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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第7号

2010/10/18

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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 7
                             2010/10/18
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎映画コラム:水神森キネマ倶楽部

『二世部隊』
日系部隊の実話をもとにした戦争アクション映画

 先日観たドキュメンタリー映画『442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍』
で、第二次大戦中に主としてヨーロッパ戦線で多大な戦果を上げた日系人部隊
のことを改めて知った。「改めて」と言うのは、この部隊について詳しいこと
を知らなくても、「第二次大戦中に日系人たちの部隊が大活躍した」という話
程度は知っていたからだ。映画を観てから帰宅して調べてみると、確かにこの
部隊について書かれている本は日本だけでもかなりの数になる。(映画の中で
は欧米の研究家が登場するので、日本での扱いがどうなのかよくわからなかっ
たのだ。)これは知る人ぞ知る戦争秘史などではなく、第二次大戦の歴史を知
る人にとっては半ば常識化していることなのだなぁ……と思った次第。

『442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍』
 http://www.442film.com/

 これだけ有名な部隊の話だから、きっと映画になっているに違いないと思っ
て調べてみると、とりあえず1本見つかった。それが1951年にMGMが製作
した『二世部隊』という映画。これはMGM日本支社が戦後再開された際、そ
の第1回配給作品として公開された作品だという。(先日紹介した『アメリカ
交響楽』は日本最初のロードショー作品だったが、このコラムでは「戦後初の
○○」といった作品だけを取り上げているわけではない。今回そうした作品が
続いたのはたまたまだ。)

『二世部隊』(1951)
監督:ロバート・ピロッシュ 製作:ドア・シャリー
出演:ヴァン・ジョンソン、ジャンナ・マリア・カナーレ
■キネマ旬報DB http://www.kinejun.jp/cinema/id/6794
■IMDb http://www.imdb.com/title/tt0043590/
■Amazon.co.jp http://amzn.to/dcNISK

 監督・脚本のロバート・ピロッシュはこの作品でアカデミー脚本賞候補にな
っているが、受賞したのは『巴里のアメリカ人』のアラン・ジェイ・ラーナー
だった。この年は『巴里のアメリカ人』が作品賞を受賞し、主演男優賞を『ア
フリカの女王』のハンフリー・ボガート、『欲望という名の電車』が主演女優
賞(ヴィヴィアン・リー)、助演男優賞(カール・マルデン)、助演女優賞
(キム・ハンター)を受賞し、『陽のあたる場所』が監督賞(ジョージ・ステ
ィーヴンス)と脚色賞を受賞している。一方では赤狩りという暗い面を内部に
抱え、テレビの脅威にも怯えつつ(翌年からテレビ対策としてワイドスクリー
ンが登場するのが象徴的)、娯楽の王様として我が世の春を謳歌していた。こ
の時代が戦後ハリウッド映画の黄金期だろう。

 『二世部隊』は監督のピロッシュにとって初監督作。彼はこの2年前に『戦
場』(1949)という映画の脚本でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞を
受賞しており、いわばその「ご褒美」として監督作が撮れたのだろう。製作は
どちらもドア・シャリー。(ちなみにシャリーはその後も、日系兵士や日系人
差別の問題を取り上げた『日本人の勲章』(1955)という映画を作ったりし
ている。)残念ながらピロッシュの監督としての腕前は脚本家としてのそれに
遠く及ばず、その後は『王家の谷』(1954)など数本の映画を監督したのみ。
1960年代以降はテレビドラマの世界に移っていった。

 受賞は逃したもののアカデミー賞候補になっただけのことはあり、『二世部
隊』の脚本はなかなかよく書けている。日系人を主人公にしたのでは観客の共
感を呼べないため、主人公がテキサス出身の白人士官(ヴァン・ジョンソン)
になっているのも工夫のひとつ。彼は当初日系人兵士への抜きがたい偏見を持
っているのだが、訓練や実際の戦闘を通してそれを乗り越えていく。彼がテキ
サス出身であることが、映画終盤での孤立したテキサス大隊救出作戦を盛り上
げる伏線にもなっていくわけだ。

 劇中では日本軍の真珠湾奇襲攻撃では日系人たちも犠牲になっていることや、
アメリカ政府による日系人強制収容の問題などにも触れられているのには軽い
驚きがある。もちろんこれらの問題、特に日系人強制収容の問題などは、現在
の映画ならもっと突きつめてアメリカ政府批判やアメリカ国民の中にある民族
差別の問題などが描かれるべきかもしれないが、当時は映画表現がプロダクシ
ョン・コードで縛られ、さらに赤狩りによる内部粛清が進行していた時代だ。
時代的な制約の中で、この映画は描かなければならないことを一応は描ききっ
ていると評価できるのかもしれない。

 この映画に残る決定的な不満は、やはり戦闘シーンの迫力不足だろう。これ
は予算の制約もあるだろうし、これがデビュー作であるピロッシュ監督の力量
不足もあるのだろう。日系部隊の向かう先は常に欧州でも大激戦の地で、部隊
は大量の死傷者を出している。ところが映画からは、そうした大規模戦闘の雰
囲気がまったく伝わってこない。市街地や森の中での小競り合い程度。それこ
そテレビドラマ「コンバット」(この番組にはピロッシュも参加している)の
世界なのだ。当時のハリウッドは、大作スペクタクル映画を次々に発表してい
た時代だ。この年のMGM映画にはアカデミー賞を受賞した『巴里のアメリカ
人』の他にも、『クォ・ヴァディス』や『ショウボート』などの超大作があっ
た。これらに比べると『二世部隊』の低予算ぶりがわかろうというものだ。

 二世部隊の物語については、『442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍』に
も登場したダニエル・イノウエ議員の原作をもとに、渡辺謙の初監督作として
製作準備が始まっているというニュースが今年6月頃に流れたが、この話は続
報がないのでその後どうなっているのかは不明。規模の大きな戦争映画はそれ
なりに経験を積んだベテランの方がいいような気がするが、俳優が突然大作映
画を撮って大傑作になった『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のような例もある。
いずれにせよこの映画については続報待ち。しかしながら映画が企画段階で消
えていくことの方が多い業界なので、この映画についても「こんな企画がある
らしい」というレベルで終わる可能性が高いかも。

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『脇役物語』 http://bit.ly/9V79Qb
『隠された日記 母たち、娘たち』 http://bit.ly/cf2QIe
『ソフィアの夜明け』 http://bit.ly/c2mfwu http://bit.ly/d41Goo

 『ソフィアの夜明け』は昨年の東京国際映画祭に『イースタン・プレイ』と
いうタイトルで出品され、見事グランプリを獲得した作品。映画祭でも観てい
るので、これだけ映画瓦版へのリンクが2つになっている。

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◎編集後記

 『二世部隊』の話題からプロデューサーのドア・シャリーについて調べてい
たら、MGMの内紛や権力闘争といった話題が出てきてつい資料を読みふけっ
てしまった。映画については、映画以上にそれを「作る人たち」の話が面白い
ことがある。とくに昔の映画業界は個性的なプロデューサーや監督が多く、そ
うした人たちの経歴を調べるだけでも退屈しない。

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大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
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