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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第011号

2010/11/15

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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 11
                             2010/11/15
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎映画コラム:水神森キネマ倶楽部

『ジョルスン物語』『ジョルスン再び歌う』
赤狩りでハリウッドを追放された悲劇の俳優ラリー・パークス

 1927年に公開された世界初の本格的なトーキー映画『ジャズ・シンガー』
に主演し、世界初のミュージカル映画スターになった人気歌手アル・ジョルス
ン(1886〜1950)の伝記映画だ。ジョルスンが活躍したのは戦前であり、
もちろんその当時のことなど僕はまるで知らない。彼の名前を僕が知ったのは、
ガーシュイン経由だった。「ラプソディ・イン・ブルー」などで有名なガーシ
ュインにとって最初のヒット曲となった「スワニー」を歌ったのが、当時ブロ
ードウェイの人気者だったアル・ジョルスン。そんな話をLPレコードのライ
ナーノートで読んで、渋谷の「すみや」(2008年に閉店したサントラやミュ
ージカルのレコード専門店)でジョルスンのベスト盤LPを購入したのが最初
だと思う。LPには「スワニー」の他にもガーシュインの「ライザ」が収録さ
れていたが、僕はガーシュインなどそっちのけでジョルスンの歌声に夢中にな
ってしまった。マイクのない時代にブロードウェイの大舞台で鍛え上げた、張
りのある堂々とした歌声は他に類をみないものだ。

 その後、以前もこのコラムで紹介したガーシュインの伝記映画『アメリカ交
響楽』に、アル・ジョルスン本人が出演して「スワニー」を歌うのを観て大喜
び。古いコロンビア映画がリバイバル公開される特集上映の中で、本作『ジョ
ルスン物語』を観てますますジョルスン好きに拍車がかかったことは言うまで
もない。『ジョルスン物語』は和田誠の映画エッセイ「お楽しみはこれからだ
―映画の名セリフ」のタイトルにもなった、有名な台詞のある映画でもある。
(これはアル・ジョルスンが自分のショーの中でしばしば客席に向かって語り
かけた「You ain't heard nothin' yet!」という台詞の日本語字幕。映画『ジ
ャズ・シンガー』の中で、トーキー映画最初の第一声としてジョルスンがアド
リブで喋ってしまったとも言われる伝説的な台詞だ。)

 その映画『ジョルスン物語』だが、ユダヤ人聖職者の家に生まれた少年が寄
席通いに夢中になり、親の反対を振り切るようにしてショービジネスの世界に
飛び込み成功するという物語。当時作られていた伝記映画の常で、物語自体は
「伝記的なフィクション」であるらしい。また『ジャズ・シンガー』をはじめ
ジョルスンが出演していた映画のほとんどはワーナー・ブラザースで作られて
いるのだが、コロンビア製作の『ジョルスン物語』は権利問題の確執があって
映画がらみのエピソードが弱くなっているのが残念でならない。世界初のトー
キー映画を作るに当たって、現場にどんな苦労があったのかを出演者の目から
描けば、『雨に唄えば』の実録版みたいな話になって面白そうなのに……。そ
んなわけでこの映画に「アル・ジョルスンの実像」を求めると物足りないとこ
ろもあるが、映画全編に散りばめられたアル・ジョルスン本人の歌声と、豪華
に再現されたショー場面は楽しいの一語なのだ。僕はこの映画を劇場リバイバ
ルで観た後、レーザーディスクで購入して何度か繰り返し観た。さらに知人か
ら続編『ジョルスン再び歌う』の米盤レーザーディスクをビデオにコピーして
もらった。(当時は『〜再び歌う』が日本で発売されていなかったのだ。)

 これはずっと後に気づいたことだが、『ジョルスン物語』の基本的なプロッ
トは1927年の映画『ジャズ・シンガー』の物語をなぞっている。『ジョルス
ン物語』は『ジャズ・シンガー』のリメイク作品であり、そこにアル・ジョル
スンの個人的なエピソードを肉付けしていったものなのではないだろうか……。

 『ジョルスン物語』でアル・ジョルスンを演じているラリー・パークスは、
本作でアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされている。アル・ジョルスン
の特徴的な身振りを完璧にコピーし、新たに録音されたアル・ジョルスンの歌
声に合わせて完璧に口パクしてみせたパークスには、まるでアル・ジョルスン
本人が乗り移ったかのようだ。当時30歳を過ぎたばかりのパークスは、3年
後の続編『ジョルスン再び歌う』で晩年のジョルスンを貫禄たっぷりに演じて
いる。この続編には「コロンビア映画でアル・ジョルスンの伝記映画が作られ
る」というエピソードが出てくるのが面白い。その映画とは『ジョルスン物
語』のこと。劇中のアル・ジョルスンは、自分を演じる予定だという若い俳優
に面会する。その俳優はもちろんラリー・パークス本人。こうして映画の中で、
ラリー・パークスが演じるアル・ジョルスンと、アル・ジョルスンを演じるラ
リー・パークスが共演するという珍光景が出現することになる。『ジョルスン
再び歌う』は、『ジョルスン物語』の再現されたメイキングでもあるのだ。

 アル・ジョルスン役で大スターになったラリー・パークスだが、気の毒なこ
とに彼の映画俳優としてのキャリアはこれでピリオドを打たれてしまった。
1950年代にハリウッドを襲った「赤狩り」に巻き込まれたのだ。ハリウッド
の赤狩りでは、最初に召喚状を受け取って非米活動委員会に呼び出されながら、
証言を拒んで投獄された10人(ハリウッド・テン)の存在が有名だ。しかし
この時、召喚状を受け取った映画人は19人いて、その中のひとりがラリー・
パークスだった。ところが聴聞会はハリウッド・テンを含めた11人の証言を
終えたところで打ち切られてしまう。ハリウッドの映画界はやれやれと胸をな
で下ろし、「ハリウッド・テン」を人身御供に差し出すことで赤狩りの嵐は切
り抜けられると考えた。だがそうは問屋が卸さない。ハリウッドの赤狩りはそ
の数年後に突如再開される。1951年に再び委員会に呼び出されたラリー・パ
ークスは、結局そこで「仲間に対する裏切り」を選択せざるをえない状況に追
い込まれてしまった。私生活においてまだ幼い息子と生まれたばかりの赤ん坊
を抱えたパークスに、「ハリウッド・テン」と同じ刑務所行きという選択肢は
なかったからだ。ハリウッドの赤狩りを再現した、エリク・ベントリーの「ハ
リウッドの反逆」という戯曲には、当時のパークスの苦悩が紹介されている。
1951年3月21日に、彼の俳優としてのキャリアは終わったのだ。以下の台詞
は「ハリウッドの反逆」に紹介されている彼の証言だ。

 「ぼくのキャリアはこれでめちゃめちゃなんですよ、だからどうかこれ以上
  ――委員会侮辱のかどで投獄されるか、泥沼をはいずりまわって密告者に
  なるか、どっちかを選べなどと言わないでください!」

 彼のこの悲痛な叫びは、ハリウッドの赤狩りをモチーフにしたアーウィン・
ウィンクラーの映画『真実の瞬間』の中で、登場人物のひとりの台詞として再
現的に引用されている。

 ラリー・パークスは委員会で証言したにもかかわらずブラックリストに名前
を載せられ、コロンビア映画は彼との契約を破棄してハリウッドから追放した。
彼は不動産業を営みながら、ときどき舞台やテレビに出演するのみとなった。
1975年にロサンゼルスで自身の委員会での証言の様子が再現された「ハリウ
ッドの反逆」が上演される中、ラリー・パークスは心臓発作で死去した。この
時は舞台とパークスの死の関係が大きく報道され、舞台でパークスを演じた役
者はずいぶんと非難を浴びたらしい。だがパークスの息子たちは舞台を観て、
父親の姿が舞台になって上映されてよかったとこの役者を励ましたという。

 『ジョルスン物語』や『ジョルスン再び歌う』は楽しい映画だが、僕はこの
映画を観るたび、たった2本の代表作を残したままハリウッドを去らねばなら
なかったラリー・パークスの悲劇を思い出すのだ。

『ジョルスン物語』(1946)
監督:アルフレッド・E・グリーン
出演:ラリー・パークス、イヴリン・キース、ウィリアム・デマレスト
Amazonで購入:http://amzn.to/aia2hT

『ジョルスン再び歌う』(1949)
監督:ヘンリー・レヴィン
出演:ラリー・パークス、バーバラ・ヘイル、ウィリアム・デマレスト
Amazonで購入:http://amzn.to/dBoLAr

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◎今週公開の映画

『パラノーマル・アクティビティ 第2章 TOKYO NIGHT』
 http://bit.ly/cpwLbJ

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◎編集後記

 映画を観て、Twitterで簡単なコメントをして、新佃島・映画ジャーナルで
短めの映画の感想を書いて、さらに映画瓦版の記事を書いて……。これって全
部、それ自体ではどれもまったくお金になりません。それに加えて、今はメル
マガも再開して週に1度、これもまったくお金にならないコラムを書いてます。
結局こんなことやってるのも、「映画が好き」「映画について何か書いている
のが好き」というだけのことですが、家族の理解がなければとても続きません。
理解されているんだろうか? 理解されてないような気もしますが……。

 聖書やキリスト教に関するメルマガも発行していますが、これは以前からハ
リウッド映画の感想などでよく聞く「クリスチャンなら理解できるのかもしれ
ないが」というコメントに対する、僕なりの回答であったりもします。キリス
ト教に関する知識があった方がより映画の理解が深まったり楽しめたりすると
思うのなら、その知識を得るために何かすればいい。でもそのためにお薦めで
きるような本や媒体が、じつのところあまりないんだよね。だったら自分で作
っちゃいましょう……ということ。まあ本当に優れた映画は、映画の外側にあ
る知識の有無に関わらず、ちゃんと楽しめるようにできてるんですけど。

 そんなわけで発行をはじめた「ふつうの日本人のための《聖書&キリスト
教》ナビゲーター」(略して「聖書&キリスト教ナビ」)ですが、おかげさま
で創刊から1ヶ月にして発行部数も100部を超える順調な滑り出し。このメル
マガに関しては今後どんどん情報を増やして、いずれは有料メルマガにしたい
と思っています。

 http://archive.mag2.com/0001189995/index.html

 発行部数が多い「映画コラム瓦版」の有料化も考えないではないんですが、
当面は無料メルマガのまま続けていくつもりです。まずは書き続けていくこと
が大切かな。今後とも、映画瓦版をよろしくお願いします。

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載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
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連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
ついては年4回の掲載となります。)

  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
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