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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第006号

2010/10/11

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          週刊・映画コラム瓦版 vol. 6
                             2010/10/11
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎映画コラム:映画の履歴書

「映画に未来はない!」 〜映画はいつまで映画であり続けるか〜

 1895年12月28日。パリのキャプシーヌ通りにあったグランカフェ地下の
インドの間で、リュミエール兄弟が発明したシネマトグラフによる世界最初の
映画興行が行われた。この時、招待された客の中にパリで有名な奇術師のジョ
ルジュ・メリエスがいた。動く写真の迫力にすっかり感銘を受けたメリエスが
上映会の後でこの装置を売ってくれと頼んだところ、発明者であるリュミエー
ル(実際には兄弟の父が応対したそうだが)は「今は物珍しさで注目されるで
しょうが、こんなものはすぐ飽きられます。映画に未来はありません」と言っ
て断ったという映画史の伝説がある。これは発明者が装置を売り惜しんでこん
な言い訳をしたわけではない。じつはリュミエール兄弟は、本当に映画という
メディアの未来に何の期待もしていなかった。彼らはもともと写真用品の発明
と販売を行っていて、「写真を使った新しい発明品」としての映画に興味を持
っただけだったのだ。兄弟はその後、カラー写真や立体写真の発明に関心を向
けて、映画事業はまったくの他人まかせ。1900年頃には映画が大ブームにな
ってリュミエール社もずいぶん儲かったらしいが、その後ブームが一段落する
とさっさとこの事業に見切りを付けて売却撤退してしまったのだ。

 だが「映画に未来はない」という見通しは外れた。映画はその後、飽きられ
るどころか20世紀に入って大ブームを起こし、わずか10数年で巨大産業へと
成長していった。シネマトグラフの販売を断られたメリエスは独自ルートで映
画撮影と映写の機材を手に入れ、1902年には代表作「月世界旅行」を作った。
翌年にはアメリカではエジソンの映画会社で働いていたエドウィン・S・ポー
ターが、世界最初の西部劇「大列車強盗」を作った。リュミエールの作ってい
た記録映像は確かに廃れたが、メリエスたちが開拓した劇映画の分野が急速に
映画史上を拡大させていった。アメリカにニッケルオデオンと呼ばれる映画館
が作られたのが1905年。エジソンが映画の特許管理会社を作って映画ビジネ
スを独占しようとしたのが1908年。チャップリンがハリウッド入りしたのが
1913年。グリフィスの超大作『國民の創生』は1915年に製作されている。
ヨーロッパの映画界が世界大戦の影響で没落し、世界の映画産業の中心はハリ
ウッドへ移動。1930年代には「ビッグ5・リトル3」と呼ばれるハリウッド
のメジャースタジオの体制が確立し、この時期のメジャースタジオのうち、パ
ラマウント、20世紀フォックス、ワーナー、ユニバーサルなどは今もメジャ
ースタジオとしてハリウッドの映像産業に君臨している。生まれたその日に
「未来はない」と言われた割には、映画はずいぶんと長生きしているのだ。

 映画産業にはその後もさまざまな浮き沈みがあったが、映画がどんなに斜陽
だ、衰退産業だと言われたところで、「映像ソフト」に対する社会的な需要が
消えることはない。デジタル化で映画とテレビの境界が消え去り、「映画」と
いう言葉で定義される領域はむしろ広がったようにも見える。今後もしも映画
が消えるとしたら、それは映画が日常生活全般の中に広く浸透して、映画とい
う言葉で定義されるモノの輪郭がぼやけて消えていくときだろう。

 1895年に上映されたリュミエール兄弟の「映画」は、列車が駅に到着する
様子や、工場の門が開いて中から従業員たちが出てくるところや、赤ん坊が食
事をする姿を撮影した、それぞれ1分ほどの短編ばかりだ。それが当時の「映
画」だった。でも同じようなレベルの映像は、今なら携帯電話のカメラでも撮
影できる。しかもカラーで、音付きでだ。しかしそれを「映画」と呼ぶ人はい
ないだろう。映画が消えていくというのは、つまりそういうことだ。

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◎今週公開の映画

『エクスペンダブルズ』 http://bit.ly/c9aIkA
『ルイーサ』 http://bit.ly/dq44DP

 今週は他にも『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』や『桜田門外ノ変』
『わたしの可愛い人』など面白そうな映画があるのだが、どれも未見。とりあ
えず少年時代を彦根で過ごした時代劇映画ファンとしては、『桜田門外ノ変』
ぐらいは観ておこうと思ってます。

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■無料メルマガ「聖書&キリスト教ナビ」のご案内!

 僕の発行しているもうひとつのメルマガ「ふつうの日本人のための《聖書&
キリスト教》ナビゲーター」(略して「聖書&キリスト教ナビ」)は、キリス
ト教にあまり馴染みのないごく普通の日本人に向けた、聖書とキリスト教につ
いての案内です。聖書の内容紹介、キリスト教の基本的な教義(教理)につい
ての解説のほか、欧米のキリスト教文化についても紹介します。

 申し込みはこちらから→ http://www.mag2.com/m/0001189995.html

 僕自身はクリスチャンではありませんが、子供の頃にキリスト教系の幼稚園
に通っていたことから教会の日曜学校に出入りしていました。それから教会か
らは足が遠のいていたのですが、映画批評の仕事をはじめて最初に引き受けた
仕事が、「X−ファイル」や「ミレニアム」というアメリカのテレビシリーズの
LD-BOX(古い話です)向けの解説執筆。この時エピソードの中にキリスト教
がらみの話がかなりあったことから、キリスト教や異端思想について調べはじ
め、ドップリとその世界にはまってしまいました。

 キリスト教を信じる必要は現時点でまったく感じませんが、キリスト教につ
いて知っておくと海外の映画やテレビドラマや小説を読むときも、より深く物
語の背景が理解できて楽しいはずです。日本ではキリスト教についてはかなり
誤解されている部分もあるので、メルマガを通じてキリスト教の実像を知って
いただければさいわいです。

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◎編集後記

 映画瓦版の更新だけでも大変なのに、それに加えて週刊メルマガ2本体制で
結構忙しくなっちゃいました。映画瓦版は最初から無料(二次利用で若干の収
入がある程度)だし、新しくはじめたメルマガも無料。こんなことで生活成り
立ってるのか? はい、成り立ちません……。

 映画のメルマガについてはいずれ原稿をまとめて本にでもできればと思って
いますが(電子書籍でも構いませんけど)、記事の方向性や切り口がまだまだ
安定していないため、その目算はゼロ。「聖書&キリスト教ナビ」については、
来年から有料版を発行することも考えてますが、その前にまずは購読者数を増
やさなきゃなりません。

 出版不況だ、雑誌不況だという現状もありますが、僕自身は「ライターとい
う仕事が紙媒体に依存している時代ではない」という気持ちもあります。メル
マガでも個人発行の電子雑誌でも構いませんが、3千人の定期購読者から毎月
150円ずつ購読料を頂ければ500万円以上の年収。フリーランスなので必要経
費は自腹になりますが、それを差し引いても平均的な給与所得者ぐらいの年収
にはなるんじゃないかなぁ……などと考えていますが、はてさてどうなること
やら。とりあえず、すべては来年以降の話でしょうかね……。

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【メルマガのご案内】

 映画評サイト「映画瓦版」では試写室や劇場で観た映画1本ずつの感想を掲
載していますが、メルマガでは個々の映画から少し離れて、映画にまつわるさ
まざまなコラムを掲載していこうと考えています。5つのテーマを週替わりで
連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
ついては年4回の掲載となります。)

  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

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創刊日:2000-08-28  
最終発行日:  
発行周期:週刊  
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