と呼ばれているもの。物語から人物や舞台となる場所の
名前や属性といったものをすべてはぎ取り、テーマに直接関わりのない周辺の
人物や事件などを取り去り、最後の最後に残された物語の最も基本的な骨組み
こそがこの本で言う「命題」だ。この命題は、神話や民話の時代から現代の小
説にまで、繰り返し取り上げられているものでもある。

 直接映画に関わりのある本ではないのだが、大塚英志の一連の本を読めば、
映画を観ていても「物語」の見方がこれまでとは違ってくるはずだ。大塚英志
自身、この本で論じられている「命題」を定義する際、映画の世界で用いられ
ている「ログライン」や「プレミス」という言葉を使って説明しようと試みて
いる。大塚流の物語論は、映画について考える際にも親和性が高いのだ。映画
の映像や俳優の演技ではなく、映画で語られる「お話としての面白さ」に興味
を持っている人は、大塚英志の本を読むべし! 「キャラクターメーカー」や
「ストーリーメーカー」などに比べて、今回の「物語の命題」は実作ノウハウ
部分が少ないので、読み物としてもすんなり読めるはず。おすすめです。

「物語の命題/6つのテーマでつくるストーリー講座」
大塚英志 アスキー新書 800円 http://amzn.to/gzIuCh

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◎今週公開の映画

 年末年始の公開作で、僕が観ている映画はありません。いくつか試写状はい
ただいていたいんですが、結局観に行くことができなくて……。

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◎編集後記

 僕が高校生の頃、白夜書房から「漫画ブリッコ」というロリコンコミック誌
が出ていた。藤原カムイ、みやすのんき、かがみあきら(1984年に26歳で急
死)、岡崎京子、桜沢エリカ、白倉由美、中田雅喜など、豪華な顔ぶれで今や
伝説となっているコミック誌だった。この編集長をしていたのが、今回紹介し
た「物語の命題」の著者・大塚英志だった。僕は高校生の時に、友人たちと白
夜書房編集部の大塚英志を訪ねたことがある。もう25年も前のことか。その
頃は、まさか自分が、映画批評家になるなんて思ってもみなかったよなぁ。

 僕は以前から「本案やリメイクはオリジナル版に対する批評である」と考え
ているのだが、今回の「物語の命題」はそれを実作者の立場から論証してみせ
た本のようにも思える。オリジナル作品から命題を抽出し、そこに新たに肉付
けして新しい作品を作る。オリジナル作品をどう分析し、どのような命題をそ
こに見出すかは批評に他ならない。

 「物語の命題」の中で映画作品が取り上げられている例は『借りぐらしのア
リエッティ』だけなのだが、大塚英志の批評はなかなか鋭い。こうして批評を
新たな創作に結びつけて行こうとする姿勢を見ると、「映画批評」がそれだけ
で何を為しえるのだろうか……と思ったりもする。映画批評を実用性で評価す
るのもバカバカしい話だとは思うが、映画批評が今や観客動員に結びつかず、
社会批評としても小さな力しか持ち得ない現状の中では、大塚英志のような批
評の応用法はひとつのあり方だろうと思う。

 今年の「週刊・映画コラム瓦版」はこれでおしまい。来年は1月10日からス
タートになります。来年はこのメルマガの内容も、少し見直そうと思ってます。

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 映画評サイト「映画瓦版」では試写室や劇場で観た映画1本ずつの感想を掲
載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
まざまなコラムを掲載していこうと考えています。5つのテーマを週替わりで
連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
ついては年4回の掲載となります。)

  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

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創刊日:2000-08-28  
最終発行日:  
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