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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第008号

2010/10/25

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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 8
                             2010/10/25
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎映画コラム:本棚の映画館

名脚本家が説く「映画の基本」は一読の価値あり!

▽「映画はやくざなり」笠原和夫

 僕の映画批評はまったくの独学だ。諸先輩の書いた映画批評もあまり読まな
かった。その替わりに読んだのは、映画作りについての本だ。映画業界の仕組
みはどうなっているか。映画製作の現場にはどんな仕事があるか。監督やキャ
メラマンは映画作りにどう関わっているのか。完成した映画の裏側にある、作
り手の考えや方法論を知るのはとても参考になる。良い映画がどのようにして
生まれ、ダメな映画がなぜダメなのかの「原因」を想像できるようになる。

 中でも一番参考になったのは、脚本についての本だった。日本映画の父・牧
野省三は映画の三要素として「一スジ、二ヌケ、三ドウサ」をあげ、映画に一
番大切なのは「スジ」、つまり物語であり脚本であると考え、優れた脚本家に
は高給を与えたという。(ついでに言えば「ヌケ」とは画面のヌケの良さで、
撮影や現像という映像作りの技術のこと。「ドウサ」は役者の動作のことで、
演技のことだ。これは牧野省三が監督として重視した三要素らしく、監督の演
出に触れているところはひとつもない。)昔も今も、映画の基本は脚本。映画
ファンが忌み嫌う「ネタバレ」とは、物語の概略や結末をばらしてしまうこと
であり、監督の演出や、撮影技法の特徴や、俳優の演技のディテールや、音楽
の素晴らしさをいくら語っても、それは「ネタバレ」とは言われない。映画フ
ァンのほとんどは、映画にまず「物語」を求める。それだけに、映画作りで
「物語」を担当する脚本の役割は大きいのだ。

 脚本については優れた教科書が何冊も出ていて、とくにアメリカでは映画学
校の学生向けに書かれた実践的なシナリオライティングの教科書に優れたもの
が多いようだ。先日このコラムで紹介した、シド・フィールドの本などはその
代表例だ。しかしそれらはあまりにもテクニカルなことに寄りすぎていて、映
画について大づかみに考えるには使えないことも多い。最初にいきなりシド・
フィールドを紹介しておいたくせに気が引けるが、ああいった本は一般の映画
ファンが映画を観て感想を語り合うのには、あまり役に立たないのだ。

 それよりもずっと役に立つのは、今回紹介する笠原和夫の「映画はやくざな
り」だ。笠原和夫は『日本侠客伝』や『博奕打ち 総長賭博』などの任侠映画、
『仁義なき戦い』シリーズ、『二百三高知』や『大日本帝国』などの戦史映画
などを手掛けた脚本家で、執筆前の綿密な取材とシナリオの構成力、台詞の生
々しい迫力などに定評があった。『仁義なき戦い』は取材ノートが単行本とし
て発売されているし、実録やくざ映画の取材で書き溜めた取材メモをもとにし
た「破滅の美学」という本は、コンビニ売りの実録やくざコミックで何度もタ
ネ本にされているほどだ。

 「映画はやくざなり」はその名脚本家が2002年に亡くなった翌年、未発表
だった原稿をまとめて新潮社から出された単行本。全体は3部構成になってい
て、第1部は著者の東映での脚本家時代を綴る自叙伝で、第3部は映画化され
なかった実録やくざ映画『沖縄進撃作戦』のシナリオ。今回紹介したいのは、
そのふたつにはさまれた第2部「秘伝 シナリオ骨法十箇条」だ。これは映画
業界の隠語をふんだんに散りばめた、『脚本作りのごく基本的な書き方』。そ
の骨法について、著者は次のように言っている。

   この「骨法十箇条」はわたしの発見でも知恵でもない。昭和二十八年に
  東映に入って以来、いろんな時と場所で、わたしが耳にした奇妙な言葉を
  纏(まと)めただけである。

   これはパターンではない。パターンは時勢に沿って止揚し、あるいは変
  革しなければならないものだが、「骨法」は千古不易である。天の岩戸の
  前で踊った天鈿女命(あまのうずめのみこと)の舞も「ターミネーター」のシ
  ュワルツェネッガーの迫力も、おなじ骨法に沿っている。

 つまりこの「骨法」さえ飲み込めれば、日本映画であれ外国映画であれ、最
新作であれクラシック作品であれ、ありとあらゆる作品について「ここがい
い」「ここが悪い」と指摘できるようになるわけだ。十箇条は「コロガリ」
「カセ」「オタカラ」「カタキ」「サンボウ」「ヤブレ」「オリン」「ヤマ」
「オチ」「オダイモク」で構成されている。なにしろ映画業界の隠語なので、
これだけでは何のことやらサッパリわからないかもしれないが、この部分こそ
がこの本の「目玉商品」なので、こればっかりは直接本を読んでもらうのが一
番だと思う。インターネットで検索すれば、それぞれの項目についてもう少し
詳しく紹介しているサイトやブログが何件か見つかるはずだが、それらが優れ
た要約とは限らない。「骨法十箇条」を知るには「映画はやくざなり」を読む
べし。僕はこの「十箇条」のためだけに、この単行本を買ったのだ。これはそ
れだけの価値があるものだと断言できる。

 単行本が新潮社だからすぐに文庫化されるかと思いきや、いまだなんの音沙
汰もないまま単行本は絶版。おそらくこの本は日本中の映画関係者とシナリオ
ライターを目指す人が1冊ずつ買って、それぞれの書棚の中で宝物にされてい
るに違いない。発売時に1,500円(税別)だった本には、アマゾンのマーケッ
トプレイスで3,500円の値が付いている。とりあえず近所の公立図書館などで、
収蔵リストにないかどうかを調べてみてほしい。

 「映画はやくざなり」http://amzn.to/djQiIL

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『クロッシング』 http://bit.ly/aUwPei
『ドアーズ まぼろしの世界』 http://bit.ly/d5sC5U
『義兄弟』 http://bit.ly/cChPaR

 上記3本はどれも見応えのある映画だったが、この他の映画だと『ハートキ
ャッチプリキュア!花の都でファッションショー…ですか!?』を観なければ、
と個人的には思ってたりします(笑)。

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◎編集後記

 映画に関する本は絶版品切れになってしまうペースが早い。今回メルマガで
紹介するため自分の書棚から何冊か本をピックアップしたのだが、それらがこ
とごとく絶版品切れになっているのには困ってしまった。今後は開き直って、
手に入りにくい本も紹介してゆくことにします。

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 映画評サイト「映画瓦版」では試写室や劇場で観た映画1本ずつの感想を掲
載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
まざまなコラムを掲載していこうと考えています。5つのテーマを週替わりで
連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
ついては年4回の掲載となります。)

  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)
1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

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創刊日:2000-08-28  
最終発行日:  
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