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週刊電藝

週刊で発行している文藝ウェブマガジン。2006年8月現在、通算で370号を超えるバックナンバーがあります。掲載ジャンルは小説・詩・レビュー・エッセイなどなど。投稿も受け付けています。メルマガ掲載後はウェブに掲載します。

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週刊電藝335[051226]DJ 80 Toshi|アリエル|如月|キムチ

2005/12/27

■□ 週 刊 ■□weekly DENGEI magazine          [ウエブ電藝]
■□ 電 藝 ■□VOL.335   発行数:225   http://indierom.com/dengei/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┌ H E A D L I N E ────────────── '05年12月26日 ───┐

    Out of the DJ Booth      :     Dj 80 Toshi
    白夜             :     上田美樹
    なめらかな背中の秘密     :     アリエル・人魚   
    ghost syndrome        :     如月 玲
    マーケティング論批判序説   :     キムチ

└─────────────────────────────────┘



 O u t 
 of the DJ Booth
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ Dj 80 Toshi            

                           ◆◆Session 01◇
  11月からつくばのカフェでDJを始めた。最近はDJが流行りで、様々な
 雑誌も出ているし機材もいろいろと売られているだが、ぼくの場合はDJそ
 のものがやりたいというよりも、とにかく好きな音楽を流したい、そして聞
 いてもらいたいという気持ちからやっている。というのは、どんな音楽が好
 きですかという質問が実は一番困る質問であるからだ。

  ぼくは1979年に大学に入り1983年に卒業した。その間は東京に住んでいた。
 これはとても決定的なことではないかと思っている。ぼくにとっては1979年
 という年は象徴的な意味を持っている。

  イギリスでパンクムーヴメントが始まったのはこの頃だ。セックスピスト
 ルズは1978年にデビューアルバムを出し、1979年にはすでに解散している。
 そしてジョニー・ロットンと名乗っていたヴォーカリストはジョン・ライド
 ンと名を本名に戻し、Jah Wobble らと Public Image Limited を1979年に
 結成し衝撃的なファーストアルバムを出している。

  そしてイギリス各地でパンクの衝撃を受けた若者たちが様々な活動を始め
 る。1979年には、Joy Division も The Pop Group もファーストアルバムを
 出している。この二つのバンドがデビューしただけでも1979年はロックの歴
 史の中に記憶されるべき年だ。

  いや、正確に言うと、彼らの音楽はロックではない。パンクの使命はロッ
 クを殺すことにあったからだ。ロックは1979年に死んだのだ、とぼくは思っ
 ている。当時は彼らの音楽を Alternative Musicと呼んでいた。いま80年代
 のそれらの音を再評価する動きがあるようだが、いまだに統一された呼称が
 ない。Alternative, あるいは 80's New Wave、場合によっては No Wave と
 いう言い方もある。名前がないということ、これは実に興味深いことだ。つ
 まりそれはいまだにそれらを扱う言説がないということを意味する。

  だからとりあえずいろいろとレコードやCDをかけてみようと思った。

  といっても場所がカフェなのであまりハードなのはかけられない。何しろ
 お客さんはそういう音楽を聴きに来ているわけではない。ただご飯を食べに、
 あるいはコーヒーを飲みに来ている。だから時々その時代の音楽でないもの
 も混じっているが、そういうことなので気にしないでほしい。

  それではそのプレイリストをあげながら解説していくことにしたい。そう
 することで何が見えるか。自分でも分かっていないが、まずレコードに針を
 落としてみないことには始まらない。

  次のリストは、11月1日にかけたもの。もちろんDJワークなのでその場
 では曲を繋いでかけている。

                  ◆ 

 ◆◇01◇Sketch For Dawn I / The Durutti Column
  The Durutti Column は、Joy Division以降の、マンチェスターのFactory 
 Records の一方の看板だった。次第にベルギーの Factory Benelux、のちの 
 Les Disques de Crepuscule にも活動を移していった。実際は Vini Reilly 
 というギタリストのワンマンユニット。

  初めて The Durutti Column の音を聞いたのは、Factory Quartet という
 コンピレーションアルバムでだった。それはとても衝撃だった。この世のも
 のとも思えないほど美しいギターの響き。彼は、すぐに LC というアルバ
 ムを出した。佳品のつまった傑作アルバムだと思う。彼はその後も作品を発
 表しているが、当時の輝きを越えることはできなくなっている。

 ◆◇02◇Last Tango In Paris / Gotan Project
  これはいまのバンド。バンド名から分かるように現代的なタンゴである。
 いわゆるラウンジ系ということになる。場所がカフェなのでお客のウケが良
 いかなと思ってかけた。

 ◆◇03◇GIVE THANKS(RADIO EDIT) / Kodama Kazufumi
  こだま和文はかつてミュートビートというバンドのリーダーだった。いま
 はソロで活動している。1980年頃、原宿のはずれにあったピテカントロプス
 というクラブに出ていた。その頃、TRAというカセットマガジンが出てい
 て、初めて聞いたのはTRAでだったと思う。当時からいまに至るまでぼく
 は彼のファンです。日本のミュージシャンでは彼が一番好き。

  ところでTRAは当時もっとも先鋭的なマガジンだった。アーティストカ
 タログと銘打っていた。ここのところの再発ブームで、どうにか再発、とい
 うかCD化してくれないかな。CD化されたら即全部買う。

 ◆◇04◇Thieves Like Us / New Order
  Joy Divisionのヴォーカリストであった Ian Curtis が自殺した後で残っ
 たメンバーは New Orderと名乗り活動を継続した。イアン・カーチスの自殺
 は突然だった。1979年に Unknown Pleasure というファーストアルバムを出
 し、Love Will Tear Us Apartというシングルがヒットし、セカンドのCloser 
 が完成し、さあいよいよアメリカツアーに出発という時に自殺した。残され
 たメンバーのショックは察するにあまりある。ぼくは当時 New Music Express 
 という雑誌(だったと思う)でメンバーの英文のインタビュー記事を読んだ。
 痛ましかった。

  New Order の最初のシングル Ceremony のレコードのA面の内側には、WATCH-
 ING LOVE GROW - FOREVER と、B面には HOW I WISH WE WERE HERE WITH YOU 
 NOW と密やかに刻まれてある。

  今年のフジロックに New Orderが出演して、その映像をWOWOWで流し
 たものを友人が貸してくれたので見たのだが、彼らは Joy Division 時代の
 Transmissionという曲を演奏していた。それを見ていてぼくは泣いた。アレ
 ンジが Joy Divison時代と全く同じだった。ボーカルがイアンではなく、バ
 ーナード・サムナーである点を除いては。Joy Divison の Ian Curtis はい
 まだにぼくのアイドルだ。

 ◆◇05◇Walking In The Sunshine / Miss Kittin & The Hacker
  Miss Kittin は現代の女性のミュージシャン。テクノである。音が80年代
 ぽっくってとても好き。

 ◆◇06◇At Home / Wim Mertens
  Wim Mertens はベルギーのレーベル、Les Disques de Crepuscule の看板
 ミュージシャンだった。最初は、Soft Verdictという名のユニットを組んで
 いたが現在はソロでやっている。現代音楽、中でもミニマルミュージックの
 音楽家。確かミニマルミュージックの著作もあって邦訳もあったはず。

  この曲は、At Home というシングルからの傑作。CDも出ている。B面が
 Not At Homeという曲でこれも傑作。ニューヨークのLove of Live Orchestra 
 という現代音楽系のバンドの Peter Gordon という人がサックスを吹いてい
 る。カッコイイ。

 ◆◇07◇Carolyn's Fingers / Cocteau Twins
  4ADというレーベルの看板グループ。高音の女性ヴォーカルが特徴だが、
 彼女の歌は何語でもない。意味がない言葉なのである。Blue Bell Knoll と
 いうアルバムは大傑作。

  ぼくの友人のアメリカ人がこのDJを聞いていて、この曲が流れた瞬間に
 「懐かしい!」と叫んだ。

 ◆◇08◇A Man of Tribe / Maximum Joy
  The Pop Group は解散後、リーダー格の Mark Stewart がソロ活動を始め、
 残りの連中は Rip Rig & Panic、Pigbag、Maximum Joy という3つのグルー
 プに分かれていった。Maximum Joy はつい最近まで全くCD化されていなか
 ったが、現在は矢継ぎ早にCD化作業が行われている。この曲は、Why Can't 
 We Live Together というシングルのB面で、つい最近出た Unlimited とい
 うCDにも収録されている。が、Why Can't We Live Together はカヴァー曲
 であるせいか、CDに入っていない。

  ところでぼくは1985年頃にロンドンに行ったとき、Maximum JoyのWhy Can't 
 We Live Together がデパートで流れているのを聞いた記憶があるのだが、あ
 れはぼくの勘違いだったんだろうか。いまだにぼくの中では謎である。

 ◆◇09◇Shame Of The Nation / New Order
  この曲は、1986年の Brotherhood に収録されている State of the Nation 
 の別バージョン。Substance という2枚組のベスト盤に入っている。

 ◆◇10◇The Floor Above Me / Double Muffled Doplhin
  デンマークのテクノミュージシャンらしい。彼のサイトを見つけたことが
 ある。かなり無名である。3年前にロンドンのラフトレードに行ったとき、
 オヤジに聞いたら知らなかったっけ。

  たまたま水戸芸術館のミュージアムショップ「コントルポワン」で見つけ
 て買った。気に入っていたがなくしてしまったので、アメリカのサイトで見
 つけて買い直した。

  ちなみにコントルポワンは原宿のショップ「ナディフ」の姉妹店。ナディ
 フは以前は池袋の西武美術館(西武デパートの12階にあった。いまのセゾン
 美術館ではない)の脇にあった小さな現代音楽専門のレコード屋の後身であ
 るはず。あの店の名は何だっけ?

 ◆◇11◇Vaka / Sigur Ros
  いまもっとも注目すべきなのはこのバンドだろう。アイスランドの Fatcat 
 Records のバンド。このレーベルは他にも素晴らしいバンドを擁している。
 今年のフジロックにも来ていた。

  これは「( )」という変なタイトルのアルバムから。ちなみにこのCD
 には曲名が全く記されていない。iTunesに入れたら曲名が出たから曲名はあ
 るのだろう。この曲は彼らの代表作と目されている。

  ギターをバイオリンの弦で弾いたりする。静かできれいな音。

       :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:
                ∵

[シリーズ投稿]
 白
 夜
 ̄ ̄ ̄ ̄ 上田 美樹


………… こんな夜

 止められない発作のように
 あなたが恋しくいとおしく
 たまらない夜
 アルコールの酩酊にも浸れず
 静寂と仄暗い小部屋の隅で
 胸のあたりがギシギシと痛み
 何かが狂いだしそうな
 ひとり慄く夜
 一分一秒の針の速度で
 いっそ狂死してしまいたい衝動と
 せめて明日の夜明けの光を見届けようと
 泪も嗚咽もない泣き顔でいる
 ふたつのわたし
 揺れている煙草の煙の向く方へ
 視線をうつろわせている
 こんな夜
 眠り薬も安定剤も胃薬も
 不要な玩具になっている
 こんな夜


       :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:
                ∵



◎成瀬巳喜男の映画をめぐって
  なめらかな
  背中の秘密 11
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ アリエル人魚

                 ▽
               娘・妻・母
          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                      1960.5.28封切/東宝/122分
                       脚本:井手俊郎・松山善三
                   出演:三益愛子・原節子・高峰秀子
                   森雅之・宝田明・団令子・仲代達矢
                   草笛光子・淡路恵子・小泉博

  用事が入らなければこの前の回の「杏子っ子」もフィルムセンターで鑑賞
 するつもりだったのが、この1本だけになり、映画祭も始まってしまったの
 で(編集部注=東京国際映画祭のこと。本稿初出は11月)、ここで見るのは
 最後になる。残念。

  オールスターキャストの家族劇。まあまあの作で笑えるシーンも多いが、
 ラストは結論が出ないまま、何となく終わる。幾つかのリアリティの無さは、
 脚本家が普通のサラリーマン家族の実態を余り知らないからではないか。映
 画のスタッフも同様なのかもしれず、そんな理由からの現実感の無さかなと
 感じた。

  家族が長年住んでいる 200坪の家を売る羽目になるなんて、一大事なのに、
 意外とあっさり展開してしまう。そもそも普通のサラリーマンの長男(森雅
 之)が、お金儲けのために怪しげな妻のおじにお金を預け稼ぐという発想自
 体、リアリティがなく、子供もいる身ではそんなことはしないと思うので、
 森は結構ヤクザなサラリーマンだと考えることにしよう。(^o^)  妻(高峰
 秀子)もその家をこっそり抵当に入れるのだが……現実に母名義の土地を抵
 当に入れる時は母の実印がなければ不可能だから、ヘンなのだが、映画だか
 らね。

  5人兄弟とはっきりしない母(三益愛子)のお金とそれぞれの生活のゴタ
 ゴタ劇で、具体的なお金のセリフが多く、成瀬がお金に苦労したことと繋が
 る気がした。

  長男と同居の古い家は亡き父が残した唯一の財産で、家族が集まり、その
 家の査定をし、いくらになるから相続すると子供にはいくらになるなど、と
 ても細かく、末っ子の団令子が電卓で計算するシーンなど笑えるほどだ。そ
 れで一人いくらもらえる!と喜ぶのだが、実際、長男と母が住んでいるのだ
 から売れる状態ではないし、現金はないのだから、そんなにもらえるはずな
 いのに、兄弟4人が取り分があると思い込んでいるところが頭も悪いし、大
 人げない。相続で普通一番もめる、今住んでいる家を簡単には売れないから
 現金がつくれないという鉄則を知らないなんて、ヤレヤレ(^o^) そのことを
 宝田明の次男がもっともらしく話すので、無知な家族たちだと思って見てい
 た。

  夫に急死される原節子は、全編着物姿で登場。散々書いているが、原は着
 物は似合わず、ここでもにやけた演技で媚びを売るシーンが多い。例えば、
 知り合ってすぐキスまで許す年下で原を好きな仲代達矢に対してもそうで、
 原はなぜか上原謙との再婚を決めた後で会うのだが、ダンスホールに誘い、
 例の笑顔の媚びバンバンのあげく、「私、結婚するの」と言い放つので、達
 矢はショックを隠せない。たとえ達矢に少しは気があっても、34歳の未亡人
 がすることではないな、達矢君が哀れすぎる(ちょうどJリーグの田中達也
 君も骨折大怪我したことを思い出した(^o^))。原はそのくせ母に対しては優
 等生であり、「お前が一番良い子」などと言われており、ぴったりの役とも
 言える。

  これもリアリティが無いと感じたシーンだが、達矢の友人で結婚している
 次男、宝田の住まいに、留守時、原と達矢が二人で上がりこみ、部屋を眺め
 る。

  原が電気掃除機を見つけて嬉々として使ってみる図々しさに唖然とし、さ
 らに達矢に「お紅茶でもいれましょうか?」と言って、初めて来た既婚の弟
 の家のキッチンで勝手にお茶を出す。こんなこと緊急時以外ではありえない
 なと苦笑する。その後キスをしていたら宝田が帰ってくる。彼が友人になん
 なく鍵を渡すのもヘンだけれどね……。実の妹の家でも、そんなことはでき
 ない。原は優等生的な面と呆れた図々しさ、鈍感さがある役が合うと思う。

  成瀬作には「お紅茶をいれましょうか?」というのが多い気がするが、監
 督の好みか、当時、はやっていたのか? この映画では、高峰秀子が、美味
 しいコーヒーもあるのよと入れてくるシーンもある。

  5人兄弟の個性はよく出ていて、脇の友人や次女、草笛光子の義母、杉浦
 春子なども面白い人柄だ。団令子は未婚だが、草笛、宝田、原の3人は結婚
 数年は経っていると思われるのに子供がおらず、成瀬映画に特徴的な「子供
 のいない夫婦」をまた感じる。

  ここでは、それほど背中シーンは印象に残らないが、売られそうな家の前
 の道で、秀子の一人息子が自転車で遊ぶシーンが何回あった。

  当時の物価について。丸いショートケーキが70円。デパート勤務の令子が
 実家に入れているお金は2,500円。原の夫の生命保険は100万円。このお金を
 めぐっての兄弟間借金話しも笑えるほど、あからさまセリフがある。実家に
 戻った原は、妹が入れたのが2,500円と知り、自分は5,000円入れることにす
 る。

  カフェ経営兼カメラマンの割りに裕福な宝田が、家庭用8ミリ映写機で家
 族鑑賞会をするが、私の父も好きだったことを思い出す。

  最後にフィルムセンターの観客考。

  平日、4時ほぼ満席。今回はお隣二人が、ちょっとな〜、という方だった。
  一人は60歳代、サラリーマン風、鞄あり。エアコンがきいておらず多少暑
 かったので始まる前に上着を脱ぎ、始まるとすぐお扇子を鞄からゴソゴソと
 出し扇ぎ出す。落ち付かないので、いつやめるかと思ったり、言おうかなと
 も。でも始まっているし……結局、15分位寝ていた(確認)間以外はずっと
 パタパタ扇いでいた。エアコンもきいてきたのに。そんなに暑いなら袖をめ
 くればいいのにね。ただ扇ぐのではなく扇いでは閉じ、顔をお扇子で掻いた
 り、また開いて扇ぎ、また閉じという呆れた鑑賞姿だった。 300円の暇つぶ
 しか。

  もう一人は70歳くらいのお婆さん。つばの広い帽子をかぶったまま鑑賞、
 半分は寝ていたがイビキ無しで良かった。終わる15分前に退場。

  さらに近くでヘンな音を連続して立てる男性? その後もバタバタという
 音で皆見ていた。

  300円の名画鑑賞は娯楽として良いと思うが、 以前もイビキ合戦があった
 し、本当に見たい人にきて欲しいなと感じるフィルムセンターの鑑賞光景で、
 暇つぶし(これはいいです)+夏はエアコン目当て、冬は暖房目当てでは困
 るなと思ってしまう。
                             (以下次号)

       ※本連載は筆者サイト[銀の人魚の海]に掲載されたものを再
       編集したものです。[銀の人魚の海]はウエブ電藝exitページ
       よりどうぞ → http://indierom.com/dengei/info/exit.htm

       :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:
                ∵


g h o s t
s y n d r o m e  12
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄如月 玲
                 |
    【前回までのあらすじ】 ゴミ捨て場で小学生の死体が発見された。高
    校生探偵、白崎恋は被害者(鬼塚衛)の姉・美鈴の依頼を受け、兄弟
    ・愛と愛久、恋人・新垣菫とともに葬式に出席することに。だが、鬼
    塚家は祖父の遺産十億をめぐり、様々な思惑に揺れていた。混乱の原
    因は、死んだ衛と美静に全財産を託すという祖父の意表をついた遺言
    にある。美静の伯母・俊子、その養子・利羽。家出していた美静の姉・
    美郷など、怪しげな人物が次々と登場するが、恋は……。
           【最初から読む】http://indierom.com/dengei/gs.htm
                 |
                 |
                 17

 「……だからって、人を怒らせてまでことを運ぶのは良くないと思う。美郷
 さんを怒らせたのも、こうやって相互に監視させるためだったのでしょ? 
 彼女の性格では、あそこまで言われたら、意地を張って引き下がれなくなる
 ことを見越して」

  キッチンに来るなり、愛は、リビングでの恋のやり口をなじった。二十分
 は灸をすえたので、恋はしょげたようにそっぽを向き、頬杖をついたまま口
 を開こうとしない。

 「恋……」

  いじけてしまった。菫が慰めてももう手に負えない。愛は溜息をつき、恋
 から離れた。

  キッチンにやって来たのは、料理をするという俊子を監視するためだ。美
 静の母親もかり出されている。この二人の監視役として、恋と愛、菫が付い
 た。

  他の者には愛久が付いている。利羽はまだ小学生だし、美静は依頼人、美
 郷はやや怪しいが、冷静な愛久がいれば、恋のように怒りを買うようなこと
 を進んでうることはないだろう。

  愛は、恋の言うことにも一理あるとわかっていた。登場人物が互いに人を
 疑い合い、束縛すれば、犯人に罪を重ねさせない効果は、手錠よりもずっと
 高いだろう。

  でも、愛はそれが嫌だった。不本意とはいえ、罪もない人を監視し続ける
 なんて、どうしても嫌だった。監視などという無茶な方法に嫌々ながら従う
 この家族は、一体どうなっているのだ。

 「……やむを得ないのでしょうが……」

  その言葉は、優しさから目を背けた言い訳にしか聞こえない。生きた人間
 を相手にするのだから、捜査にも血が通わせなくてはならない、というのが
 愛の信念である。事件が解決した後に、恨みを残してはいけない。

  ――それとも、冷徹無比な殺人鬼を相手にするなら、情も何も捨ててしま
 わなくてはならないのだろうか?

  幼い子供が死んだというのに、あろうことか子供の母親に暴力をふるう女。
 自分の弟が死んだのに捜査に協力しない少女。それを舌先三寸で屈服させた
 名探偵。

  結局は、誰かわからないが、金に目がくらんだ人間が起こした事件だ。愛
 の信念は、所詮、綺麗ごとかもしれない。愛と同じくらい優しい人間は、こ
 の世に存在せず、だから、愛の信念は通せるわけもないのだ。

  現実の厳しさを思い、無性に切なくなった。

 「謎は謎のままにしておいた方が、反感を買わずにすむのかもしれない……」

 「……でも、私は、謎を明かして欲しいと思っています」

  独り言のつもりでつぶやいた言葉に声を挟まれ、愛はギョッとして振り向
 いた。そこには、美静が祈るように手を組み合わせていた。

 「あれ? 鬼塚さん……?」

  我ながら間抜けだ。美静が接近しているのも気づかぬほど、暗い思考に落
 ち込んでいたのだ。

 「全員で行動しろって言ったじゃない」

 「でも、白崎さんたち、ショックを受けているかと思いまして」

  彼女の勘が正しかったので、恋も責めることはできなかった。

  美静は真剣な眼差しで恋と愛を見比べながら、息を大きく吸い込んだ。

 「白崎さんは間違ったことはしていないと思います。あの……そうやって正
 しいことを続けていれば、美郷も、伯母様も、いつかきっと、白崎さんたち
 に協力してくれるようになると思います。私も最初は、その、捜査協力とか
 に慣れていなくて、身内を疑われたくないとか考えて、色々と隠していたり
 していましたけど、それはおかしいとわかったんです。本当に疑われたくな
 い、本当に家族を信じているなら、白崎さんたちにどんな情報でも提供すべ
 きだったんですよね。えっと、それがつまり謎を解き明かすということに繋
 がる。私が望んでいたのは、それでした……」

  地面に付くほど頭を下げ、持ち上げた美静の笑顔にほだされる。

 「大事なことに気づかせてくださって、ありがとうございました。是非、美
 郷と伯母様も気づかせてあげてください」

  言葉を失う恋と愛、菫。それを悪い意味に受け取ったのか、五秒おいてか
 ら、美静は林檎のように頬を染め、とり乱しはじめた。

 「あ、わ、私、すみません! 出しゃばったことを……でも私、上手く言え
 なくても、せめてお礼だけはと思って……」

 「いえ、こちらこそありがとうございました。大事なことに気づかせてくれ
 て」

  危うく捜査を投げ出すところだった。美静のような人を助けるために、我
 我ははるばる群馬まで訪れたのだった。他にも、捜査の大事なことを思い出
 した。

 「……随分、積極的になったのね」

 「まさしく、それでいいのだ、って感じ」

  菫と恋に褒められて、美静はまた黙り込んでしまったが、それもまた微笑
 ましかった。
                              (以下次号)


         :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:
                  ∵

マーケティング論
      批判
      序説  9=ホリエモンの野望
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ キムチ


 では、堀江貴文は、勝ち組に入らなければ負けるだけだから金にこだわるの
 か?

 いや、そうではない。人生そこそこの生活ができればいいんじゃない、とか、
 上を目指すにも「上ってどんな上ですか」というようなニヒリズムに陥って
 はいけないのだ、と堀江はいう。

 「将来の夢はなんですか」と聞かれれば、堀江は「宇宙旅行の会社をつくり
 たい」とか「人類とは何かを知るために生命科学を発展させたい」と話すと
 いう。宇宙旅行が夢物語だなんて言っているうちに科学はどんどん進化する
 し、「実は、僕は死なないと思って」いる。

   「突拍子もないことを言っているようですが、死の仕組みをきちんと解
   明して、死なないような仕組みをつくればいいだけの話です。…僕は、
   死なないための努力を放棄したくないと思うのです。」
            (『稼ぐが勝ち』、知恵の森文庫、光文社、57頁)

   「人間の生命の不思議を形づくっているタンパク質をひとつひとつ解明
   していくことで、やがて人間の全容が理解できるようになるかもしれな
   いのです。
   そこに僕は希望を持ちつづけたいのです。
   けれど問題なのは、いま、そういう分野にお金が投資されないことなの
   です。僕はこういう未来のフロンティアにどんどんお金を流していく仕
   組みをつくっていかなければならないと思っているのです。
   というわけで、結局はお金次第なのです。とにかくお金をかけて研究を
   進める。宇宙旅行を楽しめる時代、お金を持っていれば死なないですむ
   時代はきっと来るはずなのです。」         (同、59頁)

 ここでも、堀江の語ることは、「「マーケットに限界はあるけれども、マー
 ケットのよさを正確に理解したうえで、それをどのように利用すれば生活が
 豊かになるかを、いつも考える癖をつける」──この態度こそが、日本の将
 来にとってきわめて重要な意味をもつことになると私は確信しています。」
 (『痛快!経済学2』、集英社インターナショナル、50頁)と語る中谷巌と
 近接しているともいえるかもしれない。

 けれども、宇宙旅行を実現するのは夢をかなえることであるのに間違いない
 として、金儲けにもなるからそれをしているのか、金儲けとは別次元でそれ
 を考えているのか、お金を持っていれば死なないですむ時代は、お金を持っ
 ていなければ死んでしまう時代なのか、はっきりしているとは言えない。
         :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:
                  ∵

┏━━p o s t s c r i p t ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

  塚本さん、じゃなかった80 Toshiさん、それはアールヴィヴァンの
  ことかなあ(絵を売ってる今のアールヴィヴァンではない)。いや、
  美術系の本ばかり置いていたあの書店全体がアールヴィヴァンと言
  ったのだったかな。その一角には詩関連専門の書店ぱろうるがあり、
  レコードショップではS君と即興のアコースティックバンド <リズ
  ムメソッド> をやっていたおネエさんが勤めていた、と思う。(同
  じ学生だったS君はメンバー募集に応募したのだ)。バブル前夜の
  池袋SEIBUは輝いていて、ぼくも 80 Toshiさんもそのあたりで長い
  午後を過ごした。詩誌「麒麟」を買い、ピーター・ゴードンのレコ
  ードを買い、美術展(アンリ・ミショー展とか)を見て、フィガロ
  という南青山にある料理屋の出店で異様に酸っぱいシトロンプレッ
  セ(レモンジュースだ)をすすったりしていたものだっけ。
  ───などと80年代はじめの追憶にふける2005年クリスマスの翌日。

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┏━━「週刊電藝」次号予告━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

      ghost syndrome            如月 玲
      なめらかな背中の秘密         アリエル人魚
     マーケティング論批判序説       キムチ
     Out of the DJ Booth          Dj 80 Toshi

        次号配信は2006年1/2 夜の予定。電藝は年末年始休み
        ナシ(笑)。乞うご期待、みなさま良いお年を。

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