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週刊・映画コラム瓦版

映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。

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映画コラム瓦版 第005号

2010/10/04

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           週刊・映画コラム瓦版 Vol.5
                             2010/10/04
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映画批評家・服部弘一郎が編集発行する週刊メールマガジンです。映画評サイ
ト「映画瓦版」では読めないオリジナルの映画コラムを毎週お届けします。
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◎映画コラム:いまどきの映画

時代劇映画がブームって本当ですか?

 この秋から冬にかけて時代劇映画が矢継ぎ早に公開されるとのことで、5つ
の映画会社共同で「サムライシネマキャンペーン」なる広報宣伝活動を行って
いる。応援団長にサッカー日本代表前監督の岡田武史が任命され、大々的に記
者会見が行われた様子を芸能ニュースなどで見た人も多いと思う。

「サムライシネマキャンペーン」公式HP
 http://www.samurai-cinema.com/

 取り上げられる作品は9月25日公開『十三人の刺客』(東宝)、10月16日
公開『桜田門外ノ変』(東映)、10月22日公開『雷桜』(東宝)、12月4日
公開『武士の家計簿』(松竹、アスミック・エース)、12月18日公開『最後
の忠臣蔵』(ワーナー・ブラザース)の5本。今回のキャンペーンではこの5
本だけが取り上げられるのだが、同時期には幕末ものの『半次郎』(ピーズ・
インターナショナル)や『大奥』(松竹、アスミックエース)という異色時代
劇も公開されるので、この秋冬は本当に時代劇ラッシュだ。これが一過性のブ
ームに終わるのか、それともある程度は映画興行の中で定着していくのかは、
これらの作品がヒットするか否かにかかっている。

 時代劇映画がここまで増えた理由だが、最近の日本の映画興行界では洋画よ
りも日本映画の方が堅調だということが第一の理由だろう。時代劇は通常の現
代劇より衣装やセットにお金がかかる。所作や殺陣、場合によっては乗馬の稽
古なども必要で、撮影前の準備も現代劇より時間がかかったりする。つまり時
代劇というのは、お金にも時間にも余裕がないと作れない。最近の日本映画に
は、そうした余裕が生まれてきたということなのかもしれない。

 第二の理由は、以前に比べてロケ地探しに融通が利くようになったことだ。
時代劇は昔も今も京都の撮影所で撮られることが多いのだが、京都が時代劇撮
影のメッカになった理由は、屋外シーンを撮影所周辺で簡単に済ませられると
いう理由からだった。京都の古い街並みをそのまま江戸時代の街並みに見立て、
寺の境内や庭を大名屋敷に見立て、海のシーンが必要なら琵琶湖に出かけて撮
影を行っていた。しかし京都やその周辺も都市化してくると、そうした時代劇
向けの風景が少なくなる。道に立てられている電柱やガードレールをどうする
か、看板や電線をどうするか、遠景でどうしても画面に映り込んでしまうビル
をどうするかなど、製作者を悩ませる問題がとても多くなり、時代劇が撮れる
ロケ場所は京都からどんどん遠くに離れて行った。しかし今はこれらの問題を、
デジタル技術ですべて簡単に処理してしまえるようになった。

 他にも時代劇復興の理由はいろいろとあるのだろうが、僕自身が最大の理由
だと思うのは、時代劇映画の監督や出演者たちが大きく世代交代したことだと
思う。最近の時代劇映画には「時代劇は初めて」という監督や出演者たちが多
いのだ。時代劇映画の伝統に敬意を払いつつ、製作については手探りで自分な
りの方法を確立しなければならないという苦労が、演出や役作りの新鮮な意欲
につながっているのではないだろうか。10年以上前に「時代劇の危機」が叫
ばれたときは、時代劇特有の約束事が継承されずに途切れてしまうことが心配
されていた。もちろんセットや衣装や小道具、所作や時代考証や殺陣といった
裏方の仕事が途切れてしまえば大変なことだ。でも監督や出演者たちは、むし
ろ初体験の時代劇作りを楽しんでいるように見える。時代劇映画復興ののろし
を上げた『たそがれ清兵衛』が、大ベテランの山田洋次監督にとって初めての
時代劇映画だったことは象徴的だ。『たそがれ清兵衛』では時代劇スターの真
田広之を主演に迎えた山田洋次は、続く『隠し剣 鬼の爪』では永瀬正敏、
『武士の一分』では木村拓哉という時代劇とは縁遠かったスターを主演にして
新しい時代劇映画を作り上げた。

 かつて黒澤明は『用心棒』と『椿三十郎』で時代劇映画に革命を起こしたが、
黒澤明自身は時代劇映画の伝統の中から出てきた映画監督ではない。テレビ時
代劇の世界で一世を風靡した「木枯らし紋次郎」も、時代劇監督ではない市川
崑監督の手で作られた作品だった。どちらも時代劇を支えてきた裏方スタッフ
たちと、そのスタッフの技術に信頼を置きながらも新しい時代劇をゼロから作
り上げていこうとする監督やスタッフたちの共同作業から生み出され、時代劇
映画やテレビ時代劇のエポックとなった作品だ。

 テレビでも映画でも時代劇の製作本数が少なくなっている今、かつてのよう
に時代劇専業のスター俳優や監督が登場してくることは考えにくい。しかし今
後も時代劇は作り続けられるだろうし、観客も現代の俳優が演じる新しい時代
劇を求めるだろう。『十三人の刺客』をリメイクした三池隆監督が、市川海老
蔵主演で『切腹』の3Dリメイクに取りかかるという話もある。日本映画があ
る限り、時代劇映画が完全に消えてしまうことはないだろう。

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◎今週公開の映画
『REDLINE』 http://bit.ly/buqsGi
『死刑台のエレベーター ニュープリント版』 http://bit.ly/do8PE1
『死刑台のエレベーター』 http://bit.ly/cAYIOY
『不食の時代 愛と慈悲の小食』 http://bit.ly/aKq7b0
『乱暴者の世界』 http://bit.ly/9RjnC9
『プチ・ニコラ』 http://bit.ly/aKaiNk
『君へのメロディー』 http://bit.ly/bwQjaB
『半次郎』 http://bit.ly/a6R3H2

 見どころは『死刑台のエレベーター』のオリジナルとリメイク版の対決!

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◎編集後記
 時代劇は好きで、以前はよく名画座で戦前の時代劇を観た。嵐寛寿郎の鞍馬
天狗やむっつり右門、大河内傳次郎の丹下左膳などがお気に入り。映画が娯楽
の王様だった時代、その人気を支えていたのが時代劇映画だったことは間違い
ない。こうした時代劇文化の素地があった上に、オリジナル版の『十三人の刺
客』がある。片岡千恵蔵、嵐寛寿郎、月形龍之介といった戦前からの大スター
たちが、貫禄たっぷりに顔を揃えているところが見どころだったわけだ。

 しかし今はそうした「時代劇スター」がいない。日頃から木刀を振り回し、
馬に乗って鍛錬している時代劇専業の役者はいなくなり、俳優たちは時代劇の
撮影に入る前に付け焼き刃で所作や殺陣の稽古をするだけになってしまった。
古い時代劇ファンは、それに対してブーブー文句を言っていた。やれ「刀の重
みが感じられない」だの、「腰が据わっていない」だの、往年の時代劇スター
を規準にして新しい時代劇役者たちにダメ出ししていた。しかしもう時代劇が
コンスタントに量産できる時代ではないのだ。古い時代劇ファンが往年の時代
劇と比較して新作に文句を言っている限り、新しい時代劇なんて決して生まれ
てこない。作り手も俳優も時代劇に挑むことに萎縮してしまうではないか。

 最近新しい時代劇が次々作られてきた理由のひとつは、そうした「古い時代
劇を知る口うるさいファン」が高齢化して、新しいファンと入れ替わったこと
にも原因があるように思う。

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連載し、1つのテーマごとに月1連載になる形式です。(第5週目のコラムに
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  ・第1週 いまどきの映画  (最新映画の紹介)
  ・第2週 映画の履歴書   (映画史にまつわるコラム)
  ・第3週 水神森キネマ倶楽部(映画DVDの紹介)
  ・第4週 本棚の映画館   (映画関連本の紹介)
  ・第5週 東京名画座ガイド (映画館案内)

 基本的にすべての映画は「いまこの時」のメディアだと考えているので、映
画史やDVDソフトの話題を取り上げる際にも、常に「いまこの時」の視点を
大切にしてゆくつもりです。

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【発行者について】

服部弘一郎(はっとりこういちろう)

1966年8月3日生まれ。東京都出身。血液型はB型。専門学校桑沢デザイン研
究所を卒業後、グラフィックデザイナーやコピーライターを経て、1997年か
ら映画批評家として活動。95年頃に映画評のホームページ「映画瓦版」を開
設。インターネットの世界では、日本語で読める映画評サイトの草分けだった。
著書に「シネマの宗教美学」など。

  映画瓦版 http://www.eiga-kawaraban.com/
  ブログ  http://hattori.cocolog-nifty.com/
  twitter http://twitter.com/eigakawaraban
  メール  eigakawaraban@gmail.com

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創刊日:2000-08-28  
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