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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第016号

2010/12/20

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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 16
                             2010/12/20
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎映画コラム:水神森キネマ倶楽部

時代を感じさせるクリスマス映画の定番!
『ホワイト・クリスマス』(1954)

 毎年クリスマスの時期になると商店街のスピーカーから流れてくるクリスマ
スソングの定番が、ビング・クロスビーの歌う「ホワイト・クリスマス」。こ
の曲は1940年代に発表発売されて以来、途切れることなくレコードやCDが
売れ続けているクリスマスソングの定番中の定番。その名曲をビング・クロス
ビー本人の主演で映画化したのが、この映画『ホワイト・クリスマス』だ。

 激戦が続く第二次大戦中のヨーロッパ戦線。そこで知り合ったブロードウェ
イの人気歌手と芸人志願の兵士が、終戦後にコンビを組んで大成功。それから
10年。人気者となったふたりが偶然知り合った美人歌手姉妹と出かけたバー
モントのリゾートホテルは、暖冬で雪が降らず、スキー目当ての宿泊客ゼロで
閑古鳥が鳴いている。ところがそのホテルを経営しているのが、戦争中に歌手
コンビたちも含む兵士たち全員から実の親のように慕われていた将軍だった。
歌手コンビは将軍の窮地を救うため、ホテルでブロードウェイばりの本格的な
ショーの上演を企画するのだが……。

 歌手コンビを演じるのはビング・クロスビーとダニー・ケイ。もともとクロ
スビーとフレッド・アステアの大スターコンビで企画された映画だったが、諸
般の事情でアステアが降板。代役に立ったドナルド・オコナーも病気で映画に
出られなくなり、最後はダニー・ケイに決まった。歌手姉妹を演じるのはロー
ズマリー・クルーニーとヴェラ・エレン。監督は『カサブランカ』(1942)
のマイケル・カーティス。音楽は全編アーヴィング・バーリン。タイトル曲も
含めて既成の楽曲が多いが、映画のためのオリジナルも何曲か新たに書かれて
いる。衣装はイディス・ヘッド。ショーの場面では当時無名のダンサーだった
ジョージ・チャキリスが踊っているが、これらのダンスナンバーの振り付けは
ボブ・フォッシーが担当しているらしい。

 映画史的に見るなら、これはヴィスタヴィジョン第1作として知られる作品
でもある。1950年代の映画界はテレビの台頭で観客動員が落ち込み、これに
歯止めをかけようと各社がこぞって画面のワイド化に踏み切った。当時のテレ
ビはモノクロの小さなブラウン管。これに対して、映画は総天然色の大画面を
全面に押しだし、テレビでは決して味わえない迫力を売りにしたのだ。1952
年にシネラマが登場し、1953年にはシネマスコープ、1954年には本作でヴ
ィスタヴィジョンが登場。さらに1956年にはトッドAO方式が登場した。し
かしこれらの中で、現在も残っているのはシネマスコープだけだ。レンズやフ
ィルムの性能が上がったことで、他の方式が当初持っていた優位性が失われて
しまったためだ。ヴィスタヴィジョンは画面のアスペクト比だけが、ヴィスタ
サイズという名前として残されることになった。

 テレビ対抗策として導入されたワイドスクリーンだが、映像メディアとして
のテレビの優位性はその後も揺るがず、映画はどんどん衰退・斜陽化して行く。
『ホワイト・クリスマス』を観ていて皮肉に感じられるのは、物語の中で社会
的にもっとも影響力のあるメディアとして「テレビ」が登場していること。主
人公がかつての戦友たちに呼びかけるのは、新聞でも、ラジオでも、ましてや
映画でもなく、テレビの人気バラエティショーなのだ。この映画の中にステー
ジショーやテレビは出てきても、映画はまったく出てこない。映画は娯楽の王
者としての地位を、既にテレビに明け渡している。

 映画『ホワイト・クリスマス』は芸人たちを主人公にしたバックステージも
のだが、映画のテーマになっているのは兵士たちにとっての「戦後」と「戦友
の絆」。戦友とコンビを組んで芸能界の人気者になった主人公たちコンビも、
ホテル経営に失敗して破産寸前になっている退役将軍も、将軍に感謝の意を伝
えるため家族とのクリスマスを返上してバーモントのホテルに集まってくるか
つての戦友たちも、全員が戦争と深く結びついている人たちだ。そして当時の
アメリカ人たちにとって、戦争はごく身近な存在だった。映画の冒頭に出てく
る第二次世界大戦は、ほんの10年前の出来事に過ぎない。映画公開の前年に
は朝鮮戦争がようやく休戦にこぎ着けている。この映画を観た多くのアメリカ
人たちは、この映画に登場する元兵士たちと同じ戦後を、戦争の記憶を抱えた
まま生きていたのだ。

 今となっては戦争や軍隊を美化しすぎているように感じられる場面もあるが
(軍隊生活を懐かしむ「Gee, I Wish I Was Back In The Army」というナン
バーの面白さ!)、それは生々しい戦争や軍隊の記憶があった上で、それを相
対化しているに過ぎない。この映画には戦闘シーンが出てこない。戦死者らし
き人も出てこないし、その遺族も出てこない。戦争の悲惨を生身で経験してい
る人たちにとって、そんなことはあえて映画に描くまでもない当たり前のこと。
だからそれを映画から排除しても、この時代にはまったく問題がなかったし、
むしろそうするのが当然のことだった。人々が戦争の傷と本当に向き合うには、
戦争が終わってからもう少し時間がかかる。だが今の視点でこの映画を観ると、
この映画には戦争の悲惨がほとんど描かれていないことが気になってしまう。

 映画のタイトルになっている「ホワイト・クリスマス」は、1942年の映画
『スウィング・ホテル』でビング・クロスビーが歌った曲。歌詞は故郷を遠く
離れた男が懐かしいクリスマスの風景を回想するという内容で、あまり歌われ
ることのないこの曲のヴァース(前歌)には、この歌の舞台が暖かくて雪とは
縁のないカリフォルニアであることが記されている。これは「クリスマスに雪
が降って嬉しいね」という曲ではない。「クリスマスに雪が降っていた故郷が
懐かしい」という望郷の歌なのだ。第二次大戦中にヨーロッパや太平洋の島々
で戦っていた兵士たちは、ラジオから流れるこの曲を聴いて故郷や家族のこと
を思い出したに違いない。映画『ホワイト・クリスマス』の冒頭にはビング・
クロスビーが兵士たちの前でこの歌をしっとりと歌い上げる場面が挿入されて、
この曲の望郷の歌としての役割を再現している。

 ただしこの映画の中では、「ホワイト・クリスマス」が2度歌われている。
「♪I'm dreaming of a white Christmas」で始まる歌は、冒頭の戦場のシ
ーンでは確かに「望郷の歌」。しかしラストシーンで歌われるのは、「これか
ら生み出される未来」を夢見て歌っていると解釈すべきだと思う。これは自分
たちが子供時代に経験してきたクリスマスの平和な風景を踏まえて、それを自
分の子供たちにも引き継いで行くことを誓う「平和の歌」なのだ。

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 『ウルトラマンゼロ』はまったく期待していなかったこともあるけれど、と
ても面白い映画でした。小さな子供と一緒に行っても、親が退屈することはな
いと思います。

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◎編集後記

 以前買い込んで棚に突っ込んだままになっているDVDを、メルマガ発行に
かこつけて引っ張り出して観ています。今回は季節ものということで『ホワイ
ト・クリスマス』を取り上げましたが、はてさて次回は何を取り上げましょう
か。棚にはろくすっぽ観ていないDVDがまだ100枚ぐらいはありそうなので、
選り取り見取りではあるのですが……。

 仕事が忙しくて(仕事の中にはメルマガの編集発行も含まれてますが)、な
かなか映画を観に行けないあべこべな状態が続いています。映画ノートによれ
ば、今年の映画鑑賞本数(映画館と試写室の合計)は200本前後になりそう。
これは趣味で映画館に通う映画ファンなら多い方かもしれませんが、職業的に
映画を観ている身分としてはぜんぜん少ないですね。とりあえず最低ラインを
なんとかぎりぎりでクリアしている程度に過ぎません。ここ何年か、この最低
ラインをクリアできない年も結構ありましたから、それに比べればいくぶんか
マシになった程度です。

 MacBook Airを買いましたが快調です。現在メルマガなどもAirを使って、
食卓のテーブルの上で作業してます。アプリケーションの設定、ATOKの辞書
設定など完全にデスクトップのiMacから移行させているわけではないので、
ことあるごとに「あれれ?」ということもありますが、これからはほとんどの
作業でMacBook Airを使うことになりそうです。

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【メルマガのご案内】

 映画評サイト「映画瓦版」では試写室や劇場で観た映画1本ずつの感想を掲
載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
まざまなコラムを掲載していこうと考えています。5つのテーマを週替わりで
連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
ついては年4回の掲載となります。)

  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

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  • 名無しさん2010/12/20

    「ホワイト・クリスマス」を見てみたくなりました!